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樋口彰彦 「ルー=ガルー」

 樋口彰彦さんの「ルー=ガルー」は、2006年~2009年に徳間書店の「月刊COMICリュウ」に連載された漫画作品であり、もちろん京極夏彦さんの小説「ルー=ガルー 忌避すべき狼」を漫画化した作品です。全5巻の単行本が発売されていましたが、2010年に全3巻の完全版として再発売されています。今回はこの完全版を読みました。元々は5冊の分量を3冊にまとめているので、1冊がかなり分厚いです。京極夏彦さんの関連の書籍なので、なんだかこの分厚さが似合うように思えます。
 アニメ映画の「ルー=ガルー」の公開が2010年と近かったので、この漫画はてっきり映画版のストーリーを漫画にしたものかと思っていました。映画版が面白くなかっただけに、期待せずに漫画版を読んでみたのですが…。予想に反して、漫画版のストーリーは映画版とは全く異なり、どちらかと言うと小説に近いものでした。小説のストーリーにオリジナルの設定やエピソードを追加して膨らませたという印象です。物語全体としての大筋はおなじなので、あらすじの記載は省略し、漫画版と小説版及び映画版の相違点について簡単に記載します。ネタバレ注意です。

 漫画版では、背景設定に大きな追加事項があります。この物語のような管理社会が生まれた背景として、過去に「パイド・パイパー」と呼ばれる事件が発生したことが原因とされています。この事件は、何らかの感染症が世界的に広がり、数億人の死者を出したというものです。この事件で人口が減少し、子供達が安全に成長できるように管理社会が形成されていったという事のようです。

 漫画版の「端末」は、腕に装着するブレスレット型の装置として描かれています。映画版では「端末」は「モニタ」と呼ばれ、形状はカード型でした。小説版の「端末」がどのような形状なのかは不明です。映画版のカード型より、漫画版のブレスレット型の方がやや未来感がありました。ただし、ブレスレット型の端末がどのような入出力インタフェースで動作しているのかはよくわかりませんでした。

 漫画版には「ルー=ガルー」と呼ばれる謎の薬が登場します。この薬は、飲んだ人間の身体能力を高めたり、凶暴化したりする効果があるようです。小説「ルー=ガルー2」に登場した「毒」の設定をフィードバックしたのかなと想像します。中村雄二はこの薬を飲んでいたことになっています。

 漫画版では、殺されたと思われた中村雄二が実は生きており、SVC記念センターでの最終決戦に参戦します。この戦いで、中村雄二は来生律子を助けて死亡します。漫画版には「ルー=ガルー2」の要素を取り入れることが試みられているようで、律子及び雄二の幼馴染という関係に少し踏み込んだオリジナルのエピソードが盛り込まれています。ただし、律子及び雄二に割り当てられたページ数は少なく、全体的に見てこのオリジナル要素は蛇足感がありました。

 漫画版では、被害者の1人である矢部祐子が葉月達の仲間の1人として描かれています。小説版も映画版も、祐子は葉月達が偶然に助けてしまっただけで、あまり深い付き合いがある人物ではありません。葉月達が裕子を助けてあげたけれど助けきれなかったという、あくまでも被害者の1人でした。これに対して漫画版では、葉月達が祐子を助けた後、葉月達と祐子とが友情をはぐくんでいく様子が描かれています。殺される直前に祐子は、葉月、歩未、美緒及び麗猫と共に、完全に仲間の1人になっていました。漫画を読んでいて、漫画版では祐子は殺されないのかな?と思ってしまうほどでした。それだけに、祐子が殺されてしまったときの衝撃は大きいです。

 小説版では事件解決後に日常が戻り、葉月、歩未及び美緒は以前のようにコミュニティーセンターへ通っていました。映画版では、葉月及び美緒は日常生活に戻りますが、歩未は行方をくらませていました。漫画版は、事件解決後に歩未は姉の住む海外へ行くことを決め、葉月達が旅立つ歩みを止めに行く、という展開がありました。個人的には、漫画版のラストが一番好きです。

 以上、樋口彰彦さんの漫画版「ルー=ガルー」について、小説版及び映画版との相違点を挙げてみました。
 小説版、映画版、漫画版と3バージョンを制覇してみて、個人的な好き嫌いで順位を付けるとすれば、1位が漫画版、2位が小説版、3位が映画版です。この「ルー=ガルー」のストーリーは、やや漫画やアニメ向きのように思えます。歩未がやたらと強かったり、美緒が万能便利アイテムだったりする展開は、小説で読むとやや興ざめしますが、漫画で読めばまぁこんなもんかと納得できます。映画版は、内容をはしょり過ぎていて、全く面白くなく、ダントツの最下位です。
 映画版は小説版の物語の上っ面をなぞっただけの内容に思えましたが、漫画版は小説版に込められたメッセージが上手く再現されていたように思えます。もちろん、小説版があっての漫画版であり、小説版を読んでいなければ漫画版を読んでも全く意味不明という可能性はあると思いますが。いずれにせよ、小説版を先に読んでいても、漫画版は十分に面白かったですし、漫画版は読んで損はない作品だと思います。

  

