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東野圭吾 「禁断の魔術」

 「禁断の魔術」は、ガリレオシリーズの第8弾であり、長編4作目の作品です。
 元々「禁断の魔術」はガリレオシリーズの短編集の5作目として2012年10月に出版されました。この短編集には「透視す」,「曲球る」,「念波る」,「猛射つ」の4つの物語が収録されていました。このうち「透視す」,「曲球る」,「念波る」の3つの物語は、文庫化に当たって「虚像の道化師」に組み込まれました。そして「猛射つ(うつ)」の物語を長編化したものが文庫版「禁断の魔術」として2015年6月に発売されています。今回は、この文庫版「禁断の魔術」を読みました。
 文庫版「禁断の魔術」についていた帯には、「ここに登場する湯川学は「シリーズ最高のガリレオ」だと断言しておきます。」という東野圭吾さんのコメントが記載されています。期待が高まるところではありますが、ハードルを上げているような気がしなくもありません。

 とあるホテルのスイートルームで女性:小芝秋穂が死亡しているのが発見されます。死因は卵管破裂で、病死と判断されます。
 次の日、帝都大学のガリレオ先生の部屋に、一人の学生:小芝伸吾が訪れてきます。伸吾は、ガリレオ先生と同じ高校の卒業生であり、ガリレオ先生も所属していた科学部の部長をしていました。伸吾が部長を務めていたとき、部員減少で科学部が廃部の危機に陥り、OBであるガリレオ先生の助けを借りて何とか廃部を免れたという過去があります。その時に伸吾はガリレオ先生にあこがれ、帝都大学を受験して見事合格しました。伸吾は、帝都大学の合格を報告するためにガリレオ先生部屋へ訪れたのでした。
 数か月後、姉の秋穂が死亡したことにより学費を払えなくなった伸吾は、帝都大学を退学して、金属加工を行う会社へ就職します。伸吾は、仕事が終わった後に、この会社の設備を利用して、何らかの装置を製作しています。
 同じ頃、フリーライター:長岡修が自宅で首を絞められて殺害される事件が発生し、草薙刑事及び内海刑事らが捜査を担当することになります。長岡は、故郷の光原市にて政治家:大賀仁策が進めている開発計画「スーパーテクノポリス計画」に反対し、大賀の周辺を調べていたようです。
 長岡の自宅で発見されたメモリ内には、倉庫の壁が何らかの力で破壊される映像が記録されており、草薙刑事はこの映像の正体を探るべく、ガリレオ先生の元へ相談に来ます。ガリレオ先生は、特にコメントはないとして草薙刑事を追い返します。しかし、実は長岡は殺害される前にガリレオ先生の元を訪れてこの映像を見せており、壁を破壊したのは伸吾が製作した装置であることを告げていました。

 長岡を殺害した犯人は?長岡を殺害したのは伸吾なのか?伸吾が製作している装置は何なのか?伸吾はこの装置で何を行おうとしているのか?…などがこの物語の謎です。
 発売されてまだ半年程度の本のため、ネタバレしないようにここら辺までで。

 以下、読み終えた感想です。一応、内容に触れますので、ネタバレ注意です。
 「シリーズ最高のガリレオ」であるという帯のコメントの通り、いつもは動きの少ないガリレオ先生ですが、「禁断の魔術」では登場場面が多く、これまでにない大活躍をしてくれます。そういう意味で、「禁断の魔術」のガリレオ先生は、「シリーズ最高のガリレオ」であったと思います。
 また物語は、科学が使い方によって善にも悪にもなり得るという主張が分かり易く描かれ、ガリレオシリーズの集大成の感があり、純粋に面白く読むことができました。

 ただし、推理小説を期待して読むと…。「禁断の魔術」では二人の人物が死亡します。一人目は伸吾の姉の秋穂であり、これは病死です。二人目が長岡で、これは殺人です。ですので、推理小説として長岡を殺害した犯人を解明するという展開を推理小説としては期待するところですが、この殺人には特にトリックなどが用いられているわけでもなく、面白味は全くありません。この殺人の犯人解明には、ガリレオ先生は全く関わらず、結局は警察が自力で犯人を逮捕してしまいます。
 つまり、この「禁断の魔術」ではガリレオ先生は”探偵”ではありません。あえて言うなら”交渉人”でしょうか。なので、「禁断の魔術」は推理小説ではないように思えます。
 「禁断の魔術」は、ガリレオシリーズの一つの物語として、とても面白い話であり、いい話であるとは思うのですが、何かすごいトリックやどんでん返しを期待して読見始めてしまうと、読み終えたときに少し物足りなさを感じるのではないでしょうか。
 そういう点では、ガリレオシリーズで最高の作品は「容疑者Xの献身」かなと思います。

