FC2ブログ

積木鏡介 「芙路魅(ふじみ)」

 積木鏡介さんの「芙路魅」は、2002年4月に単行本が発売された作品です。積木鏡介さんの4作目の作品であり、紙媒体の本として出版されている積木鏡介さんの最後の作品です。これ以降、積木鏡介さんの作品がいくつか発表されているのですが、全て電子書籍のみの販売です。
 この「芙路魅」を手に取ってまず思うことは、本が薄いということです。これまでの3作は単行本で300ページを超える長編でしたが、「芙路魅」は130ページくらいとかなり薄目の本で中編小説といったところでしょう。
 またこの作品は、講談社ノベルスの20周年記念として企画された「密室本」というシリーズの1つでもあります。「密室本」シリーズは、メフィスト賞を受賞した10数人の作家が密室をテーマにした作品を執筆し、これを集めたものです。”密室”大好きです。期待が高まりますね。
 それでは、積木鏡介さんの「芙路魅」の物語を以下にまとめます。ネタバレ注意です。なお、この作品は現在の事件の合間に過去の事件が挿入された物語構成になっていますが、あらすじは時系列に変更して記載します。ご了承下さい。

 1980年。公園で子供の他殺体が発見されます。被害者は、腹部を切り裂かれ、内臓が引きずり出された状態でした。犯人の手掛かりがないまま、第二の事件が起こります。前回と同様に子供が殺害され、河川敷で死体が発見されます。しばらくして、子供が行方不明となり、警察は第三の事件の発生を防ぐため、公開捜査に踏み切ります。
 その夜、南條芙美(なんじょうふみ)は、会社から帰宅した夫の路雄(みちお)を玄関で出迎えます。しかし路雄の様子はおかしく、右手に包丁を握り、左手に何か赤黒い物を握っていました。路雄は、無言で娘の部屋に向かって行きます。芙美は、娘に部屋の鍵をかけるよう言い、警察を呼びます。路雄は、やってきた警察に取り押さえられます。警察は、南條邸の地下室を調べ、行方不明だった子供の遺体を発見し、犯人として路雄を逮捕します。しかし、その後の取り調べの途中、路雄は芙美が差し入れた弁当を食べて死亡します。弁当には毒が入っていました。警察が南條邸へ向かうと、芙美は毒入りのお茶を飲んで死亡していました。警察は、芙美が路雄を殺して自殺したと判断します。路雄及び芙美の
娘、10歳の芙路魅が残され、父方の祖父である弓削道蔵(ゆげみちぞう)に引き取られます。
 1986年。高校三年生の三田京子は、取り壊し予定の体育館の倉庫に呼び出され、何者かに襲われて気を失います。京子が目を覚ますと、友人の一之江珠実、春日久雄及び入谷邦彦が集まっていました。彼らも同様に何者かに呼び出されたようです。そして倉庫はいつの間にか施錠され、4人は閉じ込められます。扉の外からは女の笑い声が聞こえ、この女は倉庫の鍵を京子に飲ませたと言います。そして女は、体育館に火をつけて去って行きます。京子は鍵を吐き出そうとしますが、鍵は出てきません。実は、鍵は女が持っており、京子に飲ませたというのは嘘でした。徐々に火が回ってきたことで焦った珠実は、窓を壊して得たガラスの破片を手に、京子に迫ります。
 1992年。麻酔科医の築地俊勝の家に妹の百合子が傷だらけの姿でやってきます。百合子は、俊勝が勤める病院の院長の息子である押上功の子供を身ごもっていましたが、功は看護婦の木場美津子との結婚が決まっており、功に雇われた者達が百合子を襲ったようです。美津子は俊勝の元彼女であり、功は女癖が悪い事で有名でした。また俊勝は、病院の退職を迫れていました。俊勝は、復讐を決意します。
 ある日、美津子が夜勤をしていると、新人看護婦と名乗る女性が現れます。この女性は美津子に睡眠薬を飲ませ、美津子は眠りに落ちます。美津子は目覚めると手術台に縛り付けられており、手術室には虚ろな目をした俊勝が座り込んでいました。新人看護婦を名乗った女性は、何故か美津子を珠実と呼び、自分は京子と名乗ります。女性は、体育館の倉庫で腹を切り裂かれた復讐と言って、美津子の腹を切り裂き、美津子を殺害します。
 百合子が美津子を殺す様子を眺めていた俊勝は、百合子が既に死んでいことを思い出し、この女性が何者なのか考えます。女性は、返り血を浴びた自分の手術衣を俊勝のものと交換し、姿を消します。
 1999年、現在。河川敷で女性の絞殺死体が発見されます。この女性は、大人になった芙路魅でした。所轄の刑事である東雲は、本庁の刑事の曽我と共に事件の捜査を開始します。東雲は、19年前の事件にも関わっていました。19年前の事件の後、芙路魅は祖父の弓削教授に引き取られて九州へ移り住みましたが、高校生の時に火山の噴火で家がなくなり、芙路魅及び弓削教授は元の南條邸に戻って来ていました。火山の噴火の際には、芙路魅は死にかける経験をしたようです。
 その後、公園で会社員の男性の遺体が発見されます。遺体は、19年前の事件と同様に、腹部を切り裂かれていました。凶器の山岳ナイフからは芙路魅の指紋が検出されましたが、山岳ナイフは芙路魅の死後に販売された物でした。
 過去の事件を調査した曽我刑事は、13年前の九州の地方新聞の記事から、芙路魅が通っていた高校で、体育館の火災により4人の高校が死亡する事件が起こっていた事を知ります。地元の警察からの情報により、死亡した高校生の一人は、腹部を切り裂かれていた事がわかります。
 また曽我刑事は、7年前の新聞記事から、東京の病院で看護婦が腹部を切り裂かれて殺害された事件を知ります。犯人として逮捕された男は、三田京子と名乗る女性が殺害したと証言していました。
 曽我刑事は、19年前、13年前、7年前の事件の真犯人が芙路魅だったと考えます。しかし、今回の会社員殺しは芙路魅の死亡後に起こっています。芙路魅と会社員を殺した犯人は不明です。そして、芙路魅と会社員を殺したと、敦賀野雹吾(つるがのひょうご)という男が自首してきます。曽我及び東雲が敦賀野の事情聴取を行います。敦賀野は、自分と芙路魅の事を語ります。