映画 「ルー=ガルー」

 映画「ルー=ガルー」は、2010年8月に公開された日本のアニメ映画です。もちろん、京極夏彦さんの小説「ルー=ガルー 忌避すべき狼」を原作とするアニメ作品です。
 「ルー=ガルー」がアニメ映画化されていたという事実をこれまで全く知りませんでした。当時はどの程度、話題になったのでしょう?時期的には「ルー=ガルー2」の小説が発表された時期の少し前に相当します。この映画がきっかけで「ルー=ガルー2」が執筆されたのか、逆に「ルー=ガルー2」がきっかけで一作目のアニメ化が決まったのか、少なからず関連はありそうに思えます。
 小説のアニメ化、マンガの実写化等には、残念な結果が伴う事が多いものです。特に、原作を先に読んでいると。そして予想通り、この映画「ルー=ガルー」も残念な結果でした。原作のあらすじをなぞるだけの内容で、原作から変更されている部分はほほマイナスの影響を与えているように思えました。原作を読んだ人にも、読んでいない人にも、面白くない映画になってしまっているのではないかと。
 原作がかなり量のある小説ですから、映画化に際してある程度の取捨選択が必要となるのは仕方のない事です。映画「ルー=ガルー」では、静枝及び橡の大人パートはほぼカットされています。これは予想通りで、誰が映画化しても大人パートはカットするだろうと思います。そして子供パートですが、何というか、安っぽい友情物語風の味つけで、コレじゃない感が山盛りでした。他人とのリアルコミュニケーションが極端に減った未来世界という原作の雰囲気が微塵もありません。
 原作では「端末」と呼ばれていた装置は、映画では「モニタ」と呼ばれており、名刺大くらいのサイズの四角く薄い装置として描かれています。現代のスマホと大差ない装置に見えます。その他、映画で映像化された世界は、あまり未来感がなく、どこか中途半端です。
 また原作では、美緒及び麗猫が人を殺してしまうという展開がありますが、映画版ではサクッとカットされており、人を殺すのは歩未のみとなっています。ここの部分は、結構重要なところだと思うのですが。
 ただし映画版の物語の基本的な展開は、原作から一部端折られてはいますが、ほぼ原作通りです。原作から大きく変更されているのは、物語の結末というか、事件の黒幕に関してです。これは、原作を読んだ人に少しは驚いてもらおうというサービス精神なのかもしれません。
 以下、映画版の結末に触れます。ネタバレ注意です。

 映画版では、橡刑事の役割が大きく変更されています。物語の最初の方で登場したときには、原作通りの人物に思えました。映画版の橡は原作よりやや若く、静枝が橡と以前から知り合いであり、静枝が橡に好意を寄せているように描かれている点では原作とやや異なっていますが、許容範囲内の微細な変更点です。その後、橡の登場シーンはあまりなく、物語の後半で登場した橡は原作の高杉刑事の役割を演じます。つまり、橡刑事は石田管理官の仲間であり、静枝を石田管理官の元へ連れて行き、葉月達も石田管理官の元へ連れて行こうとして歩未にころされてしまいます。
 この橡刑事に関する変更は、個人的にアリかなと思います。原作の善人を映画では悪人にしてしまう思い切った変更で、原作を読んだ人は驚いたのではないでしょうか。
 そして事件の黒幕である石田管理官は、実在しない人物で、世界大戦中から生き続けているSVC創始者の鈴木敬太郎がその正体です。石田管理官が画面を通してしか登場しない伏線はあるものの、少し無理があるような。鈴木敬太郎は、相当な年齢のはずですが、まだピンピンしており、十分に若々しいです。なぜ生きているのか、なぜ若々しいのか、どうやって石田管理官になりすましていたのか、どうやってデータを改ざんしていたのか、等々が全くわかりません。自分が食べるために殺人を行っていたという、単なる人肉大好きな猟奇殺人者です。何だか薄っぺらな印象です。
 事件解決後は、歩未が葉月達の前から姿を消してしまいます。これも原作とは異なっている点ですが、歩未が姿を消すという行動を取るのが何か違うように感じました。

 以上、映画「ルー=ガルー」について感じた事をつらつらと書いてしまいました。何だか悪口になってしまって申し訳ありません。

 

京極夏彦 「ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔」 分冊文庫版下巻

 京極夏彦さんの「ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔」の続きです。
 雛子が律子に渡した毒の小瓶を巡り、神崎ケミカルコーポレーション、公安警察、未登録住人が入り混じって何やら騒いでいます。律子及び橡達は事件に巻き込まれて右往左往していますが、事件の全体像はさっぱり分かりません。上巻の最後は、歩未が未登録住人をナイフで殺すシーンで終わっています。まだ物語の半分ですから、歩未が犯人なんてことはないはずです。
 それでは以下、京極夏彦さんの「ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔」分冊文庫版下巻のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

