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浦賀和宏 「HELL 女王暗殺」

 浦賀和宏さんの「HELL 女王暗殺」は、2010年1月に「女王暗殺」のタイトルで講談社ノベルスから発売され、その後の2018年6月に「HELL 女王暗殺」のタイトルに変わって幻冬舎文庫から発売されています。萩原重化学工業シリーズ(安藤直樹シリーズ・シーズン2)の第2作であり、浦賀和宏さんがお亡くなりになってしまったため、シリーズ最後となった作品です。
 「HELL」の物語は、前作「HEAVEN」の物語と密接な繋がりがあります。時系列的には「HELL」が先で、「HEAVEN」が後です。恐らくはどちらを先に読んでも楽しめると思いますが、どちらを先に読むかで、物語全体の印象が大きく変わるのではないかと思います。でもやはり、発表順で「HEAVEN」を先に読んで「HELL」を後に読む方が驚きは多いと思われるため、この順番がお勧めです。
 それでは以下、浦賀和宏さんの「HEAVEN 女王暗殺」のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

<プロローグ>
 「私」は、気が付くと花壇の中に倒れていました。私は、自分が女だということは分かりましたが、自分が誰で何故この場所にいるのか全く思い出せません。そして私は男達に追われているようで、花壇から起き上がった私は森の中へ逃げ込みます。森を抜けた私は駐車場に出ます。駐車場には車に乗り込もうとしている1人の男性がおり、私はこの男性に助けを求めます。男性は私を助けてくれ、武田誠と名乗ります。

<オーディナリー・ワールド>
 武田誠は、社会的地位のある人物とその愛人との間に生まれた子供で、都心の超高層マンションの最上階で母と2人で不自由なく暮らして来ましたが、父親が誰なのかを知りませんでした。誠は、小学生の頃に弁膜症という心臓の病気が見つかり、心臓の弁を人工弁に置き換える手術をしていました。手術は成功しましたが、誠は月に一度の検査と、抗凝固剤(ワーファリン)を毎日飲む必要がありました。
 中学生になり、誠は久能という友達が出来ました。久能は、誠が自宅に招いた初めての友達でした。
 高校卒業間近のとき、マンションの前で誠の母が何者かに刺されて死亡します。死の間際に母は誠に電話をかけ、自分が本当の母ではないことを告白し、本当の母の名前を告げ、父の名前を告げようとして「1101」という謎の数字を呟いて力尽きます。母の死後も父からの援助は続き、誠は不自由なく生活出来ました。
 高校卒業後、誠は検査で人工弁に血液が凝固している事が判明します。担当医の諸星は、人工弁を交換する手術を行うことを決めます。手術のために入院した誠は、濱口という看護士に車椅子に乗せられて病室まで運ばれます。その途中、談話スペースの本棚に久能正治という作家の「MEMORIES」本があるのを発見した誠は、中学時代の友人だった久能の事を思い出します。
 久能正治は、大学に入って書いた小説が新人賞を受賞しました。父は会社が倒産して自殺しており、久能は母と2人暮らしでした。久能が賞を取った事を、母も親戚も誰も認めてはくれず、久能が書いた2作目以降の作品は全く売れませんでした。久能は小説を書くことができなくなり、これを母や親戚達のせいだと思うようになっていました。
 ある日、大学で久能はファンだという女性に声を掛けられます。この女性、渡辺カンナは久能にサインを求め、プレゼントの紙袋を久能に渡します。その後、帰宅した久能は、母と口論になり、母を刺し殺してしまいます。久能はカンナから貰ったプレゼントの中に携帯番号が記されたメッセージカードを見つけ、カンナに電話をかけて母を殺した事を告白します。カンナは、久能を助けてあげられると言います。
 神奈川県警の近藤祐二は、部下の松前と共に、警察署に捜索願をしにやってきた今井という女性から話を聞きます。今井は、隣の久能家の人が行方不明だと話します。久能家は母子の2人暮らしで、息子が見たことない男女と共にワゴン車へ荷物を運び込むのを目撃した日以降、姿を見なくなったと今井は話します。事件の可能性もありそうでしたが、捜索願は親族でなければ出す事ができず、警察が捜査できる段階ではありませんでした。
 その後、近藤及び松前は、殺人事件の捜査に加わります。殺されたのは椎名光彦という男性で、死体からは心臓が持ち去られていました。椎名は半年前に心臓の弁を人工弁に取り替える手術を受けていました。近藤及び松前は、手術を担当した諸星に話を聞きます。諸星は、人工弁の手術は簡単なもので、医療ミスを隠すために心臓を持ち去ると言うことは考えられないと断言します。
 警察署に椎名を殺した犯人を知っているという梶原孝という男性がやってきます。梶原も人工弁の手術を椎名と同時期に受けており、椎名と同じ病室にいた事がありました。梶原は、その病院の看護士の濱口が犯人で、自分も濱口に襲われたと言います。梶原は、同じ時期に同じ手術を受けた武田も濱口に狙われている可能性が高いと言い、武田を囮にして濱口を捕まえる事を提案します。
 武田誠は、人工弁の再手術を終え、日常生活に戻っていました。誠は、父から送られて来るお金だけで、特に働く事なく十分な生活が出来ました。ある日、誠は、ツナギの作業服を着た男とボフヘアーの女との2人に後を付けられている事に気付きます。誠は、この2人が母を殺害した犯人ではないかと考えて警察に通報します。しばらくして、事件の担当だった木下刑事が、管轄外の神奈川県警の近藤及び松前と、入院した病院で同室だった梶原とを連れてやってきます。ツナギの男は濱口ではありませんでしたが、誠は濱口を捕まえるために警察に協力する事にします。
 久能は、カンナと熊谷という男とが用意したマンションの一室に潜んでいました。久能が殺した母の遺体を処理したカンナ及び熊谷は、ある人を殺すという計画の仲間になることを久能に求めます。誰を殺すのかは教えて貰えませんでしたが、カンナに好意を抱いていた久能はカンナ達の仲間になることを決めます。この部屋での生活がしばらく続いた後、カンナは久能に作品を馬鹿にした人を尋ね、その人を殺そうと持ち掛けます。久能は小学校の担任だった黒川幸子の名前を挙げます。翌週、カンナは久能をマンションから連れ出して雑居ビルの屋上へやってきます。近くの商業施設のベンチには黒川が座っており、カンナはライフル銃を久能に渡して黒川を狙撃させます。カンナは何人でも殺そうと言い、カンナ達が殺そうと計画している人物を久能に教えます。その人物は、有名な政治家でした。
 誠は梶原と共に部屋にこもり、テレビを見て時間を潰していました。テレビでは、保守党の藪木が馬場総理を国会で追及する様子が映されていました。保守党の総裁の藪木は若く美しい女性で人気があり、次期総理と目される人物です。しかし社会主義政党に奪われた政権を保守党が取り戻すために、副総裁の福岡源三が人気のある藪木を総裁に祭り上げただけで、実質的に権利を握っているのは福岡だという見方が有力でした。
 その後、誠はスーパーへ買い物に出ます。刑事の松前が少し離れて護衛しています。誠がレジで会計を済ませて購入した物を袋に詰めていたとき、誠の背後に濱口が現れます。濱口は誠に何かを伝えようとしますが、松前が現れたため逃走します。スーパーを出て道路に飛び出した濱口は、猛スピードで走ってきた白いバンに跳ねられます。白いバンに乗っていたのは誠を付け回していた男女で、バンはそのまま走り去ります。駆け寄った誠に濱口は、「7256」という数字を言い残して死亡します。
 1ヶ月後、誠は定期検査のために病院へ行きます。担当医の諸星は休んでおり、渋谷という医師が変わりに診察を行います。
 神奈川県警に久能家の隣に住む今井が再びやってきます。今井は久能の母の兄の寺沢を連れてきていました。寺沢が捜索願を出した事で捜査を行う事になり、近藤及び松前は久能家を訪れます。家の中は綺麗でしたが、近藤は血痕を発見します。母親が息子に殺され、息子が仲間と共に死体を運び出して行方をくらませたと推測されます。
 ある日、担当医の諸星から電話がかかり、誠は重要な話しがあると言って、とあるホテルに呼び出されます。誠は指定されたホテルを訪れ、諸星を待ちますが、諸星は結局現れませんでした。諦めた誠はホテルを出て駐車場に停めた車に乗り込もうとします。その時、男達に追われた女性が現れて、誠に助けを求めます。

<インターミッション>
 女性が逃げ出したホテルの部屋には、ポニーテールの少女・想吹綾佳と、ツナギを着た男・高野がいました。綾佳は、女性に逃げられた高野に早く自分を呼べばよかったのにと言い、高野は、綾佳は祥子と上手くいかないと思ったと言い訳します。綾佳は、逃げた女性を武田誠が助けたのだと推測し、武田の元へ行くと言います。2人のいる部屋の番号は、「1101」でした。

