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菊地秀行 「邪神艦隊」 The Cthulhu Mythos Files

 菊地秀行さんの「邪神艦隊」は、2013年10月に発売されました。「The Cthulhu Mythos Files」シリーズの恐らく9番目の作品です。恐らくというのは、これまでの本にはシリーズの通し番号が付いていたのですが、この本から通し番号がなくなったので、正確な巻数がわからないためです。
 このシリーズは菊地秀行さんの登場頻度が高いです。「邪神艦隊」は、過去作の復刊ではなく、新作です。「邪神艦隊」というタイトルもなかなか面白そうです。期待して読んだのですが・・・。
 それでは以下、菊地秀行さんの「邪神艦隊」のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

 連合艦隊旗艦「長門」の副艦長の鬼神歳三大佐は、艦長の緒方万明に呼び出され、我が国が軍拡の道を進んでいるのは、クトゥルーという神と戦うためだということを聞かされます。緒方及び鬼神は建造中の新旗艦に就任する事になります。また新旗艦には、宮内省から大佐なみの待遇で派遣されてきた山田六助が乗り込む事になり、緒方は山田を鬼神に紹介します。
 その頃、東京湾の片隅に、1人の男が上陸し、この男をダゴン秘密教団の面々が出迎えていました。この男は、オーベット船長と呼ばれ、両生類のような姿で、レイテ沖から東京湾まで2日で泳いできました。そこへ、密教の集団が攻撃を仕掛け、オーベット船長の反撃にあって壊滅します。
 次の日、警察では大本教の教祖の出口王仁三郎が、昨夜に東京湾で起きた怪事について、南月刑事の取り調べを受けていました。東京湾で何かが起こり、生き残りが大本教の信者だったためです。出口は、クトゥルー一派の大物が東京湾に上陸するという情報を掴み、これを撃退しよとしたが失敗したと語ります。
 大平洋の中央に浮かぶ人工島が消失する事件が発生します。各国の艦隊がこの海域へ向かいます。アメリカ、イギリス及びドイツの艦隊が到着し、そこに待っていたのは触手のようなものが絡み合ってできた戦艦でした。三国の艦隊は触手戦艦を倒して帰投します。緒方、鬼神及び山田達が乗る長門を中心とした日本の艦隊は少し遅れて到着しますが、そのときにはどの国の鑑も姿はなく、通信も応答はありませんでした。緒方達も日本へ帰投します。
 その頃、日本では警察によるダゴン秘密教団への捜査か行われていました。これに参加した南月刑事は、教団施設で蛙のような人々<深きものたち>や、巨大な怪物ダゴンを目撃します。
 各国へ戻った艦隊は、自国の都市を砲撃するという暴挙を行っていました。緒方達は、自国への砲撃を、直前で思いとどまる事ができ、事なきを得ます。
 南月刑事は、上からの命令で、青森の岩魚という村の調査に就きます。この村にある岩魚神社が九頭竜、即ちクトゥルーを祭っており、ダゴン秘密教団の最大拠点であるとのことです。夜中に神社へ潜り込んだ南月刑事は、神主の男と、神主にあや様と呼ばれる女性と、肌の白い人々とに囲まれます。彼等は、教団の活動資金を得るためにオリハルコンの売買をしようとしていました。南月刑事は、この集団との戦いとなり、蛙のような怪人の体当たりを受けて気を失います。そして気がつくと、南月刑事は地元の2人の警察官に保護されていました。しかし警察官は敵と連んでおり、南月刑事を殺そうとします。これを助けたのは、大本教教祖の出口でした。南月刑事及び出口は東京へ戻る道すがらに情報交換します。南月刑事は、オランダの船長と呼ばれる人物と、ミナスキュールという名前の人物とが、出口に力を貸している事を知ります。
 大平洋にドイツのUボートが現れ、男が外に出て呪文を唱えます。するとNAIBARAと名乗る男が海の中から現れ、Uボートの男を神の元へと釣れて行きます。Uボートの男は、ドイツ海軍総司令官デーニッツ元帥出アリ、ヒトラーの命令でクトゥルーにドイツへの協力を願うためにやってきました。
 鬼神の家に山田が訪れます。すると多数の蛙のような怪人が襲ってきます。狙いは山田のようでした。鬼神及び山田はこれらを何とか撃退します。駆けつけた警察の中には、南月刑事がいました。鬼神及び山田は、南月刑事と邪神に関する情報を交換します。
 その後、しばらくして、南月刑事は、ダゴン秘密教団に拉致されます。岩魚神社の神主及び円城寺あやは、オランダ人の船長及びミナスキュールについての情報を得ようと南月刑事を拷問します。南月刑事が何とか反撃しようとしたとき、東京湾沖の戦艦からダゴン秘密教団施設への砲撃がなされます。南月刑事は気が付くと、出口に介抱されていました。出口は、南月刑事を救ったのは、クトゥルー側の戦艦であると言います。そこへ噂のミナスキュールが登場し、邪神と地球の神との双方が、南月刑事を後継者として狙っていると語ります。地球の神は、南月刑事を邪神の<監視者>にしようとしているようです。その後、南月刑事達が話していた部屋に大量の海水が流れ込みます。
 各国の艦隊が協力してルルイエに対する攻撃を行う作戦が決まります。緒方、鬼神及び山田は、新旗艦に乗り、艦隊を引き連れて出航します。この日本艦隊をダゴン及び<深きものども>が襲います。この攻撃は何とか回避しますが、戦闘の最中に緒方が脳溢血で死亡し、鬼神が艦隊を指揮する事となります。艦隊はマニラに到着して補給を受けます。
 鬼神は、山田に長門を任せ、艦隊を率いて先にシドニーへ向かわせます。山田に率いられてシドニーに到着した日本艦隊は、アメリカ、イギリス及びドイツの艦隊と合流してルルイエを目指します。連合艦隊がルルイエ近郊に到着すると、クトゥルーの艦隊が出迎えます。両艦隊と、両艦隊から発進した航空機との戦いが始まり、次第に連合艦隊が劣勢になってきます。そこへ鬼神が戦艦「大和」で駆け付け、敵を殲滅します。しかしクトゥルー側は、日本でも図面だけしか存在しない「超大和級」戦艦を作り出して対抗します。劣勢となった大和の艦内で、鬼神は1つのボタンを押します。すると大和の船体は湾曲し、その反動で空中へ飛び上がります。大和は空中から敵への一斉砲撃を行い、超大和級戦艦を倒します。しかし敵の攻撃を受けた大和も沈みかけていました。そこへ大津波が襲ってきます。
 鬼神達は、無事に日本へ帰り着きます。大和は、異国の帆船に導かれて、3日で日本へと戻ってきました。帆船の正体は不明ですが、クトゥルー側と対立する何らかの力によって鬼神達は救われたようでした。任務が終わって去る山田は、鬼神が自分の名前を聞き違えて覚えていると指摘し、自分の本当の名前は山本五十六だと話します。

