「T&Tサンプルキャラクター集」 第1巻

 「T&Tサンプルキャラクター集」第1巻は、2016年12月にFT書房から発売された書籍です。
 T&T完全版のゲームで使用できる23人のキャラクターを集めたもので、1ページに1人のキャラクターが紹介されています。ですので、本は23ページ+前後の数ページ=全部で28ページと、かなり薄っぺらいです。何かのカタログかと思うほど薄っぺらいです。これで648円とは驚きでした。
 各キャラクターは、サイコロを振って能力値を決めるのではなく、体力度、耐久度、器用度、速度、幸運度、知性度、魔力度及び魅力度の8つの能力値に84点を割り振るという方法で能力値を決めています。人間以外の種族は、その後に各能力値に補正係数を掛けています。
 各キャラクターは、金貨105枚の所持金で装備が整えられると共に、金貨1000枚の所持金を持つ場合の理想の装備も紹介されています。
 まか各キャラクターには、どのようにプレイするかの指針や、背景物語の一例なども記載されています。ですので、ある程度は読み物として楽しむ事もできます。ページ数が少ないので、すぐに読み終わりますけどね。
 以下、「T&Tサンプルキャラクター集」第1巻に収録されたキャラクターの一覧です。

<善の種族>
 人間・女・盗賊・1レベルの「メリンダ」
 ドワーフ・女・戦士・2レベルの「ジェイド・ザ・アイアンハンド」
 エルフ・女・魔術師・2レベルの「ローズウッド」
 フェアリー・女・盗賊・3レベルの「緑の葉」
 ボブ・男・盗賊・3レベルの「ウィリアム・ブランデーボトムズ」
 レプラコーン・男・魔術師・2レベルの「アルクサンダー・マルコス」

<悪の種族>
 ウルク・男・戦士・1レベルの「スイート・ブラッド」
 ゴブリン・女・盗賊・2レベルの「グリーンスキン・ゴージャス・ゴブリン・ガール」
 コボルド・男・魔術師・3レベルの「ドーセス」
 ハーフエルフ・女・戦士・2レベルの「エイミー・ジャスティス」
 ノーム・男・魔術師・3レベルの「モルテン卿」
 ピクシー・女・盗賊・2レベルの「セムハン」
 ボブゴブリン・男・戦士・2レベル
 ヴァルタ(闇エルフ)・男・魔術師・2レベルの「ダークスター)
 セルキー・女・盗賊・1レベル
 ダアク・男・戦士・3レベルの「レッドスカル」
 リビングスケルトン・男・魔術師・2レベル
 レッドキャップ・女・盗賊・2レベルの「マイア・リビングルーツ」

<強すぎる悪の種族>
 ヴァンパイア・男・4レベル
 ケンタウロス・男・5レベル
 ワーウルフ・男・5レベル

<おまけ>
 エルフ・男・盗賊・2レベルの「ホワイトバーチ」
 ドワーフ・男・盗賊・3レベル

 以上です。何か物足りないです。人間・エルフ・ドワーフについては戦士・魔術師・盗賊の三種類が欲しいと思うのですが・・・。せめて人間の戦士と魔術師はあってもいいのでは?しかも最初の2人は、トンネル・ザ・トロールマガジンからの再録です。
 一番必要なものが抜けている。初心者目線で制作されていない、不親切な印象を受けました。


ドラマ 「江戸川乱歩の美女シリーズ(天知茂版)」 第17作 「天国と地獄の美女」

 ドラマ「天国と地獄の美女」は、天知茂さんが明智小五郎を演じた「江戸川乱歩の美女シリーズ」の第17作目に相当する作品であり、1982年1月2日に放送されました。「天国と地獄の美女」は、江戸川乱歩さんの「パノラマ島奇談」を原作とするドラマで、今回の美女役は叶和貴子さんです。
 正月早々に「パノラマ島奇談」とは、かなり大胆な選択に思えます。もう少しメジャーな作品がいくらでもあるのに。見所は、物語うんぬんよりも、やはりパノラマ島が映像でどのように表現されるのかではないでしょうか。映画「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」に登場したパノラマ島は、がっかりな出来でしたからね…。
 以下、「江戸川乱歩の美女シリーズ(天知茂版)」の第17作「天国と地獄の美女」のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