 敦賀野は、南條芙美の同級生で、小学生のころに芙美の事が好きでした。あるとき、敦賀野はイタズラで芙美が大切にしていた指輪を隠しましたが、学校中の騒ぎに発展してしまい、持ち物検査を恐れた敦賀野は指輪を飲み込みます。
 大人になった敦賀野は塾講師として働き、塾の生徒だった10歳の芙路魅に出会います。芙路魅は芙美にそっくりでした。敦賀野と芙路魅は親しくなり、芙路魅は敦賀野の家に勝手に上がり込むようになります。あるとき、芙路魅は何もない自分の指を見せて指輪きれい?と敦賀野に尋ね、敦賀野は驚きます。その後、芙路魅は、小さな4人の子供を連れて来て敦賀野の部屋で遊ぶようになります。
 ある日、敦賀野が部屋に戻ると芙路魅と子供達とが喧嘩をしていました。芙路魅は、自分の指輪を子供達が盗んだと主張します。初めから指輪が存在していない事を知る敦賀野は、何とか芙路魅を落ち着かせます。しかし数日後、敦賀野が家に戻ると、芙路魅が1人の子供を殺害していました。芙路魅は、子供が指輪を飲み込んだに違いないと言って、子供の腹部を切り裂きますが、指輪が発見されるはずもありません。敦賀野は、子供の遺体を公園に遺棄します。そして2人目も同様に芙路魅が殺害して腹部を切り裂き、敦賀野が遺体を河川敷に遺棄しました。3人目のときは敦賀野の家に鍵が掛かっていたため芙路魅は自宅の地下室へ子供を連れ込み、殺害して腹部を切り裂きました。この日に芙路魅の父親が
逮捕され、その後に両親が死亡して芙路魅は弓削教授に引き取られて九州へ行き、事件は終わりました。
 しかし火山の噴火をきっかけに芙路魅は東京へ戻り、敦賀野の前に現れます。芙路魅は、まだ生きている4人目の子供、今では大人になっている会社員の男性を殺害しようと考えていました。この事に気付いた敦賀野は、芙路魅を絞殺して遺体を河川敷に遺棄しました。しかし敦賀野が家に戻ると、そこには芙路魅がいました。
 その後、芙路魅に敦賀野は操られるように会社員の男性を殺害し、男性の腹部を切り裂いた芙路魅は指輪が見つかったと喜びます。敦賀野は、これでもう殺人が起こる事はないと安心します。しかし数日後、芙路魅は敦賀野の家に3人の子供を連れてきます。そして芙路魅はまた指輪がなくなったと騒いだ後、3人の子供を自宅へと連れて帰ります。芙路魅が3人の子供を殺害するつもりだと悟った敦賀野は、警察に自首しました。

 敦賀野の話を聞いた曽我及び東雲は、芙路魅の自宅、即ち弓削邸(旧南條邸)へと向かいます。弓削邸は、高い塀で囲まれており、地下室への入り口は屋敷の外にある扉だけでした。曽我及び東雲が弓削邸を見張っていると、弓削教授が玄関を出て地下室へと入って行きます。
 弓削教授が地下室へ入ると、地下室には3人の子供の死体が散乱していました。そして地下室には刃物を持った犯人がおり、犯人は弓削教授を刺し殺します。
 令状をもつ応援の刑事が到着し、曽我及び東雲は弓削邸に突入し、地下室へ向かいます。刑事達が地下室へ入ると、地下室の中には3人の子供の遺体と、弓削教授の遺体がありますが、犯人の姿はありません。曽我及び東雲が見張っていたので、弓削邸の外へ犯人が逃げたとは考えられません。地下室への扉は1つだけで、曽我が地下室を調べても隠し扉のような物はなく、人が隠れられるスペースもありません。
 曽我は、山岳ナイフに芙路魅の指紋が付いていた謎を考え、同じ指紋を持つ2人の人間が存在しうる事例を思い出します。それは、「バルテノジェネシス」と呼ばれ、母親だけの遺伝子で子供が産まれるという、いわゆる処女懐胎です。過去にドイツで爆撃の衝撃で処女懐胎が起こり、生まれた子供は指紋が母親と一致していました。曽我は、犯人が芙路魅の子供であることを悟ります。そして地下室には、大人は無理でも、子供なら隠れられる場所がありました。それは・・・。

 以上で積木鏡介さんの「芙路魅」のあらすじは終わりとさせて頂きます。地下室の中で芙路魅の子供が隠れている場所はどこなのか。最後の謎は本を読んでのお楽しみということで。
 さて、「芙路魅」ですが、面白かったです。これまでの積木鏡介さんの作品の中で、群を抜いて面白いです。薄い本ですが、内容が凝縮された印象でした。最後の「バルテノジェネシス」とかいうのは少しアンフェアな気がしますが、現在の物語と過去の物語とが交互に描かれ、バラバラのピースが徐々にはまっていく感じが絶妙でした。
 ただし、この作品を他人にオススメ出来るかと言うと、悩ましい所です。この物語は、かなりスプラッタな描写が含まれています。苦手な人は間違っても読んではいけません。特に、看護婦の美津子が殺されるシーンはエグいです。もし読むなら覚悟を持って読んで下さい。
 積木鏡介さんの印刷物として発売された作品は、これで最後です。この「芙路魅」を読む限り、まだまだ新作が期待出来そうに思うのですが。ただし、この後に電子書籍限定の作品がいくつか発表されているようなので、これらがいつか紙の本になる事があるかもしれません。