<スペシャル・ワールド>
 誠が助けた女性は、記憶喪失で何も覚えていませんでした。誠は、女性を自宅に連れて帰り、匿う事にします。ズボンのポケットに入っていた鍵が女性の正体を探る手掛かりになりそうでしたが、どこの鍵なのかは分かりませんでした。誠は、取りあえず女性を「理穂」と呼ぶ事にします。この名前は、殺された誠の母の名前でした。
 次の日、マンションの隣の部屋に引っ越してきた想吹綾佳という女性が挨拶しにやってきます。数日後に誠及び理穂がスーパーで買い物をしていると綾佳に出会います。理穂は綾佳と仲良くなり、夕食に招待します。理穂は、株の売買で大儲けし、この高級マンションに引っ越してきたと話します。誠及び理穂は、一緒に暮らすうちに、お互いに好意を持つようになります。
 濱口をひき殺したバンは発見されず、近藤及び松前は諸星医師に事後報告するために病院を訪れます。しかし諸星は病院を辞めていました。諸星は急に病院を辞めたようで、辞めた理由などは誰も知りません。2人は諸星の住所を看護士から聞き出します。またこのときに看護士は、濱口が藪木という政治家の熱烈なファンだったと話します。2人は、諸星の家を訪れますが、留守のようでした。諸星は娘と2人暮らしでしたが、近隣の住人は2、3週間前から姿を見ていないと話します。2人は、諸星の娘のほのかが通っていた短大を訪れ、ほのかの休学届けが父親により出されている事を知らされます。2人が署に戻ると、冷蔵庫にコンクリート詰めにした久能今日子の遺体を埋め立て工事現場に遺棄したと若い男からの通報があったとの連絡が入ります。近藤は通報者は息子だろうと推測します。
 誠は、理穂とスーパーで買い物をしているとき、白いバンに乗っていた女性を見つけます。女性はすぐに姿を消しますが、誠は理穂がバンの女性ではなかった事が判明し、安堵します。自宅に戻った誠及び理穂は、テレビで久能今日子の遺体が発見されたとのニュースを見ます。誠は、被害者の久能という名前に、昔の友人を思い出します。
 久能今日子の葬儀が行われます。久能正治が現れるの可能性があるため、近藤及び松前を含む刑事達が葬儀に紛れ込んで張り込みます。葬儀の途中で、今日子の兄の寺沢が近藤及び松前に苦情を言い始めます。寺沢をなだめようとしていた松前が突然倒れます。松前は死亡しており、どこかから狙撃されたようでした。そして葬儀に参加していた人達が次々と狙撃されて倒れていきます。狙撃が近くの廃ビルからのものと判断した近藤は、このビルへ急行します。近藤はビルを捜索しますが、不審者は見当たりませんでした。
 少し前。久能はカンナとデートに出かけます。場所は、久能が黒川を殺した商業施設でした。久能は、カンナがアイスクリームを買いに行った隙に公衆電話から警察に電話をかけ、母の遺体を遺棄した場所を通報します。しかしこの行動はカンナに発見されます。久能は、母の遺体が発見される事で葬儀が行われ、葬儀に訪れた親戚達をまとめて殺害するという計画をカンナに提案します。そして葬儀の日、久能はカンナ及び熊谷と共に葬儀場近くのビルへ行き、カンナと共にビルの上階の部屋に入って、葬儀に訪れた人々を狙撃して殺します。その後、カンナはビルから久能を逃がして内側から施錠し、久能は熊谷が運転する車で逃走します。ビル内に残ったカンナがどうやって脱出するのか久能は分かりません。熊谷は、カンナは魔法が使えるとだけ久能に話します。
 誠が定期検査のために病院へ行く日がやってきます。誠は担当医の諸星から、理穂に関する何らか情報が得られるかもしれないと考えていました。ただ誠も理穂もこのままの2人での生活が続いて欲しいと思っており、諸星から情報を得ることに不安も感じています。誠は理穂と共に病院へ行きますが、諸星は病院を辞めていました。誠及び理穂が病院から自宅へ戻ると、梶原が訪ねてきます。更にしばらくして、想吹綾佳も訪ねてきます。4人で食事を取ることになり、誠及び梶原が諸星が病院を辞めた事について話していると、綾佳は諸星の事を知っていると話します。誠は、綾佳から諸星の家の住人を教えて貰います。
 翌日、誠及び綾佳は、諸星の家を訪れます。家には誰もいないようでしたが、理穂が持っていた鍵はこの家の鍵であった事が分かります。理穂は、諸星の家に入り、一枚の年賀状を持ち帰ってきます。年賀状は、誠が手術を行った病院の院長である阿部康博からの物で、家族の名前も印刷されており、その中に娘の眞美の名前がありました。理穂は、自分の事は思い出せないけれど、この眞美に会った事があると思い出します。眞美に会いに行けば、理穂が何者なのか分かるかもしれません。2人は、明日に眞美に会いに行く事にします。
 翌日、誠の家に熊谷明という弁護士が訪ねてきます。熊谷は誠の父の顧問弁護士で、父が病気でもって1ヶ月だと言うことを知らせに来ました。熊谷は、父の名前を誠に告げます。誠の父は、総理大臣の馬場でした。父は誠に会う事を望んでおり、誠は父に会いに行く事を決意します。理穂は1人で眞美に会いに行こうとしており、誠は梶原に協力してもらう事を勧めます。
 中学一年生の阿部眞美は、ある日、見知らぬ女性に声をかけられ、眞美の父親が行った不正の証拠を収めたDVDを預かります。その後、何の連絡もなく3ヶ月が過ぎた頃、同じ女性が男性を連れて現れます。男性は梶原と言い、女性は理穂と呼ばれていましたが、以前に会ったときに女性は別の名前を名乗っていたので眞美は不思議に思います。理穂はDVDを返して欲しいと言い、眞美と共に家へ向かいます。この光景を近くで見張っていた綾佳は、高野に電話をかけ、DVDが眞美の自宅に有ることを伝え、祥子の出動を要請します。
 眞美の家まで電車で向かう事になり、眞美、理穂及び梶原は駅にやってきます。電車を待っていると、突然にボブヘアーの女が現れ、理穂と共にホームから飛び降ります。理穂は梶原に助けられて何とかホームに戻りますが、女はやってきた電車にひかれます。理穂達は、駅から出てタクシーに乗り込み、眞美の家へ向かいます。
 家に着いて自分の部屋に入った眞美は、隠していたDVDを取り出します。そのとき、部屋の扉がノックされ、眞美が扉を開けると、ボブヘアーの女が包丁を持って立っていました。女は包丁で眞美に襲いかかり、眞美は殺されそうになりますが、間一髪で梶原に助けられます。梶原の反撃で、包丁は女の右目に突き刺さり、女は倒れます。眞美の家に置いてあった新聞に、保守党の藪木が日本武道館で集会を開くという記事を見た理穂は、はっきりとは思い出せませんが、ここで何かが起こると感じ、武道館へ行く事を主張します。3人が話し合っていると、倒れていた女が立ち上がり、顔に刺さった包丁を抜いて襲いかかります。3人は、眞美の父親の車で逃げようとします。包丁を持った女は、車のボンネットに登ってきます。梶原は、車を発進させて急停車させることで女を振り落とし、女をひき殺します。そのまま3人が乗る車は武道館を目指し、30分ほど走って御茶ノ水までやってきます。突然、3人が乗る車は、後ろから白いバンに追突されます。白いバンを運転しているのは、またもやボブヘアーの女で、顔の傷などはありませんでした。白いバンは3人の乗る車を押して橋から神田川に転落させます。転落した車は川の中に沈んでいき、それを見届けた白いバンの女、祥子は武道館へ向かいます。祥子には、もう一人殺さなければならない人間がいました。
 誠は熊谷の車で父のいる場所へやってきます。そこは、誠が諸星に呼び出され、理穂に出会ったホテルでした。ホテルの一室には、総理大臣の馬場が瀕死で意識のない状態でベッドに寝ていました。熊谷は、テレビなどで見る総理大臣は影武者だと誠に説明します。そしてこの部屋には、想吹綾佳が誠を待っていました。綾佳は、誠のボディガードとしてマンションの隣にいた事を話します。綾佳は誠に本当の母の名前を知っているか訪ねます。誠は、育ての母が殺害された際に聞かされた名前を綾佳に告げます。綾佳は、その名前は保守党の藪木の本名であり、誠は総理大臣の馬場と、対立する保守党の総裁である藪木との間に出来た子供でした。綾佳は、諸星は馬場総理の主治医だったことを話し、理穂が誰なのかは知らないけれど、恐らく諸星の関係者だと話します。また綾佳は、今日の集会で藪木が暗殺される予定であることを話します。誠は自分を捨てた母が殺される瞬間を見たいと言い、これを認めた綾佳及び熊谷と共に武道館へ向かいます。
 誠、綾佳及び熊谷は、武道館の正面から堂々と入り、厳重なボディチェックを受け、会場の最前列の席に座ります。そして集会は始まり、見たことのある政治家や評論家達が壇上で話し、遂に藪木が壇上に現れます。
 その頃、久能は、カンナと共に、ターゲットを狙える場所に身を潜めていました。ターゲットが現れたとカンナが告げ、久能はライフル銃のスコープを覗きます。ターゲットの頭は、どんぴしゃりの位置にありました。
 誠は、立ち上がって藪木の方へ走り寄り、逃げろと叫びます。誠は大勢のSP達に取り押さえられます。
 久能は、スコープを覗き込み、ライフル銃の引き金に指をかけます。そして、銃声が轟きます。
 誠はSP達に藪木が狙われていることを主張しますが、誰も信じません。そこへ、別の場所で副総裁の福岡源三を狙った暗殺未遂事件が起こったとの連絡が入ります。福岡はライフル銃で狙われましたが、暗殺者は巡回中の警察官に発見されて射殺されたとの事でした。誠は、暗殺者の仲間と疑われる事になり、自分が騙されて利用された事を悟ります。
 少し前、銃声がした部屋にSP達が駆けつけると、福岡を狙った暗殺者が射殺されていました。暗殺者を射殺した女性は、巡回中に暗殺者を発見したとSP達に話します。この女性、渡辺カンナは、自分の警察手帳をSP達に見せます。
 SP達に捕まった誠を、離れた場所から綾佳及び熊谷が見ていました。綾佳は、後のことを熊谷に任せて会場を去ります。会場から去る綾佳は、会場へ入る祥子とすれ違います。会場に残った熊谷は、タブレット端末であるプログラムを起動します。熊谷は、プログラムに要求された暗証番号「7256」を入力し、表示された「Enter」キーを押そうとします。
 その頃、命を狙われた福岡は、車でホテルへ向かっていました。今回の暗殺未遂事件は、福岡が仕組んだものでした。

 保守党の人気回復のために藪木を担ぎ上げた福岡は、藪木の役目は終わったと考え、自分が次期総理大臣となるために、藪木を暗殺する事を計画しました。暗殺には馬場総理の隠し子である武田誠を利用し、誠の心臓に小型爆弾を埋め込んで藪木の近くで爆発させるという方法が選ばれました。誠の担当医の諸星は、この計画に賛同せず、誠の母の武田理穂に打ち明けようとしたため、福岡は熊谷に理穂を殺させます。また福岡は諸星の娘を人質として脅迫し、諸星に誠への爆弾埋め込み手術を行わせます。濱口は藪木暗殺計画を知りましたが、爆弾を埋め込まれたのが誰なのかまでは知らず、暗殺計画を阻止するために該当しそうな患者を殺して心臓を持ち去っていました。福岡は、祥子及び高野に濱口を殺させます。
 諸星は、誠の手術の様子を撮影した動画が収められたらDVDを持ち出し、馬場総理の看護をしていた看護師の女と共にどこかへ隠してしまいます。祥子及び高野が看護師の女を捕らえて隠し場所を吐かせようとしますが、女はホテルの窓から飛び降りて逃走してしまいました。その後、女が記憶喪失となって誠と共にいる事がわかり、読心術を使う綾佳が見張りとしてつく事になりました。そして女がDVDを阿部眞美に託した事がわかり、祥子がDVDの回収に向かいます。
 福岡は、藪木暗殺の犯人として自分が疑われる事を避けるため、藪木暗殺と同時に自分の暗殺未遂事件を起こす事にします。このために、誠の友人だった久能が利用されます。渡辺カンナは久能を誘導して福岡源三の暗殺を決意させ、暗殺実行の直前で久能を射殺しました。

 車に乗る福岡は、今頃は誠に埋め込んだ爆弾が熊谷により爆発させられ、藪木が死んでいる頃だと思い、計画が上手くいった事を密かに喜びます。しかしそこへ電話がかかってきます。電話の相手は殺したと思っていた藪木からのものでした。藪木は、祥子及び綾佳は自分の部下であり、福岡の計画を以前から知っていたと話します。福岡は一年前に心臓にペースメーカーを入れる手術を行っており、その時に誠に埋め込んだのと同じ爆弾を福岡の心臓に埋め込んだと話します。これを聞いた福岡は、車を止めさせ、心臓を取ってくれと叫びながら車を飛び出し、そこで倒れます。福岡は、ショックで心臓が停止し、死亡していました。

 近藤は、警察署の自分のデスクに座りながら、部下の松前が狙撃されたときの事を思い出していました。あの時、狙撃犯がいたビルに近藤及び大勢の警察官が駆け付けましたが、狙撃犯の姿はなく、逃走経路も不明のままでした。近藤は、部下の渡辺カンナが自分より先にビルに駆け付けていた事を思い出し、渡辺が狙撃犯を手引きしていたとすればつじつまは合うと考えますが、思い過ごしだと考え直します。警察署には、三十代前半の女性が捜索願を出す相談に来ていました。女性は穂波留美と名乗り、恋人の安藤直樹を探して欲しいと言います。

 祥子により神田川に沈められた車から、理穂、梶原及び眞美は何とか脱出します。3人は救助されますが、警察に事情聴取を受けます。3人は、殺し屋に襲われた事、武道館の集会で大変な事が起こる事などを話しますが、信じてはもらえませんでした。理穂が記憶喪失だとその時に初めて知った眞美は、理穂の本名を知っていると話します。眞美から本名を聞いた理穂は、記憶を取り戻します。
 暗証番号を入力してEnterを押そうとした熊谷は、突然に現れた祥子によりこれを阻止され、祥子に刺し殺されます。会場は混乱し、祥子はSPに射殺されます。目の前で起こっている事が理解出来ない誠に、藪木が話し掛けてきます。藪木は、自分は誠の母ではないと言い、綾佳が何故そんな嘘をついたのか分からないと話します。藪木は、この混乱に乗じて逃げるよう誠に言うと、福岡に電話をかけます。誠は武道館を出て自宅へ戻ります。部屋に理穂はいませんでした。
 警察署を出て誠のマンションへ戻る途中、理穂及び梶原は祥子に襲われます。祥子にナイフで刺され、梶原は死亡し、理穂も倒れて死は間近でした。理穂は最後の力を振り絞って誠に電話をかけます。電話に出た誠に、理穂は、祥子に刺された事、祥子が不死身だという事、藪木の掌の上で皆が踊らされていた事、そして自分の記憶が戻った事を話します。理穂は、あのホテルで馬場総理の看護を担当していた看護士であり、その昔に馬場総理の愛人だったことがあり、その時に子供を産んだけれど子供は取り上げられてどうなったか分からないと話します。そして理穂は、自分の本名が新理司であることを告げて、死亡します。誠の育ての母である武田理穂が死ぬ前に誠に伝えた本当の母の名前は、新理司でした。
 理穂の本名を知った誠は、咆哮し、抜け殻のようになってマンションを出ます。マンションの前には梶原と新理司の死体が横たわっていました。誠は、母の名前である新理司を名乗って、母を殺した藪木への復讐を決意します。