 律子、葉月及び不破は、小山田に連れられて公安部のアジトにやってきます。このアジトは、神崎ケミカルコーポレーションを監視するためのもののようです。小山田は、美緒の家が爆破された事件について、美緒は現場におらず、無事だと思われる事を話します。あの爆発は、美緒の家に侵入した者達が、律子の祖父に対して使用したものと同じ何らかのガスを使用し、そのガスに引火して引き起こされたものであり、侵入者達にも予想外の爆発のようでした。その証拠に侵入者は爆発に巻き込まれて死亡しています。死亡した侵入者は、神崎ケミカルコーポレーションの私設警備である神崎セキュリティサーヴィス(以下、KSS)のものに似た制服を着用していました。律子は、敵は雛子から渡された毒を探しているのではないかと話します。また美緒が毒を分析するために神崎ケミカルコーポレーションの研究施設に忍び込む事を考えており、それを行うのが今日だった事を話します。小山田は、神崎ケミカルコーポレーションの敷地は、有事の際に外部と切り離すために、敷地の境界線が沈んで幅10メートル、深さ20メートルの溝になる機構が備わっており、もし美緒の侵入がバレてこの機構が稼働すれば美緒は逃げられなくなると話します。その直後、神崎ケミカルコーポレーションがこの機構の稼働を行うという知らせが届きます。どうやら美緒は侵入し、侵入がバレてしまったようでした。
 橡、雛子、麗猫及び歩未は、KSSの警備員達に取り囲まれ、麗猫及び歩未は警備員達を引き連れるように戦いながら姿を消します。残された橡及び雛子は、神崎ケミカルコーポレーションとC地区との境界線におり、この境界線が沈んで行きます。橡及び雛子は、C地区側へ逃げますが、KSSの警備員達に囲まれ、捕らえられそうになります。しかしそこへ小山田が率いる警察が現れ、KSSは神崎ケミカルコーポレーションの敷地外では何の権限もないことを指摘し、橡及び雛子の身柄を確保します。
 律子及び葉月は、公安部のアジトの一部屋に匿われていました。そこへ小山田が雛子を連れて現れ、雛子を部屋に残して小山田は去ります。
 橡は、静枝及び小山田と別の部屋で話していました。コミュニティセンターで発生した傷害事件と同様の症例を静枝が抽出して作成した人物リストと、神崎ケミカルコーポレーションがメディカルチェックの際に極秘で薬を投与したと疑われる人物リストとが一致する事がわかります。この薬を投与された人は、人体能力が上がっているように思われます。また橡の友達だった霧島タクヤの兄の霧島イクオがこのリストに挙がっていました。また律子の両親が勤めていた病院でもこの薬の試験が行われていた形跡がありました。しかしこれらの事実がどう繋がっているのか分かりません。
 雛子は、律子達を事件に巻き込んでしまった事を謝ります。雛子は、あの毒が死んだ祖父から貰ったもので、祖父が作り出したものだと話します。祖父は自分の子供、即ち雛子の父母を人体実験に使い、2人は死亡しています。しかし祖父は、毒を作ろうとしていたのではなく、何か別のものを作ろうとして毒ができてしまったようです。雛子は、あの毒は、神崎家の人間にしか効かないか、神崎家の人間にだけ効かないかのどちらかだと言い、どちらかは分かりません。雛子は、兄も祖父から何かを渡されており、それを基に研究を重ねて何か良くない事を考えていると話します。また兄は、雛子の事を愛しており、雛子は兄から逃げてきました。
 雛子の話しは、別室の橡、静枝及び小山田も聞いていました。橡達は、雛子の兄・作倉遼が事件の黒幕である事を理解しますが、その目的が分かりません。未登録住人達を殺した犯人も目的も不明でした。橡達が話し合っていると、雛子及び橡をKSSに引き渡す命令が出されます。2人は病原体に感染している恐れがあるため、神崎ケミカルコーポレーションの研究所で隔離するという理由でした。もちろん虚偽の理由です。そしてすぐに、2人を搬送するためのジャイロがやってきます。
 その後、雛子及び橡は連れて行かれ、残された律子達は家に帰されます。律子が家に着くと、家には美緒が無断侵入していました。律子はひと眠りし、その間に美緒は律子のバイクを改造していました。律子のバイクは燃料がないと走らないものでしたが、美緒はプラズマエネルギーで動く動力源に載せ替えていました。また美緒は、これまでの経緯を律子に話します。美緒は、爆発の前に家を抜け出し、神崎ケミカルコーポレーションの研究所に侵入して毒の分析を行い、研究所から逃げ出した後で侵入が発覚するようトラップを仕掛けました。その後、美緒は律子の家に侵入して隠れていたようです。美緒は、毒が何なのかわかったと言います。
 神崎ケミカルコーポレーションに連れてこられた橡は、滅菌ブースに閉じ込められていました。そこには麗猫も捕まっていましたが、歩未は逃げ延びたようでした。麗猫は、自分が捕まったときに襲ってきたのが、行方不明だった未登録住人だった事に気付きます。未登録住人達を殺害していたのは行方不明の未登録住人であり、歩未が殺した未登録住人は敵側の未登録住人だったようです。行方不明の未登録住人達は、麗猫よりも身体能力が上がっていたようであり、また美緒のナイフと同じナイフを持っていました。これまでのはなしから橡は、霧島タクヤが一家を惨殺したのではなく、兄イクオが一家を惨殺し、タクヤはこれを止めるためにイクオを殺したのだと考えます。全て、作倉遼の作り出した薬が元凶のようです。
 美緒は、小瓶の毒は、特定のDNAを持つ人間だけを殺す毒だと分析結果を律子に話します。そして本来は、特定のDNAを持つ人間を優れた人間に改良するために開発されたものでした。更に美緒は、作倉遼が開発した薬のデータを盗んでおり、遼の薬はDNAの縛りがなくなり、人間の能力を増大させるものであるようです。美緒は、作倉遼の研究にはスポンサーとなる大物が付いていると考えます。
 橡及び麗猫は、拘束されて部屋から連れ出されます。連れて行かれた部屋には、KSSで指揮を取っていた梶浦を含む数名と、ディスプレイ越に県警の田辺とが出席しており、橡及び麗猫の取り調べが行われます。橡は、田辺が上から圧力をかけられただけの小物と判断して揺さぶりをかけます。取り調べは中止になり、田辺は去ります。代わってKSSの中村部長、死んだ中村雄二の父親でもあります、が橡と話します。中村は公安部がどの程度の情報を掴んでいるのかを知りたがっており、橡は麗猫を助ける事を条件に取り引きしようとします。
 美緒は、作倉遼の研究資金の出所を探り、多数のスポンサーの存在を発見します。スポンサーは、高齢の人間ばかりでした。美緒は、スポンサーの中に県警連の議長がいることに気を取めます。そして、律子の家に葉月が訪ねてきます。
 作倉遼が現れ、橡の取り引きに応じます。遼は、自分達の研究がこの国のためのものだと話します。祖父の毒を基に遼が作り出した薬は、人間に悪影響を与えるものではなく、不老長寿に近いものを作り出すものでした。80年の人生を、800年に伸ばすものです。ただし、薬の効果がある人間と、そうでない人間とがおり、人体実験を繰り返して研究を進めていました。霧島イクオはこの薬の最初の成功例で、KSSの特殊部隊のメンバーも全員が成功例です。遼は、橡及び麗猫にもこの薬を処方しようと言います。
 律子の家へやってきた葉月は、雛子達を助けたいと言います。美緒は、スポンサーの1人の県警察のトップである浅岡が黒幕であり、薬は体感時間を十倍に延ばすものだと気付きます。十倍人間は、一時間が十時間に感じられ、周りの動きがスローモーションのように感じられるはずです。浅岡は、十倍人間の部隊でテロを起こそうとしているようです。美緒は、これらの証拠となるデータを葉月に渡し、養父の県議に知らせる事を頼みます。美緒は、律子のバイクに乗って雛子達を助けに行く事を決めます。
 KSSの梶浦に連れ出された橡は、自分と麗猫とはこの薬に適合する事がDNA検査の結果でわかっていると聞かされます。橡は、浅岡及び中村が黒幕で、律子の両親を口封じに殺害したのが梶浦である事を知ります。橡は別の部屋に入れられ、そこには麗猫、秀朧及び数名の未登録住人がいました。秀朧は麗猫の手当てをしており、橡は秀朧が作倉遼達の仲間である事に気付きます。秀朧はこれを認め、KSSの特殊部隊は薬に適合した未登録住人達であり、これまでの殺人は彼等が行った事を話します。彼等が未登録住人を殺害する現場を美緒が目撃し、口封じのために美緒を追うと歩未が現れて阻止され、逆に歩未に返り討ちにされました。橡達はこの時に歩未が未登録住人の姿をしたKSSの隊員を殺害する瞬間を目撃したのでさた。怒った麗猫が秀朧に挑みかかろうとすると、部屋にいた未登録住人達が秀朧を守ります。彼等も薬の適合者で、秀朧の護衛役でした。
 バイクに乗った律子及び美緒は、律子の家を出て街中を走り抜け、神崎ケミカルコーポレーションを目指します。神崎ケミカルコーポレーションの敷地は、まだ深い溝で囲まれていました。美緒は、バイクで飛び越えられると言い、律子は溝へ向けてバイクを発進させます。
 突然、麗猫の仲間の宋冲が部屋に入ってきて乱戦となり、宋冲は殺されます。この隙に橡及び麗猫は部屋から逃走します。2人は神崎ケミカルコーポレーションのビルの入口付近まで逃げますが、外に出る事ができず、敵に囲まれます。中村、梶浦、秀朧及びその部下達は、2人を捕らえるために麻酔ガスを散布しようとします。そのとき、轟音と共に玄関ホールの強化ガラスが砕け散り、バイクに乗った律子及び美緒が現れます。美緒は、プラズマ砲でKSSをなぎ払います。また隠れ潜んでいた歩未も合流します。律子は、バイクで走る中で不可抗力的に両親の仇である梶浦を殺してしまいます。
 歩未及び美緒の活躍でKSSの部隊は次々と倒され、最後に中村も歩未に殺されます。律子達は、雛子がいる研究所を目指します。途中、秀朧を発見した麗猫は、秀朧を殺します。そして律子達は、雛子及び遼がいる部屋にたどり着きます。律子は雛子に毒の小瓶を返します。遼は、小瓶の毒が元々は遺伝子情報を書き換える薬の失敗作であり、自分の遺伝子情報を書き換えて雛子と兄妹ではなくなり、雛子と結ばれる事が自分の願いだったと話します。雛子はこの毒を口に含んで遼に口付けし、遼は毒の影響で死亡します。しかし雛子は死にませんでした。雛子には神崎家の血は流れていなかったようです。
 その後、神崎ケミカルコーポレーションの敷地に大型ジャイロが着陸します。中から現れたのは、葉月、小山田及び静枝でした。小山田は、事件の黒幕だった県警の浅岡は自殺したと話します。公安部は今回の事件を隠蔽する事とし、律子達の罪は問わない代わりに、今後は律子達を公安部の監視下に置く事に決めます。
 そして律子達は、日常生活に戻りました。

