FC2ブログ

乾くるみ 「セブン」

 乾くるみさんの「セブン」は、2014年5月に発売され、2015年7月に文庫化された作品です。「セブン」は、7つの短編作品が収録された短編集です。7つの作品は、相互に関係はなく、独立した作品ですが、どの作品も数字の7を絡めた物語になっています。
 以下、各物語のあらすじです。

<ラッキーセブン>
 女子高の生徒会室にいた7人の生徒達が暇つぶしに1つのゲームを行うことにします。トランプの1~7のカードを用意し、1人が1枚のカードを引いて所持します。各人は任意に対戦相手を選び、1対1でお互いが所持するカードの数字を当て合います。対戦相手のカードの数字を当てた人が勝利ですが、お互いに当てた場合にはカードの数字が小さい人が勝利となります。ただし、7のカードは1のカードに勝利することができます。
 単なる暇つぶしのゲームのはずでしたが、生徒の一人が悪魔と契約しており、この悪魔の力によってゲームの敗者が死亡するというデスゲームに変貌してしまう、という物語です。

 悪魔云々はあまり関係なく、純粋にゲームの勝利のためにお互いのカードの数字を読み合う描写が続く物語でした。「ライヤーゲーム」を小説化したようなもの、と言えば雰囲気が伝わるでしょうか。読む人の好き嫌いがあると思います。私は面白かったです。

<小諸-新鶴343キロの殺意>
 新興宗教「日本トーラの会」の幹部7人が隠れ住む小諸の別荘で、幹部のうちの5人が殺害される事件が発生します。残りの2人である教祖:渡延園皇及びその妻:由佳は、信者であり別荘の所有者でもある犯人:笹原により拉致され、キャンピングカーに乗せられて高速道路の新鶴パーキングエリアまで連れてこられます。ここで教祖及び妻と犯人との間で問答合戦が繰り広げられ、最終的に教祖及び妻が勝利して逃走するという物語です。

 教祖及び妻と犯人との間で繰り広げられる問答の部分がメインなのでしょうが、ほとんどこじつけばっかりの内容で、あまり面白くなかったです。

<TLP49>
 主人公の長尾は特殊な時間跳躍の能力を持っています。生命の危険に見舞われる直前の瞬間から自分の意志とは関係なく時間跳躍が始まります。時間跳躍の開始の瞬間から49分後までの49分間が、7分ずつ7つのブロックに分割され、7つのブロックに対してランダムに時間跳躍が繰り返し行われ、全ブロックを体験した後に49分後の世界に到達します。
 自宅の書斎にいたはずの長尾は、突然に山の斜面を駆け降りる自分に意志がとびます。時間跳躍能力で6ブロック目に来てしまったようです。一体、どのような生命の危機にさらされているのか?という物語です。

 7つのブロックがランダムに入れ替わるで、少し分かり難い物語ではありますが、とても面白かったです。色々な時間跳躍の物語を読んでますが、このパターンは初めてで、斬新でした。短編で終わらせるのは惜しいです。是非とも長編小説で続編を書いて欲しいですね。

<一男去って…>
 母と男ばかりの7人兄弟の家族の物語です。母は毎年3月になると精神的におかしくなり、子供に暴力を振るいます。とうとう、4月から小学校に進学する末弟を殺してしまいます。家族は話し合い、見知らぬ土地へ引っ越して、残った6人の兄弟がそれぞれ1つ下の弟の振りをして学校へ通うことにします。長男は中学を卒業して義務教育が終わるため、家に引きこもっていることにします。
 こうして母の殺人を隠してなんとか一年が経過しますが、また3月に母が6番目の子供を殺してしまいます。
 このようにして毎年母が一番下の子供を殺し、その度に残った兄弟が一つ下の弟の振りをするということが繰り返され、最後には・・・。

 現実にはこんな偽装は無理と思いますが、短編小説としては面白かったです。アイデアの勝利というところでしょうか。

<殺人テレパス七対子>
 女流雀士の月見里亜弓とマネージャーの長崎美穂のコンビがテレビ番組の撮影中に起きた殺人事件を解決するベーシックな推理小説です。
 隣り合わせの2つのスタジオで、七組の双子の美女による双子の超能力の実験番組が撮影されています。双子達はそれぞれ一人ずつ別れて2つのスタジオに入っています。各スタジオには双子の他にADが一人ずつ入っています。2つのスタジオを同時に見渡せる調整室にはディレクターが一人います。撮影中に一方のスタジオに覆面の人物が現れてADを射殺して逃走し、姿をくらませます。
 偶然にスタジオの外に設置されていたモニタで撮影の様子を見ていた亜弓は、姿をくらませた犯人の正体を突き止めます。