 「禁断の魔術」では科学ネタとして「レールガン」が登場します。
 映画の「容疑者Xの献身」の冒頭によく似た装置が登場します。しかしこれは「コイルガン」というもので、「レールガン」とは別の仕組みだそうです。映画「容疑者Xの献身」の公開が2008年10月であり、長編「禁断の魔術」の元となった短編「猛射つ」が収録された短編集版「禁断の魔術」の発売が2012年10月ですので、映画「容疑者Xの献身」の冒頭シーンが「禁断の魔術」のレールガンを意識したものというわけではなさそうです。
 レールガンは、二本のレール間に伝導物質を挟み、このレール及び伝導物質に電流を流すことによって生じる地場の力によって電動物質を加速して射出する装置です。装置の小型化が難しい、発射のためのエネルギーチャージに時間がかかる、一度使うとレールの良性を行う必要があるため連射できない、などの欠点があり、兵器としての実用化は難しいとされています。
 調べてみましたが、実際にレールガンが実用化されたという情報は見当たりませんでした。
 ガンダムのようなロボットアニメではレールガンがそれなりに登場しているのではないかと思います。レールガンを手に持った又はバックパックに装備したモビルスーツがいたようないないような。別のアニメだったかもしれませんが、レールガンを連射していたような。まあ、ビームライフルとかビームサーベルとかが実用化されているせかいですから、レールガンを連射するくらいは朝飯前かもしれません。


ドラマ「ガリレオ2」 第八章「演技る」

 「虚像の道化師」の第七章「演技る」は、ドラマ「ガリレオ2」の第八章として映像化されています。

 ドラマ版の「演技る」は、登場人物などは共通しているものの、小説版から物語が大きく変更されています。
 小説版では敦子とは別に真犯人が存在するというどんでん返しの展開でしたが、ドラマ版は素直に敦子が犯人です。
 また小説版では問題となる花火の写真を殺された良介が撮影しており、敦子の意図しないところで警察が混乱するという展開でした。これに対してドラマ版は、敦子がアリバイ工作のために意図的に花火の写真を撮影しています。
 これらの変更は、物語の分かり易さを考えると、妥当なところではないかと思います。小説版では、花火の写真と事件との関係が少しわかりにくかった気がします。

 ドラマ版の「演技る」は、上記の物語の変更によって、敦子の狂気が強調されています。他人との会話をボイスレコーダーで録音して後で聴くという小説版にはなかった行動を敦子が行っていたりします。ドラマの中で敦子の存在感は非常に大きく、これは敦子を演じた蒼井優さんの存在感も大きく影響していると思います。これによりドラマ版の「演技る」は、ガリレオ先生対敦子の対決が全面的に押し出される展開となっています。
 携帯電話を使ったアリバイトリックも、花火の写真を使ったアリバイトリックも、最終的にガリレオ先生が解明します。小説版では携帯電話のトリックは草薙刑事及び内海刑事らが解明するのですが、ドラマ版で岸谷刑事は大した活躍もせず、影の薄い存在でした。ガリレオ2のドラマ全体を見ても、岸谷刑事はあまり活躍しませんでしたが。

 「演技る」はガリレオ2の第八章であり、ドラマも終盤です。ドラマの制作者としては、これから最終話へ向けて視聴率を上げていきたいところでしょう。ガリレオ先生が存在感のある強敵と対決する物語とする方が視聴者を引き付けることができそうです。実際に見た感想として、「演技る」はドラマ版の方が面白かったと思います。小説版からの変更は大正解だったのではないでしょうか。

 ドラマ版の「演技る」の中で、ガッツ石松さんが演じる花火職人とガリレオ先生とが花火についてマニアックな会話をするシーンが非常に面白かったです。

 

東野圭吾「虚像の道化師」 第七章「演技る」

 「演技る」は「えんじる」と読みます。今回のサブタイトルは読み方をある程度予想できますね。

 劇団「青狐」の駒井良介が自宅で刺殺されます。「演技る」の物語は良介が殺害された直後から始まり、劇団の女優:神原敦子がアリバイ工作を行う様子が細かく描かれます。
 敦子は、良介の携帯電話を持って劇団の安部由美子に合いに行きます。敦子は、良介の携帯電話を使って、良介の恋人:工藤聡美の携帯電話に着信履歴を残し、自分の携帯電話に着信履歴を残した後、由美子の携帯電話に電話をかけます。敦子は、由美子が電話に出た後でこれを切り、自分の携帯電話にも良介からの着信があったことを由美子に示します。その後、良介の自宅へ様子を見に行った敦子と由美子が、死亡している良介を発見します。