 以上が、菊地秀行さんの「邪神艦隊」の物語です。
 率直な感想を言うと、面白くなかったです。途中で何度も眠たくなり、休み休み何とか最後まで読みました。ただしこれは、私にミリタリー系の知識が皆無な事に起因しており、ミリタリー系の知識を持っている人なら楽しめる作品かもしれません。長門やらミズーリやらビスマルクやらの固有名詞を出されても、何の事やらサッパリ。これらの詳しい説明が作品中にあるわけでもありません。この作品のメインとなる海戦の様子がサッパリ頭の中に思い浮かべられませんでした。
 例えば、ガンダムの小説にザクが当たり前のように登場しますが、ガンダムを知らない人にはザクって何?ってなると思います。この例えも、ガンダムを知らないと分かりませんが。でも、ガンダムの小説を読む人にとっては、ザクは知っていて当たり前で、ザクを知らない人がガンダムの小説を読む事はほとんどないでしょう。
 これに対して「邪神艦隊」は、クトゥルー・ミュトス・ファイルズの作品です。決してミリタリー作品集の中の1作品ではありません。読者は、クトゥルーを知っていても、ミリタリー知識があるとは限らないと思います。そのような読者に対しては、この作品は情報不足過ぎるのではないでしょうか。


HUGO HALL 「 バーナム二世事件」

 HUGO HALLさんの「バーナム二世事件」は、クトゥルー神話のアンソロジー「The Cthulhu Mythos Files」シリーズの第8巻「ホームズ鬼譚~異次元の色彩」に収録されたゲームブック作品です。
 以前に本ブログで「ホームズ鬼譚」の感想等を書きました。その時にはこのゲームブック作品は未プレイだったので、感想等はまた後日とさせて頂きました。
 その後、この時の記事に対するコメントで、「バーナム二世事件」の本文の修正情報を頂きました。このコメントを頂いたのが、何と作者のHUGO HALLさん御本人からでした!驚きと、感謝と、感激と・・・何だかよく分からない心理状態に陥ってしまいました。
 頂いた情報を以下に記載させて頂きます。これから「バーナム二世事件」をプレイする方は是非とも参考にして下さい。この修正がなくても事件解決できるかもしれませんが、いくつか重要な情報が手に入らないかもしれません。登場人物の何人かには出会えないと思います。

 「P272下段の「執事バレット」の飛び先は(5)じゃなくて(40)が正解」

 さて、以前にも書きましたが、「バーナム二世事件」は、普通のゲームブックとは少し違います。「バーナム二世事件」は、<事件の発端>、<捜査>、<質問事項>、<解答編>、<質問事項の答え>の5つで構成され、これらのうちパラグラフ選択は<捜査>でのみ採用されています。
 <捜査>の部分では、文章中に登場する人名、場所、用語等に番号が振られており、この番号のパラグラフに飛ぶと説明文が記載されているという構成です。飛び先のパラグラフの文章に登場する用語等にも更に番号が付されている事もあります。
 <質問事項>には、<捜査>で集めた情報を基に 読者が答えるべき四つの質問が記載されています。この四つの質問に答えられたら<捜査>が終わりです。
 <解答編>は、事件の謎解きの物語。<質問事項の答え>は、四つの質問の答えです。
 なお、<捜査>の全パラグラフ数は79個で、30パラグラフ以内で事件を解決できれば名探偵だそうです。
 それでは以下、「バーナム二世事件」のあらすじを記載しますが、事件の真相のネタバレはせずに、<事件の発端>と、私が遊んだ<捜査>の途中までの様子とを簡単にまとめるだけにしておきます。

<事件の発端>
 グリニッジ地区にあるバーナム二世邸でバーナム二世の死体が発見されます。バーナム二世邸は「驚異の世界館」として営まれており、奇妙な展示品が数多く収容されています。庭には馬車が展示されていましたが、バーナム二世はこの馬車のなかで死んでいました。凶器は庭に展示されていた重い丸石で、犯人は馬車の中に丸石を次々と投げ込み、バーナム二世を撲殺したようです。しかし丸石は約9キログラムで、持ち上げる事はできても、連続的に投げつける事は至難の業と思われました。事件を担当するライリー・マロウン刑事は、ホームズに助けを求めますが、ホームズは別の仕事で忙しく、ワトソン(私)がマロウン刑事と共に調査を開始します。

