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中山七里 「連続殺人鬼カエル男ふたたび」

 中山七里さんの「連続殺人鬼カエル男ふたたび」は、2018年5月に単行本が出版され、2019年4月に文庫化されたミステリー小説作品です。2011年に出版されている「連続殺人鬼カエル男」の続編です。作品内の時系列では、前作の事件から数ヶ月後の物語となっています。
 前作「連続殺人鬼カエル男」は、タイトルのインパクトだけで本を購入し、読んでみて中々の当たり作品だった記憶があります。ただ、物語は完全に完結しており、続編を作る余地があるようには思えない結末でした。物語内では数ヶ月後ですが、現実世界では約7年の歳月が経過した後に続編が出版されていることから考えても、作者も続編を書くつもりはなかったのではないかと思います。ところが続編が出版された、という事は恐らく作者に何かヒラメキのようなものがあったのでしょう。そのヒラメキに期待大の作品です。
 それでは以下、中山七里さんの「連続殺人鬼カエル男ふたたび」のあらすじを記載します。前作「連続殺人鬼カエル男」の物語が前提のため、どうしてもあらすじで前作の犯人等に触れる可能性があります。2作品分のネタバレ注意です。

 カエル男の事件から十ヵ月後。病院を退院した当真勝男は、千葉県松戸市白河町へやってきます。勝男はここにある一軒の家のチャイムを鳴らします。家からは現れた御前崎宗孝は驚いた様子で勝男を出迎えます。
 11月16日。御前崎の家で爆発が起こります。家からは爆発で粉々になった肉片等が見つかり、DNA鑑定の結果、肉片は御前崎宗孝のものと判断されます。御前崎はカエル男を操っていた人物で、カエル男事件を担当していた埼玉県警の古手川和也は、その上司の渡瀬と共に事件現場を訪れます。地元の松戸署の帯刀警部は、現場で発見された紙片を古手川及び渡瀬に見せます。紙片には、かえるのなかにばくちくをいれてひをつけた、というような文章が記されており、以前のカエル男事件のときのものと酷似していました。以前に「あ」~「え」の名前の人が殺されており、今回の犠牲者が「お」である事から、五十音順に犠牲者を選ぶというカエル男の法則も満たしています。御前崎の家から当真勝男の指紋が発見され、カエル男事件の関係者である勝男が御前崎殺しの容疑者として追われる事になります。千葉県警から協力要請を受けて、古手川及び渡瀬も捜査に加わります。
 古手川及び渡瀬は、以前にカエル男に殺害された被害者の関係者に会いに行きます。第1被害者の恋人だった桂木禎一は、第2被害者の孫娘の指宿梢と恋人同士になっていました。第4被害者の衛藤和義弁護士の妻の佳恵は、犯人として捕まったカエル男が精神鑑定で責任能力なしと判断され刑法第39条で裁かれない事に憤っていました。しかし殺された衛藤は刑法第39条を悪用していた弁護士であり、これがカエル男の事件が発生した原因でした。過去に、小比類麗華及び娘の美咲が古沢冬樹という男に殺された事件で衛藤は犯人の古沢の弁護を担当し、刑法第39条を悪用して古沢を無罪にしました。殺された麗華は、御前崎の娘でした。古手川及び渡瀬は、殺された麗華の夫の崇に会いに行きます。これらの人々は、勝男の写真を見せても知らないと答えます。ただし崇は、義父である御前崎の家の現場検証に立ち会っており、御前崎が様々な情報を書き込んでいたノートが見あたらなかったと話します。
 事件から数日経過しても警察は勝男の所在を掴めずにいました。古手川及び渡瀬は、八王子医療刑務所に収容されている有働さゆりに会いに行きます。そこには先客としてさゆりの弁護を担当している御子柴礼司弁護士がいました。さゆりはピアノを弾く事で精神が安定してきたようですが、事件の記憶が欠落しているようでした。勝男の行方に心当たりもなさそうです。さゆりはベートーベンの「情熱」の第一楽章をピアノで演奏し、古手川及び御子柴は演奏に聞き入ります。
 11月20日。熊谷市の「屋島プリント」の工事で、濃硫酸のプールに佐藤尚久という男性が転落して死んでいるのが発見されます。その後、工事入口ドア付近で発見された紙片には、かえるをとかす、というような文章が記されていました。更に紙片には、こんどはさからはじめよう、とも記されています。筆跡鑑定の結果、以前のカエル男のものと一致し、カエル男の五十音連続殺人はあ行からさ行へ移ったようです。古手川及び渡瀬は、殺された佐藤の自宅を調べ、警察署へやってきた佐藤の両親に話を聞きますが、めぼしい情報は得られません。古手川は勝男が昔勤めていた歯科医を訪れ、勝男が住んでいたアパートを訪れますが、ここでも情報は得られません。
 次の日。カエル男の復活が新聞で報道されてしまいます。尾上善二という記者が書いたスクープ記事でした。これをきっかけに、カエル男の事件がテレビでも報道され、カエル男の恐怖が広まっていきます。古手川及び渡瀬は、勝男の弁護を担当した弁護士の清水幸也に会いに行きます。しかし清水は勝男の弁護に熱心ではなく、最後に勝男に会ったのは3ヶ月以上前でした。
 荒川総合運動公園を根城とするホームレスの兵さんは、最近その辺りに住み着いた男に声をかけます。男は無口で、ジャンパーのフードを深く被っており、人相も年齢もよく分かりませんでした。
 11月29日。JR神田駅で線路に飛び込んだ志保美純という女性が列車に轢かれて死亡します。当初は事故か自殺と考えられていましたが、駅の掲示板の足元近くで貼り紙が発見されます。貼り紙には、かえるをせんろにおとしてみた、というような文章が記されており、カエル男の事件として埼玉県警、千葉県警及び警視庁による合同捜査本部が立ち上げられる事になります。渡瀬は、合同捜査本部の指揮をとる鶴崎管理官や、警視庁の霧島という刑事と面識があるようで、鶴崎管理官に良い印象は持っていないようです。駅の貼り紙の文字は、これまでのカエル男のものと一致する事が確認されましたが、駅は混雑しており、監視カメラの画像からカエル男を特定する事は出来ませんでした。渡瀬は、カエル男が被害者の名前をどのようにして知ったのかを探る事が肝心だと霧島に話します。古手川及び渡瀬は、志保美純の両親や勤め先から話を聞きますが、勝男との繋がりは見いだせませんでした。
 松戸市常盤平のある住宅の前にマスコミが集まっていました。殺人を犯しながら責任能力無しとして無罪になり医療刑務所に収監されていた古沢冬樹の実家でした。古沢冬樹が近々退院するという情報がどこかから漏れたようでした。新聞記者の尾上善二は、これらマスコミ達からは少し離れた場所から古沢邸を見張っていました。しばらくすると警察が現れてマスコミ達に立ち退くよう命令し、マスコミ達は退散していきます。その後も尾上が古沢邸を見張り続けていると、ホームレスが現れ、古沢邸の郵便受けを物色して去って行きます。尾上はこのホームレスを尾行しますが、ホームレスが細い裏道へ入った所で見失い、直後に後頭部を殴られて意識を失います。
 古手川及び渡瀬は、神田署を出た所で報道陣に囲まれ、朝倉という女性記者に質問を受けます。渡瀬は質問には答えず、逆に朝倉から記者の尾上が襲われたという情報を得ます。古手川及び渡瀬は、松戸署へ向かい、尾上が襲われたのが古沢邸の近くであること、怪しいホームレスが目撃されている事を帯刀から聞きます。尾上は意識不明の重体で病院に収容されていました。
 医療刑務所に収容されている有働さゆりの病室に、担当看護師の百合川がやってきます。百合川は日課の注射をさゆりに打った後、さゆりとピアノの話しをします。さゆりは、演奏のコツを教える方法があると話し、百合川にそれを実践します。さゆりは、目を閉じて音楽と自分が一体化するイメージを思い浮かべるよう百合川に言い、百合川はさゆりの教えに従います。百合川が目を閉じると、さゆりは後ろから百合川の首を締め上げ、百合川は意識を失って倒れます。さゆりは百合川のナース服を奪い、病室を出て更衣室で百合川の衣服に着替え医療刑務所を正門から出て行きます。さゆり脱走の連絡を受けて古手川及び渡瀬は、医療刑務所を訪れますが、刑務所が不祥事を隠そうとしたために初動捜査が遅れ、さゆりの行方は全く分かりませんでした。
 12月3日。精神科医の末松健三は、診療を終えて病院を出ます。しばらく歩くと路上にホームレスがおり、末松の目の前で倒れます。ホームレスは末松の脚を掴み、背後に回り込んで末松を殴り倒します。末松は気が付くと縛られてリヤカーに乗せられていました。ホームレスはリヤカーを引いて製材所へ入り、破砕機のスイッチを入れると、末松を破砕機へ放り込みます。末松は破砕機噛み砕かれて死亡します。
 通報を受けて古手川及び渡瀬は製材所へやってきます。末松を殺した破砕機の近くにはいつもと同様の文章が書かれた紙片が発見され、筆跡からこれまでと同じカエル男のものと判断されます。殺された末松は、松戸の母子殺害事件の犯人である古沢冬樹を精神鑑定した医師であり、衛藤弁護士と組んで古沢を無罪にした人物でした。遺留品のリヤカーの持ち主は荒川総合運動公園に住むホームレスの兵さんと特定され、兵さんはリヤカーが盗まれた日から1人のホームレスが姿を消したと話します。
 カエル男の事件は次第に大きく報道されるようになり、カエル男の連続殺人をいまだに許していることや、更には有働さゆりの脱走を許した事も重なり、警察への批判は高まって行きます。捜査本部の鶴崎管理官も焦り、捜査会議は険悪な雰囲気となります。古手川は、鶴崎管理官を批判する発言をし、捜査から外される事になります。渡瀬は、自分でケジメをつけろと古手川に言います。
 古手川は、1人で御子柴弁護士の元を訪ねます。御子柴はさゆりの行方は知りませんが、さゆりが脱走した動機を考えろと古手川に助言します。古手川は、さゆりが勝男と合流しようとしていると考え、勝男の次の標的は、御前崎の標的でもあった古沢だと考えます。
 岡崎医療刑務所に収容されている古沢冬樹は、仮出所が近付いていました。古沢は、衛藤弁護士の戦略に従って精神疾患のふりをして無罪を得ましたが、その後は医療刑務所に入れられました。古沢は、精神疾患のふりを続け、精神疾患が寛解したように装って仮出所を得る事に成功しました。仮出所まであと数日でした。
 古手川は、単独行動で古沢の両親が住む松戸市の自宅を訪ねます。古沢の母は、古沢の出所日時を知りませんでした。古沢の出所日時は12月23日午前10時と既に決定されており、医療刑務所から両親に通知が届いているはずです。古手川は、何者かが古沢の出所の通知を郵便受けから抜き取ったのだと推測し、尾上が襲われたのはこれを見られたためだと考えます。
 12月23日。岡崎医療刑務所を出所した古沢が歩き始めると、橋の袂にホームレスがうずくまっています。古沢がその横を通り過ぎようとしたとき、ホームレスが古沢に襲いかかります。しかし、刑務所から古沢を尾行していた古手川が古沢を助けます。ホームレスは手に持っていた注射器を古手川に刺し、メスを取り出します。注射器には麻酔薬が入っていたようで、古手川は徐々に身体が痺れ、ホームレスにメスで刺されます。絶体絶命のピンチに古手川を助けたのは渡瀬でした。ホームレスは渡瀬が連れてきた複数の捜査官によって取り押さえられます。渡瀬も刑務所から古沢及び古手川を尾行していました。ホームレスが被っていたフードを取ると、現れたのは勝男ではなく、御前崎の顔でした。
 御前崎は、自分の患者だった老人を身替わりにするため自宅で生活させ、この老人の毛髪などを研究室などに残して爆殺しました。また御前崎を訪ねてきた勝男を殺し、その存在だけをカエル男の正体として利用しました。2人目及び3人目の被害者は、御前崎が殺したのではなく、事故の報道で名前を知ってカエル男のメッセージを残しただけでした。末松を殺した御前崎の最終目標は古沢でしたが、古沢は無事でした。御前崎は、さゆりには衛藤弁護士以降の殺人についても刷り込んでおいたと渡瀬に話します。
 クリスマスイブ。自由の身になった古沢は、バーで1人飲んでいました。古沢は、バーで出会った女性とラブホテルに入ります。服を脱ぎ始めた女性にあっち向いててと言われた古沢は女性に背を向けます。古沢が振り返ったとき、さゆりはナイフを振りかざします。