積木鏡介 「誰かの見た悪夢」

 積木鏡介さんの「誰かの見た悪夢」は、1999年8月に単行本が出版された作品です。積木鏡介さんの3番目の作品です。第2作から1年と少しで出版されており、順調なペースです。
  積木鏡介さんの第1作「歪んだ創世記」と、第2作「魔物どもの聖餐」とは、いずれもミステリーとしては裏技的というか、トンデモ系の作品でした。第3作「誰かの見た悪夢」も同じ路線を貫くのかどうかが気になる所です。
 それでは以下、積木鏡介さんの「誰かの見た悪夢」の物語です。ネタバレ注意です。

 大学三年生の醍醐(だいご)は、夏休みに、同じマンションに住む夢摘(むつみ)の運転する車で、実家まで送ってもらうことになります。夢摘が夏休みを過ごす予定の別荘へ行く途中に醍醐の実家があるため、車の運転ができない醍醐を夢摘が誘いました。夢摘は醍醐の先輩の彼女でしたが、醍醐は夢摘に好意を持っていました。
 道中で眠ってしまった醍醐は、目覚めて頭痛に襲われます。周囲には何もない山道の途中でしたが、かろうじて存在したレストランで2人は休憩する事にします。頭痛が治まってレストランを出たとき、白衣の男が慌ててレストランに駆け込んで来ます。外には白衣の男の相棒らしきガラの悪い男が立っていました。2人が車に乗り込み、夢摘が車を出そうとすると、ガラの悪い男が車の前に立ちふさがります。この男は、車の後部座席にある荷物を置いていけと2人に言います。後部座席には一人の子供が隠れていました。隠れていた子供は烏丸悠(からすまゆう)という名前の高校生で、ガラの悪い男は鬼常(きつね)、白衣の男は縫柄紫郎(ぬえしろう)という名前です。紫郎及び鬼常は、病院から抜け出し
た悠を探していました。しかし鬼常は用事があると言って紫郎及び悠を置いて自分の車で去り、夢摘は紫郎及び悠を病院まで送る事にします。
 車で山道を走ってたどり着いた縫柄記念病院は、森林に囲まれた荒野にポツンと建つ豪華な建物でしたが、病院として機能しているようには見えませんでした。縫柄記念病院には、紫郎及び悠の他に、看護婦の伊母呂小夜子(いぼろさよこ)、紫郎の母の菊乃、及び、菊乃の兄の之総(しそう)が住んでいます。悠は、事故で両親を亡くした後、ある事件で兄を亡くし、親戚である縫柄の家に引き取られていました。その事件では、悠の兄のみではなく、兄の家族も死亡しているようです。また伊母呂は、本当は看護婦ではなく、紫郎の契約愛人でした。鬼常は、紫郎の愛人探しを含め、縫柄家の裏の仕事を行っている人物でした。
 醍醐が紫郎に頭痛の診察をしてもらった後、夜も遅くなったため、醍醐及び夢摘は縫柄記念病院に泊めて貰うことになります。夕食後、醍醐は菊乃から病院の隣に立つネズの木にまつわる言い伝えを聞かされます。ネズの木の下には秘密が埋められているという内容でした。その後、醍醐及び夢摘は、兄が死んだという事件について悠から話を聞きます。その事件は、1ヶ月ほど前に新聞やテレビを騒がせた飯綱(いづな)邸事件でした。

 飯綱家の当主である飯綱新平は、娘の里深(さとみ)の子供である神子斗(みこと)を殺そうとベビーベッドに近づきますが、里深に見つかり、神子斗に包丁で刺し殺されます。
 両親を事故で亡くした悠は、兄の敬(けい)が婿入りした飯綱家にやって来ます。飯綱家は、先代の兵衛(ひょうえ)、その娘の文月(ふみづき)、その夫で現当主の新平、新平及び文月の娘の里深、その夫の敬、敬及び里深の間に生まれた赤ん坊の神子斗で構成されています。飯綱家の館は、塔が二つもあるU字型の豪邸でした。飯綱家へやってきた悠を文月及び里深が出迎えますが、どこか様子がおかしく、悠はこの2人以外に会うことができません。夕食後、会社から戻った敬が悠の部屋にやって来ますが、やはり様子がおかしく、神子斗はもういないと話し、詳しいことは明日に話すと言って去って行きます。
 その夜、悠は水を飲もうと自室を出てキッチンへ向かいます。途中の廊下で悠は、奇妙な何者かの影が塔への入口へと消えるのを見ます。キッチンの冷蔵庫は荒らされていました。そこへ敬と里深が現れて言い争いを始めます。敬は地下室に閉じ込めた神子斗を逃がしたと非難し、里深は敬が神子斗を妬んでいると言い、そして敬はあれは神子斗ではないと言います。敬及び里深は塔の方へ姿を消し、悠は助けを求めに新平及び文月の部屋へ行きます。この部屋では、死体となった新平が椅子に座り、新平に文月が何かを語りかけていました。悠は、警察へ通報した後、ゴルフクラブを武器に持ち、塔へ向かいます。塔の頂上の部屋では敬が刺し殺されており、里深は神子斗が敬を殺したと話します。そして神子斗
が悠に襲いかかり、悠はゴルフクラブで反撃します。神子斗は倒れ、その拍子に倒れた蝋燭の火が部屋に燃え移ります。