<捜査>
 ベイカー街を出たワトソン達は、バーナム二世邸へ向かう前に、情報を集める事にします。第一発見者の執事ボガードの自宅、通報をうけた巡査エリック、バーナム二世の検死をしている検死局等を回ってみました。検死局で、死体の状態を聞き、所持品の懐中時計から殺害時刻が2時14分と考えられることを聞きます。検死官のウエウコット博士は、何か裏事情を知っている雰囲気があります。その他には、街を歩き回る中で、「赤いトルコ帽」というキーワードで+5のパラグラフジャンプできるという情報を得ます。ゲームブックでパラグラフジャンプの情報を得るとワクワクしますね。
 その後、ワトソン達はバーナム二世邸に乗り込みます。ここで相棒のマロウン刑事から、邸の見取り図を受け取ります。主に邸の周囲及び庭園と、殺害現場となった馬車の中とが描かれ、邸の内部はありませんが、調査可能な場所が30ヶ所もあります。既に5つほどパラグラフを回っており、30パラグラフ以内で事件解決は夢のまた夢っぽいです。名探偵は諦めて、足で歩いて事件を解決する日本の刑事の気分で調査する事にします。
 バーナム二世邸を訪れた気分で、門から入って庭へ向かい、庭の場所を調べるという順番で歩いてみます。門の所で、「赤いトルコ帽」を発見し、パラグラフジャンプできましたが、オカルト的な警告を受けただけでした・・・。正面玄関では、相棒のマロウン刑事が二台の馬車の車輪跡を発見します。重要そうな手掛かりです。その後、殺害現場である馬車の内外を調査しますが、殺害方法はさっぱり思いつきません。馬車の中では、バーナム二世が書いた書類、帳簿、バーナム二世に対する警告を綴った手紙等を見つける事ができました。事件解決の手掛かりになりそうです。
 続いて邸内へ。売り子のエスター・ファーマンという女性の案内で、世界館の展示品を見て回ります。アーカムで捕獲されたマーモットの怪異変種の剥製、占いをしてくれる自動人形等が重要そうです。自動人形に事件の犯人を占ってもらうと、ロンドンのとある番地が示されます。居住エリアである二階にはめぼしいものはありませんが、屋上を調査してハリー・ハルマン公爵という名前が浮かび上がって来ます。
 また、執事ボガードからバーナム二世が昔に経営していたサーカス団の関係者の情報を得ます。バーナム二世邸を出て、関係者の話を聞きに回りました。鉄胸ホーガンから大砲を使う芸の話を聞き、まだらの見者メリマッコから自動人形に関する情報を聞き、マウスヘッド・マイキーからバーナム二世の最近の取引に関する情報を聞き、新聞社で怪しげな情報を聞きました。どれもこれも、事件に関係ありそうな、なさそうな。
 その後は、自動人形の占いで示された場所や、屋敷の屋上で発見したハリー・ハルマン公爵を訪れます。この先、捜査は佳境に入り、事件の真相に関係しそうな情報が次々に登場してくるのですが・・・ネタバレになるので、ここらでやめておきます。

<質問事項>
 1.バーナム二世はなぜ馬車にいたのか。
 2.殺害を実行したのは誰か。
 3.殺害にはどのような力が用いられたのか。
 4.殺害の目的は何か。

 十分に捜査して上記の<質問事項>に答えたら、いよいよ<解決編>です。<解決編>ではホームズが登場して見事に事件の謎を解いてくれます。
 ちなみに私は、上記の4つの質問事項のうち、3番目がわかりませんでした。他の3つについては、<捜査>のパラグラフを読み進めていけば、まぁ想像つくと思います。3番目の質問がわからず、悩みに悩んで、ほぼ全てのパラグラフを読んでしまったように思います。でも、わかりませんでした。完敗です。悔しいところですが、作品は非常に楽しめました。
 この作品は、ゲームブックとしては少し変わった構成でしたが、キーワードを追って読み進めるというのは、事件を捜査している気分にとても浸ることができます。これで謎が解ければホームズ気分が味わえるところです。残念ながら私はホームズに誤りを指摘されてワトソン気分を味わってしまいましたが。
 所で、上記のあらすじだけでは、クトゥルー要素はどこにあるのか全くわかりませんが、作品にはしっかりとクトゥルー要素が入っています。アーカムで起きた「宇宙からの色」の事件の遺産とでも言うべき物質が事件の動機に関係しています。またバーナム二世の事件解決後のエピローグ的な部分にもクトゥルー要素があります。是非とも、ご確認下さい。
 ただし、謎解きには超常現象は関係なく、論理的に行う事ができます。クトゥルー・ミュトス・ファイルズのシリーズに収録されてると、もしかして超常的な殺害方法もありなのかと疑ってしまった事もありましたが、謎解きはホームズものですので、安心して謎解きして下さい。


アンソロジー 「ホームズ鬼譚~異次元の色彩」 The Cthulhu Mythos Files 8

 「ホームズ鬼譚~異次元の色彩」は、2013年9月に発売された「The Cthulhu Mythos Files」シリーズの第8巻です。
 今回は、「異次元の色彩」をテーマに、更にシャーロック・ホームズを絡めたクトゥルー神話の短編作品集です。クトゥルー神話も、シャーロック・ホームズも好きですが、両方を合わせるという発想はありませんでした。どんな作品になることやら。
 それでは以下、「ホームズ鬼譚~異次元の色彩」の各話のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

<宇宙からの色の研究> 山田正紀
 iMRIという脳の活動を測定する機械の専門家である私ードクター・ワトソンは、法廷に証人として呼ばれます。法廷は、シャーロック・ホームズを殺害した容疑でコナン・ドイルが裁かれようとしていましたが、私の証言でドイルは不起訴となります。
 法廷から出た私に1人の男が近づいてきてスマホを渡します。スマホには「M」という男からの通話があり、私にヒースクリフという男が死んでいた現場へ向かうよう指示を出します。スマホを持ってきた男は、シャーロック・ホームズでした。ホームズと共に現場へ到着した私に、MはヒースクリフをiMRIにかけて欲しいと頼みます。
 ヒースクリフの遺体をiMRIにかけ、私はヒースクリフの意識と同化し、気付くとヒースクリフの遺体をメスで切り刻んでいました。ホームズは、私の正体はワトソンではなく、ジャック・ザ・リッパーである事を見抜きます。私は、この男がホームズではなく、モリアーティ教授である事を見抜きます。
 私は、更にiMRIでヒースクリフの意識を探り、ハワーズという場所へ向かう必要があると判断します。私は、モリアーティ教授と共にハワーズの鉱山にたどり着き、廃鉱の中へ入ります。私は、廃鉱の中で巨大なネズミに遭遇し、ネズミと話しているうちに、この世界の真実に気付きます。この世界は、クトゥルフが人類に勝利した後の世界であり、虚構と現実とが倒錯した世界でした。
 更に私は、廃鉱の奥にあった部屋の中ででラヴクラフトに出会います。ラヴクラフトは、この部屋に閉じ込められていました。私は、ラヴクラフトと共に、プラスチック爆弾で部屋を破壊します。爆発で飛ばされた私は、太古の世界にいました。ここでは、哺乳類を恐竜が捕食し、恐竜をクトゥルフが捕食している世界でした。私は、プラスチック爆弾でクトゥルフを吹き飛ばします。
 その後、モリアーティ教授が私を殺そうとします。このモリアーティ教授を倒して私を救ったのはシャーロック・ホームズでした。私は、ロンドンへ戻ってクトゥルフと戦う事を決意します。