 以上が、中山七里さんの「連続殺人鬼カエル男ふたたび」の物語です。
 前作の「連続殺人鬼カエル男」は中山七里さんの3番目の作品、今作は35番目の作品だそうです。流石に30作品以上を書き上げているだけあってか、「連続殺人鬼カエル男」はやや読み難さがありましたが、「連続殺人鬼カエル男ふたたび」は文章が格段に読みやすくなっているように思えました。
 ただし、読み終えた後のインパクトの強さは「連続殺人鬼カエル男」の方が上だったかなと思います。前作で物語が一度完結しているだけあって、「連続殺人鬼カエル男ふたたび」の物語はすこし無理があるように感じられました。
 私が御前崎の立場だったら、まず古沢を殺すことを考えると思います。であれば、カエル男の事件なんか起こさずに、まず刑務所から出てきた古沢を殺すのが一番確実です。カエル男の事件を起こして警察の監視の目を厳しくする必要は全くない。弁護士だの精神科医だのはその後についでに殺せればいい訳で、あえて先に殺して古沢を殺す可能性を下げる必要はありません。
 また、第2、第3の事件についても、事故の報道で名前を知ってカエル男のメッセージを置きに行ったという事ですが、リスクがかなり高いのでは?濃硫酸の事故の後は工場周辺に警察官などもそれなりにいたでしょう。列車事故も混雑していて監視カメラに事故の詳細が映っていませんでしたが、もし明らかに事故で転落する様子が監視カメラに映っていたらトリックがバレバレじゃないですか。事故の報道で監視カメラの詳細が伝えられるとは思えません。しかも人が多い駅にメッセージを残しに行く危険、メッセージを残している姿を監視カメラに捉えられる危険は全く考えていないのでしょうか。
 また、五十音順殺人が「さ行」になり、「さ」「し」と犠牲者が出た後、次の「す」の犠牲者が母子殺害事件の関係者の末松になる可能性を誰も考えていないというのも不自然です。誰も気が付かなくても、少なくとも渡瀬なら気付いてもよさそう、というか気付いて当然では。末松に刑事2人くらいの監視を付けておけば、もっと早くに事件が解決できたでしょうに。
 考えれば考えるほど、不満が湧き出すので、この辺で止めておきます。これらは、五十音順殺人にこだわるから生じる矛盾なのでしょうが、五十音順殺人でないならカエル男でなくてもよい訳で、痛し痒しですね。カエル男の正体がもう少し驚くような人であれば、不満も一気に吹っ飛ぶところだったのですが、御前崎では…。なーんだ、またお前かよ、って感じです。カエル男が勝男ではない事は薄々感じられるわけですから、もう少し意外な人物を持ってきて欲しかったところです。でも、誰をと言われると困りますが。無責任に言うのであれば、カエル男の正体が古手川とか、死んだはずのさゆりの息子とかだったら驚くかな。
 話は変わって、この「連続殺人鬼カエル男ふたたび」の文庫本の巻末には、中山七里さんのこれまでの作品のあらすじと登場人物の相関図とをまとめた資料がついています。1ページに1作品を紹介していて、全部で40作品です。結構なページ数で、手元に置いておいて損はない貴重な資料だと思います。この資料で「連続殺人鬼カエル男ふたたび」が35作目という事を知りました。また、古手川及び渡瀬が登場する作品が他にもいくつか存在しておりシリーズ化されている事、今作に登場した弁護士の御子柴は他シリーズからのゲスト出演である事などもこの資料から知ることができました。とりあえず、古手川及び渡瀬の別の作品を読んでみたいと考えています。