 以上が、浦賀和宏さんの「HELL 女王暗殺」の物語です。
 理穂の正体が諸星の娘と思わせておいて、新理司だったという、どんでん返しの結末でした。確かに、理穂の正体が新理司とは思いもしませんでした。驚きましたが、ザッと読み返してみて、記憶喪失の理穂が誠の母親ほどの年齢であるとはとうてい思えず、ややアンフェアに感じられました。
 「HEAVEN」で新理司が爆死した理由が、この時の爆弾だったという事が分かりました。「HEAVEN」では謎の多い存在だった新理司が、どのような人物だったのかが明かされ、少しスッキリしました。「HEAVEN」と「HELL」の2つ合わせて1つの作品と思って読むべきなのだと思います。
 ただし、誠の心臓に埋め込まれた爆弾って、どのくらいのサイズで、どのくらいの破壊力があるのか、疑問です。体内に埋め込まれても大丈夫という事は、それほど大きなものではない、と言うかかなり小型の爆弾だと考えられます。そんな小型爆弾で、本人を殺すのであれば問題ないでしょうが、周囲の人を巻き込んで殺す程の爆発が起こるでしょうか?少し無理が有るように思えます。
 それから、福岡による藪木の暗殺計画ですが、少し回りくど過ぎでは?そんな小型爆弾があるのなら、藪木を殺す他の方法がいくらでもありそうに思えます。爆弾を埋め込まれた誠が藪木に近付いてくれるという保証はどこにもなく、むしろ失敗する要因が多過ぎませんか?秘密を知った関係者は祥子を使ってあれだけ堂々と殺させているのに、藪木だけ心臓に埋め込んだ爆弾で爆殺って、バランスが悪過ぎます。福岡の計画が明かされる場面では、何これと思ってしまいました。
 話しは変わって、本書では数ページだけてすが、安藤直樹シリーズのシーズン1の留美が登場し、安藤直樹も名前だけ登場しました。安藤直樹は行方不明との事でしたが・・・。本書の解説によれば、安藤直樹シリーズ及び萩原重化学工業シリーズは、次の一冊で完結すると作者の浦賀和宏さんがTwitterでつぶやいていたとの事。残念ながら、浦賀さんがお亡くなりになってしまったため、最後の一冊が出版される事がもうないという事が残念でなりません。
 
 

浦賀和宏 「HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件」

 浦賀和宏さんの「HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件」は、2009年6月に「萩原重化学工業連続殺人事件」のタイトルで講談社ノベルスから発売され、その後の2018年4月に「HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件」のタイトルに変わって幻冬舎文庫から発売されています。
 安藤直樹シリーズ・シーズン2と言われる萩原重化学工業シリーズの第1番目の作品です。安藤直樹シリーズ・シリーズ1の最後の作品「透明人間」が2003年なので、6年間というやや長い年月を経てのシリーズ再開です。シリーズと言っても、この「HEAVEN」と、次の「HELL」の二冊だけなのですが。
 なお、安藤直樹シリーズ・シーズン2とは言いながら、この作品に安藤直樹は登場しません。安藤裕子、金田、飯島なども登場しません。物語の黒幕っぽかった萩原は名前だけ登場します。未解決だった直樹達の問題を解決するのではなく、萩原の企みが明かされるシリーズなのかもしれません。
 物語の世界は、シーズン1と共通の世界で、時間的に5年~10年くらい後に相当するのではないかと思われます。シーズン1との連続性は少ないため、この「HEAVEN」から読み始めても何の問題もなさそうです。
 それでは以下、浦賀和宏さんの「HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件」のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。
 なおこの作品には、ある登場人物が事件後にノートに書いた手記という体裁で記載されている箇所が所々にあります。以下のあらすじでは、この手記の箇所について、段落の頭に(ノート)と記載しておきます。

 祥子は、電車の脱線事故で両親を亡くし、自身も大怪我をして2ヶ月間入院しました。退院後、祥子は児童養護施設に引き取られます。事故の後、祥子は感情を全く持たない子供になっていました。
 施設の男の子達がはしごを持ち出して建物の屋根に登ろうとしましたが、怖くて誰も登ることが出来ずにいました。恐怖心を持たない祥子は、はしごを軽々と登ってしまいます。その後、青柳輝樹という男の子が恐る恐る屋根まで登ってきます。輝樹は祥子の事が好きだと告白し、祥子は輝樹とキスしますが、何の感情も湧いてきませんでした。
 祥子の友人のリエが施設のお金を盗むという事件が起こります。園長はリエを施設の外に締め出し、リエは泣いて許しを請いますが、園長は許しません。夜になり、園長の息子の氷田光一が、リエを中に迎え入れます。
 夏休み。祥子達は公園に隣接する森を探検し、小さな洋館を発見します。怖がる皆を置いて祥子は洋館に入って行き、皆も祥子の後を追って洋館へ入ります。洋館の2階で物音がして皆は逃げ帰り、祥子はリエに懇願されて洋館の探索を断念します。数日後、祥子は1人で洋館に行きます。しかし、輝樹が祥子の後を付いて来ていました。2人は洋館へ入り、寝室でセックスします。輝樹は祥子の事を好きだと言い、祥子も輝樹に好きだと言っていました。

 有葉零は、ナンパする女性を探して街を歩き、ハンバーガー店で1人の女性を見つけます。女性はこの街の航空写真を見ており、零が声をかけると新理司という人物の家を探しているようでした。新理司は、この街に住んでいる作家で、その家はゴミ屋敷として有名でした。女性は、自分がある組織の殺し屋で、新理司を暗殺する使命を負ってこの街に来たと話します。零は、冗談だと思います。女性は祥子と名乗り、零が新理司の家まで祥子を案内する事になりますが、零は祥子を自分の家へ連れて行きます。零は家の2階へ上がり、2階にある2部屋のうち東側を弟の部屋と言い、西側の自分の部屋へ祥子を連れ込みます。零は祥子とセックスし、その最中に首を絞めてと言われて祥子の首を絞めます。そして気が付くと祥子は死亡していました。
 零は、祥子の死体を川に捨てようと考え、死体を絨毯で包んで自転車にくくりつけ、自転車で川を目指します。その途中、零は人気の少なそうな廃工場を通り抜けようとします。廃工場には、知人の斉藤晴彦とその彼女の春菜が煙草を吸っており、晴彦は零に声をかけてきます。零は、2人を無視して来た道を急いで引き返し、家に戻ってきます。知人に目撃された事で観念した零は、警察に電話をかけて自首します。しばらくして刑事達が家にやってきて、零の話を聞いて死体を調べようとしますが、死体はどこにもありませんでした。零が見に行くと、死体を包んでいた絨毯は広げられており、祥子の死体はどこにも見当たりませんでした。家の周りに集まっていた野次馬の中に晴彦及び春菜を見つけた零は、自分が死体を運んでいた事を証言させようとしますが、2人は絨毯を運ぶ零を見ただけで、死体がその中に包まれていたかどうか分からないと答えます。刑事の近藤は、韓国旅行中の零の母親に電話をかけて話をし、零を逮捕することなく引き上げて行きます。
 (ノート)有葉零の弟の一(はじめ)は、引きこもりでした。一は、向かいの瀬田家で家政婦を窓から見て好きになりました。零は、祥子を殺してしまい、自首したけれど、死体が消えて逮捕されなかった事を一に話しました。一は、零の話に興味を示しませんでした。一は、零とは異なる自分の醜い顔を気にしていました。一がテレビを見ると、八王子で頭部を切断された少女の遺体が発見されたというニュースが流れていました。その時、家のインターホンが鳴り、一が玄関を開けると、瀬田家の家政婦がいました。家政婦は、零が家にいない事を確認し、零が最近に遭遇した事件のせいで壊れ始めていると言いました。家政婦は一に零の事を色々と質問し、一は家政婦を追い返しました。
 公園に隣接する森の中にある洋館で女性の他殺死体が発見されます。女性の死体は、頭部を額の位置で真一文字に切断され、脳がありませんでした。刑事の真鍋勝、鮎川、如月礼子等が捜査に当たります。女性の身元を示す物はありませんでしたが、凶器の鋸は現場に残されていました。現場となった洋館は、萩原重化学工業の社長である萩原良二が所有者でした。萩原は外資系の研究所の研究員でしたが、研究所を辞めて企業買収に乗り出し、買収した重化学工場を手始めに、周囲の企業や工場を根こそぎ合併していました。その後の捜査で、凶器の鋸は被害者の女性が自らホームセンターで購入したものと判明します。
 とある場所。生命と呼ばれる女性と、大地と呼ばれる男性とがいます。生命に萩原から電話が入り、祥子が死んだと知らされます。祥子が死んだ場所は、綾佳が祥子を発見した洋館との事でした。大地は、仕事を終えた祥子を下の世界へ行くのを許したのは何故かと生命に問います。生命は、祥子の希望で、その理由はわからないと答えます。生命は、事件の資料を集めるよう大地に命じます。大地が去った後、生命は別の部屋へ移動します。この部屋には黒い扉があり、「天国の門」と呼ばれています。天国の門の向こうに何があるのかを知るのは生命だけで、大地も知りませんでした。
 斉藤晴彦は、西山春菜と出会って付き合うようになり、春菜の父親の持ち物である廃工場を2人で喫煙所として利用していました。この廃工場で自転車に絨毯を乗せた有葉零を見かけた日からしばらくして、晴彦はいつも通りに春菜に会うため廃工場へやってきます。廃工場には誰もおらず、晴彦は煙草を吸いながら春菜が来るのを待ちます。しばらくして、晴彦は廃工場の中で死体を発見します。死んでいたのは春菜で、頭部は切断され、頭の中は空っぽでした。
 (ノート)春菜が殺された日に、瀬田家の家政婦が再び訪ねて来ました。家政婦は、近くの廃工場で殺人事件が起きた事を一に話し、様子を見に行こうと一を誘い出しました。2人が野次馬に混じって廃工場の様子を見ていると、中から晴彦が飛び出して来ました。晴彦は一を見て零と呼び、一は弟だと晴彦に話しました。晴彦は警察に取り押さえられて連れて行かれました。この様子をテレビ局のカメラが撮影しており、家政婦は撮影された事に動揺していました。その後、2人は川辺を歩いて帰りました。一が家政婦に名前を聞くと、家政婦は神沼綾子と教えてくれました。
 零は、新理司の「偏在者」という本を買って読みます。「偏在者」は、アダムとイブに相当する男女が登場する物語でした。この2人が暮らす部屋には「天国の門」と呼ばれる扉があり、扉の向こう側を知るのはこの女だけでした。この男女の手足となって働くエージェントの2人の少女がおり、1人は人の心を読む綾佳、もう1人は殺しても蘇る祥子でした。この本を読んだ零は、新理司に会いに行きます。その途中で零は、零の家の向かいにある瀬田家で家政婦をしている神沼綾子に声を掛けられます。綾子は、零の事も新理司の事も祥子の事も知っており、新理司に会いに行かない方がいいと忠告します。綾子の忠告を無視して新理司の家にやってきた零は、新理司に会って祥子の事を尋ねます。新理司は零を不意打ちで殴り倒し、零は気を失います。
 目を覚ますと零は椅子に縛り付けられており、近くには傷だらけの祥子が倒れていました。新理司は、零の目の前で祥子を殺害してチェーンソーで頭部を切断します。そして新理司は、辺りにガソリンを撒いて火をつけます。零は、何とか束縛から脱し、新理司を追いますが、新理司は逃げ込んだ部屋の扉の鍵を掛けます。火は家中に燃え広がり、零は駆け付けた消防士に救助されます。どうやら綾子が消防に通報したようでした。

 森の洋館で起きた第1の殺人事件を捜査する真鍋、如月及び鮎川と、西山春菜が殺された第2の殺人事件を捜査する近藤とが集まって情報交換します。第1の殺人事件は生前に頭部が切断されましたが、第2の事件は春菜の死因が心不全と判明しており、殺人事件なのか死体損壊なのかわからない状況でした。ただし、春菜を殺した容疑者として、晴彦が取り調べられています。近藤は、有葉零が祥子を殺したと自首したけれど死体が見つからなかった事、新理司の家で火事が発生し、消防士に有葉零が救助され、2人の焼死体が発見された事を話します。零の話から、焼死体は新理司及び祥子のものであり、火事の前に新理司は祥子を殺害して頭部をチェーンソーで切断したと考えられていました。そして、春菜の父親の会社を買収したのが萩原重化学工業でした。
 非番の日に、如月及び鮎川は、春菜が殺害された廃工場と、燃え落ちた新理司の家を調べに行きます。その後、2人は有葉零の家を訪ねますが、零に追い返されます。そして向かい側の家の家政婦の少女に、2人は勘違いしていると言われます。2人には少女が言った事の意味がわかりませんでした。
 生命は、祥子が死んだ事件に関する情報を集めていました。大地は事件の真相が全くわかりませんでしたが、生命は全て知っているようでした。生命は、まだまだ美しい少女が殺されると言います。春菜殺害に関するニュース映像を見ていた生命は、容疑者の晴彦が現場検証から逃げ出して野次馬の中にいた1人に零と呼びかけ、刑事達に取り押さえられるシーンで、零と呼ばれた男性の後ろに想吹綾佳を発見します。綾佳は、生命のエージェントの少女で、祥子と並ぶ実力を持っていましたが、逃げ出して行方をくらませていました。生命は、萩原良二に連絡を取ります。