 以上が、山田正紀さんの「宇宙からの色の研究」の物語です。
 意味不明な物語でした。虚構と現実とが入り混じった世界、結局は何でもありな世界で、何が起きても面白くも何ともないという、どうしようもない物語でした。途中で読み続けるのがかなり苦痛になりました。
 山田正紀さんは日本で二番目のクトゥルー神話作品(らしいです)である「銀の弾丸」の作者です。「銀の弾丸」は、以前に読みましたが、非常に面白かったです。今回も山田正紀さんの作品という事で期待して読み始めましたが、とてもガッカリでした。

<バウカヴィル家の怪魔> 北原尚彦
 バスカヴィル家の当主チャールズが巨大な獣に襲われて死亡するという事件が起こり、主治医のモーティマー医師がシャーロック・ホームズに事件解決を依頼します。バスカヴィル家には、大昔の当主ヒューゴーが邪神に生贄を捧げる儀式を行っていたという伝説が残っていました。ヒューゴーは、屋敷の近くに隕石のようなものが落下した日に、巨大な魔物に気いちぎられて殺されました。
 そして今年の6月に再び隕石が落ちました。その周辺では大地が汚染され、怪しい光を放つようになりました。そして十日後に、チャールズが森のなかで巨大な獣に襲われて死亡しました。
 あいにく、ホームズは別の事件で手が放せませんでした。バスカヴィル家には新たな当主として、ヘンリーという遠縁の者がアメリカからやってきており、ワトソンがヘンリーの護衛を兼ねてバスカヴィル家へ先に向かう事になります。ホームズは、手持ちの事件解決後に後を追います。ヘンリーは、滞在しているロンドンのホテルで、剃刀を盗まれる被害に合っていました。
 ワトソンは、ヘンリーと共にバスカヴィル家へ到着します。途中、監獄から1人の囚人が逃走して辺りに潜んでいるというニュースを聞かされます。囚人は、<ノッティング・ヒルの殺人魔術師>と呼ばれていたセルデンという男です。バスカヴィル家では、執事のジョン・バリモアとその妻のイライザが出迎えます。
 次の日、バスカヴィル家の周辺を調査したワトソンは、近くのメリピット荘に住むステイプルトン及びベリルの兄妹に出会います。ヘンリーは、ベリルを好きになります。またワトソンは、モーティマー医師の紹介で、隕石の落下を望遠鏡で目撃したフランクランド老人と知り合います。ヘンリーは、以前にマサチューセッツ州に住んでおり、近くのアーカムという街でも隕石が落ちて土地が汚染される事件が起きた事をワトソンに話します。
 ある夜、ワトソン及びヘンリーは、イライザが隕石の汚染の影響で正気を失っている事を知ります。イライザは、逃走犯セルデンの姉であり、汚染された沼に潜むセルデンに差し入れを届けており、沼の瘴気に汚染されたようでした。
 バリモアは、チャールズがローラ・ライアンズという女性と待ち合わせをして外出した際に殺害された事を教えてくれます。ワトソンはローラを訪ねますが、ローラは約束の場所へ行かなかったと話します。
 汚染された沼の近くの遺跡に何者かが住み着いているとの噂を聞いたワトソンは、遺跡の調査に向かいます。遺跡にいたのは、ホームズでした。仕事を終えてこの地へやってきたホームズは、遺跡を拠点に独自の捜査を進めていました。ホームズ及びワトソンが情報交換していると叫び声が聞こえ、急いで駆けつけると、セルデンが死亡していました。セルデンは、イライザが差し入れたヘンリーの服を着ており、大きな獣に喰い殺されたようでした。しばらくして殺害現場にステイプルトンがやってきて、死体を見て驚きます。
 ホームズは、バスカヴィル家へ行き、明日にはワトソンと共にロンドンへ帰らなければならない用事があると話し、ステイプルトン及びベリルの晩餐に招待されているヘンリーに是非行くようにと言います。ホームズは、バスカヴィル家に飾られていたヒューゴーの肖像画を見て、ベリルにそっくりであることに気付きます。
 次の日、ホームズ及びワトソンはバスカヴィル家を出て駅へ向かい、列車に乗らずに引き返します。2人ははローラを訪ね、チャールズを誘い出す手紙を書いたのは、ベリルに頼まれたからであることをローラから聞き出します。
 その後、2人はヘンリーを招いて晩餐が行われているステイプルトン及びベリルの家を見張ります。やがて沼からの濃い霧が辺りを覆います。2人は晩餐を終えて出てきたヘンリーと共にバスカヴィル家への帰路に就きますが、森のなかで魔犬が襲ってきます。ホームズ、ワトソン及びヘンリーの3人は、何とか魔犬を倒してバスカヴィル家まで帰ります。バスカヴィル家ではイライザが何者かに喰い殺されており、犯人は魔犬ではなく人間のようでした。そして皆の前に姿を現したのは、歩く死体となって蘇ったチャールズでした。チャールズは、窓を破って外へ飛び出し、姿を消します。
 次の日、沼からの霧がバスカヴィル家を覆います。霧の中からバスカヴィル家へやってきたのは、魔犬の首を持ったベリルでした。ベリルは、バスカヴィル家の血を引いており、ヘンリーを殺してバスカヴィル家を乗っ取る事を考えていました。ベリルは、魔犬を使ってバスカヴィル家にいた一同を皆殺しにしようとしますが、魔犬の首はベリルを殺してその体を奪います。魔犬の首とベリルの体とを持つ怪物が遅いかかろうとしたとき、歩く死体と化したチャールズが現れます。2体の怪物は、互いを攻撃し、共に倒れます。
 昔に落下した隕石と共にやってきた光はベリルに呼び寄せられて魔犬となり、最近に落下した隕石と共にやってきた光はチャールズとなったようです。一方の光がもう一方の光を呼び寄せたのか、一方の光を追ってもう一方の光がやってきたのか、真相はホームズにもわかりませんでした。

 以上が、「バスカヴィル家の怪魔」の物語です。
 元ネタである「異次元の色彩」と似た隕石がロンドンにも落下していたという物語でした。「異次元の色彩」をテーマにした作品として、設定は悪くないと思います。
 またシャーロック・ホームズの「バスカヴィル家の犬」をクトゥルー風味に変更するというアイデアも、悪くないと思います。
 ただ、読んでいてあまり面白くはなかったです。何故でしょう?アイデア的に悪くないとは思うのですが、読んでいて続きが気になるということがなく、ワクワクもハラハラもドキドキもしない。何というか、平凡というか、つまらない物語でした。シャーロック・ホームズとクトゥルー神話とを混ぜ合わせた結果、ミステリーとしてもホラーとしても中途半端な物語になってしまった、という事かもしれません。