 デザイナーの人見広介(伊東四朗)は、自分の夢であるパノラマ島を建設するスポンサーを探して、大会社の社長などを追い回しています。あるとき広介はゴルフ場で一羽のカラスに目を付けられ、カラスは執拗に広介を追ってきます。その頃、広介の自宅では、妻の英子(宮下順子)と新興宗教の教祖である大野雄三(小池朝雄)とが浮気をしていました。そこへ、カラスに追われた広介が戻り、英子と大野は何とかごまかします。カラスは広介の自宅周辺から離れようとせず、英子は警察に通報します。通報を受けた警察の浪越警部(荒井注)がやってきてカラスの捕獲に成功し、浪越警部は明智小五郎(天知茂)にこのカラスをどうすべきか相談します。カラスが人になついていることから、明智は
カラスが広介に似た誰かに飼われていたと推理します。浪越警部はラジオで情報提供を求め、カラスの飼い主が見つかります。カラスは大富豪の菰田家で飼われていたものでした。英子及び大野は謝礼を期待して菰田家へカラスを連れていきます。菰田家で2人の前に現れたカラスの飼い主である当主の菰田源三郎(伊東四朗)は、広介と瓜二つでした。英子及び大野は、広介を源三郎の替え玉として送り込むことで菰田家の財産を奪うことを思いつきます。英子及び大野は広介を説得し、広介は替え玉となることを決心します。
 広介、英子及び大野は、源三郎が乗る車を待ち伏せします。この車には、源三郎の他に、妻の千代子(叶和貴子)及び運転手の本橋(出光元)が乗っていました。顔を隠した広介は臨時の工事を装って車を止めさせ、乗っていた3人を眠らせます。広介、英子及び大野は、眠った源三郎を誘拐しようと別の車へ運びますが、その途中で目を覚ましてしまいます。千代子及び本橋も目を覚まし、男達による乱闘が始まり、最後には大野が手にしたドライバーが源三郎の左目に突き刺さります。広介、英子及び大野は逃走し、源三郎は左目を失明してしまいます。源三郎との入れ替わり計画に失敗した英子及び大野は諦めきれず、広介の左目を潰して計画を続行します。
 菰田家では、源三郎及び千代子の間に子供がいない事から、財産争いが起こっていました。源三郎の妹の房枝(水野久美)は、自分の子供を源三郎の養子にしようと考えています。源三郎が失明した事件を千代子の仕業と考えた房枝は、明智に調査を依頼します。房枝に連れられて菰田家を訪れた明智は、千代子と会います。千代子は、畑中節子(明智と過去に何らかの関係があった女性のようですが、今回のドラマには登場しません)の妹だと名乗ります。
 その後、しばらくして、源三郎は就寝中に苦しみだし、死亡します。源三郎の葬式が行われ、源三郎は土葬されます。広介達は夜中に墓をあばい源三郎の死体を運び出し、広介は生き返った源三郎として菰田家に入り込む事に成功します。源三郎の死体は、顔を潰されて橋の上から投げ捨てられ、広介の自殺死体として処理されます。菰田家の内情を調べた広介は、パノラマ島を作る新事業を始めることを宣言し、大野を責任者として皆に紹介します。菰田家の親族はこれに反対し、房枝は自分の息子を養子にする誓約書を源三郎が書いた事を主張しますが、広介は取り合いません。
 その後、計画が成功したことを祝って広介、英子及び大野が旅館で食事をしていると、芸者の桃太郎(東山明美)がやって来ます。桃太郎は、どうやら源三郎の愛人だったようです。しかし桃太郎は、源三郎が偽物である事に気付きます。桃太郎は大野に殺され、翌朝に首吊り自殺に偽装された死体となって発見されます。
 房枝が自分の息子と、源三郎が書いた誓約書とを持って菰田家に現れ、息子を養子にするように迫ります。しかし広介は房枝の要求をはねのけます。菰田家からの帰路、房枝が運転する車はブレーキが効かなくなり、崖から転落して炎上します。車に乗っていた房枝及びその息子は死亡します。
 千代子は、明智にこれまでの事を相談します。調査に乗り出した明智は、自殺した人見広介が菰田源三郎と瓜二つであった事を突き止めます。明智は、波越警部と共にヘリでパノラマ島が建設されている島を見に行きますが、何も建設されている様子はありませんでした。明智の助手の文代(五十嵐めぐみ)は、大野の宗教団体に潜入し、他の女性信者と共にいずこかへ連れ去られます。
 英子は、広介が千代子と手を組むことを恐れ、千代子を殺す事を決意します。英子は斧を持って浴室に侵入し、シャワーを浴びていた千代子に襲いかかります。二人は争ってもつれ合い、千代子は壁に頭を打って気絶します。英子が斧でとどめをさそうとしたとき、大野が英子から斧を奪って英子を殺害します。大野は気絶した千代子に斧を握らせ、千代子が英子を殺害したように装います。目を覚ました千代子と、遅れて駆け付けた広介とは、千代子が英子を殺害したと思い込みます。広介は、大野に英子の死体を処分するよう命じます。
 いよいよパノラマ島が完成し、広介はパノラマ島へ千代子を連れて行く事を決心します。また広介は、大野を殺そうと企んでいました。その晩、広介に抱かれた千代子は、広介が偽物である事を悟ります。
 広介、千代子、大野及び運転手の本橋は、ボートに乗ってパノラマ島へ向かいます。一行は島に到着しますが、島は一見ただの無人島で、建築物があるようには見えません。広介は、島の洞窟に作られたエレベーターで千代子を地下へと連れて行きます。広介のパノラマ島は、島の地下に掘られた空間に作られていました。広介は千代子を案内してパノラマ島を巡り、千代子をパノラマ島の女王として迎え入れます。パノラマ島では、連れ去られていた女性信者達が働かされており、その中には文代の姿もありました。
 一行が一休みしていると、大野にメッセージが渡されます。メッセージを見た大野は、女性達を下がらせ、本橋に詰め寄ります。メッセージは本土からのもので、本橋が縛られて家の床下に転がっていた事を知らせていました。本橋は明智が変装した姿でした。明智は、源三郎が偽物であり、本当は人見広介であることを指摘します。明智の推理には千代子も同意し、源三郎が偽物であると主張します。広介及び大野は、明智及び千代子に銃を突き付け、パノラマ島の悪魔の谷へ連れて行きます。悪魔の谷は、裏切り者を処刑するための場所で、針の穴、熔岩の穴、硫酸の池などがあり、処刑された人々の死体が転がっていました。また英子の死体も運び込まれており、大野は千代子が殺したと話しますが、死体を
見た明智は左利きの男性が殺したと推理し、殺したのは大野であると指摘します。明智を殺そうとする大野ともみ合った末、明智は硫酸の池に落下し、姿を消します。次いで、広介と大野が仲間割れしてもみ合い、大野が針の穴に落ちて死亡します。そして広介は千代子を殺そうとしますが、源三郎が飼っていたカラスが広介を襲い、広介と右目を潰してしまいます。両目が見えなくなった広介は、千代子の声に導かれて、熔岩の穴に落ちて死亡します。
 パノラマ島に一人残った千代子の前に、死んだはずの源三郎が現れます。源三郎は、千代子が義眼に毒を塗って自分を殺害したことを指摘します。この源三郎は明智の変装でした。明智が落ちた硫酸の池は、文代により予め硫酸を抜かれて水に変えられていました。変装を解いた明智は、菰田家では広介達による犯罪と、千代子による犯罪とが同時進行していたと話します。更に明智は、房枝及びその息子を事故死に見せかけて殺したのは千代子であると指摘します。波越警部達も到着して千代子を囲み、観念した千代子はパノラマ島の花火の大筒へ入ると花火を点火して自殺します。
 
 以上がドラマ「天国と地獄の美女」の物語です。
 予想以上にパノラマ島でした。原作に忠実とはいきませんが、原作の要素をしっかりと残して美女シリーズらしい物語に組み換えられていたと思います。これまでに見た美女シリーズの中では、一番の出来でした。
 映像化されたパノラマ島は、昔のドラマなので安っぽいのですが、これが原作のパノラマ島の安っぽさとマッチしており、文句なしのパノラマ島でした。
 ドラマのパノラマ島は地下に作られた設定となっていましたが、実際にこれを地下に作ろうと思ったら少なくとも数年、当時の技術なら十数年かかりそうです。ドラマの中の時間経過がどのくらいなのかわかりませんでしたが、数ヶ月くらいでパノラマ島は完成してそうでした。
 今回の事件は、広介達による源三郎の入れ替わり犯罪が目立ち、千代子の毒殺犯罪はオマケ程度。このため、今回の美女である千代子があまり目立たない物語でした。物語で目立たない事を誤魔化すためかどうか分かりませんが、千代子の入浴シーンがやたらと多く、裸要員としては目立っていました。
 とは言いながら、千代子の最後の花火を使った自殺シーンはインパクトありましたが。正月早々にこの結末はどうなんでしょう?