 幼い頃に萩原重化学工業で人体実験を受けた想吹綾佳は、実験失敗の影響か、他人の心を読む能力を手に入れました。実験は失敗でしたが、綾佳の存在は「組織」にとって貴重なもので、綾佳は森の洋館の2階に匿われて暮らす事になります。綾佳の面倒は高野という男が見ていました。あるとき、森の洋館に何人かの子供達がやってきます。綾佳は子供達の心を読む事ができましたが、1人だけ心を読めない子供がいました。それが心を持たない少女、祥子でした。その事を組織に報告した後、綾佳は生命のエージェントとして訓練されます。綾佳は成長して美しい女性になり、組織お抱えの娼婦兼スパイとして働きました。しかしあるとき、綾佳は妊娠します。産まれた男の子は組織がどこかへ連れ去りました。数年後、綾佳は生命の元から逃げ出し、自分の子供を探しました。そして綾佳は、子供は瀬田宋介という名前で、瀬田家の養子になっている事を突き止めます。瀬田家のある町内には、爆弾テロを企てているテロリストの新理司が住んでいました。綾佳は、宋介を守るため、瀬田家の住み込み家政婦の君村に成り代わる事を考えます。君村は何年も前に自身のアルコール中毒が原因で離婚しており、それ以来娘に会っていませんでした。綾佳はこの娘の千冬の振りをして君村に近付き、泳げない君村を川で溺れさせて殺害します。そして綾佳は、神沼綾子と名乗って瀬田家の家政婦になりました。綾佳は家政婦として宋介と生活しながら、新理司を監視していました。
 祥子が新理司を殺害する任務を受けてやってきます。しかし有葉零と出会った事で祥子は任務に失敗します。再び祥子がやってきたとき、新理司の家で火事が起こり、2人分の焼死体が発見され、新理司と祥子のものとされますが、綾佳は焼死した男性は新理司ではなく、幼い頃に綾佳の面倒をみていた高野でした。高野は祥子のサポートを行っており、祥子と共に新理司に捕まって身代わりに利用されました。綾佳は新理司が生きている事を知っていました。
 新理司の家が焼失した後、綾佳は向かいの家から有葉零の思念を感じていましたが、突然に零の思念が消え去ります。綾佳の能力から逃げられるのは、祥子と死んだ人間だけです。綾佳は有葉家を訪ね、零の双子の弟の一と話します。綾佳は、一が自分に好意を持っていることを感じますが、今まで一の存在に気付かなかったのは何故かわかりません。一と話しても、零の行方はわかりませんでした。それからしばらくして、綾佳は西山春菜が殺された現場に一と行き、テレビのカメラに映ってしまいます。
 ある日、綾佳は家を出ようとする零の思念を感じます。しかし綾佳は、零が家に戻ってくるのは感じていませんでした。気になった綾佳は零の後を追いかけます。零は、新理司が祥子の頭部を切断し、頭の中を覗き込んだときの驚きの様子に捕らわれ、自分も人を殺して頭の中を見たいと考えていました。零の考えを読んだ綾佳が、零に声をかけ、零の手を取ろうとしたとき、零は綾佳の目の前から忽然と消え失せます。綾佳は、何が起こったのか分かりませんでした。

 洋館で殺された女性の身元を調べる真鍋達は、この女性が殺される直前に、男性と2人でホテルのスイートルームに宿泊したという情報が入ります。この男性が犯人だとすると、被害者と犯人は親しい関係だったと推測されます。そして更に、公開された被害者のイラストを見て、被害者を知っていると警察に電話を掛けてきた女性がいました。その女性は、荘野リエという名前で、幼い頃に被害者の祥子と養護施設で一緒に暮らしていたと言います。この証言から、真鍋達は新理司の家で発見された女性の焼死体は祥子ではなく、洋館で殺された女性が祥子なのだと推測します。しかし、続くリエの話しは予想外のものでした。養護施設でリエは園長の息子の光一から性的虐待を受けており、祥子はリエの身代わりとなって助けてくれたと言います。身代わりになったリエは光一に殺され、光一は殺人罪で逮捕され、リエは光一から逃れる事ができました。祥子は、殺される直前に、1ヶ月以上行方不明だった事があったようです。真鍋達は、リエの話をどうとらえるべきか判断しかねます。そして、新宿で新たな被害者が発見されたとの連絡が入ります。
 (ノート)綾子が一を訪ねてやってきました。綾子は喫茶店に一を誘い、2人で駅前の喫茶店へ行きました。綾子は、自分の目の前で零が消えたことを一に話しました。また綾子は、自分が特殊な能力を持っていること、そして祥子も特殊な能力を持っていることを話します。
 第1被害者の祥子(仮)、第2被害者の西山春菜に続いて、第3被害者の阿部眞美の遺体が新宿の公園で発見されます。これまでと同様に、眞美の遺体は頭部を切断され、脳はなくなっていました。そして眞美は、萩原重化学工業が買収した病院の経営者の娘でした。また新理司は、公害事件で萩原重化学工業を糾弾する運動に加わっていた事が分かります。更に、今回の事件で検死を担当していた杉村が交通事故で死亡します。
 大地は、3人目の被害者が出た事を生命に報告します。しかし2人目、3人目の事件は、生命が裏で関わっているようでした。この2人は、生命と同じになろうとしたために、殺されたようです。杉村の交通事故も、口封じのためでした。大地は、犯人が被害者の頭部を切断して脳を持ち去る理由を尋ねます。生命は、その秘密が「生命の門」の向こうにあると言い、大地を「生命の門」の向こうへ連れて行きます。
 真鍋達は、萩原重化学工業を糾弾する団体を訪れ、新理司について調べます。この団体の事務員の吉沢は、新理司が死亡したという事件を知らないようでした。吉沢は、全身黒ずくめの男が新理司に渡して欲しいとUSBメモリを置いていったと話し、新理司はそれを取りに来たようです。そして新理司がここへ来たのは火事の後でした。火事で死んだのは新理司ではなかった事が確定します。真鍋達は、西山春菜及び阿部眞美を殺した犯人は新理司であり、USBメモリには殺害ターゲットのリストが入っていたのではないかと推測します。ターゲットは萩原重化学工業に合併された企業の娘であり、次のターゲット候補の1人として、オオマル石油精製会社の社長の娘・幸崎結愛が挙がります。結愛は高級マンションで1人暮らししており、真鍋達はこのマンションの入口及び裏口を手分けして張り込みます。一週間が経過したある日、張り込みをしていた真鍋達に、大学の構内で結愛の死体が発見されたと連絡が入ります。結愛はマンションから一歩も出ていないはずですが、部屋には誰もいませんでした。
 瀬田家で働く綾佳の元を刑事の如月が1人で訪ねて来ます。綾佳は、この事件について自分が知っていること、零が目の前で消失したことから、「天国の門」の事まで、如月に話します。綾佳の話を聞いて瀬田家を辞した如月は、この話を電話で真鍋に伝えます。如月は、綾佳の話しが出鱈目だと考えていました。如月は、春菜が殺された廃工場を待ち合わせ場所に真鍋と会う約束をした後、有葉零の家を訪ねます。
 真鍋は、如月と約束した廃工場へやってきます。廃工場には殺されて頭部を切断された如月の遺体がありました。これまでの事件とは異なり、如月の脳は残されていました。真鍋は所轄の警察署に連絡し、近藤達が現場にやってきます。真鍋及び近藤が話していると、如月と最後に会った人物と思われる神沼綾子(綾佳)が現れます。綾佳は、如月を殺したのは有葉零だと言い、捜査に協力すると言います。綾佳は、集まっていた野次馬の中に新理司を見つけます。新理司は、宗介をさらって車で逃走します。真鍋は綾佳と共にパトカーで新理司の車を追い、パトカーを衝突させて車を停止させます。新理司は宗介を連れて車を降り、持っていた拳銃で真鍋を撃ちます。
 (ノート)有葉一が家に1人でいると、刑事の如月が1人でやってきました。如月は、一を零と間違えているようでした。一は如月と一緒に家を出て・・・気が付くと河川敷で1人で川を眺めていました。手は茶色く汚れていました。一は、どうしてこんな所にいるのかよくわかりませんでした。近くで交通事故の衝撃音が聞こえ、その後に銃声も聞こえました。一が立ち上がると、零が一を呼び止めました。一が零と話していると、男の子を抱え、拳銃を持った誘拐犯が土手を上って来ました。誘拐犯を見た零は、祥子の復讐のためにこの誘拐犯を殺さなければならないと話しました。誘拐犯を追って綾子(綾佳)が現れ、誘拐犯は拳銃を綾子に向けました。一は綾子を守るべく大声で叫び、誘拐犯は狙いを綾子から一に変え、拳銃で一を撃ちました。一は倒れ、意識を失います。
 人の心を読むことが出来る綾佳は、他人の見ているものを見る事ができ、他人が聞いているものを聞くことができます。このため綾佳は、自分の網膜が見せている光景と、能力が見せている光景とを区別していませんでした。宗介を連れた新理司を追う綾佳は、その先に有葉零及び一がおり、新理司が一を撃つのを見ます。腹部から血を流して一は倒れ、そして零の腹部にも血が広がり、零も倒れます。次の瞬間、一は消失します。綾佳は、零の消失を目撃し得るのが自分だけだった事を悟ります。
 綾佳は新理司と対峙します。新理司は綾佳を拳銃で撃ちますが、新理司の心を読める綾佳は銃弾を避ける事が出来ます。新理司は、川辺に建つ排水塔へ逃げ込みます。綾佳は新理司に追いつき、拳銃を奪って弾倉を捨て、拳銃で新理司を殴り倒して宗介を取り戻します。宗介を連れて排水塔から出ようとしたとき、綾佳は新理司の体内から熱が発せられるのを感じ、急いで逃げようとします。しかし、排水塔の出口には零が立ちふさがっていました。
 (ノート)有葉一は、気付いたときには引きこもりの状態で、それ以前の記憶はありませんでした。綾子(綾佳)を殺害しようと零が瀬田家の様子を窺ったとき、子供と戯れる綾子に幸せな家族の姿を見た零の良心が一を生み出しました。そして綾子が一の存在を見つけたために、一が存在する事になりました。排水塔の出口で、零は綾子を殺そうとしており、一は綾子を守ろうとします。そして気が付くと一はびしょ濡れの状態でホームレス達に助けられていました。そして、一は再び零が襲ってくる事を恐れ、自分が生きていた証拠としてこのノートに手記を書き、綾子に送りました。
 排水塔では、零と一との争いが起こり、綾佳及び宗介はこの隙に排水塔から脱出します。その後、排水塔は爆発して消失します。綾佳は宗介を抱きしめますが、宗介は綾佳を振りほどいて母親の博子の元へ走り去ります。