<バーナム二世事件> フーゴ・ハル
 ゲームブックです。このシリーズでは2つ目のゲームブック作品です。作者のフーゴ・ハルさんは、ゲームブック界ではおそらく有名な方なのだと思われます。雑誌「ウォーロック・マガジン」の記事で名前を見た記憶があります。
 ただし、この「バーナム二世事件」は、普通のゲームブックとは少し違います。普通のゲームブックでは、スタートからパラグラフを選択して読み進み、ゴールに相当するパラグラフに至る事で物語が完結します。これに対して「バーナム二世事件」は、<事件の発端>、<捜査>、<質問事項>、<解答編>、<質問事項の答え>の5つで構成され、これらのうちパラグラフ選択は<捜査>でのみ採用されています。他の4つは普通に文章です。
 <捜査>の部分にしても、パラグラフを選択して読み進む事で物語が進行するのではなく、物語に登場する人名、場所、用語等に番号が振られており、この番号のパラグラフに説明文が記載されているという構成です。説明文に登場する用語等にも更に番号が付されている事もあります。逆に、番号が付された用語がない場合には、元のパラグラフに戻る必要があります。パラグラフ間の移動は自由です。
 こうしてパラグラフを探って情報を集め、集まった情報を基に読者が真相を推理し、解答編を読んで答え合わせする、という事になります。
 ゲームブックというよりは、推理クイズという方が適当かもしれません。興味を持たれた方は是非ともチャレンジしてみて下さい。
 私はまだ未読(未プレイ)なので、これ以上の紹介はできません。時間がある時にじっくりとチャレンジしてみようと思っています。プレイ後に、改めて感想などを紹介しようと思います。


田中文雄 「邪神たちの2・26」 The Cthulhu Mythos Files 7

 田中文雄さんの「邪神たちの2・26」は、1994年に出版された日本のクトゥルー神話作品です。以前から存在は知っていましたが、なかなか読む機会はありませんでした。しかし、2013年8月に、「The Cthulhu Mythos Files」シリーズの第7巻として復刊され、やっと読む機会が回ってきました。
 この The Cthulhu Mythos Files」シリーズは、過去作品の復刊と、新作とが混在しており、なかなか手に入らない過去作品を復刊してくれるのは非常にありがたいです。
 それでは以下、田中文雄さんの「邪神たちの2・26」のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

 昭和10年、日本陸軍の海江田清一少尉は、父が倒れたとの知らせを受けて故郷に帰ります。故郷は福井県の山奥にある辰野村で、父の阿礼は辰野村にある黒龍神社の宮司をしています。戻った清一に対して阿礼は、自分が死んだらその日のうちに遺体を火葬するようにと頼みます。
 清一は、父の書斎で隠し部屋を発見し、部屋の中でハワードという人物からの手紙と、魔物の像とを発見します。手紙には、魔物が日本を狙っているとの警告が書かれていました。
 そして阿礼が死亡し、夜中に遺体が消えます。清一は、神社の奥へと歩いていく阿礼の後を追い、洞窟の中へ入って地底湖に至ります。阿礼は地底湖から出現した魔物に引きずり込まれ、清一は洞窟から逃げ、神社に安直されていた像で洞窟の入口を封じます。像が置かれていた場所には、阿礼の遺書がありました。
 阿礼の遺書には、過去の出来事が綴られていました。阿礼が船乗りをしていた頃、友人のナサニエル・マーシュが死にました。阿礼は、ナサニエルの故郷であるインスマスの港町へ行き、ナサニエルの死を家族に伝えます。阿礼は、ナサニエルの妹のエリザベスに一目惚れします。阿礼とエリザベスは、何故か次の日には結婚式を挙げることになりますが、阿礼は疑問を感じません。どこからか現れたハワードという青年は、阿礼に逃げるよう忠告します。次の日、阿礼とエリザベスの結婚式がダゴン教団の教会で始まり、生贄が捧げられる儀式が行われます。その時、教会が火事になり、阿礼は正気を取り戻します。阿礼が今まで美しいと感じていた人々は、インスマス面の醜い姿をしていました。教会に火をつ
けたのはハワードでした。ハワードと阿礼は、何とかインスマスから脱出します。
2人はアーカムの街に戻り、ハワードはミスカトニック大学の図書館に阿礼を案内します。ハワードは、阿礼にダゴンや更にその上の存在CTHULHUについて話し、阿礼の故郷にある九頭龍川もこれらに関係していると話します。故郷に戻った阿礼は、九頭龍川に沈んだ黒龍神社を再建し、魔物を封じ続けてきました。
 阿礼の遺体が川で発見されたと連絡を受け、清一は遺体を引き上げます。阿礼の遺体はボロボロの状態でした。遺体は火葬されて墓地に葬られます。清一が地底湖の魔物が封じられていることを確認しなければならないと考えていたとき、1人の男が清一の前に現れます。
 この男は、北一輝という名で、陸軍の青年将校達に先生と慕われている人物でした。北は霊能力者であり、日本各地の神社で異変が起こっていると話します。北は、魔物が既にこの地からいなくなったと告げます。
 その後、日本各地で異変が相次ぎます。北は、各地の魔物が解放され、皇居を狙って集結していると言います。しかし皇居は日本の神々に守られているため魔物も簡単に手出しできず、魔物達は皇居の周辺から侵略を始めます。魔物達は、日本政府の要人達や警察署長等に乗り移って力を蓄えています。
 偶然にも、魔物達に乗っ取られた人々は、反乱を企てていた陸軍青年将校達が暗殺対象としている人物達と一致していました。北及び清一は、陸軍青年将校の一部に魔物の存在を伝え、クーデターを結構して魔物達に乗っ取られた人々を殺害します。これが2・26事件の真相でした。
 作戦は成功して魔物達は一掃されますが、天皇の怒りを買ってしまい、反乱者達は捕まって処刑されます。