 

喜多喜久 「化学探偵Mr.キュリー」 第1巻

 喜多喜久さんの「化学探偵Mr.キュリー」は、2013年7月に中公文庫から発売されたミステリー作品です。
 作者の喜多喜久さんは、2010年に「ラブ・ケミストリー」という作品で「このミステリーがすごい!」大賞の優秀賞を受賞してデビューされた作家さんです。
 「化学探偵Mr.キュリー」は、喜多喜久さんの5番目か6番目くらいの作品のようです。現在は第8巻まで出ており、人気のシリーズなのかもしれません。
 この作品を知ったのは偶然です。喜多喜久さんも、化学探偵Mr.キュリーも全く知りませんでした。我が子が「科学探偵」という子供向けの小説を読んでおり、Amazonでこの本を検索したときに、「化学探偵」も検索に引っかかりました。その後、Amazonのオススメにこの本が何度も登場するので、ふと読んでみようかと。
 「化学探偵Mr.キュリー」第1巻は、長編小説ではなく、5つの短編小説が収録された短編集です。以下、「化学探偵Mr.キュリー」第1巻に収録された5つの短編作品のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

<第一話 化学探偵と埋蔵金の暗号>
 四宮大学工学部修士二年生の仁川慎司は、真夜中の大学で穴を掘る人影に気付き、警備員と現場へ向かいます。2人が現場に着くと、農学部の畑に穴が掘られ、近くには埋蔵金の在り方を示す暗号を記したメモ書きが落ちていました。
 四宮大学の庶務課に就職した七瀬舞衣は、上司の猫柳課長から、大学構内で頻発している無断で穴を掘る事件の対策を任されます。猫柳は、今年度の「モラル向上委員」である理学部科学科の沖野春彦准教授、通称ミスター・キュリーと事件解決にあたるよう命じます。
 舞衣が沖野の元を訪れて事情を説明し、沖野はいやいや協力してくれます。舞衣及び沖野は、畑を荒らされる被害にあった農学部応用生命化学科の天然物合成研究室を訪ねます。研究室の浦賀教授は、注目されている神経再生活性のある天然物を産生するカラナシを郷田という学生が作成したことを話します。穴が掘られたのは、この郷田がカラナシを栽培している畑でした。郷田は穴を掘られて困っていましたが、この事で研究に大きな支障が出る事はありませんでした。郷田は、掘られた穴の中から埋蔵金の在処を示すメモが発見されたことを教えてくれます。
 沖野は研究に戻り、舞衣は穴掘り現場に遭遇した仁川に事情を聞きに行きます。仁川は大学のオカルトサークルに所属しており、仲間と共に埋蔵金を探していましたが、発見には至っていませんでした。穴の中でメモには「埋蔵金の在処、正門イコール109、ホームベースイコール22」と記載されていました。
 翌日。舞衣は沖野を訪ねます。沖野は、以前に畑から採集された土壌サンプルの分析を行っていました。舞衣が暗号の事を話すと、沖野は暗号をあっさりと解いてしまいます。暗号は、元素周期表を利用したものでした。埋蔵金の隠し場所には、塩化金の空き瓶が隠されていました。この暗号は、単なる宝探しごっこだったとの結論に至ります。
 一件落着と思われましたが、2日後に沖野は新たな事実を突き止めます。土壌分析の結果、カラナシが産生するとされていた天然物が土壌から大量に検出されました。郷田は、畑に天然物を撒いてその上にカラナシを栽培し、研究成果を捏造していました。沖野及び舞衣は、郷田に捏造を指摘します。郷田は、夜中にこっそりと畑に天然物を撒いている現場を見られたため、偽の暗号で目を逸らそうとした事を白状します。郷田は、自分の非を認めます。

<第二話 化学探偵と奇跡の治療法>
 七瀬仁美は乳癌と診断され、医者からホメオパシーという治療法を勧められます。仁美の夫である七瀬恵一は、七瀬舞衣の叔父でした。
 舞衣が初任給を貰った日、恵一が舞衣にお金を貸して欲しいと頼みに来ます。恵一は、仁美の治療費に400万円を必要としていました。詳しい話を聞いた舞衣は、恵一及び仁美が騙されていることを確信しますが、恵一は聞く耳を持ちません。舞衣は、沖野に2人を説得して欲しいと頼みます。
 恵一及び仁美が病院へ向かった事を知った舞衣及び沖野は、2人を追って病院へ向かいます。病院に入った沖野は、古い知人に出会います。沖野の高校時代の同級生だった岩城は、今ではハイジア製薬というベンチャー企業で癌の治療薬を開発していました。沖野及び岩城が話していると、恵一及び仁美が医院長の高河原と共に現れます。沖野は高河原とホメオパシーについて話しますが、意見は平行線を辿るばかりでした。高河原は岩城を連れて姿を消します。
 近くの喫茶店に場所を移して、舞衣は恵一及び仁美の説得を試みますが、説得できません。沖野は、より効果の高いホメオパシーの薬を無料で提供してくれる専門家を紹介すると言い、高河原が処方した薬を飲まないよう説得します。仁美は、沖野が紹介したホメオパシーの専門家、実際は大学病院の医師である立花の検査の結果、乳癌ではない事が分かります。高河原は、健康な人を癌と診断してホメオパシーの高価な薬を売りつける詐欺を行っていたようです。ただし、立花が調べたところ、大学病院で癌と診断された患者が高河原の薬で完治した例がある事がわかり、この点については謎でした。
 高河原の元を訪れた舞衣は詐欺を指摘しますが、高河原はこれを認めません。ただし高河原は、今回の誤診に対して恵一が支払った料金の返還と慰謝料を支払う事を約束します。病院を出た舞衣は、岩城に出会います。ちょうどそのとき、岩城の携帯電話に沖野から呼び出しの電話がかかり、岩城及び舞衣は沖野の研究室へ向かいます。
 沖野は、癌が完治した患者が高河原から貰った薬を分析し、その結果から岩城が新薬の臨床実験を秘密裏に行っていた事を突き止めていました。岩城は罪を認め、会社にこの事実を伝える事を約束します。 