 悠は、それから後の事はよく覚えておらず、確かに見たはずの神子斗に姿も思い出せないと醍醐及び夢摘に語ります。事件のショックで一時的に記憶を失っているようです。悠は、この病院に神子斗がいると言い、それが病院を抜け出した理由だと話します。悠は、夜中に菊乃の部屋から鞭打つ音と、紫郎の懺悔の声を聞きます。紫郎は、神子斗に許してくれと謝っていました。
 悠の話を聞き終えた醍醐及び夢摘は、自室へ戻ります。その後、醍醐は眠る事が出来ず、悠の話を確かめるために菊乃の部屋へ様子を見に行こうと自室を出ます。すると、廊下を看護婦が歩き去る後ろ姿が見えます。醍醐は、伊母呂だと思いますが、その直後に風呂上がりの伊母呂に出会い、先ほどの看護婦が伊母呂ではなかった事が分かります。後ろ姿の体型から、夢摘や菊乃でもありません。
 翌朝、朝食の時間になっても悠は現れません。伊母呂は、屋敷の外にある新聞受けに朝刊を取りに行き、何かに驚いて戻って来ると、気を失って倒れます。醍醐が屋敷の外へ出ると、枯れ井戸の前に切断された悠の首が置かれ、身体は井戸の底にありました。
 醍醐は警察に連絡しようとしますが、菊乃は1日待って欲しいと言います。醍醐は夢摘及び伊母呂を連れて病院を去ろうとさますが、紫郎が銃を持ち出して引き止めます。醍醐と菊乃の話し合いの結果、夜まで待って醍醐及び夢摘が病院を出る事になります。このとき、醍醐は神子斗とは何かと菊乃に尋ね、菊乃は飯綱邸事件の真相を語ります。
 神子斗は、敬及び里深の間に生まれた子供でしたが、突然死してしまいました。里深は神子斗の死を信じられず、痴呆症の自分の祖父である兵衛を神子斗として扱い、兵衛も赤ん坊になりきっていました。そして、異常な状態を終わらせようと新平が兵衛を窒息死させようとして返り討ちにあったところから、飯綱邸事件が始まりました。これが真相で、悠を殺したのは神子斗=兵衛ではなさそうです。この真相を知った夢摘は、悠が殺されて首を切断されたのは、この病院の誰か、過去に首切り殺人事件に遭遇した事のある誰かに対するメッセージではないかと推理します。
 伊母呂は、幼い頃に母親を殺されていました。犯人は母親の首を切断して冷蔵庫に入れ、それを発見したのが伊母呂でした。犯人は逮捕されましたが、死刑になったわけではありません。伊母呂は、出所した犯人が自分を殺しに来たと思います。
 夕食の後、伊母呂は、自分の爪にデタラメな色でマニキュアを塗り始めます。その後、伊母呂と紫郎の言い争いが始まり、喧嘩を止めようとした夢摘は伊母呂と共にマニキュアを頭からかぶってしまいます。このため、夢摘がシャワーを浴びてから醍醐及び夢摘は病院を去る事になります。夢摘がシャワーを浴びている間、醍醐は夢摘の部屋の前で待っています。その間に、伊母呂の部屋を菊乃が訪れ、しばらくして菊乃は部屋から出て行きます。シャワーを浴び終わった夢摘と共に醍醐は伊母呂の部屋を訪れます。しかし伊母呂の部屋の中は散らかっており、伊母呂の姿はありません。二階にある伊母呂の部屋の窓からはシーツで作られたロープが垂れ下がっており、伊母呂は窓から逃げ出したようです。醍醐及
び夢摘は、伊母呂を探そうと屋敷の外へ出ます。車に乗り込んで夢摘がライトを点けると、首の無い白衣姿の女性の死体が横たわっているのが目に入ります。枯れ井戸の近くには伊母呂の首が転がっていました。
 醍醐及び夢摘は、病院から逃げ出そうと、車を発車させます。免許のない醍醐は運転できないため、夢摘が車を運転しています。しかし醍醐及び夢摘は、夜の森で道に迷い、走り回った挙げ句に病院へ戻って来てしまいます。車の前に銃を持つ紫郎が立ちふさがります。
 紫郎に追い立てられるように車から降りた醍醐及び夢摘は、屋敷の三階の部屋に閉じ込められます。しばらくすると、部屋の隠し扉が開き、車椅子に乗った老人が現れます。この老人は、菊乃の兄の縫柄之総で、隣の部屋にすんでいます。之総は、醍醐及び夢摘を、自分の部屋に招き入れます。醍醐はこれまでの事情を之総に話し、之総は自分の置かれた危機的な状況を語ります。しかし之総の話は、誇大妄想と言うべきもので、自分の研究を阻止しようとする秘密結社に命を狙われているという内容です。また之総は、伊母呂の過去の事件を知っていました。伊母呂の母親を殺害したのは父親で、精神鑑定の結果で施設に入れられた父親は一生出てこれないだろうと語ります。之総は、伊母呂を殺した犯人は父親
ではなく、自分を狙う秘密結社だと言います。
 話し終えた之総は、病院を逃げ出そうと言い、病院のマスターキーを醍醐に渡します。醍醐は、紫郎に奪われた車のキーを取り戻しに行く事にします。之総は、夢摘の部屋の浴室の天井裏に隠した研究資料を取って来て欲しいと醍醐に頼みます。之総の部屋を出た醍醐は、紫郎の部屋に忍び込み、車のキーを探します。しかし醍醐は、何者かに後頭部を殴られて気絶します。醍醐を殴ったのは、紫郎に呼び寄せられた鬼常でした。鬼常は、醍醐を粘着テープで縛ります。夢摘は、醍醐の様子を見るため、之総の部屋出ます。病院の廊下を歩き進んだ夢摘は、背後に人の気配を感じて振り向きます。そこには予想外の人物がいました。菊乃は、之総に呼び出されて部屋を訪れます。之総は急に菊乃に襲いかかって首を
絞め、菊乃は気を失います。しばらくして菊乃が目を覚ますと、目の前には車椅子に乗った首なしの死体があり、死体の膝の上には之総の首がのせられていました。
 紫郎及び鬼常は、ネズの木の根元から何かを掘り出す計画を話しています。しかし、途中で仲間割れし、紫郎は鬼常を殴り殺してしまいます。病院から逃げ出そうとした紫郎は、看護婦の白衣を着た人物に出会います。
 醍醐が目を覚ますと、目の前に首のない白衣をきた死体が横たわっています。そして部屋の暖炉の上に紫郎の首が置かれています。紫郎の部屋を出て之総の部屋に戻った醍醐は、そこで之総の死体を発見します。次に醍醐は菊乃の部屋へ行きます。この部屋で醍醐は、生きている菊乃と、ホルマリン漬けの胎児が入った瓶と、そして醍醐の服を着た首なし死体とを発見します。首は見あたらず、死体が誰のものなのか不明です。菊乃は、紫郎が持っていた銃で自殺しようとしていました。菊乃は、紫郎と菊乃が親子ではなく夫婦であること、この胎児は菊乃が産んだ子供であり、名前が神子斗であること、この神子斗は飯綱家の神子斗は別人であることなどを話します。菊乃は、紫郎が神子斗を殺したこと、自分が
紫郎の浮気相手の美雪を殺したこと、美雪の死体はネズの木の根元に埋められていることを話します。
 醍醐は、連続殺人の犯人はあなたなのかと菊乃に尋ねます。菊乃は、今回の事件は殺された人物の悪夢が現実となったような事件であり、この病院は悪夢を現実化する力があるのかもしれないと言います。そして菊乃は、この病院が、愛する夢摘を正体不明の殺人鬼から守ると言い醍醐が夢見るシチュエーションではないかと言います。醍醐は、「悪夢を見ていたのはこの僕だったのか」と気付きます。
 そんな醍醐の姿を見た菊乃は、お人好しだと醍醐を笑い、この病院は醍醐の悪夢ではないと諭します。菊乃は、目の前の醍醐の服を着た首なし死体は、紫郎だと言います。また菊乃は、紫郎の部屋の白衣を着た首なし死体は之総であり、之総の服を着た首なし死体は伊母呂であり、看護婦の白衣を着た首なし死体は悠であると話します。そして菊乃は、枯れ井戸の中の首なし死体を病院に運び込んだ人物が犯人だと指摘します。菊乃は、醍醐及び夢摘が車で病院から逃げ出したときに、何故戻って来たのかを問い、道に迷ったと言う醍醐に対して、道に迷うはずがないことを指摘し、車を運転していたのが誰かを問います。醍醐は、菊乃の指摘に該当する人物は夢摘しかいない事に気付きます。
 醍醐が背後の気配に振り向くと、夢摘が立っていました。銃声が響き、菊乃が銃で自殺します。夢摘は、枯れ井戸の中の首なし死体は弟の悟だと話します。夢摘は、アリバイ工作のために、自宅から別荘まで車で死体を運ぶ計画を立て、証人として車の知識がない醍醐を誘いました。縫柄記念病院の連続殺人は、夢摘の車に潜り込んだ悠が死体を見てしまった事から始まりました。
 悠はこの死体を自分にしてしまう替玉殺人を計画し、この計画に協力するふりをして夢摘は悠を殺害します。しかし悠の首なし死体を伊母呂に見られ、同じように替玉殺人を思い付いた伊母呂を夢摘は殺害します。しかし伊母呂の首なし死体を之総に見られ、同じように替玉殺人を思い付いた之総を夢摘は殺害します。そして之総の首なし死体を紫郎に見られ、同じように替え玉殺人を思い付いた紫郎を夢摘は殺害しました。縫柄記念病院の連続殺人事件は、被害者の過去の悪夢など全く関係なく、夢摘が行き当たりばったりに口封じの殺人を繰り返しただけというのが真相でした。