 以上が、田中文雄さんの「邪神たちの2・26」の物語です。
 前半はすごく面白いです。清一が故郷に帰って阿礼が死亡し、手記を発見するあたりは、王道のクトゥルー神話でした。これは傑作かもと思いながら、ワクワクして読んでました。
 ところが、北一輝が登場してからは、全く面白くなくなりました。魔物が暗躍していると北が話しているわりに、特に事件が起こる訳でもなく。北に言われるがままにクーデターを起こしてしまっているような。
 2・26事件の描写も、○○が××を殺害したというような、教科書の説明文のようで、面白くも何ともありません。しかもほとんどが名前だけの登場で、人物像は全くわかりません。読んでいて眠たくなりました。
 前半がとても面白かっただけに、残念な作品でした。


アンソロジー 「チャールズ・ウォードの系譜」 The Cthulhu Mythos Files 6

 「チャールズ・ウォードの系譜」は、2013年7月に発売されており、「The Cthulhu Mythos Files」シリーズの第6巻に相当します。今回はラヴクラフトの「チャールズ・ウォードの事件」をオマージュとする3人の作家の作品が収録されたアンソロジー集です。前巻の「ダンウィッチの末裔」は意表を突いてゲームブックが含まれていたりしましたが、今巻は小説作品が3つというオーソドックスな構成です。
 以下、「チャールズ・ウォードの系譜」に収録された3つの作品のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

<ダッチ・シュルツの奇怪な事件> 朝松健
 1935年、ニューヨーク。日本人のスパイであるモト(仮名)は、ギャングのボスであるチャールズ・ルチアーノと、その仲間のオウニー・マドゥンとに半強制的に呼び寄せられ、アーサー・フレゲンハイマーという男を殺すという仕事を押し付けられます。
 アーサーは、ビールの密造をしていた男で、ヴィンセント・コールという男と縄張り争いをしていました。抗争の中でアーサーはリンゴ売りの子供を殺してしまい、民衆を敵に回し、ロードアイランド州プロヴィデンスに身を隠します。ここでアーサーは、スペクルム・フォニーという謎の人物と出会い、更にその紹介でメトラトンという黒魔術界の大物と出会い、メトラトンの命令でフォニーを殺しました。これによりメトラトンとアーサーは人智の及ばない力を得ました。その後、アーサーはニューヨークへ戻り、ヴィンセント・コールとの和解の場を取り仕切って欲しいとマドゥンに頼み、マドゥンは和解の場を設定します。この場でアーサー及びヴィンセントは和解したように見えますが、その後にヴィン
セントにメトラトンからの電話がかかり、アーサーが呪文を唱えるとヴィンセントは死亡します。アーサーは、ニューヨークを制覇すると宣言して去ります。
 ルチアーノ及びマドゥンは、モトにアーサー及びメトラトンの殺害を命じ、最強の魔術武器としてヴァージニアンという男を相棒に付けます。またアーサーは、ダッチ・シュルツという名前で呼ばれていると、モトは教えられます。マドゥンは、ダッチ・シュルツの元にスパイとして送り込んでいたボー・ワインバーグという男が行方不明となっており、この男の捜索も依頼します。
 ヴァージニアンは、南北戦争で南軍に属していた兵士で、50年ほど前に死んでいました。それをアドリアン・マルカトーという魔術師が蘇らせました。ヴァージニアンは、物凄い銃の腕前を持っていました。
 モト及びヴァージニアンは、ダッチ・シュルツの居所を突き止める協力をするというマルカトーに会いに行きます。マルカトーは、ピルグリム州立病院にダッチ・シュルツがしばしば通っている事を話します。病院には、ダッチ・シュルツの大伯父が入院しているとされています。大伯父はJ・Cという名前のようです。モトは、金を積んでマルカトーに大伯父の病室までの道案内を引き受けさせます。
 モト、ヴァージニアン及びマルカトーの3人は、ピルグリム州立病院に入り込み、医者と患者に変装して厳重に警備されたJ・Cの特別病室までやってきます。暗い病室内には、1人の男が2匹の大型犬を従えて、3人を迎えます。男は自らをジョーゼフ・カーウィンと名乗ります。モトは、マルカトーに教えられて、カーウィンの魔法名であるアルモンシン・メトラトンを叫びます。2匹の大型犬がモト達に襲いかかり、モトは大型犬が元人間である事を知ります。大型犬は、探していたボー・ワインバーグとダッチ・シュルツでした。モト及びヴァージニアンは元人間の2人を倒します。そしてマルカトーが呪文を唱え、カーウィンは灰になります。
 その後、モト達は偽者のダッチ・シュルツの元へ赴き、これを倒します。このダッチ・シュルツの正体は、スペクルム・フォニーでした。
 目的を達成し、ヴァージニアンは送還されますが、その前にモトは、自分が大日本帝国陸軍情報部員の神門帯刀(ごとうたてわき)だとヴァージニアンに正体を明かします。

 以上が「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」の物語です。神門帯刀は、「邪神帝国」に登場した人物で、この物語は前日譚に相当するようです。
 ただし、主人公の神門帯刀(モト)はほとんど活躍しません。マルカトー及びヴァージニアンの2人で事件解決できたでしょう。そもそも、何故にルチアーノがモトに今回の仕事を行わせようと考えたのかがわかりません。そこに必然性はなく、単に神門帯刀を出したいという作者の都合しかないように思えました。
 そして何よりも、「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」は、カーウィンやチャールズが死者を蘇らせる秘術を使う事が大きなポイントだと思うのですが、「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」では仲間のマルカトーが容易くヴァージニアンを蘇らせて味方に付けており、蘇りの秘術の扱いが軽くなってしまっています。「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」の直接の続編の体裁を取りながら、「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」を否定する内容に感じられました。