 

映画 「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」

 映画「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」は、1969年に公開された日本の映画です。一応は江戸川乱歩さんの「パノラマ島奇談」が原作とされていますが、「孤島の鬼」や他にもいくつかの乱歩作品の要素を混ぜ合わせた物語になっています。
 この映画はトンデモな映画として有名な作品だそうです。これまでDVD化されずにいましたが、昨年にやっとDVD化され、(マニアな人達の間で)話題になったようです。見るべき映画なのか、見ない方がいい映画なのか、微妙ですね。
 それでは、映画「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」のあらすじを以下に記載します。ネタバレ注意です。

 外科医の人見広介(吉田輝雄)は、何者かの陰謀で精神病院に閉じ込められています。ある夜、部屋に侵入してきた禿頭の男に殺されかけた広介は、反撃してこの男を殺し、精神病院を脱走します。脱走した広介は、自分の記憶の片隅に残っているメロディーと同じ歌を歌っている女性、初代(由美てる子)に出会います。自分の過去を知る手掛かりを得られると考えた広介は、初代に再会の約束をして別れます。初代はサーカスで働いており、広介はサーカスに行って初代に話を聞こうとしますが、初代は何者かの投げたナイフに刺されて目の前で死亡します。広介は、犯人と勘違いされて逃亡します。
 初代との会話から日本海側の地域に関わりがあると考えた広介は、列車に乗って日本海を目指します。列車の中で見た新聞には、菰田源三郎の死亡記事が載っており、源三郎は広介と瓜二つでした。広介は、源三郎になりすます事を考えます。広介は、源三郎が墓から蘇ったふりをして菰田家に潜り込み、源三郎として生活し始めます。
 菰田家には、源三郎の妻の菰田千代子(小畑通子)、親戚の静子(賀川雪絵)、執事の蛭川(小池朝雄)、その他の召使い達が住んでいます。源三郎の父の丈五郎(土方巽)は、奇形の人間であり、人目を避けて無人島に住んでいます。広介は源三郎として何とか生活を続けますが、菰田家には何者かが潜んでいるようです。そしてある日、広介の隣で寝ていた千代子が苦しみだし、そのまま死亡します。広介は、菰田家の秘密を探るべく、丈五郎が住む無人島へ行く決意をします。
 広介は、静子、蛭川及び新しく雇った召使いの男を連れて無人島に上陸します。広介の前に現れた丈五郎は、この無人島を自分の理想郷に改造していました。丈五郎は、広介達を連れて島を巡ります。
 この島に見覚えがあった広介は、自分の記憶を頼りに島を探し歩き、蔵を発見します。蔵には身体の一部が融合した男女が閉じこめられていました。丈五郎は、集められた多数の奇形人間を広介に見せ、奇形人間を作って王国を築こうとしている事を話します。丈五郎は、源三郎の弟を東京へ送り込んで医学を学ばせており、この弟を呼び戻してより優れた奇形人間を作らせるつもりであることを話します。この話を聞いた広介は、自分が源三郎の弟であることを悟り、自分が死んだ源三郎になりすましていることを丈五郎に話します。広介は、奇形人間を作るための島の医療施設で、体の一部が融合した男女を切り離す手術を行います。この男女は元は別々の体でしたが、丈五郎が手術で体を融合させていました
。分離された女性は、死んだ初代の妹で秀子(由美てる子)という名前でした。広介は奇形人間を作るという丈五郎の命令に従わず、秀子と共 に閉じ込められてしまいますが、広介及び秀子は愛し合うようになります。
 しばらくして丈五郎は、広介、秀子、静子及び蛭川を連れて島の洞窟に入ります。洞窟の奥には一人の女性が鎖でつながれていました。この女性は丈五郎の妻のとき(葵三津子)でした。丈五郎とときが結婚した後、ときは奇形人間である丈五郎を避け始め、浮気をします。これを知った丈五郎は、ときと浮気相手とをこの洞窟に閉じ込め、浮気相手は死亡します。このときにときが身籠っていた子供が源三郎及び広介であり、その後に丈五郎の部下との間に出来た子供が初代及び秀子でした。愛し合うようになっていた広介及び秀子は、自分達が兄妹であった事実を知り、愕然とします。
 協力を拒む広介及び秀子と、更には静子及び蛭川とを洞窟に残し、丈五郎は立ち去ろうとしますが、そこへ一人の男が助けに現れます。この男は、広介が連れてきた召使いの男で、その正体は明智小五郎(大木実)でした。明智は、東京で起きていた女性の失踪事件を追って菰田家に召使いとしてもぐり込んでいました。女性の失踪は、丈五郎が奇形人間を作るために部下達に誘拐させていたものでした。また明智は、菰田家で起きた千代子の死亡事件は、静子及び蛭川が源三郎を殺害しようと天井裏から垂らした毒を千代子が誤って飲んだのが真相であるとし、静子及び蛭川が菰田家の財産を狙っていることを指摘します。逃げ出した静子及び蛭川は洞窟内の池に転落し、池の底へ沈んでいきます。明智
に追い詰められた丈五郎は自殺し、ときは丈五郎に詫びます。そして、結ばれることのない運命であることを悟った広介及び秀子は、花火を使って自殺します。

 以上が映画「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」の物語です。
 江戸川乱歩さんの「孤島の鬼」及び「パノラマ島奇談」を足して二で割ったような内容になっていました。どちらかというと「孤島の鬼」の要素の方が多いでしょうか。また隠し味的に、「屋根裏の散歩者」及び「人間椅子」の要素が詰め込まれていました。
 見終えた感想を正直に書くと、「何これ?」でしょうか。物語の展開が唐突過ぎてついて行けません。あらすじにまとめてみると、何となく乱歩っぽい印象になった気がしますが、映画は全体的に物語の連続性が薄く、思いついたシーンを撮影して適当に繋いだかのような物語になっていました。映画自体があらすじ的という印象でしょうか。
 有名なトンデモ作品と言うことだったので、とんでもなくエログロなシーンが連続するのかと思って警戒していましたが、そんな事はありませんでした。それでも、物語の意味不明さはトンデモでしたが。
 総じて、映画「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」は、間違っても他人にお勧めできるような映画ではありませんでした。