 以上が、京極夏彦さんの「ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔」の物語です。
 ほとんど美緒の活躍で事件が解決しています。事件の謎解き部分は美緒のハッキング能力で、事件の戦闘部分は美緒の超兵器で。あまりにも美緒が便利アイテムとして利用され過ぎている気がしました。この物語を美緒視点に変換したら、一瞬で事件解決まで到達してしまいそうです。超人キャラに事件解決を一手に任せてしまうのはどうかと思います。
 前作ではもう一人の超人キャラだった歩未ですが、今回はあまり出番はありませんでした。と言っても、今回の事件で歩未が殺した人数は前回の事件より多そうです。そもそも、歩未は今回の事件に直接的な関わりはなかったにもかかわらず、自分から積極的に事件に介入しています。そのくせ、仕方なく殺してしまったというスタンスを保っています。何だか納得がいきません。歩未が薬を摂取した十倍人間よりも強いというのも納得がいきません。そして今回も何だかんだでおとがめなしの結末で、これも納得いかない点です。
 物語全体としては、雛子の兄・遼が黒幕で、雛子の毒を取り返すために暗躍しているであろうことは容易に想像がつくのですが、いつまでたっても事件の全貌がはっきりしない展開が続き、いい加減にうんざりしてきます。遼が黒幕であることは上巻の真ん中くらいでは想像がついてしまうので、上巻の終わりではそのことを明かし、下巻では更に別の展開に持っていくくらいして欲しかったです。読んでいて物語が長く感じられました。
 全体として「ルー=ガルー2」はイマイチでした。読む前に期待し過ぎたのかもしれませんが。



 