<第三話 化学探偵と人体発火の秘密>
 四宮大学で松宮教授の講演会が行われ、その後に懇親会が開かれます。松宮教授はもうすぐ60歳ですが、30歳の妻・三奈子と3年前に結婚したばかりでした。三奈子も懇親会に参加しています。松宮教授のスピーチが始まり、松宮教授はここで引退を宣言します。スピーチが終わって松宮教授が礼をしようとしたとき、会場でガラスが割れる音が響き、その直後に松宮教授の頭が燃え上がります。松宮教授の弟子である白鳥准教授が消火器で火を消し、大事には至りませんでした。
 この懇親会の準備は、七瀬舞衣が所属する庶務課が行っており、舞衣はテーブルに置かれていたキャンドルに火を灯したのは舞衣でした。理学部の学部長は発火の原因がキャンドルだと考えており、舞衣は責任を取らされる可能性があることを上司の猫柳から暗に告げられます。そこへ、オカルトサークルの藤丸という女性が舞衣を訪ねて庶務課を訪れます。藤丸は、懇親会の様子をビデオ撮影していました。藤丸は、発火の瞬間は松宮教授とキャンドルとは離れた場所にあり、これは超状現象だと主張します。
 舞衣は、人体発火の謎解明を沖野に頼みに行きます。沖野は、松宮教授が発毛の研究で有名であることを舞衣に教えます。松宮教授は、特定の遺伝子を持つ人に対して髪を生やす薬を開発しました。松宮教授は、自身の開発した薬で自身の髪を生やし、薬の有効性を証明したことがありました。松宮教授の頭が燃える映像を見た沖野は、舞衣に協力する事にします。現場である懇親会の会場を調べた沖野は、2つの可能性が考えられると言い、可能性が高い1つはやはりキャンドルの火が燃え移ったというものでした。
 舞衣は、白鳥准教授に話を聞きに行きます。事件が大事になっていることを知った白鳥准教授は、松宮教授にそのことを伝えて、穏便に収まるよう手を回してくれます。このおかげで、舞衣が責任を取る必要はなくなります。舞衣は、お礼を言うために松宮教授が入院している病院へお見舞いに行きます。松宮教授は、キャンドルを置いたのは自分である事を話し、舞衣に迷惑をかけた事を謝罪します。松宮教授は、頭部が燃えた事で、頭髪を失っていました。
 舞衣は、沖野に事件解決を報告しにいきます。このとき沖野は、頭髪が燃えた時に悪臭がしなかったという話を聞き、不審に思います。沖野は、松宮教授のDNA鑑定を行います。
 三日後、舞衣は、事件の真相が分かったと沖野に呼び出されます。舞衣が研究室へ行くと、沖野の他に白鳥准教授が待っていました。沖野は、人体発火事件は、松宮教授の自作自演であり、白鳥准教授が協力者だった事を指摘します。DNA鑑定の結果、松宮教授は、松宮教授が開発した薬の効果がある遺伝子を持っていないことがわかり、松宮教授はカツラを装着していたと沖野は見抜きました。松宮教授は、開発した薬の効果をアピールするためにカツラを装着して自分に髪が生えたように見せかけて、企業の協力を取り付ける事に成功しました。しかし、その後はカツラを外す事が出来なくなり、その後に出会って結婚した三奈子にも秘密にしていました。松宮教授は、これを秘密にしておく事が苦しくなり、カツラを外して生活するために今回の人体発火事件を起こしました。白鳥准教授は、沖野の推理を認めます。
 その後、舞衣の元に三奈子から謝罪の電話が入ります。三奈子は、松宮教授が人体発火事件の犯人であり、カツラを付けていた事にも気付いていましたが、気付かないフリをしていただけでした。

<第四話 化学探偵と悩める恋人たち>
 浅沼浩介と聖澤涼子は、同棲を始めます。しかし涼子は、浩介に対して一切の肉体的接触を禁じ、過度な交流は避けるよう要求します。一方、浩介は気付いていませんでしたが、浩介にはストーカーが付いていました。ストーカーの五郎丸早苗は、浩介と涼子を別れさせる事を目的に、深夜の嫌がらせの電話をかけたり、浩介が捨てたゴミ袋を持ち帰ったりしていました。
 舞衣は、メンタルヘルスケアの担当者に任命され、学生の悩み相談を受ける仕事をする事になります。相談者の第一号は、浩介でした。浩介は、同棲している涼子の様子がおかしく、何か悩みを抱えているのではないかと考えており、その原因を調査してほしいと舞衣に頼みます。涼子は、沖野の研究室の修士二年生でした。
 舞衣は、沖野に涼子の事を聞きに行きます。沖野は、涼子について特に変わった様子はないと言います。涼子は、あまり人付き合いがよい方ではなく、研究室の飲み会にも参加はしていません。沖野は、涼子が月に一度ほどの頻度で、午前中を休む事があると舞衣に話します。舞衣は、この日が怪しいと睨み、涼子を尾行する事にします。
 ある朝、浩介及び涼子のマンションの前で、涼子が出てくるのを待っていた舞衣は、先に出てきた浩介が捨てたゴミ袋を拾って持ち去る女性を目撃します。少し気になりましたが、その後にマンションから出てきた涼子を見て、舞衣は尾行を開始します。涼子が向かった先は、病院でした。涼子は、この病院に入院している小児白血病の女の子のお見舞いに来たようで、涼子が悩んでいる様子とは関係なさそうでした。
 次に舞衣は、浩介のストーカーの存在に気付きます。ストーカーは舞衣が目撃したゴミ袋を持ち去る女性であり、四宮大学の学生であることに舞衣は気付きます。舞衣は、涼子の尾行結果を沖野に報告すると共に、ストーカーを捕まえるため沖野を連れ出します。沖野は、尾行結果を聞いて、少し気になる事があるようです。舞衣及び沖野は、マンションの前で張り込み、ストーカーを発見します。そしてストーカーが現れ、舞衣達が捕まえようとするとストーカーは逃走し、マンションから出てきた涼子に衝突します。涼子は転倒して負傷し、病院へ運ばれます。ストーカーは捕まり、ストーカー問題は解決します。
 後日、舞衣は沖野に呼び出されて研究室を訪れます。研究室には沖野と涼子がいました。沖野は、怪我をした際に採取した涼子の血液分析を行っており、涼子がHIV患者である事を話します。涼子は、この事を浩介に告げるか否かで悩んでおり、告げずに別れる事を決意していました。しかし沖野は浩介もこの場に呼んでおり、部屋の中に隠れていた浩介は全てを聞いても涼子の事を全て受け止めると宣言します。