アンソロジー 「秘神 闇の祝祭者たち」

 「秘神 闇の祝祭者たち」は、複数の作者によるクトゥルー神話の短編作品を集めたアンソロジー集であり、1999年3月に単行本が発売されています。
 「秘神」には朝松健さん、飯野文彦さん、図子慧さん、井上雅彦さん及び立原透耶さんの5名の短編小説が収録されています。また小説の他に、評論家の笹川吉晴さんによる評論文、高橋葉介さん、山田彰博さん及び諸星大二郎さんのイラスト作品などが収録されています。またこの本の編集者は、朝松健さんとなっています。
 収録されている複数の小説作品は、全くバラバラの内容のものが集められているわけではなく、日本の架空の都市である「夜戸浦」に関係するクトゥルー神話ものとなっています。この「夜戸浦」は、クトゥルー神話作品ではお馴染の都市「インスマス」の日本版として設定されているようです。「秘神」は、「夜戸浦」という共通設定に基づいて5人の作家が書き下ろした競作短編集とも言えます。
 以下、「秘神」に収録された小説作品について、あらすじを記載します。ネタバレ注意です。なお、イラスト作品及び評論文については説明を省略させて頂きます。

<プロローグ ~眠りの帳を超えて~> 朝松健
 あなたは目覚めると病院にいました。病院は、大きな事故の発生により運び込まれた多くの怪我人とそれを治療する医師及び看護師とで混雑していました。テレビから聞こえてくる音声により、増田湾ディープラインが崩壊して海底に埋没する事件が発生したことを知ります。あなたは、5人の友人と共に、とても恐ろしい場所から何かに追われて脱出し、バンを運転して王港から赤牟を抜け、阿久湊を超えて増田湾ディープラインへ乗り込んだような記憶がありますが、詳しいことは思い出せません。
 気が付くと、あなたの傍に色黒の男が立っています。男は、あなたの運転するバンが増田湾ディープラインから出ると同時に、増田湾ディープラインが崩落し、内部に取り残された人々は”なにか”と戦いながら救助を待っていると話します。男は、あなたがどこで何を見てどんなことを体験したのかを尋ねます。あなたは自分の体験を思い出します…。

<襲名> 飯野文彦
 落語家の烏亭閻馬(うていえんま)は、二年ぶりに落語会で落語を披露しようとしています。大トリの出番に至り、弟子達に案内されて閻馬は舞台へ向かいます。その時、閻馬の身体からヌメッという音がします。舞台に上がった閻馬は、三游亭圓朝(さんゆうていえんちょう)作の「鰍沢(かじかざわ)」を語り始めます。落語を披露しながら、閻馬は過去の出来事を思い出します。
 三游亭圓朝は江戸時代の偉大な落語家でしたが、これまでに二代目を襲名した落語家は存在しませんでした。これまでにも襲名の候補者は存在しましたが、襲名の直前に発狂してしまいました。そして閻馬も、二代目圓朝襲名の候補となったことがあります。圓朝と閻馬には、生まれ故郷が千葉県海底郡夜刀浦市であるという誰にも知られていない共通点がありました。そして閻馬には、他人とは異なる身体的特徴があり、顕著な違いは性器にありました。
 閻馬は、18歳で落語家の柳屋桜馬に弟子入りしました。兄弟子は閻馬を売春宿へ連れていき、店で一番の売れっ子の加美代という女を閻馬にあてがいました。加美代は閻馬の体の虜となり、閻馬を自分のアパートへ連れ込み、誰がやってきても閻馬を離そうとはせず、最後には精神に異常を来して病院に強制収容されました。以後、閻馬は、女を絶って芸の練習に励み、兄弟子を抜いて真打にまで昇進します。
 そして閻馬が50歳を過ぎた頃、昭和の大名人とされる九代目古今亭文爾が閻馬を呼び出します。文爾は、閻馬に二代目圓朝の襲名を勧めます。文爾は、圓朝も閻馬と同様に千葉の海底郡の夜刀浦市の出身であり、閻馬が圓朝と同じ血を引いていると言い、また圓朝は江戸落語界にどす黒い血を持ち込み、それにより落語会が栄えたと言います。文爾は、閻馬が圓朝と同じ血を引いている証拠として、圓朝も女を狂わせる性器の持ち主だったことを指摘します。閻馬は、襲名の話を断り、江戸落語会を脱退し、新しく烏流落語会を旗揚げしました。
 それ以降、閻馬は、落語を行うと体の皮膚が火膨れのようにぶよぶよと変化していきます。体を冷やすと症状は治まりますが、興奮したりすると症状が悪化します。そして60歳になり、閻馬が独演会で大ネタを披露したとき、症状は急激に悪化します。閻馬が寝込んで見た夢の中に母親が現れ、母親は「今回は収まったが、今度起こったらもう戻れない」と閻馬に忠告します。それ以降、閻馬は落語を止めていました。
 そして今、閻馬は二年振りに落語を披露しています。閻馬のネタが佳境に差し掛かった時、閻馬の体が変化します。閻馬の体から無数の触手が現れて観客を襲い、閻馬の頭は落ちてナメクジのような目が生えてきます。そして落語を最後まで終えたときには閻馬は完全に怪物と化していました。警察が銃を持って駆け付け、閻馬はマンホールから下水道へと逃走します。

 以上が飯野文彦さんの「襲名」の物語です。クトゥルー神話と落語とを絡めた珍しい作品でした。主人公が怪物に変化していくという、クトゥルー神話としては王道の内容ですが、落語と絡めたことで新鮮味がありました。面白かったです。難点は、人物名の漢字が難しくて読めないことくらいでしょうか。