京極夏彦 「ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔」 分冊文庫版上巻

 京極夏彦さんの「ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔」は、2011年10月に、単行本、新書版、分冊文庫版及び電子書籍版が一度に発売されています。複数形態で同時発売というのは珍しいですね。
 第1作目の「ルー=ガルー 忌避すべき狼」が2001年に発売されているので、10年の期間を経て第2作が発表されたということになります。第2作目の物語では、第1作目にまかれた伏線が回収されていたりするので、京極夏彦さんとしては初めから続編の構想があったのではないかと思われるのですが、発表までに10年を要した理由は何なのでしょうね?
 作品としては10年を隔てていますが、第2作目の物語は第1作目の物語から数か月後です。第2作目で発生する事件は、第1作目の事件と関連しています。また第1作目では各章に番号がふられており、「1」から「31」までの章がありました。第2作目も同様に各章に番号が振られているのですが、第1作目の続きであることを示すように「32」から番号が始まっています。これも第1作目の事件がまだ続いているということを示す作者からのメッセージのようです。
 第1作目は、牧野葉月の子供の視点と、不破静枝の大人の視点とが交互に描かれる物語構成でした。第2作目も同様に子供視点と大人視点とが交互に描かれますが、子供視点は来生律子、大人視点は橡兜次に変わっています。その他の主要な登場人物はちゃんと続投です。やや便利アイテムの感がある美緒は出番少な目です。
 それでは以下、京極夏彦さんの「ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔」のあらすじを記載します。長いので上巻のみです。