 乾くるみさんには珍しくベーシックな推理ものでした。ひねりもなにもなく、誰でも犯人じゃないかと疑うであろう人物がやっぱり犯人でした。
 つまらなかったです。

<木曜の女>
 竹脇元司は、月曜日から日曜日まで、毎日異なる女性の家に帰る生活をしています。月曜日は清純系の未音、火曜日はギャル系の萌絵、水曜日は真面目な汐浬、木曜日は献身的な美樹、金曜日は女王様の可奈、土曜日は掴み所のない樹理、日曜日は妻の陽香です。
 元司がこの生活を見直そうと考えていた矢先、月曜日に未音の所へ行くと出て来たのは木曜日の女である美樹でした。

 先の展開が全く読めない作品でした。読み終えれば、あぁそういうことか、と納得です。乾くるみさんらしい作品だったと思います。

<ユニーク・ゲーム>
 7人の兵士を載せた偵察機がゲリラの攻撃で不時着します。このときに7人は、不時着前にパラシュートで脱出した4人と、偵察機に残って生き延びた3人との2グループに別れてしまいます。両グループは、それぞれ別の場所で、ゲリラに捕らえられます。ゲリラのリーダーは、7人に「ユニーク・ゲーム」を行わせ、処刑する者と、解放する者とを決めると言います。
 このゲームは、0から7までの好きな数字を各人が選び、他人と被らなければ解放され、被ったら処刑するという内容です。ただし、数字が被っても、その数字が解放される人数を当てていた場合には、この数字を選んだ者をご褒美として解放します。また、グループ内では相談することが許されていますが、別のグループとは意思疎通できません。
 さあ、最終的に何人が生き残れるでしょうか?という物語です。

 第一話と同様に、「ライヤーゲーム」的な物語でした。最終的なゲーム結果は、予想とは少し違いました。面白かったです。
 
 以上、「セブン」の各話でした。
 これで乾くるみさんの作品はほぼ制覇しました。まだ「 北乃杜高校探偵部 」という作品があるのですかま、文庫化されていません。文庫本で買う主義なので、文庫化されるのを気長にまつことにしています。


乾くるみ 「カラット探偵事務所の事件簿2」

 乾くるみさんの「カラット探偵事務所の事件簿2」は、2012年7月に文庫版が発売されています。前作の「カラット探偵事務所の事件簿1」はハードカバーの本がまず先に発売され、その後に文庫化されていましたが、「カラット探偵事務所の事件簿2」は、いきなり文庫版のようです。
 前作の「カラット探偵事務所の事件簿1」には、カラット探偵事務所が扱った事件のうちFile.1~5,20の6つの事件が収録されていました。File番号はカラット探偵事務所が扱った事件の事例列順につけられています。File.5の次にFile.20へ飛ぶのは、とある理由があるのですが、ここでは伏せておきます。File.20には、作品全体に対するどんでん返しというかオチが隠されていました。
 今作の「カラット探偵事務所の事件簿2」には、File.6~12の7つの事件が収録されています。前作のオチをどのように続編で扱うのか気になっていましたが、とりあえずは前作のオチはなかったものとして読み進められるようになっています。ですが最後のFile.12は、前作のオチを知っている読者に対して、シリーズ作品を更に楽しむことができる仕掛けが用意されています。
 以下、各話のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

<File.6 小麦色の誘惑>
 謎解き専門のカラット探偵事務所で所長の古谷謙三と助手の井上が暇を持て余しているとの古谷の従兄弟の高校生:長島三郎が相談にやって来ます。三郎は、右肩にあるハート型の日焼け跡(日焼けしなかった部分)を見せ、この跡を付けた犯人を突き止めて欲しいと依頼します。
 三郎の兄の次郎のマンションで水着パーティーが行われ、三郎がルーフバルコニーで昼寝している間に誰かがイタズラしたようです。パーティーは、三郎及び次郎の他に3人の女性が参加しており、この3人の誰かが犯人ではないかと三郎は考えているのですが・・・。