<「夜戸浦領」異聞> 朝松健
 康正2年(1456年)、上総国の須佐美庄に東常縁(とうつねより)の軍勢が現れます。上総、下総及び安房の三国は千葉胤直(ちばたねなお)の領地でしたが、一年前に馬加弾正(まくわりだんじょう)及び原越後(はらえちご)に奪われました。原越後の元家来であり、上総国の領主である水守兼幹(みもりかねもと)は、東常縁の軍勢に捕らえられます。水守兼幹は、打ち首とされる前に、先に殺されていた馬加弾正及び原越後の首に向かって、頼姫が夜刀浦へ向かったと話します。弾正の娘である頼姫は、「二ていの珠」を持って、文観上人の秘伝を手に入れるべく、夜刀浦を目指しているようです。東常縁は、重臣の小崎重昭に、4名の手勢を与え、頼姫探索の命令を与えます。
 その頃、頼姫は山伏に変装し、二人の部下を伴って、海沿いの断崖の上に立つ建物・宇神堂(のきがみどう)を目指して歩いていました。部下の一人は、30歳過ぎの武士で佐野元近という名前です。もう一人は、殖谷一貫という名の老人で、怪我をしていました。三人は宇神堂にたどり着きますが、結界が張られていて中に入ることができません。頼姫が「二ていの珠」を持って殖谷に教えられた真言を唱えると、結界が解けます。しかし結界が解ける直前に襲ってきた怪鳥の攻撃で、殖谷は深手を負ってしまいます。宇神堂に入った3人は、しばらくここで身を潜める事にします。
 頼姫を追う小崎重昭及び4人の部下達は、阿久湊(あきゅうみなと)から王港(おうこう)へと下って閼伽水庄(あかみのしょう)へ至り、休息を取っていました。4人の部下達は町の酒屋で鹿戸龍見という僧侶と知り合います。龍見は、夜刀浦の宇神堂まで案内すると言い、宇神堂の様子を水晶球に映し出して小崎に見せます。水晶球には、片腕を失って死亡した老人、その傍で腕組みをする男、嘆き悲しむ少女が写されていました。小崎は、水晶球に映った少女を好きになってしまいます。小崎達は龍見に案内されて、夜刀浦の宇神堂を目指します。結界で守られた宇神堂へ近付くために、龍見は小崎の部下一人の命を犠牲にして術を使い、結界を突破していきます。
 これより少し前。宇神堂に到着した頼姫達は、地下へと通じる秘密の通路を発見します。しかし殖谷の傷は深く、地底の泉へ行って「二ていの珠」を持ち、真言を唱えることで主たる者が手を差し伸べてくれると言い残して死亡します。殖谷が死亡したとき、頼姫は見たことのない若い武士の映像を目にします。頼姫は、この武士を好きになってしまいます。殖谷の死を確認した佐野は本性を現し、頼姫を手籠めにしようと襲い掛かります。頼姫は秘密の通路へと逃げ、泉のある広い空洞へと至ります。頼姫を追ってきた佐野もこの空洞へと至り、それを見た頼姫は「二ていの珠」を持って真言を唱え始めます。
 その頃、宇神堂へとやってきた小崎は、龍見に教えられた真言を唱えます。龍見は、小崎の残りの三人の部下の命を犠牲にして術を使います。すると小崎は、頼姫及び佐野がいる空洞内に瞬間的に移動します。小崎は頼姫を助けようとしますが、佐野は頼姫を人質に取り、手出しできません。そこへ龍見が現れて小崎及び頼姫に真言を唱えるよう命じ、龍見が術を使うと怪物が現れて佐野を喰い殺します。龍見は、小崎及び頼姫に夜刀浦の領主となり、この国のどこかにある波旬峡を子々孫々まで守り通すことを命じ、去っていきます。

 以上が朝松健さんの「「夜戸浦領」異聞」の物語です。
 クトゥルー神話というよりは、歴史伝奇ものという方が適切な作品でした。クトゥルー神話らしさは全くありませんでした。謎の僧侶である龍見が唱える真言がイアイア言っていただけでした。このイアイアを除けば、単に美男美女カップルが悪党に襲われるのを神様が助けてくれるという物語です。神様はいいやつで、邪神ではないですよね…。まあ、小崎の部下4人は生贄にされてしまいましたが。
 いずれにせよ、イマイチな作品でした。

<ウツボ> 図子慧
 大学生の祐司は、父親及び小学生の妹の3人で暮らしていますが、父親は仕事で不在がちでした。最近、祐司が住む街では、奇妙な事件や不気味な噂話が多発しています。ある日、祐司は子供の頃の友達で今ではチンピラになっている和田にパチンコ店で出会います。和田は、自分の先輩の蛯名を祐司に紹介し、蛯名の仲間たちの車に祐司を連れ込みます。祐司、蛯名及び和田達を乗せた車は街を走り、蛯名は一人の女性に目を付けます。蛯名たちはこの女性を無理やり車に引きずり込み、人里離れた場所にある農業用倉庫へと車を走らせます。倉庫についた蛯名達は、女性を強姦した後、倉庫内にある深い大穴の中へ女性を突き落とします。祐司は見ていることしかできず、お前も共犯だと蛯名に脅され
て開放されます。
 家に戻った祐司は、妹にしばらく伯父の家で暮らすよう告げた後、ロープや懐中電灯を持って農業用倉庫へ引き返します。倉庫内の大穴から声をかけると、女性からの返事があり、祐司はロープを使って女性を引き上げます。祐司は女性を自宅に連れて帰ります。この女性はカナと名乗り、自分の家に帰ろうとも警察へ行こうともせず、祐司の家に留まります。カナは、日ごとに衰弱していき、精神的にも不安定な状態が続きます。
 その後、しばらくして、蛯名と和田が祐司の家にやって来ます。祐司は、二人を家に入れず、警察を呼んで追い払います。これ以降、二人は姿を見せなくなります。そしてカナの体調が徐々に回復してきます。カナは、化粧を落として茶髪を黒く染めると別人のようになりました。そしてカナは時々、外出するようになります。
 ある日、和田がやってきて家のドア越しに祐司に話をします。和田は、あの時の仲間が順に殺されていっており、既に4人が殺されている事を話します。仲間の死体は、獣に喰いちぎられたかのうようでした。話し終えた和田は去っていきます。次の日、祐司の家に刑事が訪れ、和田のことを尋ねると共に、和田が死亡したことを告げます。刑事は、蛯名を見たら連絡してほしいと言って去っていきます。
 和田の葬式が行われ、祐司は出席します。葬式からの帰り道、祐司の横に車が迫り、中から蛯名が顔を出します。蛯名は既にカナを捕まえており、祐司は車に乗り込みます。蛯名及びその仲間たちは、カナがあの時の女性であることには気づいておらず、カナを祐司の妹だと思っている様子です。蛯名は、これまでにも多数の女性を殺してあの穴に捨てていたこと、あの穴の中には市や警察ぐるみで隠されたダイオキシンの除草剤が詰まっていることを話します。蛯名は、和田達を殺した犯人を知らないようです。
 蛯名達は、祐司及びカナを農業用倉庫へ連れていき、カナを強姦しようとします。しかし悲鳴を上げたのはカナではなく蛯名でした。カナの上半身はこれまで通りですが、下半身は異形の姿に変わっており、下半身が蛯名及びその仲間達を捕まえて食い殺していきます。そしてカナは、祐司を残して姿を消します。
 その後、祐司は日常生活に戻ります。街では下半身に口がある女の都市伝説が囁かれるようになります。

 以上が図子慧さんの「ウツボ」の物語です。
 クトゥルー神話というよりは普通のホラー作品という印象ですが、ホラー作品として普通に面白かったです。タイトルの「ウツボ」の意味が最後まで分かりませんでした。私が知らないだけで、クトゥルー神話に「ウツボ」という邪神か何かが存在するのかもしれませんが。
 作者の図子慧さんは、コバルト文庫などの少女小説をメインに活躍されている作家さんだそうです。少女小説以外にも、ホラーやSFの作品もいくつかあるようなので、機会があれば読んでみたいですね。