 連続殺人事件から3ヶ月が経過し、関係者も日常生活に戻っています。来生律子は、連続殺人事件では誘拐されて殺されかける経験をしており、また殺された中村雄二は小さい頃に一緒に遊んだ仲でした。律子は、祖父と二人暮らしをしており、祖父が昔に使っていたバイクを修理するのを趣味にしています。ただしガソリンで走るバイクは禁止されており、修理しても走らせる事はできません。ある夜、律子がバイクいじりを終えて外を見ると、家の向かいの緑地帯のベンチに作倉雛子が座っています。雛子も誘拐されて殺されかけた1人です。雛子は、何か液体が入った小瓶を見せ、これは毒だと言います。
 橡兜次は、前回の事件をきっかけに、刑事を辞めていました。橡は、神埜歩未の家を訪れます。歩未の家の周りはいつの間にか集像機が増設され、何者かが監視しているようでした。橡は、昔に歩未が殺したという男が自分の知り合いではないかと思い、歩未にその時の事を尋ねに来ました。その男は霧島タクヤといい、橡が子供の頃の友達でしたが、女の子を殺害し、家族を殺害して逮捕されましたが、精神鑑定で責任能力なしと判断され、医療施設に入れられ、施設から退院したあとは行方不明でした。写真を見た歩未は肯定します。霧島は歩未を襲いましたが、途中で謝り始め、歩未は霧島が差し出したナイフで霧島を殺しました。
 律子及び雛子は、緑地帯で話し続けていました。律子は、二年前に両親を何者かに殺されるという事件に合っていました。犯人は捕まっていません。しばらく話していると、雛子の兄、作倉遼が迎えにやってきます。遼は雛子の10歳年上で、神崎ケミカルコーポレーションという会社で研究員をしています。雛子は去り際に毒の小瓶をそっと律子に託します。
 歩未は、霧島が持ち歩いていたナイフ、霧島を殺したナイフを今でも保管していました。それは特殊な形状のナイフで、霧島はこのナイフの使い方を知らなかったのではないかと歩未は橡に話します。霧島が大量殺人を犯したという話がどこか変だと歩未は感じました。そして歩未は、このナイフを調べてみたが、どこにも売っておらず、霧島がどのようにしてこのナイフを手に入れたのかわからないと話します。
 律子は、雛子から託された小瓶の処置に悩んでいました。律子は、天才と言われる都築美緒に相談する事を思いつきます。
 歩未の話を聞いた橡は、霧島の事件を調べ直す事にし、不破静枝に協力を頼みに行きます。過去の事件記録によれば、霧島は果物ナイフで家族5人の内の4人を斬り殺し、1人を刺し殺したとされていますが、常人には不可能と思える殺し方です。橡は、カウンセラーがアクセスできるデータベースから、この事件に関するデータを探す事を静枝に頼みます。
 律子は、美緒に小瓶に入った液体が本当に毒なのかを調べる事を依頼します。美緒は、成分分析には設備が必要だと話し、どこかに忍び込むといって小瓶を持って行きます。
 橡は、美緒の協力を仰ごうと、美緒の家の周辺へやってきます。ここで橡は、麗猫に会います。麗猫は、未登録住人が行方不明になる事件が続いていると話します。そして麗猫は、美緒の家の周辺にも集像機が設置され、何者かが美緒を監視していると話します。橡は、美緒に会うのをあきらめます。
 コミュニケーション研修に出た律子は、研修の終了後に葉月に連れられ、センターの外で美緒に会います。美緒は、自分が監視されている事に気付いており、集像機のない場所へ律子を連れてきてもらいました。美緒は、小瓶の液体の成分分析を行うため、神崎ケミカルコーポレーションの研究所に忍び込む計画を話します。律子達が話していると、センターが騒がしくなり、指導員がやってきて律子達に帰宅を命じます。美緒は、センターに端末を置きっぱなしだったことを思い出します。
 橡と会った静枝は、コミュニティセンターで発生した傷害事件の事を話します。刃物を持った16歳の児童がセンターで暴れ、エリア警備の5人に傷を負わせました。児童がエリア警備5人に的確に刃物で傷を負わせるというのは非常に難しい事です。静枝は、類似の事件について30年分ののデータを集め、その中には橡に調査を頼まれた霧島タクヤの事件も含まれていました。静枝は、データをコピーしたフィルムを橡に渡します。
 律子が帰宅すると、家は何者かにより荒らされていました。律子の祖父は、何らかのガスで意識を失っていましたが、無事でした。律子及び祖父が警察に知らせる事を相談していると、1人の怪しげなヒゲ面の男がやってきます。男は全国統合警察と名乗りますが、律子は信用できません。律子と男とが押し問答をさていると、作倉雛子の兄がやってきます。男は、退散して行きます。雛子の兄は、雛子が忘れ物をしなかったかと律子に尋ねようとしますが、そこへ異変を察知したエリア警備がやってきます。
 橡は、再びC地区の美緒の家の近くにやってきていました。すると突然に近くの建物で爆発が起こります。どうやら美緒の家を爆発が発生したようでした。近くで麗猫が美緒を呼ぶ声が聞こえ、橡は爆発現場へ向かいます。現場には1人の男がいました。橡は知りませんが、律子の家にも現れたヒゲ面の男です。橡は男を捕まえようとし、橡と男とが揉み合っているとまた爆発が起こり、橡は気を失います。
 律子の祖父は病院へ運ばれ、しばらく入院する事になります。家で1人になった律子は、美緒の家の付近で爆発が発生し、その後にC地区では未登録住人の暴動が発生しているというニュースを見ます。美緒が心配になった律子は、家を出て美緒の家へ向かいます。途中、律子は歩未にです。出会います。歩未は、律子が来る事を予想して待っていたと言い、美緒は既にどこかへ逃げており、恐らく無事だと言います。
 橡は、未登録住人の医者の秀朧という名の老人の家で目を覚まします。爆発に巻き込まれて怪我をした橡を麗猫がここまで運んだようです。場所は、美緒の家の地区から3つ隣にある地区でした。ヒゲ面の男は姿を消していましたが、麗猫は現場で怪しい男を1人捕まえていました。男は端末を所持していたようで、位置を特定される恐れがあると考えた橡は、端末を処分すべく、男を捕らえている場所へ麗猫と共に向かいます。橡及び麗猫は、男が捕らえられている倉庫に到着しますが、捕らわれていた男は見張りの4人の未登録住人と共に殺害されていました。5人はいずれも刃物で一撃で殺されていました。
 律子の祖父は3日間入院する事になります。律子は、1人の家で、死んだ中村のことを思い出していました。そして律子は、両親が殺された日に中村を見かけた事を思い出し、犯人は中村だったのかと疑いを抱きます。その後、律子の担当カウンセラーの不破静枝が訪れます。不破は、律子を含めて前回の事件関係者が何者かに見張られている事を告げ、次は葉月の様子を見に行くと言います。律子さ、不破と共に葉月の家へ行く事にします。
 5つの死体が横たわる倉庫で、橡及び麗猫は、未登録住人達に囲まれていました。秀朧や、宋冲という名の麗猫の知り合いも含まれています。皆が他人を信じられず、言い争いになります。しばらくすると、倉庫の外が騒がしくなり、倉庫の中に誰かが逃げ込んできます。逃げ込んできたのは、雛子でした。
 律子及び不破は、葉月の家に入ります。しかし、何者かが葉月の家の周りをうろついており、葉月の家から出れなくなってしまいます。しばらくすると、何者かの工作で葉月の家のセキュリティ装置が動作停止してしまいます。何者かは葉月の家に侵入しようとしているようです。律子達が戸惑っていると、例のヒゲ面の男が助けに現れます。男は、公安部の小山田と名乗り、律子達を家の外へ連れ出し、移動機械に乗せて敵から逃げます。敵は不明ですが、小山田は本物の警察でした。
 雛子は、この倉庫に来たのは偶然だと話します。この倉庫のある地区は、神崎ケミカルコーポレーションの本社に隣接しており、この倉庫も神崎グループのものでした。雛子は、兄の呼ばれてラボを訪れていましたが、ラボに侵入した何者かが装置を使用して脱出し、警報が作動しました。その後、施設が爆破されるとの情報が広がり、研究員や社員達が逃げ出しました。外の騒ぎは、人々が逃げ出したときのものでした。秀朧は、橡及び雛子と、5人の死体とを倉庫のコンテナに隠し、自分達で犯人を探すことにします。橡及び雛子はコンテナに入れられ、麗猫が見張りにつきます。2人きりとなった後、橡は雛子に、雛子が逃げてきたのは爆破騒ぎではなく、別のものからではないかと指摘します。
 律子、葉月及び不破は、小山田の移動機械に匿われていました。小山田は、律子達を監視していたのは、律子達を守るためだったと話します。公安部は五十年以上前からある企業を内偵していました。この企業の創始者は非常に危険な毒物を完成させた疑いがあり、詳しい事は分かりませんが、一定のDNA配列を持つ者だけに効く毒物のようでした。この毒物の研究は破棄されましたが、三十年まえに人体実験が行われた節がありました。そして公安部は、この企業が五年前から人体実験を再開したと考えています。この企業、即ち神崎ケミカルコーポレーションは、コミュニティセンターで行われる公式なメディカルチェックを担当しており、もし律子達の誰かが被験者となっていたら、律子達はその事に気付いてしまい、もし気付けば何かが起こると小山田は考えていました。そして実際に何かが起こっているようでした。
 雛子は、神崎ケミカルコーポレーションが人を人でないものに作り替えようとしていると橡に話します。麗猫は、いつまで待っても誰も戻ってこない事を不審に思い、橡及び雛子をコンテナから出し、秀朧の病院へ戻る事にします。病院に戻ってみると、病院内には未登録住人の死体がいくつも転がっており、どれも刃物で首を切られて一撃で殺害されていました。秀朧は病院内にいないようです。3人が病院から出ると、秀朧が逃げてきます。秀朧の後ろでは2人の人間が争っており、1人がもう1人をナイフで切り殺します。争いに勝ったのは、霧島のナイフを持つ歩未でした。