 以上が、積木鏡介さんの「誰かの見た悪夢」の物語です。ただし、上記のあらすじには、意図的に省略した部分があります。この物語には、最初の数ページと最後の数ページとにプロローグ及びエピローグ的の部分があるのですが、これをあらすじには記載していません。上記の内容でも一応はミステリーとして物語は閉じており、前後の部分はいわゆるドンデン返し的な内容に相当します。ここは実際に読んでのお楽しみということで。
 積木鏡介さんのこれまでの作品は、物語が本の中から外の世界へ飛び出し、読者をも巻き込むという、驚きの又はトンデモな展開が特徴でした。今回の「誰かの見た悪夢」は、このトンデモな展開は抑えられ、普通のミステリーに落ち着いた印象ですが、最後のオチで積木鏡介さんの本領発揮という所でした。これまでの2つの作品は、途中で読むのをやめたという人がいても仕方ないと思います。私も少しやめたくなった事もありました。3作目の「誰かの見た悪夢」は、普通の人でも最後まで読もうという気になるのではないかと思います。3作目にしてやっと、マニア限定からやや一般向けに作品の傾向が変わってきたように思えます。


積木鏡介 「魔物どもの聖餐」

 積木鏡介さんの「魔物どもの聖餐(ミサ)」は、デビュー作「歪んだ創世記」に次いで発表された2番目の作品であり、1998年6月に単行本が出版されています。「歪んだ創世記」が1998年2月に出版されているので、その後のわずか4ヶ月で第2作が発売されたことになります。結構ないいペースですね。
 デビュー作「歪んだ創世記」は、物語の登場人物の他に、作者、読者及び編集者等が登場するトンデモな作品でした。2作目の「魔物どもの聖餐」も似た路線で行くのか、普通のミステリーになるのか、その辺りが注目かと思います。
 それでは以下、積木鏡介さんの「魔物どもの聖餐」の物語です。ネタバレ注意です。