<碧の血> 井上雅彦
 美術部員の藍子は、俊之が描いた天使の絵を見て、獣の臭いが漂っていると感じます。俊之は、これまで天使を描くことに心血を注いでいます。俊之の部屋を訪れた藍子が絵の感想を伝えると、俊之はスケッチブックを取り出して藍子に見せ、自分の生い立ちを話し始めます。
 スケッチブックの最初のページには赤い壁の館が描かれており、俊之はこれが生まれた家だと話します。次のページには俊之の父親の顔が描かれており、俊之にそっくりでした。俊之の家、倶爾家は缶詰工場でした。次のページには工場内の機械が描かれていましたが、藍子には本当に缶詰を製造する機械なのか疑問に思えました。
 俊之の父親は非常に厳しく、様々な本の内容を幼い俊之に記憶させました。ある日、俊之は屋敷を抜け出して缶詰工場を抜け、幽霊船のようなボロボロの帆船を見つけます。帆船に入り込み、階段を下りた俊之は、碧く輝くホールで沢山の人達が踊る舞踏会を見ます。俊之は人々の中に同じ年齢くらいの少女を見つけて近付こうとしますが、俊之とホールとの間にはガラスの壁が存在していました。
 その後も父親の教育は厳しさを増し、古代の言葉などを覚えさせられ、工場の缶詰を食べる事を強要されます。小学生となり自分の知識が他の子供達とは全く異なっていることに気づいた俊之は、隙を見て逃げ出そうとします。父親は異様な体格の部下の男に俊之を追わせ、俊之は帆船のホール前のガラス壁まで逃げて来ます。俊之はガラスを壊してホールへ逃げ込もうとしますがガラスは壊れません。部下の男は、ホールを生け簀と呼び、そのうちあの娘から食べさせてやると言います。怒った俊之は、父親から教えられた<神の血>の歌を歌います。何かが起こり、その後に缶詰工場の脇で発見された俊之の服には部下の男の血が飛び散っていました。この事件から俊之は肉を食べられなくなりますが、それは
この事件で飛び散っていた肉片を見て食欲を感じた事に対する恐怖心からでした。
 その後、数年が経過し、社会人になった藍子は、久しぶりに俊之の夢を見て目覚めます。藍子は、幼い頃に乗っていたバスが海に転落する事故に合っていました。この時に藍子は行方不明となり、13ヶ月後に発見されますが、この間の記憶はありませんでした。また俊之は、藍子が過去の話しを聞いた後、しばらくしてエジプトへ向かう飛行機に乗り、この飛行機が海上で墜落して死亡していました。俊之の話を聞いて以降、藍子は自分を呼ぶ懐かしい声を聴くようになります。
 出社した藍子に出張の要請が入ります。行き先は、海底郡の夜刀浦でした。不動産会社が倒産し、担保物件を視察するのが目的です。部下を連れて現地へやってきた藍子は、担保物件が俊之のスケッチブックに描かれていた缶詰工場の跡地である事に気付きます。古い地図を探しに飯綱大学の図書館へやってきた藍子は、一人の図書館員に缶詰工場跡は気を付けろと忠告されます。
 缶詰工場跡へ戻った藍子は、工場の中に入ります。すると、缶詰を製造する機械の動作音が聞こえ、一人の男が藍子に近付いて来ます。山椒魚のような不気味な男は、坊ちゃんに喰われるために戻ったのですね、と藍子に話し、藍子に襲いかかります。藍子を助けてくれたのは、図書館員の男でした。缶詰工場は幻で、気付くと辺りはただの資材置き場でした。図書館員は磯野と名乗り、藍子に死の匂いを感じて後を付けていました。藍子は、これまでの事情を磯野に話します。磯野は、東京行きの直行バスに乗って急いで帰る事を勧めます。
 藍子はバスに乗りますが、いつの間にかバスは倶爾家の捕鯨船に変わっていました。周りの乗客は、藍子が子供の頃に事故に遭遇した際にバスに乗っていた人達でした。バスの車掌は、自分達が<漂うもの>であること、この地域は水死者が集まる場所であること、倶爾家は海魔を食した事で海の屍食鬼となり<漂うもの>を餌にしてきたこと、<漂うもの>達は天敵を倒しに行こうとしていることを藍子に話します。藍子は、自分も<漂うもの>として行方不明の間に海を漂っており、俊之は船のガラス越しに自分の姿を見ていた事を悟ります。
 海中を進む捕鯨船の周囲にはたくさんの<漂うもの>が集まってきます。そして捕鯨船の前に巨大な怪物が現れます。怪物は、俊之の父親が変わり果てた姿で、缶詰工場の缶詰製造機械に似ていました。怪物と<漂うもの>達との戦いが始まりますが、怪物は次々と<漂うもの>を粉砕していきます。藍子が死を覚悟したとき、もう一つの巨大な怪物が現れます。2体の怪物が戦い、俊之の父親だった怪物が倒れます。生き残った怪物は、俊之でした。蝙蝠のような翼を持つその姿は、藍子に天使を連想させました。その姿を見た藍子は、自分を<漂うもの>から陸へと戻してくれたのが俊之だった事を悟ります。
 翌日、藍子は磯野に発見され、救出されます。藍子は磯野の自宅へと連れられ、ベッドに寝かされます。しばらくして磯野が様子を見にくると、ベッドから藍子の姿は消え、ベッドは碧い液体で濡れていました。

 以上が井上雅彦さんの「碧の血」の物語です。
 海の魔物の血脈を題材にした、クトゥルーものではオーソドックスなタイプの物語でした。物語の内容も、文章表現も抽象的な作品で、少し分かり難い印象を受けました。クトゥルーものに慣れていれば抽象的な表現も頭の中で補完できますが、初心者には厳しい作品かもしれません。
 謎の図書館員の磯野がもう少し活躍してもよさそうに思えました。意味深に登場した割には活躍せず、これなら登場させない方が良かったのではないかと思います。