 以下、ネタバレ注意です。

 このように「演技る」は、犯人を先に明かして探偵がトリックを解明するパターン、いわゆるコロンボパターン(又は、古畑任三郎パターン)のようです。ただ敦子が行うアリバイ工作は、ごく普通のもので、特に科学的な要素もなく、ガリレオシリーズっぽくはありません。物語中でも、このアリバイ工作については、草薙刑事及び内海刑事達が自力で推理してしまいます。

 良介が殺害された時刻の前後には、花火大会が開催されています。アリバイ工作を行う前に敦子は、良介の自宅から、良介の携帯電話のカメラ機能を使って花火を撮影します。これとは別に、生前に良介は自分の携帯電話にて花火の撮影を2回行っています。このため、携帯電話には3つの花火の写真が残されています。
 3つの写真には、花火と共に月が写されており、花火と月の位置から良介が撮影した1枚目及び2枚目の写真は劇団の稽古場近くで撮影され、敦子が撮影した3枚目の写真は良介の自宅で撮影されたものであると警察はみなします。3枚の写真が撮影された時刻から、良介が殺害された時間は夜8時以降であると警察は考えます。上記の携帯電話での敦子のアリバイが工作であるとすれば、敦子以外の劇団関係者にはみんな8時以降のアリバイがあることから、警察は敦子が犯人であると考えますが、敦子を逮捕する決め手となる証拠がありません。

 劇団「青狐」のファンクラブ会員であり、敦子と偶然にも知り合いだったガリレオ先生は、今回の事件に関係することとなります。草薙刑事から話を聞いたガリレオ先生は、良介の殺害に用いられた凶器が、劇団の小道具のナイフであり、この凶器が残されていたことに疑問を感じます。このことからガリレオ先生は、良介を殺害したのは敦子ではなく、敦子は真犯人をかばっていると考えます。しかしながら、3枚の花火の写真から敦子以外の劇団関係者にはアリバイがあります。
 ガリレオ先生は、事件現場へ行き、花火の写真の謎を解明します。
 で、解明された謎ですが、ガラスに映った花火を良介が撮影していたというものでした。何だかなー、警察もそれくらい自力で気付いてもよさそうな謎でした。ガリレオ先生がわざわざ出向くほどの謎ではありませんでした。

 「演技る」は、敦子が行ったアリバイ工作の内容も、事件を混乱させた花火の写真の謎もそれほど驚くところはありませんでした。
 ですが、敦子が犯人のコロンボパターンと見せかけて、実は敦子以外の人物が犯人だったというどんでん返しの結末は、裏をかかれた感があり、面白かったです。叙述トリックっぽい展開がガリレオシリーズには似合わない印象はありましたが…。


ドラマ「ガリレオ2」 第七章「偽装う」

 「虚像の道化師」の第六章「偽装う」は、ドラマ「ガリレオ2」の第七章として映像化されています。

 ドラマ版の「偽装う」は、小説版と物理現象及び偽装の内容等については略同じですが、事件の背景設定は全く別物に変更されています。
 ドラマ版の「偽装う」は、ガリレオ先生、栗林助手及び研究室の学生:遠野みさきの3人が、学会の帰りに山奥にあるみさきの故郷へやってきます。みさきの故郷の神社には烏天狗のミイラが祀られており、これを見学するためです。しかし神社へ行ってみると、ミイラが祀られていた祠はコンクリートで塗り固められ、この神社の神主はしばらく前に白骨死体として発見されていたことが知らされます。ここで出会った地元の警察官:合田武彦は、岬の同級生であり、コンクリートの中に烏天狗のミイラが存在しているか否かの調査をガリレオ先生達に依頼します。
 調査を開始したガリレオ先生達の元へ、みさきの同級生の小島結衣がやってきます。結衣は神社の神主と生前に話をした最後の人物でした。体調の悪そうな結衣は、みさきと共に結衣の家へ戻ります。自宅へ戻った結衣は、養父:太一がロッキングチェアに座った状態で散弾銃で射殺され、母親:啓子が首を絞められて殺害されているのを発見します。

 以降は小説版とほぼ同じ展開ですが、若干の相違点があります。
 ドラマ版では殺害された太一の後ろの壁に”烏天狗”の文字が墨で書かれており、烏天狗が殺害を行ったかのように偽装がなされています。
 それにしても、烏天狗を犯人に見せかける偽装って、少し無理がありませんか?なんだか、金田一少年の事件簿みたいなストーリー展開です。少なくともガリレオシリーズにはそぐわないと思います。壁に文字を書いたら筆跡とかでばれるとは思わなかったんでしょうか。
 実際に誰が書いたのかわかりませんが、壁に書かれた”烏天狗”の文字がものすごく達筆だったのが印象に残りました。結衣が書くとは思えないレベルの綺麗で迫力のある文字でした。