<第五話 化学探偵と冤罪の顛末>
 人気アイドルの美間坂剣也は、ボイストレーニングからの帰り道に倒れている女性を助けます。
 七瀬舞衣は、剣也の高校時代のクラスメイトでした。この事を上司の猫柳が知り、舞衣は猫柳から剣也のサインを頼まれます。舞衣が剣也に電話をすると、剣也は落ち込んでおり、脅迫されていると舞衣に話します。舞衣は、急いで剣也の自宅を訪れ、事情を聞きます。
 剣也は、助けたと思っていた女性の男に呼び出され、この女性に対する性的暴行についての慰謝料を請求されていました。もちろん、剣也はそんな覚えはありませんでしたが、男は剣也が女性を連れ去る様子を撮影した写真を証拠として持っています。女性はクロロホルムで意識を失ったと主張しており、クロロホルムは簡単には手に入らない事から舞衣は沖野の知恵を借りる事を考えます。
 その日は剣也のマンションに泊まった舞衣は、翌朝にマンションの前で沖野に出くわします。沖野はすぐ近くのアパートに住んでいるようでした。舞衣は、早速、沖野に剣也の事を相談します。沖野は、クロロホルムで意識を奪う事は難しい事を教えてくれますが、この事で脅迫相手を黙らせるのは難しいと話します。
 脅迫相手から剣也への呼び出しの電話があり、舞衣が剣也の代わりに脅迫相手と話し合いをしにいきます。脅迫相手の男は金巻敦、女性は野崎里緒菜という名前でした。話し合いは決裂しますが、舞衣は、近くに居合わせたオカルトサークルの仁川から、金巻が四宮大学の四年生であることを教えてもらいます。
 次の日、舞衣は大学の食堂で里緒菜と出会います。里緒菜も四宮大学の学生で、舞衣が大学職員である事に気付いて待ち伏せしていました。里緒菜は、舞衣に謝り、金巻の事を相談します。金巻は、以前は普通の学生でしたが、大学院入試の失敗と、母親の再婚とが重なってギャンブルにハマり、借金を作ってしまいました。里緒菜は、金巻を元に戻したいと考えており、舞衣は里緒菜に協力を約束します。
 しかし、里緒菜が金巻を説得しようとしたことが逆効果となり、金巻の剣也への脅迫が強くなってしまいます。途方に暮れる舞衣の元に、沖野がやってきます。沖野はその後の事情を聞き、ある計画を建てます。
 金巻の元に舞衣からの連絡があり、金巻は舞衣から10万円を脅し取る事に成功します。舞衣は、今後は脅迫しないことを誓う誓約書に対して、金巻にサインと拇印とを要求します。金巻は、サイン及び拇印をしますが、約束を守る気はありません。その後、金巻の元に里緒菜から大学で何者かに襲われたと連絡があり、金巻は急いで大学へ向かいます。里緒菜は無事でした。
 一週間後、大学の庶務課から呼び出しを受けて、金巻は庶務課を訪れます。そこで待っていたのは、剣也のマネージャーだと思っていた舞衣と、その上司の猫柳でした。猫柳は、庶務課に泥棒が入り、金巻の指紋が発見された事を告げます。焦った金巻は剣也の脅迫の材料が偽装である事を話し、舞衣はこの話しを録音します。そこへ沖野が現れ、借金の150万円を貸すから、大学を卒業するため卒業研究を行うよう説得します。里緒菜からの説得もあり、金巻はやり直す決心をします。
 舞衣は事件解決を剣也に報告しに行き、事件解決を祝って剣也の自宅で飲み会をする事にします。近くのコンビニへ買い出しに出た舞衣及び剣也は、同じくコンビニに買い物に来ていた沖野に出くわします。沖野を見た剣也は、沖野に一目惚れします。剣也は、ゲイでした。沖野は、剣也が舞衣の恋人だと勘違いしていました。沖野は剣也に無理矢理に飲み会へと引っ張り込まれ、舞衣は沖野が剣也との仲を焼き餅を焼いていたような気がしました。

 以上が、喜多喜久さんの「化学探偵Mr.キュリー」第1巻の各話の物語です。
 いずれも、殺人事件のような大事件が起こるわけではなく、身の回りのちょっとした事件を扱った作品でした。最近、こういうパターンのミステリーが増えてるような気がします。軽いミステリーも悪くはないのですが、やはりズッシリとした重いミステリーが読みたいかなー。
 ほんのりと恋愛要素もあり、そのうちドラマ化されるかもしれません。ただ、一話が軽すぎるので、1時間のドラマにするのは難しいかも。30分くらいがちょうどでしょうか。とすると、アニメ化の方がいいのかな?でも、どちらかと言えば、ドラマで見たい気がします。短めの深夜ドラマとかが向いてそうです。
 舞衣役は、・・・誰でもできそう。若い新人の女優さんで大丈夫でしょう。沖野役も、・・・誰でもできそう。沖野は、ガリレオの湯川先生に比べたら、そんなにインパクトある人物でもないですしね。
 さて、「化学探偵Mr.キュリー」シリーズは、現在で第8巻まで出ています。完結したのかは定かではありません。1巻に5話が収録されていると仮定すると、40話もある事になります。この設定で40話もどうやって続けるのか、少し気になります。いずれ、続きを読んでみるかもしれません。


中山七里 「連続殺人鬼カエル男」

 中山七里さんの「連続殺人鬼カエル男」は、2011年2月に宝島社文庫から発売されました。中山七里さんは、第8回このミステリーがすごい!大賞を「さよならドビュッシー」という作品で受賞してデビューされた作家さんです。「連続殺人鬼カエル男」は、「さよならドビュッシー」と共に第8回このミステリーがすごい!大賞の最終選考に残った作品だそうで、2作品が同時に最終選考に残ったのは初めての事だったそうです。
 そんな経緯は全く知らず、Amazonにお勧めされて、タイトルのインパクトだけでこの本を買ってしまいました。表紙の絵もインパクトありました。
 個人的には、このミス大賞の作品は、これまでにいくつか読んだ事がありましたが、どちらかというとハズレの作品が多く、ここ最近は手を出さないようにしていました。Amazonでポチったときには、このミス大賞の作品とは知らず、手元に届いてから少し不安になりました。この作品は当たりかハズレか、どちらでしょうか。
 それでは以下、中山七里さんの「連続殺人鬼カエル男」のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

 埼玉県飯能市にあるマンションの13階の階段昇降口で、金属製フックに吊された女性の遺体が発見されます。このマンションは、住人が少なく、遺体は3日間吊されていたようですが、誰も気付きませんでした。遺体の近くには、かえるをつかまえてつるした、というような内容の稚拙なメッセージが残されていました。
 埼玉県警の古手川及びその上司の渡瀬が捜査を開始し、被害者は荒尾礼子という名前である事が判明しますが、犯人の手掛かりは全くありませんでした。犯罪心理学者の御前崎宗孝教授に、犯人となりうる患者の情報の提供を依頼しますが、断られます。
 そして第2の事件が発生します。被害者は、指宿仙吉という老人で、廃車のトランクに詰め込まれ、スクラップ工場の機械で押し潰されて死亡していました。現場には、かえるをぺっちゃんこにする、というようなメッセージが残されていました。マスコミは犯人に「カエル男」と名付けて事件を報道します。
 警察では、過去に事件を起こして現在では釈放されている人物を調査する事になり、古手川は当真勝雄という男性の調査を担当します。勝雄は、14歳の時に少女を殺害して逮捕され、精神疾患と判断され不起訴となり、保護観察とされていました。現在、当真は歯科医院に勤務して、雑用などをこなしています。
 古手川は、勝雄の担当保護司である有働さゆりに会いに行きます。さゆりは、ピアノを使った音楽療法で勝雄を治療していました。治療の様子を見た古手川は、勝雄が犯人とは思えませんでした。また古手川は、さゆりの息子の真人と仲良くなります。
 その後、第3の事件が発生します。被害者は、真人でした。真人の遺体は、解剖されて公園に放置されていました。現場には、かえるをかいぼうしてみよう、というようなメッセージが残されていました。
 何の手掛かりも掴めない状態でしたが、渡瀬は犯人が被害者を選ぶ基準に気付きます。それは、名前のあいうえお順でした。1人目は荒尾(あらお)、2人目が指宿(いぶすき)、3人目が有働(うどう)です。4人目は「え」で始まる苗字の人物が被害者となることが予想されます。この事はマスコミも気付き、大々的に報道されます。飯能市に住む「え」で始まる苗字を持つ者は恐怖します。
 そして第4の事件が発生します。被害者は、予想通りの「え」で始まる衛藤和義という弁護士でした。被害者は、首を絞められて殺された後、火をつけられていました。現場には、かえるをもやしてみた、というようなメッセージが残されていました。今回の事件では、被害者が犯人に噛み付いており、口の中から犯人の皮膚片が発見され、手掛かりとなります。
 飯能市の市民は、パニックを起こし、犯人の可能性がある人々のリストの提出を要求して警察署を襲撃します。市民達との攻防で古手川も怪我を負います。さゆりから勝雄も市民達に狙われていると連絡を受けた古手川は、勝雄が勤める歯科医院へ急行します。