 大地は、新理司が爆死したことを生命に報告します。生命は事件の真相を大地に話します。新理司は生命を告発しようと小説を書きましたが、誰もノンフィクションだと思いませんでした。生命は、新理司を殺すためにエージェントの祥子を派遣しました。しかし祥子は有葉零と出会って死亡し、祥子の遺体はサポートの高野が回収しました。二度目に祥子は新理司の家に行き、高野と共に新理司に捕らわれ、火事で焼死します。新理司の遺体と思われていたのは高野でした。新理司が祥子の頭部を切断したのは、新理司が萩原良二による実験の事を知っており、祥子が死なない女である事を知っていたためでした。
 萩原重化学工業は、人間を脳と身体とに分離し、脳を安全な場所へ移して身体を遠隔操作する事を研究し、祥子がその成功例でした。綾佳は実験の途中で失敗しましたが、人の心を読む能力を手に入れました。この事件は、殺された人の頭部から脳が持ち去られたのではなく、初めから脳はなかった、というのが事実でした。検死した杉村は遺体の異常に気付き、生命は口封じのために杉村を殺させました。
 新理司の家で死亡したときに祥子は過去の記憶を思い出しました。そして祥子は、その思い出に従って森の洋館を訪れます。そこには、祥子の帰りを待つ輝樹がいました。祥子と輝樹はホテルのスイートルームで一夜を過ごしました。祥子は、自分が不死身である秘密を輝樹に話し、それを確認させるために頭部を切断させました。
 脳と身体との分離に成功したのは祥子だけでしたが、脳のない身体を作る技術は、臓器移植用のクローン人間を作るのに用いる事が出来ます。「天国の門」の向こうには、生命のクローンが保管されています。萩原重化学工業に買収された企業の社長達は、自分及び家族の臓器移植用クローンを手に入れ、それぞれ保管していました。新理司が黒ずくめの男から渡されたUSBメモリには、このクローンが保管されている場所のリストが記憶されていました。脳のない人間は自分を殺しにくるエージェントだと勘違いした新理司は、リストに従って臓器移植用クローンを盗み出して殺害し、頭部を切断しました。西山春菜、阿部眞美、幸崎結愛の3人は、本人が殺されたのではなく、臓器移植用クローンが殺されただけでした。しかし生命はクローンの秘密を守るため、3人を殺させました。新理司にクローンの保管場所のリストを渡したのは、生命の差し金でした。生命は、自分と同じ様にクローンを使って永遠の命を得ようとする自分より若い女達に嫉妬して、新理司を利用して事件を起こさせていました。
 大地に真相を話した生命は、新理司が爆死した事件についての見解を述べる記者会見を行うために部屋を出ます。生命及び大地がいたのは、地下深くに作られた生命専用の核シェルターでした。地上へ出た生命、内閣総理大臣の薮木生命は、マスコミが待つ記者会見室に入ります。総理補佐官の中村大地は、会見の開始を宣言します。

 宗介は博子と共に病院へ向かい、綾佳は河原に取り残されていました。近藤は、撃たれた真鍋は命に別状はないと綾佳に教えてくれます。近藤は、爆発の原因が分からない事、川で見つかった死体の一部は新理司のものか有葉零のものか今の所分からない事などを話します。また近藤は、零について話します。零は生まれる前は双子でしたが、双子のもう一方を吸収して生まれて来ました。吸収された双子は零の頭部に腫瘍となって残り、最近になってそれが発見されて零は腫瘍を摘出する手術を受けました。しかし手術の後、零は錯乱して暴れる事がありました。この事を零の母親から聞いた近藤は、祥子を殺したと零が自首した際に、死体がなかった事から零が錯乱しているのだと判断して逮捕しませんでした。そして零は、新理司の家の火事に巻き込まれて顔に大きな火傷を負いました。綾佳は、この火傷が原因で一が生まれたのだろうと考えます。
 その後、川で発見された死体の欠片は新理司のものと断定されます。この事件に関して総理大臣の記者会見が行われ、綾佳はそれをテレビで見ます。そして綾佳の元に、有葉一から手記と一枚のCDが送られてきます。CDは、ヴァージニア・アストレイのアルバムでした。ある夜、このCDを聞いていた綾佳は、家の外に一の存在を感じますが、それはすぐに消えてしまいます。綾佳はもう一度、一に会いたいと思います。
 萩原重化学工業のある部屋。この部屋の扉を、萩原良二は「地獄の門」と呼んでいました。この部屋には、これまでに死亡した祥子の遺体が保管されています。最初のオリジナルの身体、1番目の永田光一に殺された遺体、・・・、136番目の有葉零に殺された遺体、137番目の新理司に殺された遺体。そして、この部屋にやってきた萩原良二は、138番目に青柳輝樹に殺された遺体を追加します。
 祥子は、萩原重化学工業を出てバスに乗り、あの公園にやってきます。祥子は、公園から森へ入り、森の中の洋館に辿り着きます。頭部を切断された祥子の遺体が発見された部屋には、輝樹が待っていました。輝樹は「おかえり」と言い、祥子は「ただいま」と答えます。

 以上が、浦賀和宏さんの「HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件」の物語です。
 普通の推理小説を期待して読んだら、何コレな作品でしょうね。でも安藤直樹シリーズと知って読んでいるので、心を読む人間が登場しても、クローン人間が登場しても、許容範囲内です。殺された人の頭部が切断されて脳が持ち去られるという事件の真相は、殺されたのはクローンの身体で脳は初めから存在していなかった、という事でした。普通の推理小説と思って読んでいたら、読後に本を叩き付けたくなりそうな結末ですが、安藤直樹シリーズですから許容範囲内です。最早、このシリーズは何でもありで、少々の事では驚きません。逆に、シリーズに慣れすぎたからか、有葉零及び一が同一人物の別人格であるとか、綾佳の前から零が消えた真相とかは、読んでいて分かってしまいました。結局は政府の陰謀という結末で、一昔前に流行った「X-FILE」を見た時と似たような読後感でした。
 安藤直樹シリーズ・シーズン2と言っても、安藤直樹も安藤裕子も登場しませんでした。登場したのは萩原良二だけでしたが、相変わらず萩原が何を目的に行動しているのかよく分かりませんでした。シーズン1とシーズン2とで、世界は共通で、時間は10年ほど後、という設定なのかなと思います。シーズン1の金田、それを追う安藤がどうなったのか気になります。シーズン2の零及び一というキャラクタは、設定的にも金田を思い起こさせるものでした。シーズン2は、シーズン1ノリメイク又はリスタートを目指したものなのかもしれません。
 概ねは許容範囲内の物語でしたが、一つだけアンフェアに思える点がありました。作品内で発生した事件の記載順序が、時系列順になっていない事です。時系列では、零が祥子を殺す→新理司の家で火事→輝樹が祥子を殺す→新理司が春菜を殺す、です。しかし、作品内では零が祥子を殺す→輝樹が祥子を殺す→新理司が春菜を殺す→新理司の家で火事、の順番で記載されています。新理司の家で祥子が殺され、新理司が家を燃やし、巻き込まれた零が消防士に助けられるという事件が、意図的に遅いタイミングで記載されています。このせいで、事件全体の真相が説明されても、理解するまでに時間がかかってしまいました。有葉一の手記であるノートで時系列が変更されているのであれば、納得出来そうに思えますが、普通の文章の部分で故意に時系列が入れ替えてあるのは少しズルいように思えます。それにこの時系列の入れ替えは、それほど大した効果が有る訳でもなく、単に物語を理解し難くしているだけのようい思えます。ものすごい叙述トリックを構成しているというのなら、まぁ仕方ないかと思えるのでしが、そんな事もありません。これさえなければ、高評価を付けた所なのですが、残念です。
 次は「HELL」というタイトルで、明らかにこの「HEAVEN」と対をなす作品のようです。既に購入済みなので、近いうちに読む予定です。


浦賀和宏 「透明人間」

 浦賀和宏さんの「透明人間」は、2003年10月に講談社ノベルスとして発売されています。文庫化されてはいません。
 「透明人間」は、これまで「記憶の果て」、「時の鳥籠」、「頭蓋骨の中の楽園」、「とらわれびと」、「記号を喰う魔女」、「学園祭の悪魔」と続いてきた「安藤直樹シリーズ」の第7弾、そして完結巻でもあります。前巻の「学園祭の悪魔」では、物語のラストにシリーズとして驚愕の結末が待っていました。この先どうなるのかが気になって、この先となるはずの物語「透明人間」を読んだのですが・・・。
 この安藤直樹シリーズには、こるまでにも未解決な事柄がいくつか残っています。人工知能化された裕子はどうなったのか?黒幕っぽい萩原の目的は?妙子を殺し続けている金田の行方は?安藤は金田を捕まえる事ができるのか?などなど。ごれらの事柄が少しでも解決される事を期待して「透明人間」を読んだのですが・・・。
 それでは以下、浦賀和宏さんの「透明人間」のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

 小学生の小田理美は、父親と2人暮らしでした。母親がいない理由は知りません。理美は、遠山君の事が好きでした、遠山君はたくさんの本を持っており、その中に透明人間の本がありました。そしてある日、理美は透明人間を目撃します。透明人間は、本で読んだのと同じように野球帽、ジャンパー、サングラス、包帯でぐるぐる巻きにされた顔という姿で、理美の家の前に立って、理美の部屋を見つめていました。透明人間は、毎晩現れましたが、理美が父親にこの事を相談した後は現れなくなりました。
 理美の家の近くには神社があり、神社の裏には友達の竹本君の家があり、その近くにはふじきそうごう病院がありました。竹本君は、理美が見た透明人間は、ふじきそうごう病院から抜け出した人ではないかと言います。
 理美が学校を休んだある日、理美が自分の部屋から台所へ行くと、父親の書斎のドアの前に、例の透明人間が立っていました。透明人間は書斎に逃げ込み、理美はその後を追って書斎に入ります。しかし書斎には誰もおらず、透明人間が着ていた衣服だけが残されていました。書斎の窓には内側から鍵がかかっていました。
 しばらくして、夜中に父親が外出します。理美は、いつまでたっても帰って来ない父親を探して神社へ行きます。その夜は雪が降っており、神社の石段に積もった雪には、1人分の足跡が残っており、足跡を辿った先には理美の父親が倒れていました。父親は死亡していました。
 理美は、気が付くと病院のベッドに寝かされていました。刑事がやってきて理美に父親は殺された可能性が高い事を話します。理美は、透明人間の事を刑事に話しますが、相手にされませんでした。退院した後、理美は遠山君の家を訪ねますが、遠山君の家はもぬけの殻でした。
 その後、住んでいた家などは理美が相続しますが、大人になるまで理美は親戚の家に預けられる事になります。