<青の血脈~肖像画奇譚> 立原透耶
(序)満州からの娘
 戦争が終わり、満州から北海道へやってきた徐登(シュードン)は、アイヌの男性と結婚し、1人の子供を産みます。その後、アパートの火事で徐登及びその夫は死亡し、赤ん坊は近所の貧しい夫婦に引き取られます。赤ん坊は大人になって結婚し、1人の女の子を産みますが、両親は交通事故で死亡し、残された女の子はまた元の貧しい夫婦に預けられる事になります。
(1)小樽での再会
 成長した女の子は、画家を目指して中国に留学し、夢破れて帰国した後は、北海道で専門学校や大学で絵の講師をして生活していました。彼女は、帰国して20年が経過し、アラフォーの年代に達しています。彼女は、老人と若者の2人の男から逃げ続ける夢を、幼い頃から繰り返し見ていました。ある日、彼女の前に1人の男が現れます。その男は、彼女が中国の留学先で出会った初恋の相手で、日本への帰国を決意させた原因でもありました。しかし男は、20年前と全く同じ姿でした。
(2)天津の「鬼趣図」
 20年前。中国に留学した彼女は、道に迷って一軒の画材店に入ります。画材店には美しい青年がおり、青年は彼女に鬼が描かれた絵を見せます。絵には鬼と共に、小さな女の子が描かれていました。
(3)揚州の浄眼
 清王朝の時代。揚州に幼い姉弟がいました。姉弟は他人には見えないものを見る能力があり、羅(ルオ)家の浄眼と呼ばれていました。姉は、自分に色々な知識を教えてくれる李八百(リー・パーパイ)という老人と、瓜売りの青年とを弟に紹介します。2年後、姉は突然に姿を消します。
 弟は成長して画家になりました。姉を探し続けている彼は、鬼を描いた「鬼趣図」という作品の中に、姉の姿を描きました。彼が還暦間近になった頃、彼は孫を連れて街を歩いていました。彼は、街角で李八百及び瓜売りの青年に再会します。2人は全く年老いていませんでした。李八百は、彼の姉が2人の子供を産み、1人は中国から遠い国へ送られ、1人はここにいるといいます。彼は、李八百が姉を攫って子供を産ませた事、姉の子供の1人が瓜売りの青年であることを悟ります。そして李八百は、彼の孫を攫っていきます。
(4)Dの肖像
 1800年代のロンドン。38歳になったDは、18年前と同じ姿でした。18年前にDはある画家に肖像画を描いてもらいました。その後、画家は失踪しています。
 Dは、別荘の地下で煙と話しをしています。煙は、画家の意志を持っているようです。話し終えると煙は灰となり、Dは灰を壺に入れます。地下室にはDの肖像画があり、肖像画の中のDは年老いていました。Dは、肖像画及び壺を持って新大陸へ向かいます。
 新大陸でDは、金を積んで子だくさんの家庭の息子に紛れ込み、名前をアンブローズに改めます。アンブローズはモリーという女性と結婚し、産まれた長男のデイと2人でこもる事が多くなります。しかし、デイは16歳のときに死亡してしまいます。モリーが見つけたデイの手記には、彼女には理解不能な内容が綴られていました。手記によれば、デイはルオという女性に出会い、ルオはデイに逃げろと言いました。デイのアパートの窓には白い顔が覗いています。デイは父に20歳になったら全ての財産を譲ると言われます。デイはロンドンの別荘の地下から壺を一つ盗んでルオに渡し、ルオは壺におじさんの魂が入っていると言います。しばらくしてルオは、マイケル・リーという名前のおじさんをデイに紹介
します。窓の外の白い顔は増え、20歳になることを恐れたデイは、鏡に映る自分を拳銃で撃つ事を決意します。手記はここで終わっており、デイは死亡しました。
 71歳になったアンブローズは、肖像画を持って姿を消します。あとには灰と手記が入った小瓶だけが残されました。その後、小瓶がどこにいったのかは不明です。
(5)走無常
 明代の中国。新しい任地にやってきた下っ端役人の李(リー)は、あの世のものを見る能力を持っていました。李の元に村の老人がやってきて、王万里(ワン・ワンリー)という占い師を倒して欲しいと言います。王万里は、村人の似顔絵を描いて魂を奪い取っています。
 李は、この地の土地神の元を訪れますが、土地神は既に王万里に魂を奪われていました。土地神のうた場所には一人の少女がいました。少女は羅(ルオ)と名乗り、さらわれてきたと話し、谷へ向かうよう李に告げて姿を消します。李は、谷へ向かい、王万里の元にたどり着きますが、この世ならざる者達に身体を食べられて敗北します。王万里は、李の魂を肖像画に入れ、ルオと共に李の家に送ります。ルオは2人の子供を産み、1人は李の家を継ぎ、もう1人は死産したとされています。
(6)香巴拉(シャンバラ)の娘
 はるか昔。理想郷と呼ばれるシャンバラに1人の娘がやってきます。この娘はルオと名乗り、この村で暮らし始め、村の青年と結婚します。結婚して10日後、ルオの夫の父が亡くなり、葬儀の後に大地が揺れて湖から怪物が現れます。怪物は村人達を吸収していき、ルオは夫に逃げるよう言いますが、夫は逃げようとはしませんでした。ルオは、1人で村から逃げ、敵と戦うための力を得る事を決意します。
(7)天津
 留学先の天津の画材店で青年に鬼趣図を見せられた彼女は、絵にまつわるが様々な出来事を夢に見ました。青年は彼女に肖像画を学ぶよう勧めます。彼女は、青年に恋をし、肖像画を勉強します。月に一度、彼女は青年に会いに行き口付けされます。ある時、彼女は友人の丁(ディン)の肖像画を描き、その後しばらくして丁が自殺します。それからも彼女は絵を書き続け、青年への想いが強まり、彼の肖像画を書くことを思い付きます。彼女は、肖像画を完成させますが、青年に会うことはなく、日本へ帰国します。
(8)禁術の徐登
 五世紀頃の中国の史書「後漢書」に徐登(シュードン)という人物の記載がありました。徐登は、描いたものを操る「禁術」を得意としていました。徐登は、趙炳(チャオ・ピン)という相棒と旅をしています。徐登が死んだ後に趙は病に倒れ、看病してくれた人に徐登の事を話しました。趙は徐登に命を救われて出会いました。徐登は李おじさんを助けたいと話していました。しばらくして徐登は、デイという男に李おじさんの魂が入った壺を持ってきてもらったと言い、李おじさんは異国の地で生まれ変わったと言います。趙は、老いる事なく長生きでしたが、出会ったときに徐登が描いた自分の肖像画が老いている事を知り、肖像画を飲み込んでから自分も老いるようになりました。趙は、徐登の旧姓が羅(
ルオ)だったと話します。
(9)札幌の作家
 売れない作家の中島は、札幌の大学で中国語を教えて生活していました。中島は、李という名の男性に中国語を習っていました。
 ある時、中島は北海道の怪談を取材する仕事を受けます。しかし中島は怪談スポットを全く知らず、大学で非常勤講師をしている同僚女性から札幌の洋館に飾られた絵が別世界への入口になっているという噂を聞きます。取材のために洋館へ忍び込んだ中島は、水墨画を発見します。水墨画にはこの洋館が描かれており、更に洋館の窓に描かれた人物は中島でした。驚く中島に何かが襲いかかり、足に絡みついたゼリー状の何かが中島を暖炉の中に引きずり込もうとします。中島は、李の声を聞いたような気がした後、意識を失います。
 中島が目を覚ますと、霊園のベンチで寝ていました。洋館があったはずの場所は更地で、その後に李に会うことはありませんでした。
(10)祝津の浜
 小樽で20年前と変わらぬ姿で彼女の前に現れた青年は、彼女を祝津へ連れて行きます。青年は、彼女が青年を描いた事で封じられたと話します。青年の話を聞いた彼女は、青年が自分の身体を奪おうと画策していた事を悟ります。また彼女は、自分がルオである事、子孫の身体に魂を乗り移らせて生き長らえてきた事を思い出します。ルオは、青年を封じ込め、これからも子孫の身体を移り続けて生き続け、いつか時間を遡る術を見つけて夫を助けに行こうと決心します。しかしルオは、自分の邪悪な行いの前にいつか李おじさんが敵として立ちはだかることを予感します。