 この辺りであらすじは終わりにしておきます。この後、古手川が犯人に気付き、犯人との攻防が描かれます。更には、犯人が二転三転する展開で目が離せません。犯人?→裏で糸を引いていた人物→更に裏で糸を引いていた人物、というような展開です。そして最後のオチがあり、飽きさせません。
 ただ、そんなに簡単に人を操れるか?と、少し疑問に思うというか、納得がいかないというか。また、物語が二転三転したあげく、最終的な犯人は登場時にものすごく怪しい人物で、驚きは半減でした。
 途中で、警察対市民の殴り合いが長々と描かれ、更に古手川対犯人の殺し合いが長々と描かれます。まあ、古手川対犯人はいいとして、警察対市民はもう少しサラッと流してもいいのでは、暴力的のシーンが長すぎて飽きてきます。
 全体的に見て、面白い方だとは思います。2018年5月に続編の「連続殺人鬼カエル男ふたたび」が発売されており、これは是非とも読んでみたいです。




アンソロジー 「9の扉」

 アンソロジー集「9の扉」は、2009年7月に単行本が発売され、2013年11月に文庫化されています。
 前回に「9の扉」に収録された第3番目の作品である殊能将之さんの「キラキラコウモリ」を紹介しました。せっかくなので、他の作品についても簡単にあらすじと感想を。

<くしゅん> 北村薫
 結婚して約一年の主婦の物語です。主婦は、夫と飼い猫のにゃおりと暮らしています。主婦は、日々の生活に疲れていました。ある時、くしゃみをした主婦に、夫は色気がなくなったと言います。その夜、主婦は夢を見ました。夢の中では、にゃおりと、昔の飼い猫のにゃおらとが人語を話し、主婦を「くしゃみ指南所」へ連れて行きます。待っていた男の人は、四年前に死んだ父親でした。

 前半は主婦の苦悩が綴られたもの、後半は夢の世界という、つかみ所のない物語でした。悪くはないのですが、アンソロジー集の一番目にはあまり適していないように思います。五番目くらいがちょうどいい作品でした。
 次の作家さんへのお題は「猫」です。

<まよい猫> 法月綸太郎
 迷子のペット探し専門の探偵の元に、1人の女性依頼人が現れます。女性は、自分が猫であり、飼い主と身体が入れ替わったと言い、飼い主の捜索を探偵に依頼します。探偵は、依頼を引き受け、女性の自宅を訪れます。探偵は、女性に自分の名前(猫の名前)を呼ぶように助言し、女性が名前を呼ぶと猫は姿を現します。猫を抱き上げた女性は、元に戻っていました。

 最初はファンタジーな物語かと思わせ、最後は丸く納める、好く出来た物語でした。少ないページで綺麗にまとまっており、流石というしかない作品でした。これぞアンソロジー集の短編作品という印象です。
 次の作家さんへのお題は「コウモリ」です。

<キラキラコウモリ> 殊能将之
 ミツキ及びマドカの男女が、小遣い稼ぎに自殺を助ける仕事をするという物語です。詳しくは、前回の記事を参照下さい。
 お題の「コウモリ」は、ゴスロリファッションのマドカが、コウモリのカチューシャをしているというだけで、特にそれ以外はコウモリの登場はありませんでした。
 物語中でマドカがネット配信のお笑い番組を見る場面があります。この場面を次の作家さんが拾い上げて次の作品に仕上げています。
 次の作家さんへのお題は「芸人」です。

<ブラックジョーク> 鳥飼否宇
 山室真弘は、以前は「ブラック冗句」というコンビを組んで漫才をしていましたが、相方の永井拓が死んでからはピン芸人として活動しています。しかしピン芸人になってからの山室は、全く売れず、大物芸人タタラの番組でも失敗してしまいます。
 山室は、永井が残したネタ帳を発見します。山室は、新しい相棒を探し始めます。山室は、天からの永井の声に導かれて見つけ出したピン芸人のくしゅん後藤を相方に決めます。山室及び後藤は、新たなコンビ「ぶらつくジョーク」を結成し、永井が残したネタを練習します。山室は、後藤が日に日に永井に似てくるように感じられました。
 ぶらつくジョークは、人気に火がつきます。若手お笑い大賞に出場したぶらつくジョークは、優勝決定戦に進出します。そして決定戦の舞台に立った山室は、隣に立つ相方が後藤ではなく、永井であるように感じられます。ネタを始めると、何故か後藤は台本にないセリフを話し始めます。それは、山室が永井を橋の上から突き落として殺したという内容でした。

 リレーである事を感じる上手い作品でした。、ピン芸人の山室が出演していた番組が、「キラキラコウモリ」でマドカが見ていた番組に相当します。その他にも、これまでの3作品の登場人物が芸人として登場するサービスもありました。
 次の作家さんへのお題は「スコッチ」です。

<バッド・テイスト> 摩耶雄嵩
 私は「ユキムラ」というバーでスコッチを飲むことを楽しみにしています。ある日、私がバーにやってくると、珍しく多くの客が入っています。私がカウンターに座ると知り合いの萱野が話し掛けて来ます。私は、萱野とこのバーで知り合いました。萱野は、アンティークカーのディーラーをしています。
 しかし、萱野の本当の職業は、探偵でした。萱野は、漫才コンビの相方である永井を私=山室が殺害したことを突き止め、ワザと時効直前まで泳がせておき、この日に警察を連れて私の前に現れました。周りの客は、警察でした。萱野は、犯罪者をワザと泳がせて観察する悪趣味の持ち主でした。

 読み始めは「ブラックジョーク」の続きだと気付かせず、後半で私が山村だった事を明かして読者を驚かせる、よく考えられた作品でした。リレーアンソロジーの極みですね。殊能将之さんもこんな物語に繋がって行くとは想像しなかったでしょう。
 次の作家さんへのお題は「蜻蛉」です。

<依存のお茶会> 竹本健治
 窪田真紀は、大学で人気のある辰巳穣太郎先輩に誘われて、同じく人気のある海棠泰國先輩の家で行われるお茶会に誘われます。お茶会には他に、海棠の知り合いの美作夏緒及び氏家典孝が参加しています。お茶会は、事故で死亡した指宿みすずを偲ぶ会でもありました。みすずは、海棠と付き合っていると噂されていた女性でした。
 お茶会の途中、夏緒はみすずが海棠に冷たくされた事を悩んでいたと話し、みすずが死んだのは事故ではなく自殺だったのではないかと指摘します。海棠は自分もそう思っていることを認めます。お茶会は、何故か蜻蛉を暗示する物であふれていました。これは、海棠が仕込んだもので、みすずが辰巳と浮気していたことを暗示するものでした。辰巳は、みすずとの関係を認めます。

 古風な作品でした。このアンソロジー集の中では少し浮いた存在に感じられました。
 次の作家さんへのお題は「飛び石」です。

<帳尻> 貫井徳郎
 おれの友人の小関は、車の運転中に飛び石を受けてスロントガラスにひびが入る被害を受けますが、相手の車を運転していた女の子と仲良くなったとおれに自慢します。
 その後、おれは車の運転中に飛び石を受けます。おれは、そのまま走り去った相手を突き止め、その相手である内藤の家に修理費を要求しに行きますが、証拠がないと突っぱねられます。その帰り、おれは財布をなくし、財布に入っていたキャッシュカードで300万円を銀行から盗み取られてしまいます。
 おれの妻の淑子は、この事を怒り、倹約生活が始まります。ある日、家族でテレビを見ていると、信用金庫が破綻したというニュースが流れます。数日後、淑子は娘と共に無理心中します。淑子は、破綻した信用金庫に外貨預金で全財産をつぎ込んでいました。更に淑子は、信用金庫の行員である内藤と浮気をしていました。浮気相手の内藤は、おれが飛び石の被害を受けた相手の内藤と同一人物でした。おれが内藤の家を訪れた時に教えた連絡先を頼りに内藤はおれの家に営業しに来て淑子と知り合い、浮気に至ったようです。飛び石から始まるマイナスの出世物語でした。
 ただ、淑子には生命保険がかけてあり、おれは5500万円の保険金を手に入れます。これで帳尻は合ったでしょうか?