 野呂啓介は、友人の縄文寺久羅から妙な手紙を貰い、久羅のマンションへ様子を見に行きます。久羅の部屋には誰もおらず、机の上には啓介に宛てた手紙がありました。手紙には、幽羅が桔梗荘に集まる人達を皆殺しにしようとしている、という内容が記されていました。啓介は、桔梗荘へ電話をかけます。
 桔梗荘に王、妃、馭者、娼婦、舞姫、犬がやってきます。犬の名前はトビオ、舞姫の名前は姫乃です。出迎えた桔梗荘の管理人の佐瀬十一は、やってきた人達を見て呆然とします。桔梗荘に入った人達に佐瀬はビールを出し、乾杯に佐瀬も付き合う事になります。王が乾杯しようとしたとき、インターホンが鳴り、佐瀬は玄関へ向かいます。このとき姫乃は、それまでなかったピーターパンの人形を見つけます。姫乃はピーターパンにお酒に興味を持ってはダメと話しかけており、王及び妃は不思議に思います。戻ってきた佐瀬は、誰もいなかったと話します。改めて乾杯が行われ、ビールを飲んだ佐瀬は死亡します。残された人達は、警察への通報は後回しにして、姫乃の希望で隠れん坊をする事にします。姫乃が鬼になり、王、妃、馭者及び娼婦は隠れます。
 啓介が桔梗荘に電話をかけると、姫乃と名乗る人物が出て管理人は死んじゃったと話し、隠れん坊の途中だからと電話を切られてしまいます。
 姫乃は、まず一階の洋間を探します。洋間には6時の一番列車を待ち続ける駅員がおり、赤い布を姫乃に被せて赤頭巾ちゃんにしてくれます。姫乃が洋間を出ると、そこには赤頭巾ちゃんの世界が広がっていました。この世界で姫乃は、おばあさん密室殺人事件を解決します。
 桔梗荘に戻った姫乃は、浴室を探しに行き、そこで娼婦が殺されているのを発見します。姫乃は、管理人に続いてピーターパンが娼婦を殺したと、ピーターパンを叱ります。ピーターパンは、これは儀式だと答え、儀式が終われば姫乃の願いが叶うと、隠れん坊を続けるよう言います。
 啓介は警察署に駆け込み、桔梗荘の事を話します。対応した巡査部長の狩人修一に、啓介は幽羅が人間ではないと話します。
 姫乃がピーターパンの人形に名前を尋ねると、人形は幽羅と答えます。姫乃が桔梗荘の二階へ上がると、そこはウサギと亀の世界でした。姫乃は、ウサギが殺害された事件のアリバイトリックを見破って、見事に解決します。ウサギと亀の世界を出した姫乃は、桔梗荘の二階の一室で、馭者が短剣に刺されて殺されているのを発見します。ピーターパンは、これも儀式のためだと話します。次に姫乃は、アリババと40人の盗賊の世界に迷い込みます。ここで姫乃は、人間消失事件を解決します。
 警察署にいた啓介の元に、桔梗荘で火事が発生しているという情報が入って来ます。現場では死体も発見されているようです。
 姫乃は、桔梗荘の一階で王及び妃が殺害されているのを発見します。ピーターパンは、残る姫乃と犬が死ねば儀式は完成すると言い、姫乃に襲いかかって来ます。犬のトビオが姫乃を守り、ピーターパンを倒します。しかしトビオもピーターパンから受けた傷で死んでしまいます。そして幻想の世界は終わり、現実の世界がやってきます。
 縄文寺久羅は、生まれたときに身体に寄生胎児がおり、手術で取り除かれました。この寄生胎児が幽羅で、その後に久羅の精神に影響を与え始めます。成長した久羅は、小学校の教師になります。久羅は、生徒の扶桑沙絵を好きになり、ストーカー紛いの行為を繰り返すようになります。沙絵は、扶桑グループ会長の扶桑泰造の孫娘で、両親を事故で亡くし、妹の佳絵と共に祖父の泰造及び祖母の菖蒲に引き取られて生活しています。久羅と扶桑家との関係は始めは良好で、扶桑家の別荘である桔梗荘にも久羅は招待されていました。しかし沙絵に対するストーカー行為が発覚し、泰造の秘書の四宮正人及び沙絵の家庭教師の倉橋智子に、久羅は沙絵に近づくなと警告されます。久羅は、沙絵以外の扶桑家の関係者を恨みます。そして久羅は、今年の桔梗荘行きに沙絵が参加しない事を知り、桔梗荘で扶桑家の関係者を全て殺害する計画を建てます。桔梗荘を訪れるのは、祖父の泰造、祖母の菖蒲、妹の佳絵、秘書の四宮、家庭教師の倉橋、運転手の伊沢努です。それに桔梗荘の管理人の佐瀬も殺害対象です。久羅は、これらの殺害計画は、幽羅が自分を操って行わせていると思っていました。
 扶桑家の人達より先に桔梗荘へやってきた久羅は、管理人の佐瀬をナイフで刺し、死体を屋根裏部屋に隠します。そして久羅は、倉橋を殺害するための罠を浴室に仕掛け、伊沢を殺害するための罠を客室に仕掛け、泰造及び菖蒲を殺害するための罠を寝室の煙草に仕掛け、佳絵を殺害するための毒を冷蔵庫のジュースに仕込みます。四宮は自らの手で殺すつもりです。罠を仕掛け終えると、桔梗荘のインターホンが鳴ります。扶桑家の人達が到着すると思われる時刻よりもかなり早い時刻です。久羅が玄関を開けると、見知らぬ人達がいました。
 桔梗荘へ行く予定だった扶桑家の人達は、佳絵が熱を出したために桔梗荘行きを諦め、知人の那須一家を桔梗荘に招待しました。桔梗荘にやってきたのは、父親の那須鷹男、母親の富士子、娘の姫乃、甥の鍛冶浩一、姪の伍城葵、鷹男の弟の鳶男でした。桔梗荘に入った那須一家は、久羅を管理人の佐瀬と思い込みます。浩一は罠の仕掛けられた客室へ、葵は罠の仕掛けられた浴室へ入って行きます。何が起こったのか理解出来ない久羅は、扶桑一家が来るまでに全員を殺害する事を決意し、毒の残りを取りに屋根裏部屋へ行きます。そこには佐瀬の死体を隠した筈でしたが、佐瀬は死んでおらず、窓から逃げ出そうとしていました。久羅は、屋根裏部屋にあったロープで佐瀬の首を絞めます。
 毒を持って居間に戻った久羅は、ビールに毒を入れて配ります。鷹男は久羅も乾杯に誘い、久羅はこっそりと自分のビールを新しいものに入れ替えます。鷹男が乾杯しようとしたとき、インターホンが鳴ります。久羅が玄関を開けると、ロープにぶら下がった佐瀬の死体がありました。屋根裏部屋から落ちてきた佐瀬の死体がインターホンを押したようです。居間に戻った久羅は、誰もいなかったとごまかします。改めて乾杯が行われ、ビールを飲んだ鷹男及び富士子と、久羅は倒れ、死亡します。
 那須鳶男は、姫乃の事が好きでした。鳶男は、管理人がビールに毒を入れる所を目にし、管理人のビールを毒入りのものにすり替えました。鳶男は、鷹男及び富士子が死ねば姫乃を引き取って自分のものに出来ると考えていました。鳶男の思惑通り、鷹男及び富士子は死にましたが、両親の死に姫乃はパニック状態となります。鳶男は、姫乃を落ち着かせようと、冷蔵庫に入っていたジュースを姫乃に飲ませます。しかしこのジュースは、久羅が毒を仕込んだものでした。ジュースを飲んだ姫乃は死亡します。警察が桔梗荘に踏み込んだとき、唯一の生き残りである鳶男が、姫乃を抱き締めて呆然としていました。
 おとぎ話の世界で姫乃が事件を解決する物語は、鳶男が姫乃を生き返らせたいという思いで書いたものでした。そして鳶男には、幽羅の声が聞こえていました。幽羅は、姫乃を生き返らせる為には儀式を行う必要があると言います。その儀式とは・・・。