 20歳になった理美は、親戚の家を出て、コンビニでアルバイトをしながら、父親から相続した元の家で1人暮らしていました。理美は、父親の死後、親戚をたらい回しにされ、学校でもイジメに合い、自殺しようとしたこともありましたが、自殺に失敗していました。一度目は、駅のホームで電車に飛び込もうとしますが、誰かが理美の腕を掴んで引き戻した事で失敗します。二度目は、飛び降り自殺をしようと卒業した高校を訪れましが、屋上への扉に鍵がかかっていて失敗しました。
 三度目に自殺しようとしたとき、その場に偶然居合わせた飯島という男性に止められ、理美は飯島と付き合う事になりました。飯島は、自分の親友の安藤を理美に紹介します。これまで親しい人が1人もいなかった理美は、恋人の飯島と、友人の安藤との2人も親しい人ができ、生活が大きく変化します。
 しばらくは平穏な生活が続きましたが、ある時に飯島と大喧嘩してしまい、理美は自殺しようとします。理美は、飯島が務めている家電量販店で電話線を購入し、家に戻って電話線で首を吊ります。自殺は成功しかけますが、途中で電話線が切れて失敗します。その後、安藤が間に入り、理美と飯島は仲直りします。
 弁護士の仲間から理美に電話が掛かってきます。仲間は、理美の父親が死んだ後、財産の相続や家の管理を行ってくれていた弁護士です。仲間は、理美の父親が行っていた研究の資料がその家に残されている可能性があると言い、父親の同僚だった人達と共に家の中を調べさせて欲しいと理美に頼みます。仲間は、この家に理美が知らない地下室があると言います。理美は、幼い頃に見た透明人間が書斎で姿を消したのは、地下室に隠れたのではないかと考えます。理美は仲間の願いを承諾し、飯島に婚約者として立ち会ってもらう事にします。
 仲間は、4人の人間と共に、理美の家にやってきます。原田剛という、父親と同じ会社に務めている元同僚の男性。北野哲也という、父親とは異なる会社の技術部門で働いている男性。杉山美枝という、北野のパートナーで、薬科大学で事務をしている女性。東という、無口な男性です。仲間達は家の書斎へ行き、北野はカーペットをめくった床下にあるスイッチを操作し、地下室への隠し扉を開きます。北野は、この隠し扉を設計した人物でした。隠し扉の先には小さな部屋があり、この部屋の床にあるパネルを開くと地下へ通じる梯子があります。仲間は、地下にあるのは地下室と言うより、地下の館と呼ぶべき広大なもので、床面積は地上の建物よりも地下の館の方が広いと言います。
 梯子を降りた先の空間は、広い空間で、緩やかに下るスロープとなっていました。スロープを降りた先には円形の空間で、その中央には螺旋階段があり、壁には扉がありました。扉の先は、広い机と複数の椅子とが並べられた部屋でした。螺旋階段は地下6階まで続いており、地下2階以下の各階には2つずつ部屋があります。仲間達は手分けして理美の父親が残したデータを探します。
 その間に、理美及び飯島は、地下の館を探索します。1つ下の階、地下2階へ降りた2人は、地下2階の一部屋に入ります。部屋にはシャワールームがあり、綺麗な水が出てきます。10年以上放置されているはずの地下の館は、今でも綺麗で、設備も機能しています。まるで今でも誰かが使用しているかのようでした。
 仲間達のデータ探しは上手く進んでいないようで、原田は仲間や北野に怒鳴り散らしています。皆は、杉山がコンビニで購入してきた飲物とお菓子で、地下1階の部屋で休憩を取ります。休憩の後、理美、飯島及び仲間が部屋に残り、他の人達はデータ探しに出て行きます。仲間は理美の母親について知っていることを話します。理美の母親には、理美の父親とは別の正式な夫がおり、理美は不倫の末に産まれた子供でした。理美は父親に引き取られました。その後、母親は病気を患って入院生活をしており、父親が神社で死亡した数年後に母親は病気で亡くなっていました。
 仲間が話しをしている途中、原田がやってきて問題が発生したと言います。書斎の隠し扉がいつの間にか閉じられており、開かなくなっていました。北野が何とか隠し扉を開けようと調べる間、他の人達は地下の館で個々に休憩します。理美及び飯島は、地下1階の部屋で休憩し、いつの間にか寝てしまいます。
 誰かの叫び声で、理美及び飯島は目を覚まします。部屋の外へ出ると、同じように叫び声を聞きつけた北野が隠し扉を開ける作業を中断してやってきます。螺旋階段から下を覗くと、仲間が首を切断された死体となって横たわっていました。叫び声は、死体を発見した杉山の悲鳴でした。残された人々は、誰が仲間を殺したかで口論となりますが、犯人は分かりません。理美及び飯島は皆から離れてスロープのある場所へ移動し、北野及び杉山は螺旋階段を降りていき、東は地下1階の部屋へ入り、原田もそれを追って部屋へ入ります。しばらくして東が部屋から出て螺旋階段を降り、そして戻ってくると部屋に再び入ります。不審に思った理美及び飯島がその部屋に入ると、東がナイフで原田を刺していました。東は原田が自分を殺人犯と疑った事に腹を立て、仲間の死体のそばに落ちていたナイフを拾って来て原田を刺したようです。東は部屋を出て螺旋階段を降りていきます。原田はまだ死んでおらず、飯島が助けを呼ぼうと部屋を出て螺旋階段の下を覗くと、東が倒れていました。東は、足を滑らせて螺旋階段から落下し、自分が持っていたナイフが刺さって死亡したようでした。
 騒ぎを聞きつけて北野が螺旋階段を上がってきます。原田の様子を見た北野は、杉山は看護学校を出ていると言い、地下4階の部屋にいる杉山を呼んでくるよう理美に頼みます。理美は、螺旋階段を降りて地下4階の部屋に入りますが、杉山の姿はありませんでした。理美は螺旋階段を上って地下1階の部屋へ戻り、今度は飯島と理美の2人で地下を調べる事にします。そして2人が地下4階の部屋へ入ると、そこには杉山の死体が横たわっていました。先程は何もなかった部屋に杉山の死体が現れ、理美は混乱します。理美は、父親の研究とは透明人間を生み出すものであり、この地下には透明人間がいるのではないかと考え始めます。
 飯島は、北野が犯人であり、隠し扉は開かないのではなく、北野に開ける気がないのではないかと考えます。北野は再び隠し扉を開ける作業に戻っていきましたが、飯島及び理美は北野を追います。このときに理美は、東の胸に刺さっていたナイフを抜いて持って行く事にします。飯島及び理美が地下1階から地上への梯子を登ろうとしたとき、北野が上から顔を出し、こんな事になるとは思ってもみなかったと話し、梯子がある縦穴のパネルを閉じて飯島及び理美を閉じ込めようとします。飯島は急いで梯子を登り、北野と飯島との争いが起こります。北野は飯島を追い詰めて縦穴から落とそうとし、梯子にしがみついていた理美は咄嗟にナイフを北野へ突き出します。ナイフは北野の左頬を切り裂き、怯んだ北野を飯島が殴ります。この隙に理美が梯子を登り切ると、隠し扉は開いていました。理美は隠し扉から書斎へ戻り、警察に電話を掛けます。北野は逃げ去り、しばらくして警察がやってきます。この家から車で逃げる北野を多くの人が目撃しており、北野は一連の事件の犯人として指名手配されます。しかし北野は捕まる事なく、逃げ切ります。
 その後、飯島及び理美は、安藤と食事に行きます。飯島から事件の話を聞いていた安藤は、過去の理美の父親が死亡した事件をも含めて、今回の事件の真相を推理します。安藤が推理した事件の真相は、以下の通りです。
 神社で倒れていた理美の父親は、空から降ってきた。神社の近くにある総合病院に、理美の母親が入院しており、父親は母親を病院から連れ出すために、屋上からロープを垂らして窓から侵入しようとし、これに失敗して落下し、近くの家の屋根の上を転がって神社に落下した。神社に落下して父親は死亡し、 このときに偶然に神社に居合わせた人物は、理美の父親から靴を奪って履き、後夜向きに歩いて雪に足跡を残して神社を出て、靴を遺体のそばに投げ戻した。その人物は、事件の後に姿を消した遠山君であり、遠山君は理美の父親が行っていた研究に被験者として協力していた。理美が家の中で見た透明人間も遠山君で、包帯を巻いていたのは恐らく実験の失敗で怪我をしたためで、書斎の地下に匿われていたときに偶然に理美に鉢合わせたのだと。
 今回の地下での連続殺人事件は、計画的なものではなく、偶然の積み重ねによるもの。地下の館には恐らく最下層に秘密の部屋が存在し、螺旋階段を上下に動かす事で秘密の部屋に出入りできる。その事を知っていたのは北野及び杉山の2人だけで、2人は他の人達を出し抜いて研究データを一人占めしようと企んでいた。杉山が買ってきたお茶には睡眠薬が含まれており、皆が眠った隙に2人は螺旋階段を動かして秘密の部屋に入った。このときに、お茶をほとんど飲んでいなかった仲間が螺旋階段から下方を覗いたため、螺旋階段の上下動により首が挟まれて切断された。原田及び東が死んだのは、飯島及び理美が見た通りで、杉山は口封じのために北野に殺された。
 安藤から推理を聞かされた理美は、この推理が一連の事件の説明がつくものではあるものの、納得出来ないものを感じます。
 その後、理美はアルバイトを続けながら通信制の大学に通う事を決め、前向きに生きていこうとしていました。そんなある日、理美が駅から家へと帰る途中の道に、北野が待ち構えています。北野はナイフを持って理美へと近付いてきます。このとき、理美は真実に気付きます。これまで理美の自殺が失敗したのも、地下の館で生き残ったのも、偶然ではなく、彼が守ってくれていたのだと。透明人間は存在し、その正体は父親の実験で透明になった遠山君だと。これが真実か否か、ナイフを持つ北野が迫ってくるこの瞬間に答えが出ると分かり、理美は目を閉じます。
 目を閉じた理美は、物凄い衝撃を体に受けて飛ばされますが、ナイフで刺されてはいませんでした。理美が目を開けると、北野はどこからともなく現れた車に轢かれて死んでいました。車には誰も乗っていませんでした。そして理美は、車のドアが独りでに開くのを目撃します。理美は、助けてくれてありがとう、と心の中で呟きます。

 以上が、浦賀和宏さんの「透明人間」の物語です。
 単体作品として見た場合、面白かったと思います。事件の真相について、安藤の推理が正しいのか、理美が思う真相が正しいのかは読者の判断に委ねるという結末で、読後に余韻が残る個人的には好きな結末でした。
 ただ、安藤直樹シリーズの最後の作品としては、?な作品でした。これまでに撒いた伏線は全く回収されませんでした。時系列では「透明人間」は「学園祭の悪魔」より後の物語だと思われますが、「学園祭の悪魔」の衝撃の結末は何だったのか分からなくなるくらい、「透明人間」は普通の物語でした。安楽椅子探偵・安藤直樹が活躍するシリーズの一作品として、シリーズの途中にあれば何の違和感もないのですが、シリーズの最後としては違和感&不満が山盛りです。
 恐らくは、作者の浦賀さんも、「透明人間」をシリーズ最後の作品として書いてはいないのでしょう。浦賀さんとしては、この後も安藤直樹シリーズを続けるつもりだったけど、シリーズを打ち切られた、というのが真相なのでしょう。あまり一般うけしそうにない内容でしたから、人気なかったのでしょうね・・・。シリーズの4作目以降は文庫化されていないというのも、人気がなかった事を示しているように思えます。残念です。シリーズの最後を知りたかった・・・。
 しかし、しかし。正式にではないようですが、作者が「安藤直樹シリーズ・シーズン2」と呼んでいる「萩原重化学工業シリーズ」というものがあるそうで、このシリーズに物語や世界観が引き継がれているのかもしれません。引き継がれている事を期待して、次は萩原重化学工業シリーズに手を出してみようと思います。シリーズと言っても、2作品しかないんですけどね。

 

浦賀和宏 「学園祭の悪魔」

 浦賀和宏さんの「学園祭の悪魔」は、2002年2月に講談社ノベルスとして発売されています。文庫化されてはいません。
 2020年2月に浦賀和宏さんがお亡くなりになったという事を知り、追悼の意味を込めて「安藤直樹シリーズ」を一気に読む事にしました。「学園祭の悪魔」は、「記憶の果て」、「時の鳥籠」、「頭蓋骨の中の楽園」、「とらわれびと」、「記号を喰う魔女」に続く「安藤直樹シリーズ」の第6弾です。物語の時系列では、「学園祭の悪魔」は、「とらわれびと」の後に相当し、シリーズの中では最も後の物語です。
 このシリーズは物語毎に違った趣向が凝らされており、「学園祭の悪魔」もこれまでの作品とは全く違う雰囲気を持つ作品でした。1人の女子高生を主人公とし、全編がこの女子高生の視点、内面で描かれています。物語の最初から九割くらいまでは、安藤直樹に恋してしまった女子高生の日常という雰囲気で、直接的な殺人事件が起こるわけではありません。「とらわれびと」に関係して金田が妙子という名前の人物を殺した殺人事件がテレビで報道されたり、近所で起きた殺犬事件を直樹が解決したり、それくらいしか事件は起こりません。読んでいて、半分過ぎても大した事件が起こらないため、何これ?と戸惑いました。
 事件は物語の最後の最後で起こりました。これが安藤直樹シリーズとしては驚愕の事件。このシリーズは今後どうするのか、心配になるくらいの驚愕の事件でした。
 ただ、この驚愕の事件も、これまでのシリーズを読んでいないと、驚愕でも何でもないと思われます。知らずにこの作品を最初に読んでしまったら、何コレとしか思わないでしょう。
 それでは以下、浦賀和宏さんの「学園祭の悪魔」のあらすじを記載します。本編は全て女子高生の「私」の視点で描かれているため、あらすじも同様に「私」の視点で記載します。
 ネタバレ注意ですが、最後の最後に起こる驚愕の事件については記載を見合わせます。