<はざかい> 立原透耶
 飯綱大学の大学生の暁里(あかり)は、祖父の修生と二人暮らしです。祖父は、華僑で戦争中に中国から日本へやってきました。祖父は暁里が遠出する事を嫌い、暁里はこの街から外へ出たことがありませんでしたが、不満に思ったこともありません。祖父は武道を教えており、一番弟子の陽子は、暁里の親友です。暁里は、スーパーの中の写真チェーン店でアルバイトをしています。
 ある日、現像した写真を3ヶ月も取りに来ていない岩井という老人に暁里は電話をし、写真を届ける約束をします。岩井老人の家へ向かうバスの中で、暁里は好奇心から写真を見てみます。写真はどれもぼやけた失敗と思われるものでしたが、その中の一枚には、机の上にボールのようなものが載っているのがぼんやりと写っており、暁里にはそれが人形の頭部のように思えました。暁里がバスを降りて教えられた住所へたどり着くと、岩井老人の家は大邸宅でした。岩井老人は暁里を招き入れると、暁里に戻るべくして戻ってきたと語り、写真に写っているのは暁里の母親だと言います。暁里が写真を見直すと、人気の首だと思ったものは、暁里と瓜二つの母親の首でした。暁里は気を失って倒れます。
 暁里が行方不明となり、祖父は惚けたようになってしまいます。これを見た陽子は暁里を探す決意をします。しかし周囲の大人は、警察も含めて、何故か非協力的です。暁里から岩井という客に写真を届ける事を聞いていた陽子は、岩井邸を訪れますが、誰も応答しません。陽子は岩井邸について調べようと、飯綱大学の図書館にやってきます。飯綱大学には新図書館と旧図書館とがあり、旧図書館は一般に開放されていません。陽子は、知り合いである新図書館の司書の愛巧に紹介状を書いてもらい、旧図書館での資料閲覧の許可をもらいます。この時に愛巧は、夜刀浦市が呪術に用いられるシンボルのような形に作られていることを陽子に話します。陽子は、旧図書館で飯綱製薬の歴史が記された資料を発見し
ます。飯綱製薬は陽子の両親が勤める会社です。資料を読んだ陽子は、飯綱製薬の創始者メンバーに、暁里の祖父と、岩井が含まれていることを知ります。
 図書館を出た陽子は自分の車に乗り込み、これまでに調べた事をカセットテープに吹き込みます。車を走らせた陽子は、何者かが後を付けている事に気づきます。陽子は、暁里の祖父に電話してこれまでの事情を話し、公園で落ち合う約束をします。しかし追っ手は段々と増え、逃げ回る陽子の車はガソリンがなくなってきます。陽子は、車を乗り捨てて、地下鉄へと逃げ込みます。地下鉄には何故か陽子の両親が乗っていました。食事に行くという両親も周りの乗客達も様子がおかしく、地下鉄は駅に止まる事なくいずこかへと走り続けます。両親は、目覚めには個人差があると言い、やっと一緒に食事が出来ると喜びます。そして地下鉄が止まって扉が開き、牙の生えた両親と共に地下鉄を降りた陽子は、鋭い
乱喰い歯の口で笑顔を浮かべていました。
 目を覚ました暁里は、液体で満たされた容器内に閉じ込められていますが、生きています。暁里を眺める岩井老人は、暁里を完成作品と言い、今度こそ成功しそうだと話しています。そこへ、暁里の祖父の修生が岩井老人の家を訪れて来たと部下から連絡が入り、岩井老人は部屋を出て行きます。しばらくはすると陽子が現れて暁里を助け出します。2人は岩井邸の地下室へと逃げ、地下室から続く地下道を進みます。しかし、途中で陽子の様子がおかしくなってきます。立ち止まった陽子は、車のキーを暁里に渡し、1人で逃げるよう暁里に言います。背後からは大勢の足音が聞こえ、暁里は陽子に従って1人で地下道の出口へ向かいます。暁里が振り返ると、陽子は大勢の食屍鬼に囲まれており、そして陽子も
食屍鬼と化していました。
 地下道を出た暁里は、祖父を救出するために岩井邸へ戻ります。岩井邸では岩井老人が待ち構えており、暁里に真相を話します。戦争中、暁里の祖父である修生の妻は不治の病に冒されていました。修生は、中国で人体実験を行っていた日本の部隊に協力する代わりに、妻の病気の研究を行うことができました。しかし治療法が見つかる前に妻は死亡し、修生は妻を生き返らせる方法を研究し始めます。そして修生は、思幽という中国の伝説の一族の女性と妻の髑髏とを使って、1人の少女を作り上げます。この少女が暁里の母親でした。人体実験を行っていた部隊の指揮官だった岩井は、邪神の復活を目的としていましたが成功せず、日本の敗戦により修生を連れて日本へ戻り、中国と同様の呪術的な力を有する
夜刀浦へとやってきます。修生が復活させた女性は不安定でした。修生は、過去に夜刀浦を支配していた糸神家の血を用いてより確実に妻を復活させようと考え、糸神の血と引き換えに復活させた女性を岩井に差し出します。修生が糸神の血を用いて復活させたのが暁里でした。岩井は、修生が差し出した女性を生贄に邪神復活を試みますが、失敗します。そして岩井は、糸神の血を引く暁里を生贄にする事で邪神を復活させる事が出来ると考えています。
 話し終えた岩井に修生が飛びかかり、岩井を押さえつけた修生は暁里に逃げるよう言います。暁里は岩井邸を出て車に乗り、背後で岩井邸が炎上するのも無視して、夜刀浦市の外を目指して車を走らせます。車が夜刀浦市を出たとき、暁里が振り向くと、車の後部ガラスには生首が映っていました。生首は暁里のものでした。夜刀浦市を出て呪術的な力がなくなり、修生が作り上げた暁里の身体はその姿を維持できなくなり、崩れ落ちます。暁里が運転していた車は横転し、爆発炎上します。

 以上が立原透耶さんの「はざかい」の物語です。
 ライトノベル調の物語でしたが、結末は予想を遥かに超えるバッドエンドでした。クトゥルー神話らしいと言えばそうなのでしょうが、もう少し円く収まるかと思って読んでいたので、驚きました。少女漫画のホラー作品を連想させる作品でした。

<エピローグ ~秘神の口の中へ~> 朝松健
 プロローグからの続きです。
 あなたは、5人の仲間と千葉県の夜刀浦へ行き、何かに追われて車で逃げ、増田湾ディープラインに入って神奈川方面へ向かったはずが、いつの間にか千葉県へ向かう車線を走っていました。そしてトンネルが崩れ、怪物は迫ってきます。あなたは、車のアクセルを踏み込みます。

 以上が「プロローグ」及び「エピローグ」の物語です。いずれもページ数が少ないため、何となく雰囲気を楽しむだけで、詳細な内容はよく分かりません。朝松健さんには、歴史伝奇物の作品ではなく、こちらの物語を短編作品に仕上げて欲しかったですね。


ドラマ 「江戸川乱歩の美女シリーズ(天知茂版)」 第12作 「エマニエルの美女」

 ドラマ「エマニエルの美女」は、天知茂さんが明智小五郎を演じた「江戸川乱歩の美女シリーズ」の第12作目に相当する作品であり、1980年10月に放送されました。「エマニエルの美女」は、江戸川乱歩さんの「化人幻戯」を原作とするドラマで、今回の美女役は夏樹陽子さんです。
 以下、「江戸川乱歩の美女シリーズ(天知茂版)」の第12作「エマニエルの美女」のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