 「魔物どもの聖餐」のあらすじは、ここまでにしておきます。最後に幽羅が鳶男に行うよう命令する儀式の内容は、読んでみてのお楽しみにした方が良さそうなので。この最後のオチの為にこれまでの物語があったと言えます。最後のオチは、読者に恐怖を与える・・・かもしれません。
 このオチは、よかったと思いますが、途中の姫乃が主人公となるおとぎ話の世界での推理物語は、読むのがかなり苦痛でした。全体の1/3~1/2くらいの分量があり、読むのに時間がそこそこ必要です。しかし、ここを読んでいないと、最後のオチは楽しめないという・・・。もう少し短めにならなかったのか・・・。
 「魔物どもの聖餐」は、前作に続いて、やはりトンデモ系のミステリーでした。積木鏡介さんは、このままこの路線を突き進むのでしょうか?恐らく、そうなのでしょうね。その結果が、単行本四冊で姿を消すというものになったのでしょう。こういう系統の作品は、嫌いではないけど、好きとも言えないという評価が最大限で、大好きという人はなかなかいないでしょうからね。
 これで積木鏡介さんの作品は半分読破しました。残り二冊も読んでみます。


積木鏡介 「歪んだ創世記」

 積木鏡介さんの「歪んだ創世記」は、第6回メフィスト賞を受賞した作品で、1998年2月に単行本が発売されています。
 メフィスト賞と言えば、本ブログでも何度か取り上げた森博嗣さんや乾くるみさんが受賞してデビューした賞です。この2人以外にもメフィスト賞受賞作品をいくつか読んだことがあります。メフィスト賞は正統派推理小説が受賞する場合もあれば、とんでもない作品が受賞する場合もあり、当たり外れの差が大きいです。乾くるみさんの第4回メフィスト賞受賞作品「Jの神話」は、とんでもない作品でした。
 積木鏡介さんは、この「歪んだ創世記」を含む4作品を発表した後、新しい作品が発表された形跡もなく、不遇な作家さんです。4作品も、講談社ノベルズから単行本は出ていますが、その後に文庫化される事もなく、今では古書店で探すしか手に入れる方法はありません。売れなかったんでしょうね・・・。
 それでは以下、積木鏡介さんの「歪んだ創世記」のあらすじを記載します。今回のあらすじは、途中までとさせて頂きます。ですが、ある程度はネタバレ注意です。

<結末>
 捨子島で男女5人が殺害されているのが、地元の漁師の磯辺辰造により発見されます。身元が確認できているのは、島の所有者である階堂修平、その妻の弥生、家政婦の窪田和江、遊びに来ていた階堂夫妻の孫の有賀の4名です。残る1人は身元確認中です。

<結>
 男は、気が付くと、見知らぬ部屋に立っており、手には斧を握っていました。男は、これまでのことを何も覚えていません。部屋には男一人のようです。部屋の扉は破壊されており、どうやら男が斧で破壊したもののようです。部屋には、トランクが2つ置かれ、1つは男物、もう1つは女物です。部屋に置かれていた写真立てには、仲の良さそうな男女が写った写真が飾られていました。煙草を吸おうとしてライターを落とした男は、ベッドの下に隠れた何者かを発見します。
 女は、気が付くと、ベッドの下にいました。女はこれまでのことを何も覚えていません。女がベッドの下から部屋の様子を伺うと、部屋には斧を持った男が立っていました。恐怖を感じた女は、ベッドの下で息を潜めますが、ライターを落としてベッドの下を覗き込んだ男に見つかってしまいます。
 ベッドの下から出て来た女に、男は自分が何も覚えていないことを話します。女も同様です。2人は、写真に写った2人が自分達であることに気付きます。2人は恋人同士だったようです。男が女を斧で殺そうとしていたという疑いも捨てられませんが、2人は一時的に協力する事にします。
 部屋にあったトランクを調べた2人は、男の名前が階堂有賀であり、女の名前が矢吹由香里であると推測します。部屋からベランダに出た2人は、外は暗闇でしたが、この建物がそれほど大きな建物ではないことを知り、一階から明かりが漏れているのに気付きます。2人は、一階へ降りることを決意します。