 ロッキングチェアに関する検証を、小説版ではガリレオ先生が紙と鉛筆のみで行っていますが、ドラマ版ではコンピュータでのシミュレーションで検証しています。確かにこの方が説得力があるような気がします。あれだけの情報でどの程度の精度のシミュレーションが行えるのか、疑わしいところではありますが。それにしても短時間でシミュレーションモデルを作成してしまう研究室の学生達が凄すぎでしょう。

 ドラマ版「偽装う」は、小説版が改悪された印象でした。烏天狗は酷すぎるのではないかと。結局、烏天狗のミイラはどうなったのでしょうか…。

 

東野圭吾「虚像の道化師」 第六章「偽装う」

 「偽装う」は「よそおう」と読みます。

 ガリレオ先生と草薙刑事は、大学時代の友人の結婚式に招待されます。結婚式の会場は、山の上に建てられたホテルです。このホテルへ向かう途中で、ガリレオ先生と草薙刑事が乗る車がパンクします。雨の中でタイヤを交換する草薙刑事に、通りかかった赤い車の女性:桂木多英が傘を貸してくれます。
 タイヤ交換を終えてガリレオ先生と草薙刑事はホテルへ到着し、結婚式は無事に行われます。しかし、雨によって土砂崩れが発生し、ホテルから街へ戻る道路が不通となってしまいます。
 同じ頃、ホテルの近くにある多英の別荘で、多英の両親の死体が発見されれます。発見者は多英でした。父親の武久はロッキングチェアに座った状態で散弾銃により射殺され、母親の亜紀子は首を絞められて殺されていました。道路の不通により地元の警察が来れないため、結婚式に音連れていた警察署長と共に草薙刑事が事件の捜査を開始する、という物語です。
 これは、推理小説の「嵐の山荘」パターンというやつですね。こういうパターンは東野圭吾さんはあまり好きではないのかと思っていましたが…。ガリレオシリーズも段々と初期のとんでもない感じが薄れて普通の推理小説っぽくなってきたような気がします。

 以下、ネタバレ注意です。

 捜査を開始した草薙刑事は、事件の発生した別荘へと向かい、発見者の多英と会います。草薙刑事は、作詞家だった武久が盗作問題についての話し合いのために別荘で弟子の鵜飼修二と会う予定だったことを聞き出しますが、鵜飼の姿はありません。武久の殺害に用いられた散弾銃は別荘の庭に放置されています。また亜紀子の首には武久の血が付着しています。草薙刑事は、鵜飼が散弾銃で武久を殺害し、返り血を浴びた手で亜紀子の首を絞めたと考えます。草薙刑事は、事件現場の写真を撮影して持ち帰ります。

 草薙刑事が撮影した写真を見たガリレオ先生は、不審な点に気付き、何かの数式を書きながら考え始めます。
 ドラマ版であればホテルの壁などに数式を書くところですが、小説版のガリレオ先生は行儀よく普通の紙に数式を書いていました。
 ロッキングチェアに座った人物を正面から散弾銃で撃った場合、打たれた衝撃でロッキングチェアは後ろへ傾き、そして倒れることなく反動で前へ揺り戻されるはずである。その時にロッキングチェアに座った状態の死体は前方へ投げ出されるはずであるる。このため、死体がロッキングチェアに座っているのは不自然である、ということです。
 このことからガリレオ先生は、武久が亜紀子を殺した後で散弾銃を用いて自殺した無理心中が事件の真相であると推理します。ガリレオ先生はこれらのことを紙にざっと数式を書いて計算しただけで検証してしまいます。写真だけではロッキングチェアの形状及び死亡した武久の体重の情報もわからないと思うのですが、どのような計算でこの結果を導き出したのでしょう…。
 そしてガリレオ先生は、散弾銃が庭に放置されていたこと、亜紀子の首に血が付着していたことは、多英による偽装工作であると見抜きます。何故こんな偽装を行ったのか、という問題がありますが、これは死亡順序を入れ替えることにって武久の遺産の相続権利を多英が得るためであることもガリレオ先生は見抜きます。
 今回のガリレオ先生はスーパー安楽椅子探偵でした。草薙刑事から聞いた話、現場の写真及び多英との会話等の少ない情報から真相に辿り着いています。「嵐の山荘」パターンですから、探偵役が全て解決しなければならず、ガリレオ先生も大変です。専門分野から考えると、ガリレオ先生がロッキングチェアに関して武久が自殺であることを解明し、遺産相続などの部分は警察が解明する、くらいがいつもの役割分担な気がします。でも、あんな偽装工作では、道路が復旧して警察が本格的に捜査を始めればばれてしまいそうな気がしますが。