 以上が京極夏彦さんの「ルー=ガルー2」分冊文庫版の上巻の物語です。
 律子及び橡の視点で物語が描かれるためか、事件の全体像が分かり難いです。雛子の持っていた小瓶の毒が事件の中心なのだろうということはわかりました。何人も殺されているのもわかるのですが、殺されるのは名前のない人物ばかりで、イマイチ殺人事件の実感がありません。律子達が事件の中心にいるようで、案外そうでもないと言うか。最も事件に関係していそうな美緒がほとんど登場しないというのも、もったいぶっているというか。まぁ、美緒と歩未は必殺アイテムで無双状態ですから、登場させると事件が終わってしまう、という不都合があるのでしょうが。
 最後に惨殺の犯人が歩未であるかのような登場場面で終わりましたが、まぁ犯人が別なのは明らかで、それほどの驚きはなかったです。もはや、葉月か雛子あたりが殺されるような展開でなければ、驚けません。
 それでは、下巻へと続きます。



 

京極夏彦 「ルー=ガルー 忌避すべき狼」 分冊文庫版下巻

 京極夏彦さんの「ルー=ガルー 忌避すべき狼」の分冊文庫版下巻です。
 上巻のラストは、牧野葉月 、神埜歩未、都築美緒及び麗猫の4人が、矢部祐子を助けたはずなのに、殺されてしまった?という気になる内容で終わっています。容疑者だった中村雄二も殺されてしまいました。連続殺人事件の中に、非連続の殺人事件が紛れ込んでいることが匂わされていますが、真相は如何に?
 それでは早速、京極夏彦さんの「ルー=ガルー 忌避すべき狼」の下巻のあらすじを記載します。結末に触れますので、ネタバレ注意です。