<転>
 一階へと降りた2人は、パーティーの用意がされた食卓で、1人の老人と、1人の老婆とが椅子に座った状態で殺害され、更には調理場で1人の中年女性が殺害されているのを発見します。2人は全速力で建物から逃げ出し、暗闇の中を走り続けて入江に出ます。2人は、この場所がそれほど大きくない島である事に気付きます。2人は、入江の端にゴムボートを発見し、調べに行こうとします。
 その時、有賀は何か途轍もない者の視線を感じます。これにより有賀は、ゴムボートを調べるのは止めて部屋に戻り、朝になってから入江へ戻る方がよいと考えます。2人が建物へ戻ると、一階にあった3人の死体は消えており、破壊されていた部屋の扉は元に戻っていました。部屋に戻った2人は、眠りに落ちます。

<承>
 2人は、ドアをノックする音で目覚めます。ノックしていたのは、中年の女性で、昼食の準備が出来たと2人を呼びに来ました。この女性は、昨夜に調理場で殺害されていたはずの人物で、家政婦の窪田和江です。2人が一階に降りると、有賀の祖父の修平と、祖母の弥生がいました。この2人も昨夜に殺害されていたはずです。
 有賀及び由香里は、修平、弥生及び和江との会話から、2人が1ヶ月後に結婚する予定である事を知り、有賀の両親は14年前に死んだこと、有賀には扇舟という弟がいる事を知ります。14年前、扇舟は両親を殺害し、施設に入れられました。そして最近になって扇舟は施設を脱走し、行方をくらましています。扇舟は、有賀の結婚を知って脱走し、殺害をほのめかす手紙を修平に送って来ていました。また修平の発言から、有賀及び由香里がこの島にやって来たのは今朝である事がわかります。
 部屋に戻った有賀及び由香里は、辻褄が合わない出来事について話し合います。由香里は、時間が不連続に過去に戻っていると推測し、殺人鬼は扇舟であると考えます。
 そして斧を持った有賀は、由香里と共に、入江のゴムボートを調べに行きます。ゴムボートの中には、若い男の死体がありました。死体の顔は、有賀と同じでした。由香里は、有賀と扇舟とが双子であることに気付きます。有賀は、自分が有賀なのか、それとも扇舟なのかわからなくなります。

<***>
 男は、どこかわからない場所にいました。そこは、この世界の創造主、即ち作者の存在する場所でした。作者は、この事件の真相を語ります。
 作者は、推理小説を作りましたが、編集のミスで小説の起承転結が逆転し、結転承起の順に並んでしまいました。本来の物語では、扇舟が有賀を殺害して入れ替わり、修平、弥生及び和江を殺害した後、由香里を殺そうとして反撃に合って死亡するというものでした。このため、男の正体は扇舟であり、由香里を殺害しようとする<結>から物語が始まってしまったため、それ以前の記憶がないことになってしまいました。
 そしてこの小説は、作者の力も及ばない超越者の介在により、物語が修正されてしまい、作者にもどのような展開が待っているかわからなくなっています。超越者とは、読者です。ただし、<結末>に記載された男女5人が殺害されるという結末だけは確定しています。本来の物語では、由香里が生き残るはずでした。本来は、入江のゴムボートを調べに行った2人が有賀の死体を発見し、由香里が有賀の正体が扇舟と気付き、扇舟が由香里に襲いかかりますが由香里の反撃に合い、逃げ出した由香里を扇舟が追うという展開でした。しかし今ではゴムボートの死体発見時に男は斧を持っており、由香里が反撃する余地がなさそうです。今では誰が死んで誰が生き残るのか、作者もわかりません。
 そして作者は姿を消します。

<起>
 有賀及び由香里は、磯辺辰造の漁船に乗って捨子島へやって来ます。和江の迎えで階堂家にたどり着いた2人は、部屋で休みます。その後、有賀は散歩に出かけ、由香里はシャワーを浴びます。入江にやって来た有賀は、ゴムボートを発見して調べに行きます。扇舟は、有賀を殺害し、復活します。
 そして、扇舟と由香里がゴムボートで有賀の死体を発見するシーンになります。扇舟は、握り締めていた斧を振り下ろそうとします。

<>
 ここで由香里は、物語の矛盾に気付きます。2人以外にの修平、弥生及び和江達には過去がありました。そして物語中には、男が扇舟ではないことを示す記載が存在していました。斧を振り上げていた男は、その場にしゃがみ込みます。
 この記載は作者のミスでした。しかし、作者にも理解不能な事が次々と起こり始めます。作者は、定められた結末を目指して、物語に手を加え始めます・・・。

 物語の途中ですが、あらすじはこのあたりで終わりとさせて頂きます。最後までネタバレしてしまうのが申し訳ないというのもありますが、ここから先の物語が滅茶苦茶過ぎてあらすじにまとめられなかったというのが本当のところです。
 この先、物語の登場人物である男女2人と、結末を実現させるためにどちら一方を殺そうとする作者との戦いが繰り広げられます。神の如き力を駆使して、作者は殺し屋、宇宙人、更にはクトゥルーなどを物語に投入して行きます。そして、作者の邪魔をする編集者や読者までが登場し・・・。
 滅茶苦茶ですね。この滅茶苦茶な展開の先にどんな結末が待っているのでしょう。作者が望む結末なのか、5人目の犠牲者は出てしまうのか。興味がある方は、御自分の目でご確認下さい。
 この「歪んだ創世記」は、恐らく10人中5人は、否定的な感想を述べる気がします。私は、決して傑作だなどとは言いませんが、ゲテモノな作品の中では読める方だと思いました。ある意味、メフィスト賞らしい作品だったとも思います。
 年に何十冊もミステリーを読むような人であれば、試しに読んでみてもいいのではないかと思います。あまり読書しない人にあえてこの作品をオススメはしないです。