 以上が「青の血脈」の物語です。短い複数の物語が連なって一つの物語を構成しています。各話のページ数がそれほど多くないため、コロコロと物語が変化してしまい、全体像が掴みにくい物語でした。読み終えて、何となく内容はわかるのですが、各話の繋がりが曖昧で、何となくしか理解できません。このあらすじを書くためにじっくりと読み直してみましたが、それでも全体像を理解できたとは思えませんでした。細かい部分は読者の想像に任せているのかもしれませんが、何となく説明不足な印象の物語でした。

<妖術の螺旋> くしまちみなと
 オカルト雑誌のライターをしている後藤恵美は、千葉県夜刀浦(やとうら)市で起きた猟奇殺人事件を調べており、事件関係者の神野鏡子に話を聞きます。
 鏡子は、オカルト好きな祖父の順一の書斎で、順一の祖父の弥三郎の手記を発見します。弥三郎は錬金術を研究していた人物で、手記には錬金術の実験記録が綴られていました。鏡子は、手記に記載された方法で鉛から金を作り出す事に成功します。鏡子は、生成する金の質及び量を向上させようと更に手記を調べます。弥三郎も同じ事を考えており、「回教琴」という書物を手に入れ、実験場所や夜刀浦に移した事で錬金術の精度が向上した事がわかります。夜刀浦には今でも弥三郎が住んでいた住居が放置されたままになっていることを知った鏡子は、順一に住居の鍵を貰い、夜刀浦を目指します。
 夜刀浦にやってきた鏡子は、町の中に、横長の顔立ちで聞き取りづらい声で喋る人が混ざっているのに気付きます。弥三郎の家は、何十年も放置されていたにも関わらず、綺麗な状態を保っていました。鏡子は、家の中に入り、「回教琴」を発見します。更に鏡子は、弥三郎の手記に記されていた「錬金術の助力となるもの」を探し、地下室で弥三郎が製造したホムンクルスを発見します。ホムンクルスは生きており、鏡子はガラス容器内に収容されたホムンクルスを外に出します。ホムンクルスは鏡子に髪の毛を要求し、鏡子が渡した髪の毛をホムンクルスが吸収すると、鏡子とホムンクルスとは意思疎通が可能になります。ホムンクルスはアセナスと名乗ります。
 その後、鏡子はアセナスの協力を得て、錬金術で生成する金の質及び量を向上させることに成功します。更にアセナスは、弥三郎が不老不死の薬の開発を目指していたと話し、鏡子も不老不死の薬を開発しようと考えます。一方、アセナスの姿は徐々に鏡子の姿に似てきます。アセナスの姿を見る鏡子は、徐々に不安になってきます。
 鏡子は、夜刀浦で連続猟奇殺人事件が発生していることを知ります。事件は、鏡子がアセナスを外に出した日から起こっていました。恐ろしくなった鏡子は家を出ますが、日の光に当たると火傷をしてしまいます。アセナスが鏡子の姿を奪って入れ替わろとした事によるものでした。アセナスは、自分の企みをあっさりと鏡子に話し、弥三郎の時も入れ替わろうとして失敗し、封じられた事を白状します。アセナスは、夜刀浦に住む横長の顔の人々、即ち旧い神の下僕達を狩っていました。アセナスは鏡子を家に地下室に閉じ込め、鏡子はメールで祖父の順一に助けを求めます。
 次の日、この家を何者かが訪ねてきます。やってきたのは、順一が雇った十一夜(とおや)という名前の魔術師でした。十一夜は、アセナスを封印して鏡子を救出します。しかし鏡子は、錬金術を自分の生命を犠牲にして行っていた影響によって、あと五年の命と十一夜に宣告されます。
 恵美に話し終えた鏡子は、「回教琴」が今でも夜刀浦の弥三郎の家に保管されていると話し、弥三郎の家の鍵を恵美に渡します。恵美は、自分は大丈夫と信じて、夜刀浦へと向かいます。

 以上が「妖術の螺旋」の物語です。
 オーソドックスで分かり易い物語でした。「チャールズ・ウォードの系譜」に収録された3作品の中では一番面白かったです。少し内容は異なりますが、祖先の遺産で怪しげな術に手を出したが為に不幸な結末を迎えるという点では「チャールズ・ウォードの奇怪の事件」と共通しており、チャールズ・ウォードも鏡子のような気持ちだったのかなと想像できました。
 ただ、物語のラストで魔術師の十一夜が登場して事件を解決してしまうのが、あまりにも唐突過ぎるように思えました。詳しい説明が全くありませんでしたが、十一夜って何者?この作者の別作品に登場するキャラクターなのでしょうか。この点だけが、この物語の不満点でした。こんな意味不明なキャラクターを登場させなくても、例えば祖父の順一が助けにきて、2人で協力してアセナスを倒すという展開でよかったのではないかと思います。
 本作の作者のくしまちみなとさんは、前巻の「ダンウィッチの末裔」でゲームブック作品「ウィップアーウィルの啼き声」を制作した方でもあります。今回もゲームブックかと少し期待してしまいました。何となく、残念な気もします。