 葉月、歩未及び美緒は、祐子が殺された事に混乱していました。3人は、美緒の家に集まっています。彼女達の計画は成功したはずでした。確かに、葉月の家に祐子が侵入してセキュリティが作動し、セキュリティ会社の警備員が祐子を保護して車で連れて行きました。歩未は途中まで車の後をつけて確認しています。美緒は、警備から警察へ連絡が入れられた事も確認していましたが、その後にこれらの記録は削除され、全てはなかった事にされていました。美緒は、これまでの殺人事件の犯人は川端リュウ及び中村雄二であり、動機はアニメ絡みだと推測していました。しかし、中村雄二は祐子より前に殺されており、雄二が祐子を殺した犯人ではあり得ません。そこへ、負傷した麗猫がやってきます。麗猫は、祐子を乗せた警備員の車を追跡しており、その後の出来事を語ります。警備員の車は途中で止まり、そこへ2人の男達が襲いかかり、祐子を連れ去りました。麗猫は助けようとしましたが、銃で撃たれて負傷し、逃げるのがやっとでした。2人は、頭に孔雀のヘッドアートをした大男と、メタルスーツを着た兵隊のような男でした。警備員が祐子を連れて行ったという記録が抹消されていることから、この事実を知る葉月が危ないと考えられます。美緒は、葉月の家のセキュリティ記録を確保し、養父の県議に葉月かまこの事を先に知らせる事を提案します。
 静枝及び橡は、まだ静枝の部屋にいました。橡は、この事件の担当者である石田管理官について静枝に話します。管理官の石田理一郎は、人工食材培養産業の草分けであるSVCという会社の創業者である鈴木敬太郎の曾孫に相当する人物で、かなりの権力を持っています。このエリアの警備会社もSVCの傘下の会社です。静枝及び橡が話していると、静枝を訪ねて児童がやってきます。やってきたのは、神埜歩未でした。歩未は、祐子の事件について知っていることを話し、事件の記録が何者かに改竄されていることを告げます。静枝、橡及び歩未は、センターを出ます。
 葉月は、県議の養父に祐子の事件について知らせます。養父は、祐子を保護した警備会社に話を聞き、警備員が保護した人物は祐子とは別人だったとの報告を受けます。いつの間にか、別人が葉月の家に侵入した事に記録が改竄されていました。その後、美緒から招集がかかり、葉月が家を出ようとしたとき、警備員が謝罪にやってきます。しかし警備員は偽物で、祐子を連れ去った人物でした。偽警備員は葉月を捕らえようとしますが、助けに現れた麗猫と共に葉月は逃げ切り、歩未の鳩の家までやってきます。歩未は不在でしたが、麗猫は葉月を鳩の家に連れて行き、1羽の鳩を捕まえていずこかへ去って行きます。
 センターから逃げ出した静枝、橡及び歩未は、木々の間に身を隠します。そこへ作倉雛子がやってきます。警察で事情聴取されていた雛子は、警察で得た新たな情報を話します。それは、新たに来生という少女が行方不明になったこと、牧野葉月が容疑者の未登録住人(麗猫)に誘拐されたことでした。しかし雛子は、葉月の件について捏造された情報だと感じ、管理官の石田が怪しいと感じていました。その後、歩未及び雛子は去り、静枝及び橡は石田が怪しいと感じますが、対処法は思い浮かびませんでした。そこへ、橡の後輩刑事の高杉が現れます。高杉も石田の様子が変だと言い、2人を安全な場所へ移動させるため、車を用意していました。
 葉月が隠れていた鳩の家に歩未が帰ってきます。歩未は、カウンセラーの不破静枝に相談したこと、警察が麗猫を容疑者として追っていることを話します。2人が一休みした後、麗猫が連れて行った鳩が戻ってきます。鳩には麗猫からのメッセージが結んであり、これにはSVC創立記念センタービルと記されていました。葉月は美緒にこの事を知らせ、歩未と共にビルへ向かいます。
 静枝及び橡は、高杉の車で移動していました。高杉と話している間に橡は、高杉の話に矛盾を感じます。高杉は、石田の仲間でした。高杉は、2人を大きな建物へと連れて行きます。
 葉月及び歩未は、徒歩でSVC創立記念センタービルを目指していました。ビルの近くまで来ると、ビルの周りは二百人ほどの警備員に守られていました。歩未は、ここは自分が人じゃなくなった場所だという謎の言葉を残し、葉月を置いてビルへ1人で向かいます。葉月も後を追いますが、歩未を見失ってしまいます。1人でビルへ向かった葉月は、道に設置されたセンサに検知されてしまい、混乱して大声で叫びながらビルへ向かって全力で駆け出します。
 SVC創立記念センタービルに連れてこられた静枝及び橡を待っていたのは、石田でした。石田は、連続殺人を利用して殺人を行っていること、警察及び警備会社の記録を操作していること等を認めます。石田は、協力するなら命は助けると静枝及び橡に提案しますが、歩未を含む少女達は殺害するつもりです。静枝及び橡は拒否し、殺菌ブースに閉じ込められます。
 葉月を助けに歩未及び麗猫が現れますが、警備員達に囲まれてしまいます。そこへ1人の刑事、高杉が現れます。高杉は、警備員達を下がらせると、葉月達をビルの中へ案内します。高杉は、3人をとある部屋まで連れてきます。葉月及び麗猫が部屋に入ったとき扉が閉まり、しばらくして歩未が入ってきます。歩未は、これは罠で高杉は敵だと言います。更に歩未は、川端リュウ及び中村雄二を殺した犯人は自分だと言い、高杉も今殺したと言います。歩未は、人を殺したのは今回が初めてではなく、以前にも自分を襲った男を殺した事があり、それが先に葉月と別れた場所、人ではなくなった場所での出来事でした。話し終えた歩未は、1人で部屋を出て行きます。
 ビル内で大きな物音がし、その後に停電が発生し、殺菌ブースのロックが解除され、静枝及び橡は殺菌ブースから脱出します。2人は、石田の部屋へ向かいます。石田は、何が起きているのか把握できずに混乱していました。橡は子供の内臓を抜き取るために殺人を繰り返している事を指摘し、石田は曾祖父のためにそれを行っていると話します。曾祖父、鈴木敬太郎は世間では死んだとされていますが、この建物内で生きていると石田は言います。そして石田は、子供達の内臓を取る理由は、味だと話します。
 停電が発生し、部屋から出た葉月及び麗猫は、高杉の死体を見つけます。そして2人の前に美緒が現れます。美緒は、自作のプラズマ砲を抱え、ビルを破壊しながら上階を目指します。来生の他に作倉雛子もさらわれており、2人が監禁されている部屋は14階と推測されます。3人は14階の厨房にたどり着き、厨房にいた男達を麗猫が倒し、来生及び雛子を救出する事に成功します。
 石田は、曾祖父の敬太郎が戦争で人肉を食べて生き延びた事を静枝及び橡に話します。敬太郎は、その後に人肉の味が忘れられず、これを再現しようと合成食材の研究を始め、会社を大成功に導きました。しかし敬太郎は、人肉の味の再現には結局成功しませんでした。石田は、敬太郎に人肉を食べさせるために、少女達を殺していました。
 来生及び雛子を加えて5人になった葉月達は、歩未を探して更に上階へ上がります。18階まで上がると、歩未と孔雀のヘッドアートをした男とが戦っており、歩未は男を倒します。歩未は葉月達と合流し、続いて襲ってきた銃を持つ男を美緒がプラズマ砲で倒します。
 美緒のハッキングにより電子機器が全く動作せず、石田は混乱していました。そして石田の部屋の扉が開き始めます。石田が扉から外を覗くと、そこには歩未がいました。歩未は、ナイフで石田を殺します。歩未は、静枝及び橡に対し、川端リュウ及び中村雄二を殺した事を認めます。そして部屋の奥には、たくさんのチューブなどが接続された老人、鈴木敬太郎がいました。敬太郎は、生きていると言うより、機械で生かされているという状態でした。歩未はチューブを切断し、敬太郎は死亡します。
 その後、葉月達は警察で全てを証言しました。しかし、SVC創立記念センタービルはテロリストに襲われた事にされ、連続殺人事件は川端リュウ及び中村雄二の犯行とされ、この2人を殺害した犯人は不明のまま迷宮入りします。葉月達は、歩未を含めて、誰一人おとがめなしとなり、日常生活に戻ります。

 以上が、京極夏彦さんの「ルー=ガルー 忌避すべき狼」の物語です。
 京極夏彦さん初のSF作品と言うことですが、それほどSF感はなかったです。それほど現在から遠くない世界でした。少し期待外れというか、予想外でした。SFというよりはミステリーでしたが、推理小説ではなく、何というかアニメの原作という感じでした。
 物語構成は、京極堂シリーズとよく似ていました。それぞれ特殊能力を持つ仲間達の中で1人非力で凡人な主人公というメンバー構成が京極堂シリーズを彷彿とさせます。久しぶりに京極堂シリーズの新作を読んだ気分になりました。
 物語としては、まあ面白かったのですが、結末にやや不満の残る読後感でした。犯人が組織的なこと、データを改竄すれば何でもありな設定、歩未までおとがめなしの結末など。やや安直というか、御都合主義というか。特に仲間内に天才ハッカーがいて面倒な事を全てチャチャっと解決してしまうというのが、個人的に最も嫌いなパターンでした。近未来に、そんな簡単にデータ改竄できるか疑問です。
 と、いろいろ批判的な事を書いてしまいましたが、作品は面白かったです。上記の批判も、京極夏彦さんの作品でなければ、例えば普通のラノベ作品なら全く気にならずに読み終えた所でしょう。京極夏彦さんの作品と思うと、自然に閾値を上げて読んでしまいます。
 この作品は、アニメ映画化されており、続編もあります。アニメには向いていそうです。これは見る必要ありですね。続編ももちろん読みますよ。