 高校3年生の「私」のクラスは、学園祭でフランクフルトの売店を出す事になりました。学園祭の1日目、私が1人で店番をしていると、3人組の男性がやってきます。3人は安藤直樹、飯島鉄雄及び穂波英雄といい、穂波英雄は、私と同じクラスの穂波留美の兄でした。3人は留美を訪ねてきたようで、私はクラス委員の通称「やかん君」に店番を押し付け、3人を留美がいる部屋へ連れて行きます。私は、安藤が留美の彼氏だと知り、驚きます。安藤は留美に何か白い紙を渡して帰って行きます。その後、私は留美が落とした紙を拾います。留美が安藤に貰った紙のようです。その紙には、以下の意味不明な文字列が記されていました。
「JUDE 4151 A
 TWIST SHOUT 145 A
 PLEASE ME 145 IN
 NOWHERE MAN 1451 A」
 放課後。私はやかん君と共に買い物に出掛け、安藤及び留美を見つけます。私は2人の後をつけ、2人はラブホテルに入って行きます。私は留美の携帯に電話をかけ、この事をクラスの皆に言いふらそうと言ってからかいますが、留美は全く相手にしませんでした。その後、私はこのホテルの名前が「JUDEAN」であることに気付き、留美が落とした紙に記された文字列の1行目がこのホテルを示しているのではないかと考えます。
 私が自宅へ戻ると、父母が喧嘩をしています。父がリストラされてから、家では父母の喧嘩が絶えません。家での私の安らぎは、ペットの子犬の力丸だけでした。
 翌朝。私はテレビのニュースで、石川県で起きた女性のバラバラ殺人事件を知ります。被害者は山城妙子という名前で、ホテルの一室でバラバラに切断された遺体が発見されていました。先月に沖縄県でも同様の事件が起きていました。
 学園祭の2日目。安藤が再び訪ねてきます。私は安藤と話しながら、留美がソーセージを焼いている調理室まで案内します。調理室のテレビでは、バラバラ殺人の続報が流れており、沖縄県及び石川県の被害者は共に「妙子」という名前だったと報道されています。安藤及び留美は、この事件の犯人を知っているかのような口振りでした。その後、安藤及び留美は調理室から出て行きますが、私は安藤の事が気になり始めていました。
 放課後。私は、家へ帰る途中で、近所の大垣さんの家の前に人だかりが出来ているのを見かけます。大垣さんの飼い犬が殺され、警察が来ていました。近所では犬が殺される事件が続いており、大垣さんの犬で4匹目でした。
 家に帰った私は、留美に電話して、安藤の携帯番号を聞き出そうとします。しかし留美は、安藤の携帯番号を教えてはくれません。留美は、安藤が名探偵であり、迂闊に近付くと事件に巻き込まれると忠告します。その後、私は飯島に電話して安藤の携帯番号を聞きます。飯島は、安藤が携帯電話を持っていない事を教えてくれます。飯島は安藤の自宅の電話番号を教えてくれますが、私は自宅に電話する気にはなりませんでした。
 学園祭の3日目。安藤がまたやってきます。留美を待つ安藤は、私の方を見ていたように思えましたが、話しかけてみると安藤は素っ気ない態度です。私は、安藤の事が好きになったと気付きます。
 その夜、安藤から私に電話がかかってきます。安藤は留美から携帯番号を聞いたと言います。安藤は、ニュースのバラバラ殺人事件について、自分の幼なじみが日本中の妙子を殺し回っていると話します。私の名前は妙子ではないため、殺される事はなさそうです。私は安藤に、留美と別れて私と付き合おうと言います。
 安藤に振られた私に、やかん君から電話がかかってきます。振られたことを話すと、やかん君は、安藤と付き合って留美を別れさせろと言います。やかん君は留美の事が好きなようでした。
 翌日。留美から電話がかかってきます。私は、留美が落とした紙に書かれていた暗号のような文章の秘密を尋ねますが、留美は教えてはくれませんでした。ただ、ラブホテルの名前とは関係ないようでした。
 その後、私は安藤の自宅に電話してみます。電話に出た安藤に、私は近所で起きている連続殺犬事件の事を話します。話を聞いた安藤は、犬が一番最初に殺された場所の近くに犯人はいると推理し、私の飼い犬の力丸を囮に使って犯人を捕まえる事を提案します。
 数日後の夜。最初の犬が殺された公園に力丸を繋いでその場を離れ、飯島の車の中から私は安藤及び飯島と共に犯人が現れるのを待ちます。しばらくして犯人が現れ、安藤及び飯島は犯人を捕まえます。犯人はホームレスの男で、空腹に耐えられずに食べるために犬を殺したと白状します。ホームレスに自首させて私が家に帰ると、父が不在でした。そしてその夜、父は帰ってきませんでした。
 翌朝、山の中で自殺している父が発見されます。父の葬儀にはクラスメート達が焼香に訪れ、安藤もやってきます。安藤は、自分の父も自殺したと話します。私は、安藤の胸で泣きます。しかしこの様子を留美が見ており、留美は私をぶって安藤を連れて帰って行きます。
 私は「幸(みゆき)」という名前で、この名前は父がつけたものでした。今は不幸でしたが、私は今の不幸を受け入れて、幸せの始まりなのだと思う事にします。
 葬儀場から自宅へ戻ると、携帯電話に留美から電話がかかってきます。私が電話に出ると、相手は何も話さずに電話を切ります。私は留美に電話をかけて喧嘩をし、留美は携帯を切ります。その後、私が何度電話をかけても、留美は電話に出ませんでした。
 翌日、私が学校へ行くと、クラスメート達は腫れ物に触るように私に接してきます。心配したやかん君が話しかけてきて、やかん君が私の事を好きなのだと気付きます。留美は完全に私を無視しており、学園祭で友達になれたと思った留美との仲は完全に終わっていました。留美は、クラスメートの中野さん、杉浦君及び藤本君と仲良く話しており、藤本君のギターを弾いてみせます。友達の少なかった留美は急に友達を増やし始めており、私には面白くありませんでした。
 帰宅すると、一通の手紙が届いていました。中には「安藤君は私のもの。だからもう近づかないて」というメッセージと、剃刀の刃が入っていました。私は留美に電話をかけて文句を言いますが、留美は全く相手にしませんでした。その後、私はやかん君に電話をして、私か留美かどちらの味方につくか問います。やかん君は、留美よりも私の方が好きで、留美とはただやりたいだけと話します。
 私はやかん君の秘密を握っていました。やかん君が書店で万引きする現場を目撃し、やかん君も私に見られていた事に気付いています。やかん君の万引きはその時だけではなく、やかん君は万引きの常習犯でした。私はやかん君を脅して利用し、留美に仕返ししようと考えます。
 私は安藤に電話をします。安藤は私を誘い、翌日に出かける事になります。そして翌日。駅で待ち合わせた私を安藤はとある大学へ連れて行きます。安藤はそこで友達と会う約束をしていました。友達は車椅子に乗った男性で、ミスター・グラスというあだ名で呼ばれていました。ミスター・グラスは、安藤に紙袋を渡して去って行きます。私が紙袋の中身を尋ねると、安藤は料理の材料だと答えます。また安藤は、ミスター・グラスについて、高校生の頃にイジメられ、跳び蹴りをくらって階段から落ち、胸椎完全断裂で足が動かなくなったと教えてくれます。その後、私は安藤と映画を見て、食事をします。食事をしながら安藤は私に週刊誌の記事を見せます。それはバラバラ殺人の3人目の被害者が出たという記事で、熊崎妙子という女性が長野県で殺されていました。安藤は、この犯人を絶対に倒すと私に言います。
 翌々日。学校へ行った私は、留美に安藤とデートした事を話します。私と留美は殴る蹴るの喧嘩をし、先生に怒られます。その日、私が家に帰ると、力丸の姿が見当たりません。そして翌朝、力丸の死体が発見されます。そして留美から携帯電話にメールが入り、メールには力丸を殺して食べたと記されていました。私は、やかん君に電話をかけ、留美を襲えと命令し、従わなければ万引きの事を言いふらすと脅します。
 それ以降、留美は学校に来なくなります。しばらくして、私は街のCDショップで安藤に出会います。安藤は、留美に別れてくれと言われた事を私に話します。また安藤は、留美に渡した暗号のようなものの正体を教えてくれます。あれはビートルズの楽曲のコード進行をメモしたものでした。安藤はジョン・レノンの「イマジン」のCDを買って店を出て、これからどこへ行くか私に尋ねます。私は、ホテル・ユダヤンに行きたいと答えます。私と安藤は、イマジンを聞くために電器店で小さなスピーカーを買い、ハンバーガーショップで食料を買い、ホテル・ユダヤンに入ります・・・。

 というところまでで、あらすじは終わりにしておきます。ここまでの物語では、大した事件は起こらず、残りページ数が減っていき、読みながら不安になりました。ここまでの物語は、安藤をめぐる私対留美の泥沼バトルと言うか、少し狂気じみたホラーな展開でしたが、浦賀和宏さんの作品としては少々物足りなさがありました。
 物語の半ばまで、「私」の名前が伏せられており、本名が明かされない「やかん君」という人物が登場したりで、これは叙述トリックの作品かと予想して読んでいました。物語には直接絡んでこない妙子連続殺人事件がニュースなどで報道されていたりするので、私の名前が妙子というオチかなとも思ったのですが、これは途中で私の名前が幸であることが明かされて否定されました。まぁ、これで私の名前が妙子だったら、簡単過ぎて面白くなかったでしょうね。
 ネタバレですが、私の名前が明かされなかった事にはやはり理由があります。この後に私のフルネームが明かされるのですが、重要なのは幸という下の名前ではなく、苗字でした。
 ここから先の物語は、安藤直樹シリーズを読んできた読者にとっては、かなり驚愕の展開です。残り17ページくらいです。ややグロい描写が多いので、苦手な方は注意が必要ですが。グロいのが苦手で浦賀和宏さんの作品を読む人なんていないかもしれませんけどね。
 とにかく驚愕としか言いようのない結末で、安藤直樹シリーズは今後どうなるのか、不安を感じます。今後、といっても次で最終巻なので、何らかの決着がつくのかもしれません。これは早々に最終巻を読まなければ。

 

浦賀和宏 「記号を喰う魔女」

 浦賀和宏さんの「記号を喰う魔女」は、2000年5月に講談社ノベルスとして発売されています。今のところ、文庫化されてはいません。
 「記憶の果て」、「時の鳥籠」、「頭蓋骨の中の楽園」、「とらわれびと」に続く「安藤直樹シリーズ」の第5弾です。ただし、「安藤直樹シリーズ」ではありますが、安藤直樹は登場しません。時系列的にシリーズの中では最も過去の物語であり、安藤直樹の母となる安藤裕子が中学生3年生の頃の物語です。ただし本書では、登場人物のほとんどが苗字で記されており、登場する「安藤」が「裕子」であると明記されているわけではありません。
 これまでの4作品は、相互に繋がりのある物語だったため、順番に読まなければ、ほぼ意味不明になってしまう構成でした。しかしこの「記号を喰う魔女」は、時系列的に最も過去であるためか、これまでの作品との繋がりは少なく、単体としても読めなくはない作品になっています。これまでの4作品に登場している人物達が中学生として登場するため、4作品を読んでおいて損はないでしょう。ただし最後の結末はこれまでの作品を読んでいると薄々わかってしまうため、4作品を読んでいない方が楽しめるかもしれません。
 「安藤直樹シリーズ」は、作品毎にSFファンタジー寄りだったり、ミステリー寄りだったりと、異なる味付けがなされてきました。第5弾の「記号を喰う魔女」は、孤島を訪れた人達が次々と殺されていくという、ホラーサスペンスでした。
 それでは以下、浦賀和宏さんの「記号を喰う魔女」のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