 悪い方へ悪い方へと転がり続ける、正にマイナスの出世物語でした。これは極端過ぎるだろうとは思いながらも、まぁ小説だから面白ければいいかなと。最後の帳尻が、保険金だけではなく、もう一ひねり欲しかった気がします。
 次の作家さんへのお題は「一千万円」です。

<母ちゃん、おれだよ、おれおれ> 歌野晶午
 淑子と娘が死亡し、おれには七千万円の保険金が入ります。おれは七千万円を現金化して家に持ち帰り、しばらく一緒に暮らす事にします。
 ある日、おれが家に帰ると、母の由岐江が着ていました。由岐江は、おれがヤクザと揉めているという連絡を受けて、一千万円を支払っていました。おれには何の事かわかりませんでした。どうやら由岐江は、オレオレ詐欺に合ったようです。しかも、支払った一千万円は、保険金として置いていた七千万円からでした。
 おれは、保険金の事を話した友人の小関を犯人と疑います。小関は、飛び石の件で仲良くなった女の子に貢いで会社の金を横領し、会社を解雇されて金に困っていました。おれは、小関の家を訪れて問い詰めますが、小関は否定します。
 一千万円を盗んだ犯人は、由岐江でした。由岐江は、陶芸教室で知り合った本城という男に一千万円を寄付していました。本城は、障害者の支援施設を運営しており、施設が閉鎖される危機にあり、閉鎖を逃れるために資金を必要としていました。由岐江は、息子が手にした保険金に目を付け、自作自演のオレオレ詐欺で一千万円を手にしました。
 由岐江が本城と高級レストランで食事をしていると、息子から電話がかかってきます。息子は、バッグを小関の家に置き忘れ、バッグに入っていたキャッシュカードとクレジットカードを使われたと話します。また息子は、バッグには実家の鍵も入っており、その後に由岐江に預けた六千万円が心配だと言います。しかし由岐江は、この電話をオレオレ詐欺だと思って切ってしまいます。
 由岐江から一千万円を寄付された本城は、障害者の支援施設を運営しているというのは嘘で、由岐江との食事が終わったら姿をくらませる事にしていました。

 リレーのちょっとした遊びではなく、完全に続編でした。おれの運命が更に悪い方向へ転がっていきます。今回は最後に帳尻合わせもなく、母子揃って騙され、更に更に悪い未来を暗示する結末でした。
 次の作家さんへのお題は「サクラ」です。

<さくら日和> 辻村深月
 小学三年生に上がる春休み、美樹は行列のできる人気店「ひらかわ」のたいやきをお母さんと2人で食べ、その美味しさに魅了されます。しかしその後、このたいやきを食べる機会はありませんでした。
 小学四年生に上がる春休み、美樹はひらかわで働く男性店員に声をかけられます。店員は、たいやきを2つ美樹に渡し、近くの公園で食べるように言います。美樹は、大喜びでたいやきを食べました。
 次の日、美樹は、再び店員に呼び止められます。店員は、春休みの間、毎日たいやきを公園で食べて欲しいと美樹に頼みます。美樹は、不思議に思いながらも、この頼みを引き受け、公園でたいやきを食べます。
 しかし美樹は、この事をお母さんに知られてしまいます。お母さんは、美樹が客を寄せるためのサクラではないかと推測します。お母さんは、タダで貰うのは良くないと美樹に言います。
 次の日、美樹とお母さんがひらかわへ行くと、店員と美人の女の人とが楽しそうに会話さていました。女の人は、いつも公園で絵を描いていた人でした。美樹は、店員の狙いを理解します。
 その後、美樹は、お母さんと一緒に公園でたいやきを食べます。お母さんは、美樹が可愛らしいくしゃみをしたのを見て、美樹はモテるとほめ、自分もくしゃみの練習をしたことがあると話します。

 ラストに相応しい爽やかな作品でした。そして、さり気なくくしゃみの話題で初めの作品「くしゅん」に繋げる上手さ。お見事でした。

 以上が、リレーアンソロジー集「9の扉」に収録された9つの作品です。そもそもは、殊能将之さんの作品を目当てに読んだアンソロジー集でしたが、他の作品も面白かったです。アンソロジー集には、これまでに読んだことのない作家さんとの出会いがあります。今回は、以前から気になっていた辻村深月さんの作品を読むことが出来たのが収穫でした。辻村深月さんの別の作品、長編作品を読んでみたくなりました。


桜坂洋 「All You Need Is Kill」

 桜坂洋さんの「All You Need Is Kill」は、2004年12月に集英社のスーパーダッシュ文庫から発売されたライトノベル作品です。2014年にトム・クルーズ主演のハリウッド映画が公開され、それに合わせて集英社のジャンプJブックスから新装版として発売されています。今回はこの新装版を読みました。
 以前にトム・クルーズ主演の映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」を見てとても面白かったので、ぜひ原作を読みたいと思いながらも機会がなく忘れかけていました。そんなときに某古書店でこの原作本を発見し、ようやく読むことができました。
 以下、小説「All You Need Is Kill」の物語です。ネタバレ注意です。

 謎の生命体「ギタイ」が地球を襲い、人類との戦闘が各地で行われている世界。ギタイは、カエルの溺死体が立ち上がったような外見の生物で、攻撃力及び生命力が高く、ギタイの大部隊の侵攻により人類は滅亡仕掛けています。人類は、「機動ジャケット」と呼ばれるパワードスーツのような装備を開発してギタイに対抗しています。
(ループ1回目)
 ギタイがとうとう日本本土まで侵攻してきて、初年兵のキリヤ・ケイジは初めてギタイとの戦争に赴きます。統合防疫軍とギタイとの戦闘が始まり、キリヤは為す術なくギタイに追い詰められ、武器の弾が尽きてしまいます。キリヤが死を覚悟したとき、巨大なバトルアックスを持つ赤色のジャケットが現れてキリヤを助けます。赤色のジャケット兵は、戦場の雌犬と呼ばれる女兵士リタ・ヴラタスキでした。ギタイを倒したリタは、「日本のレストランでは食後のグリーンティーが無料というのは本当か?」とキリヤに問いかけます。戦場らしからぬこの言葉は、キリヤを落ち着けるためのものでした。しかしこの時にキリヤは既に深手を負っており、死は確実な状況でした。キリヤが死ぬまでそばにいようとリ
タは言いますが、新たなギタイが襲ってきます。リタはギタイとの戦闘を開始し、キリヤは最後の力を振り絞って、他とはどこかが異なった異質なギタイを倒します。
(ループ2回目)
 キリヤは自分のベッドで目覚めます。戦場での出来事が夢だったと安心するキリヤですが、戦闘当日に目覚めたと思っていたのに、周囲との会話から戦闘前日であることがわかります。そして目覚めて以降は夢で体験した出来事が繰り返されます。戦闘前日に行われた基礎訓練に参加したキリヤは、訓練を眺めていたリタを発見し、リタを見ていると目が合ってしまいます。リタはキリヤの元にやってきて基礎訓練に参加し、キリヤはリタと短い会話をすることができます。これは夢では見ていない出来事でした。
 そして次の日。ギタイとの戦闘が始まった瞬間、ギタイが放ったスピア弾がキリヤを直撃し、キリヤは死亡します。このスピア弾は、キリヤではなく、キリヤの先輩を直撃するはずのものでした。
(ループ3回目)
 キリヤは自分のベッドで目覚めます。キリヤは、夢を見ているのではなく、時間がループしていることに気付きます。キリヤはこの状況から逃げ出すため、基地を脱走して街を目指します。途中の海岸で休んでいると、何故か海からギタイが出現し、ギタイのスピア弾に貫かれてキリヤは死亡します。
(ループ4回目)
 キリヤは自分のベッドで目覚めます。キリヤは、拳銃で自殺します。
(ループ5回目)
 キリヤは自分のベッドで目覚めます。キリヤは、繰り返される戦場で戦闘技術を磨き、このループから脱出することを決意します。