 明智小五郎(天知茂)及び波越警部(荒井注)は、推理作家の大河原義明(岡田英次)の家で開かれた研究会にゲストとして招待されます。大河原邸には義明の他に、妻の由美子(夏樹陽子)、テレビプロデューサーの讃岐(北町嘉朗)、大学教授の福本(草薙幸二郎)、女優の山村弘子(吉岡ひとみ)、評論家の姫田吾郎(中条きよし)及び義明の助手の杉本治郎(江木俊夫)が集まっていました。食事をして皆が歓談しているとき、部屋の中にカマキリが紛れ込み、これを見た由美子が驚いて明智に抱きつきます。由美子は、カマキリを異常なほどに嫌悪していました。その後、義明は屋敷の地下に保管された自慢のコレクションを披露します。地下室には、昔の拷問器具などが並べられていました。
 その夜、大河原邸に泊まった明智は、浪越警部のいびきで眠れず、外へ散歩に出かけます。大河原邸から海岸に出た明智は、由美子に出会います。明智はしばらく由美子と会話し、由美子は先に大河原邸へと戻っていきます。
 翌朝、朝食を食べるために皆がリビングへ集まりますが、弘子は別の部屋でピアノを弾いており、姫田は朝の散歩に出かけていました。朝食後に皆がベランダに集まっているとき、遠くの断崖の上から姫田が海へと落下し、この様子を皆が目撃します。その後、海上保安庁が会場で姫田の死体を発見します。姫田の所持品の中には、白い鳥の羽が含まれていました。大河原邸では以前に義明の助手の庄司武彦(荒谷公之)が自殺するという事件が起こっており、自殺した庄司も白い羽を持っていました。皆は姫田の死を事故又は自殺と考えますが、明智は何らかのトリックを用いた他殺であると推理します。
 その後、撮影所から弘子の運転する車を尾行した明智は、弘子がマネキン製造会社に入って出てくるところを目撃します。明智の追及を受けたマネキン製造会社の社長は、弘子の依頼でマネキンを製作したことを白状します。明智は、断崖から海へ落下した姫田はマネキンであり、弘子が弾いていたピアノの音はテープレコーダーを用いたトリックであると推理します。
 そして、弘子は殺され、ホテルのプールで遺体が発見されます。殺される直前に弘子は大河原夫妻とこのホテルのレストランで食事をしていました。警察は義明を疑いますが、弘子の殺害された時刻に義明及び由美子は自宅でテレビを見ており、このことは家政婦のトキ(志賀真津子)も間違いないと証言します。その後、明智宛に死んだ姫田を名乗る何者かからの郵便物が届きます。中には由美子の日記が入っていました。由美子の日記には、今回の事件の真相が記されていました。

 死んだ庄司は、義明のゴーストライターをしていました。由美子は庄司と浮気しており、これはゴーストライターとして庄司を繋ぎ留めておくために義明が黙認する関係でした。しかし庄司は、自分の名前で作品を発表して賞を取ってしまいます。嫉妬した義明は、庄司を自殺に見せかけて殺します。
 新たなゴーストライターとして杉本がやって来ます。庄司のときと同様に、由美子は杉本と浮気します。その後、評論家の姫田が大河原邸を訪れ、庄司の自殺以後の大河原作品は質が落ちたと指摘し、庄司がゴーストライターだったと指摘します。義明は姫田の指摘を否定しますが、姫田はしばしば大河原邸を訪れるようになります。ただし姫田は大河原家と対立関係とはならず、良好な関係を保っていました。これは姫田が由美子を好きになったためでした。そして由美子も姫田を好きになり、由美子は義明が認めていない浮気をしてしまいます。義明は姫田を殺害し、弘子にマネキンを使ったトリックを実行させてアリバイを獲得しました。
 そして義明は、弘子を口封じのために殺害しました。義明は、ビデオデッキを用いたトリックで由美子及びトキを騙し、弘子を殺した時刻に家でテレビを見ていたと思いこませました。

 日記に記載された由美子の推理を読んだ明智は、浪越警部と共に大河原邸へ向かいます。しかし大河原邸では、コレクションとして倉庫に保管されていたギロチンにより首を切断された義明の死体が発見されます。警察は、由美子の推理を採用し、犯人の義明が観念して自殺したと判断します。しかし明智は、この結末を不審に思います。
 義明が死んだ後の大河原邸では、由美子及び杉本の二人が浴室にいました。由美子は杉本の首を絞め、杉本は浴槽へと沈んでいきます。そのとき、浴室の外に不審な影を見た由美子は、浴室を出て屋敷を調べますが、不審者は見当たりません。由美子が浴室へ戻ってくると、浴槽に沈んでいるはずの杉本が義明に変わっていました。義明は、浴槽から起き上がると由美子を追いかけます。逃げる由美子は、義明のコレクションを保管した倉庫で追い詰められます。しかしこの義明は、明智の変装でした。明智は、由美子の日記に記載されていた殺人は全て由美子自身が実行したものであることを指摘します。由美子は自分の罪を認めますが、突然に明智に反撃し、明智は気を失って倒れます。
 明智が目を覚ますと、由美子は明智を拷問器具に縛り付けていました。この拷問器具は、義明のコレクションの一つであり、濡れた革で人間を縛って放置しておくと、革が乾いて縮むにつれて人間を縛り上げていき、最後には縛られた人間が窒息して死に至るというものです。身動きできない明智に対して由美子は、自分は愛した人を殺さずにはいられない人間だと語り、庄司より前にも人を殺してきたことを告白します。明智を縛る革が徐々に首を絞め始めた頃、どこからか入って来たカマキリが由美子の目の前に落ち、由美子はパニックに陥ります。明智は、遅れて駆けつけてきた浪越警部及び小林少年達に助けられます。その後も大量のカマキリが倉庫内に侵入して由美子の周りに集まり、由美子は 恐怖で精神に異常を来して笑い続けます。

 以上がドラマ「エマニエルの美女」の物語です。
 かなり原作の「化人幻戯」に近い内容のドラマでした。「妖しい傷あとの美女」及び「陰獣」もドラマと原作の内容が近いと感じましたが、「エマニエルの美女」及び「化人幻戯」の方がより近い内容でした。このためか、「エマニエルの美女」は、物語の構成がしっかりしていたように感じられました。このシリーズは、無茶苦茶な物語が時々ありますからね…。
 物語はいいとして、気になるのがタイトルの「エマニエルの美女」です。もう少しマシなタイトルはなかったのでしょうか。エロ目的の視聴者をおびき寄せるための罠であることは分かりますが…。なお、由美子の裸のシーンはたくさんあるのですが、脱いでいるのは夏樹陽子ではなく、別人だと思います(間違いなく)。そういう意味では、視聴者の期待を裏切る作品かもしれません。