 小林英輝は、川崎市の中学校に通う男子生徒で、名ばかりの天文学部に所属しています。天文学部には、織田及び山根という男子生徒と、安藤、坂本及び石井という女子生徒がいます。織田は美男子で女子生徒に非常に人気があり、坂本も織田に好意を寄せています。織田は、左手の小指を幼い頃に事故で失っていました。
 ある日、この6人が理科室に集まっていたとき、織田が安藤にさよならと言って窓から飛び降り、自殺します。その後、坂本は織田の死が安藤のせいだと考え、学校中に安藤の誹謗中傷を言いふらします。安藤は孤立しますが、安藤に好意を持つ小林は安藤に味方します。
 織田の葬儀の時、織田の叔父及び叔母は、小林及び安藤達5人を、織田の生家がある孤島に招待します。織田は、幼い頃に父母を失っており、この叔父及び叔母に育てられました。織田は遺書を残しており、自分が死んだときに居合わせた人達をその島へ向かわせて欲しいと遺書に書いてありました。
 安藤はこの島へ行く事を早々に決め、小林は安藤に恨みを持つ坂本から安藤を守るため、島へ行く事を決めます。結局、5人共に島へ行く事になります。
 5人は、三泊四日の予定で島へ向かいます。5人は、港まで迎えにきた織田の叔父・治彦に連れられ、スギモトという男が操船する船に乗って島へ渡ります。この間も、坂本は安藤に対する敵対心を隠そうとはしませんでした。島へ到着した後、5人は治彦及びスギモトと共に、織田家の別荘へ歩いて向かいます。別荘は、島民の多くが住む集落とは島の反対側にあり、別荘地側にはほとんど人は住んでいません。別荘へ行く途中、小林は海岸沿いに建つプレハブ小屋を見つけます。スギモトは、最近まで学生がサバイバルシミュレーションと称してそのプレハブ小屋に住み着いていたが、今は誰も使っていないと話します。
 別荘には、織田の叔母・玉枝の他に、中年男が1人と、若い男女とが招待されていました。中年男は治彦の友人の中野、若い男は村木、若い女は遠藤という名前でした。玉枝は、アミルスタンで捕れた羊の肉の料理を夕食に振る舞います。安藤だけはこの肉を食べませんでした。
 翌朝、スギモトがスギモトが殺されているのが発見されます。スギモトの遺体の胸には、逆さにしたアルファベットのVのような記号が大きく刻まれていました。そして別荘の電話は電話線を切られて使用できず、唯一の操船技術を持つスギモトが死んで船も出せず、更には時化で海が荒れ始めます。島の反対側の住人達に助けを求めるため、小林、安藤、山根及び石井の4人と、村木とが別荘を出ます。坂本はいつの間にか姿を消しており、別荘の中にいませんでした。
 村木及び小林達は、徒歩で島の反対側を目指しますが、途中で雨が降ってきたため、近くの民家に避難します。この民家は、スギモトの家であり、スギモトの妻が住んでいます。しかしスギモトの妻は既に殺されており、スギモトと同様に遺体には記号が刻まれていました。村木は、一馬が殺したのだと呟きます。
 何年も前、この島の住人だった一馬という男が突然発狂して人を殺し、山へ逃げてその後に見つかっていないという話しを村木は4人に聞かせます。更に村木は、この島ではカニバリズム、即ち人喰いが行われており、昨夜のアルミスタンの肉は、浜辺のプレハブ小屋で生活していたヨシムラの肉だと話します。ただ、スギモト及びその妻は食べるために殺されたのではないようです。話しを聞いていた石井は、突然に叫び、家を飛び出して行きます。石井の後を小林達が追い、何とか落ち着かせて家に戻りますが、村木は姿を消していました。小林達はスギモトの家の風呂場で、白骨化した頭蓋骨を発見します。
 雨が止み、安藤は別荘へ戻る事を主張し、山根はそれに反対します。意見は別れ、安藤及び小林は別荘へ戻り、山根及び石井はスギモトの家に残る事になります。小林は安藤を守るため、スギモトの家で見つけた包丁を武器として持って行きます。小林及び安藤は、別荘へ戻る途中で、浜辺のプレハブ小屋を調べに行く事にします。プレハブ小屋の中には、坂本の衣服と血痕とが見つかりますが、坂本の姿はありません。プレハブ小屋の電灯を付けっぱなしにして、小林及び安藤はプレハブ小屋の外に隠れます。
 しばらくすると、治彦及び中野がプレハブ小屋にやってきます。治彦及び中野は口論を始め、中野は治彦を殴り倒して立ち去ろうとします。小林は飛び出して倒れている治彦に包丁を突き付け、中野を呼び止めます。中野は治彦を殺しても構わないと言って小林に襲いかかり、小林の右手を捻り上げ、小林は包丁を落としてしまいます。包丁を拾った安藤は中野にそれを向けますが、中野は包丁を気にする事なく安藤に襲いかかります。小林は安藤が落とした包丁を拾って中野の腕に突き刺します。中野は、腕に刺さった包丁を引き抜き、小林及び安藤を追い詰めて、包丁を振り上げます。小林は、安藤に覆い被さって包丁から守り、死を覚悟します。
 しかし、中野の包丁が小林に振り下ろされる事はありませんでした。中野の背後から山根がゴルフクラブで殴りかかり、中野は包丁を落とします。小林は包丁を拾って中野の脇腹を刺します。中野は倒れ込み、小林は包丁で中野を刺し続け、中野は死亡します。山根は、石井が一馬に連れ去られたと話します。治彦の姿はいつの間にか消えていました。小林、安藤及び山根は、プレハブ小屋に入って休みます。
 翌朝、いつの間にか眠ってしまった小林及び安藤には毛布が掛けられていました。山根が掛けてくれたようです。2人が眠っている間に、山根は中野の死体を海に沈めていました。山根は別荘へ戻る事を提案し、3人は別荘へ戻ります。別荘のキッチンには、治彦及び玉枝の死体がありました。死体には、これまでと同じ記号が刻まれていました。別荘の2階には村木がいましたが、精神的におかしくなっており、会話が成立しません。ただ安藤は、村木が演技をしていると指摘します。小林達は村木を2階の部屋に閉じ込めておきますが、村木は窓を破って飛び降ります。怪我をしながらも逃げる村木は石井の肉は美味かったと叫び、怒った山根は村木を追って別荘を飛び出して行きます。その後、山根も村木も別荘には戻ってきませんでした。
 別荘には小林と安藤だけが残されます。安藤は、坂本も山根も織田夫妻もみんなグルだったのではないかと話します。坂本による安藤への復讐に皆が協力していたけれど、殺人事件が発生して計画に狂いが生じて現在の状況になったと安藤は考えていました。安藤は、織田が自殺する前日に、織田に告白され、それを断った事を話し、織田が自殺したのは自分のせいだと話します。
 翌朝、小林は別荘近くの高台から砂浜に人がいるのを発見します。どうやら石井のようでした。小林は安藤と共に砂浜へ向かい、石井を捕まえます。石井は、皆がグルになって安藤を陥れようとしていたことを認めます。石井が一馬にさらわれたというのは山根が考えた嘘で、実際にはスギモトの家から山根及び石井は2人で出て、別荘へ向かう途中でプレハブ小屋へ向かう中野及び治彦と出会っていました。中野及び治彦はプレハブ小屋へ向かい、山根及び石井はしばらく近くで様子を窺っていると、中野が治彦を殴り始めました。これを見た山根は、殺人犯は中野ではと考えてプレハブ小屋へ向かい、石井は別荘へ戻りました。別荘には玉枝、村木及び遠藤がおり、しばらくすると治彦が戻ってきて中野が殺されたと話します。遠藤は石井を連れて別荘を出て、近くの民家に避難していました。石井は坂本の行方を遠藤に尋ね、遠藤はプレハブ小屋にいると答え、石井はプレハブ小屋へやってきましたが、坂本はいませんでした。そして石井は小林及び安藤に見つかってしまいました。
 小林及び安藤は、石井の案内で遠藤がいる民家へ向かいます。そこには、遠藤と坂本がいました。坂本は怪我をしており、中野に襲われた坂本を遠藤が助けたとの事でした。坂本は、遠藤が死んだ織田の母親だと話します。また坂本は、安藤をこの島におびき寄せ、スギモト及び中野に強姦させる計画だったと話し、スギモトを安藤が殺したと指摘します。安藤は、スギモトは自分が殺したのではなく、自分の目の前で心臓麻痺か何かで自然死し、胸に刻まれた記号は誰か別の人間が付けたものだと話します。坂本はこれまでの殺人は安藤が犯人だと言いますが、安藤は否定します。
 遠藤は、村木がカニバリズムに心酔しており、自分に話しを聞きに来たのが2人の出会いだと話します。遠藤は赤ん坊の織田を食べようとして、指しか食べられなかったと話します。遠藤は既に精神的に壊れているようでした。
 小林及び安藤は、救助を待つために、民家を出て海岸へ向かいます。安藤は、織田夫妻を殺したのは石井だと指摘します。海岸に着くと、石井も2人の後を追って海岸へやってきます。坂本に命令されて、プレハブ小屋に残された坂本の衣服を取りに来たようです。小林が問い詰めると、石井は織田夫妻を殺した事を白状します。胸に記号を刻んだのは、スギモトを殺した犯人に罪を着せるためでした。石井は、プレハブ小屋で衣服を回収して民家へ戻って行きます。
 その後、海岸に村木が現れます。村木は、話し終えたら安藤を置いて小林が去る事を条件に、真相を話し始めます。昔、この島で殺人事件が発生し、その犯人の一馬と遠藤との間に出来た子供が織田でした。治彦及び玉枝は遠藤の両親であり、自殺したおだの祖父母でした。遠藤は織田を食べようとして遠い施設に隔離され、カニバリズムに心酔する村木はこの話を聞きつけて遠藤に会いに行きました。村木は、安藤を食べたいのではなく、安藤に食べられたいのだと言います。
 村木は、死んだスギモトの胸に記号を刻んだのは自分だと言い、心臓と肝臓とを取り出す実験のためだったと話します。また村木は、スギモトの妻を殺したのは遠藤であり、スギモトの家にあった頭蓋骨は一馬のものだと話します。スギモトの妻の遺体に記号が刻まれていたのは、スギモトを殺した犯人による犯行だと思わせるためでした。また村木は、石井は坂本に脅されて織田夫妻を殺害したと話します。結局、安藤を陥れようと皆がグルになって建てた計画が、スギモトの突然死と、村木が遺体に記号を刻んだ事で狂いだしました。計画を知っていた皆は、スギモトを殺したのは安藤だと考え、安藤に罪をなすりつけようと、便乗殺人が行われる事になりました。
 真相を語った村木は、小林に安藤を置いて去るよう要求します。小林は拒否しますが、安藤も小林に去るよう言います。小林は2人を残して去り、数十メートル程離れた場所で振り返ると、村木が倒れます。小林が2人の元へ戻ってみると、村木は自殺していました。安藤は、坂本及び石井を呼び、村木の遺体を解体して3人で食べます。遠藤は姿を消し、その後の行方は分かりません。坂本及び石井は、山根をどこかの民家のバスタブに縛って放り込んだという村木の言葉を信じて、山根を探しに行きます。
 小林及び安藤は、高台にあるベンチで話しをします。安藤は、坂本が言いふらしていた噂、安藤が父親と寝ているという噂は事実だと小林に話します。安藤は、織田にもこの事を話し、その現場を織田に目撃させました。そして次の日に織田は自殺しました。安藤は、織田が弱い人間だったと言い、小林は強い人間だと言います。
 安藤の話を聞いた小林は、安藤がスギモトを殺したのだと悟ります。安藤は、弱い人間は生きる価値がないと言い、小林に自分の子供の父親になって欲しいと言います。小林は、子供が男の子だったら織田の名前を付けてやれと言います。小林は、安藤の首を絞め、安藤を抱き寄せます。

 以上が、浦賀和宏さんの「記号を喰う魔女」の物語です。
 うーむ、何だかイマイチでした。孤島での連続殺人もありきたりですし、結末もそれほど驚くようなものではなかったです。シリーズで言うと、本編ではなく、外伝の雰囲気がありました。
 主人公の小林は、その後の物語である「頭蓋骨の中の楽園」において、推理作家となって自殺してしまう人物です。小林は、世間的には安藤直樹の父親と認識されている人物、安藤裕子が実の父の子供を産む際に父親役を買って出た人物です。
 坂本は、その後の物語である「時の鳥籠」において、安藤裕子の友達として登場し、殺人犯に殺されてしまう人物です。
 また「記号を喰う魔女」には、小林に想いを寄せる女性として、坂本の妹の真由美がほんの少し登場します。真由美は、「頭蓋骨の中の楽園」で小林の妻として登場します。
 山根は、…、何となく名前に見覚えがあるのですが、忘れてしまいました。後の物語に少し登場する人物だと思います。
 石井は、恐らくはこの物語において初登場の人物だと思います。覚えていないだけかもしれませんが。
 いずれにせよ、この物語の主要な登場人物達に多くは、後の時代の物語に登場することが分かっています。孤島での連続殺人というパターンの物語は、誰が死んで誰が生き残るか分からないところがハラハラドキドキのポイントだと思うのですが、登場人物の半数近くが生き残り確定している状況です。これがこの作品のイマイチ盛り上がらない原因になっているように思えます。物語の多くのシーンが小林及び安藤の視点で描かれているのですが、どうせ2人とも生き残ると思うと、やはりハラハラドキドキ感は低下してしまいます。初登場の人物を主人公にして、殺人鬼は安藤ではないかと疑うというような展開の方がよかったのではないかと思います。
 物語全体のテーマとなっている「カニバリズム」。作者には何らかのこだわりがあるのかもしれませんが、イマイチ魅力を感じることができませんでした。作中の所々で力説されるカニバリズムに関する蘊蓄が、何となく邪魔に感じられました。カニバリズムが作品の主題のように扱われていますが、もう少し軽めの扱いの方が良かったのではないかと。
 やや否定的な感想を述べてしまいましたが、面白くないとまでは言えず、シリーズの1作品としてはナシじゃない、読んでおいて損はないかなと思えます。逆に、シリーズものではなく、単体作品として読む方がアリに思えました。
 この作品を読み終わって、この作品に関する情報をネットで調べてみようとしたところ、作者の浦賀和宏さんが2020年2月にお亡くなりになったという事を初めて知りました。享年41歳という私よりも若い年齢にもかかわらず脳出血だそうで、とても残念です。ご冥福をお祈りいたします。