 その後、キリヤは何度もループする事によって訓練と実戦とを繰り返し、ギタイと戦うことができるようになってきます。しかしキリヤは、一つの問題にぶち当たります。それは武器の弾切れでした。キリヤは、ループ1回目で見たリタのバトルアックスが、弾切れの心配もなく、ギタイとの戦闘に適した物であることに気付きます。
(ループ47回目)
 キリヤは、リタの武装の整備担当者シャスタ・レイルに頼み込んで、リタのバトルアックスと同じものを手に入れます。
(ループ79回目)
 食堂でリタが初めて梅干しを食べて苦しむ姿を見ていたキリヤは、仲の悪い別部隊の兵士と喧嘩になります。キリヤは、わざと殴られて気を失い、食堂で料理を作っているレイチェル・キサラギに介抱されます。レイチェルはキリヤを誘いますが、キリヤは断って訓練に向かいます。
(ループ158回目)
 ギタイとの戦闘が始まり、キリヤはバトルアックスを使いこなし、ギタイを次々と倒して行きます。キリヤは、ギタイに殺されそうになっいる兵士を助けます。この兵士はパニック状態に陥っており、キリヤは、部隊間で行われたラグビーの試合のことを話して兵士を落ち着かせます。キリヤは、ループ1回目で見たリタと同程度の実力にまで成長していました。キリヤは、戦場で戦うリタを見かけ、更にループ1回目でキリヤが道連れにしたギタイを発見します。キリヤは、このギタイを倒すことで何かが変わると考え、戦いを挑もうとします。そのとき、キリヤの元にリタからの通信が入ります。「おまえ、いま・・・何周目なんだ?」

 リタ・ヴラタスキは、幼い頃に住んでいた村がギタイの襲撃に合って全滅し、遠い親戚に引き取られ、隣に住んでいた3歳年上の女性のパスポートを盗んで統合防疫軍に入隊しました。
 かに座の近くにある惑星に住む知的生命体ヒトは、版図を広げるために惑星改造用のナノマシンを積んだ宇宙船を地球へと飛ばします。ヒトは、地球に生命体が存在することなど知る由もありません。地球へ到着した宇宙船に積まれたナノマシンは、ヒトが住むのに適した環境へと地球を改造し始めます。ナノマシンは、最初はひ弱な存在でしたが、地球人類に対抗するために進化し、現在のギタイとなりました。地球人類はギタイに対抗するために統合防疫軍を結成し、ギタイとの戦争が始まりました。
 統合防疫軍に入ったリタは、目覚まし戦果を挙げて特殊部隊へ編入されます。そしてリタは、ある戦場で異質なギタイを倒し、時のループが始まります。
 ギタイにはネットワークの中心となる存在、ギタイサーバがいます。ギタイサーバが倒されるとギタイのネットワークはある種の信号を発し、この信号が過去のギタイ達に危険の予兆として伝わります。これが時のループを生み出しています。電気的に繋がった状態でギタイサーバを倒すと、人間も予兆の恩恵に預かることができるようになります。ギタイを倒すには、(1)ギタイサーバのアンテナを破壊し、(2)バックアップ用のギタイを全滅させ、(3)過去への通信が完全にできなくなってからギタイサーバを倒す、という手順が必要です。リタは、211回のループでこの手順を発見し、人類軍を勝利へ導いて英雄となります。
 その後、リタは、ギタイのループを利用して、各地を転戦しては戦果を挙げていきます。しかしリタは、自分だけがループを繰り返している状況に孤独を感じてもいます。
 そしてリタは、日本の戦場へとやってきました。リタが日本の兵士達が基礎訓練をしているのを見ていると、一人の兵士が自分を見つめているのに気付きます。リタは、基礎訓練への参加を志願し、この兵士と話をします。彼はリタの質問に答えると言い、「ジャパンのレストランのグリーンティーは確かに無料だ」と告げます。これを聞いたリタは、ループしているのが自分だけでないことを知り、泣きだしてしまいます。

(ループ159回目)
 キリヤとリタは、戦場で協力して戦い、手順通りにギタイサーバを倒しますが、ループは止まりません。
(ループ160回目)
 キリヤは、泣き出したリタを訓練場から海へ連れて行って話しをし、食堂で梅干しを食べる競争をします。キリヤとリタの仲は急速に深まり、キリヤはリタの部屋で出撃日の朝を迎えます。リタがコーヒーを入れていると、ギタイによる基地への攻撃が始まります。これは今までになかった展開です。基地が混乱する中でキリヤとリタは出撃し、押し寄せるギタイを倒していきます。
 キリヤとリタは、ギタイサーバを発見します。キリヤはギタイサーバのアンテナを破壊し、リタはバックアップ用のギタイを倒します。そしてリタは、何故かキリヤに襲いかかってきます。リタは、キリヤかリタがギタイサーバのバックアップとなってしまっており、どちらかが死ななければループは終わらないと語ります。迷うキリヤですが、結末を己の戦闘技術に託し、リタと全力で戦う決意をします。そして1対1の戦いにキリヤは勝利し、リタは死亡します。キリヤは、ギタイサーバを倒してループを終了させ、残りのギタイを殲滅してこの戦場での人類側の勝利を確定させます。
 キリヤは、営倉に3日間閉じ込められた後で勲章を授与され、英雄となります。周囲はキリヤに対してキラーケージというあだ名を付けます。
 キリヤがリタの部屋へ行くと、リタが最後に入れたコーヒーが残されたままになっていました。キリヤは、孤独なギタイとの戦いを続けていく決意をし、カビの浮かぶコーヒーを飲み干します。

 以上が、桜坂洋さんの「All You Need Is Kill」の物語です。
 トム・クルーズの映画版も面白かったですが、原作の小説はそれ以上に面白かったです。小説を先に読んでいたら、映画版はつまらなく感じたかもしれません。そう考えると、映画版を先に見て良かったのかもしれません。
 映画版ではイマイチ影の薄かったヒロインのリタですが、小説版ではとても大きな存在感がありました。一人でループして戦い続けるキリヤの孤独、同じように一人でループして戦い続けるリタの孤独、孤独な二人が仲間を見つけたときの喜びなどが小説版ではひしひしと伝わってきます。それだけに、最後の結末は悲しいものでした。
 映画版では地球上のギタイが一掃されて平和が訪れていましたが、小説版は単に一つの戦いを終えただけで、これからも戦いは続いていくという結末になっています。この本の巻末には 「All You Need Is Kill 2」が製作中という予告の広告が載っていました。この本の発刊日が2014年6月となっているので、そろそろ第二弾の小説が発表されるかもしれません。期待して待つことにします。
 でも第二弾ってかなり難しそうな気がします。この物語を超えた作品を作るというのは、桜坂洋さんも苦労しているのではないでしょうか。頑張って下さい。応援しています。