 犯人は3人の女性ではなく、とある生き物の仕業という結末でした。ちょっと無理があるような。証拠も特にないですしね。

<File.7 昇降機の密室>
 カラット探偵事務所のある古谷第一ビルは6階建てで、カラット探偵事務所は最上階にあります。各階の移動はエレベーターで行われ、外壁に非常階段はありますが、出入りするための扉には鍵がかかっており、外からビル内へ入ることはできません。
 ある日、エレベーターが点検のため使用できなくなります。四階のデザイン事務所で仕事をしていた香川は、非常階段から外へ出て、戻ることができなくなります。点検終了直後に事務所へ戻った香川は、ある物が盗まれたとカラット探偵事務所に相談して来ます。エレベーターの点検中は誰もデザイン事務所に入ることはできなかったはずですが・・・。

 誰が盗んだか、ではなく、何が盗まれたかが重要な物語でした。香川が盗まれたと言う物はとある生き物で、盗まれたのではなく逃げ出しただけでした。二作続けて生き物オチですか・・・。この生き物がいなくなって、盗まれたと騒ぐ香川がおかしいと思います。

<File.8 車は急に……>
 コインパーキングに車を停めようとした井上は、お互いに車をぶつけられたと言い争っている2人に出会います。パーキングの入口で、前方にいたアウディと、後方にいたホンダのバモスとがぶつかったようです。アウディの運転手の紳士と、バモスの運転手の若者とは、共に、相手の車が近づいてきたと主張していますが・・・。

 車をぶつけた犯人はアウディの紳士の方でした。割引券として利用できる駐車券を取ってパーキングに入らずに車をバックさせようとし、この時に後方の車の存在に気付かずぶつけてしまったということでした。
 駐車券を見せて割引なんてことあるのでしょうか?買い物すれば駐車代金が無料になるというのが普通だとおもうのですが。

<File.9 幻の深海生物>
 インターネットの検索結果として表示された一文に、脂肪燃焼効果のある深海魚の存在をほのめかすクイズが記載されていましたが、このクイズを記載したブログは既に閉鎖されており、解答が分かりません。この深海魚の正体を突き止めて欲しいという依頼がやって来ます。

 結局、このクイズは単なる言葉遊びで、そんな魚は存在しませんでした。何の意図でこのクイズをブログに記載したのか、よくわかりません。

<File.10 山師の風景画>
 古谷の父の知り合いの栗本和彦は、音信不通だった弟の義彦が死亡し、弟の友人が持ってきた風景画の謎を解いて欲しいと依頼します。風景画は義彦が描いたもので、自分が死んだらこの絵を兄に渡して欲しいと友人に頼んでいたようです。義彦は山を掘って鉱石を探す山師をしており、和彦はこの絵が宝の在処を示していると考えていますが・・・。

 風景画には謎は隠されておらず、絵を届けにきた友人が実は義彦の子供だったという結末でした。ちょっと良い話しという印象の作品です。

<File.11 一子相伝の味>
 マルチソースと名付けられたソースが有名の豚カツ屋さんからの依頼が来ます。マルチソースのレシピは、一子相伝で親から子へと受け継がれているのですが、先代がレシピを伝える前に死んでしまい、現在はストックされたソースを出しています。ストックが底を尽きる前に何とかして欲しいという依頼です。

 ソースをストックしている大きな壺の底にレシピが書かれていると古谷が推理し、一年後にソースのストックが無くなって壺の底にレシピが書かれていることが判明するという結末でした。
 あまりひねりのない、古谷でなくても予想できるレシピの隠し場所でした。

<File.12 つきまとう男>
 古谷第一ビルの二階にあるパブ竜宮城のホステスの西田カレンから、ストーカーの正体を突き止めて欲しいとの依頼があります。犯人は客の2人のうちのどちらかで、カレンが店に出ている間に、カレンの自宅のポストに店の土産物を投入して行きます。古谷と井上は、土産物を貰って店を出た容疑者をそれぞれ別々に尾行しますが、いずれもカレンの自宅へ近づくことなく自分の家に帰り着きます。その後、古谷と井上はカレンの家へ行き、ポストに土産物が投入されているのを発見します・・・。

 この物語の結末は、作中で井上も述べていますが大したことはなく、カレンの自作自演でした。最終話の見どころは、ストーカー犯人に関する謎解きではありません。
 この最終話だけには、事件簿の作者である井上によるプロローグとエピローグが付されており、その中には特別な仕掛けが隠されています。それは、カラット探偵事務所の事件簿1のオチを読んだ読者が楽しめる仕掛けで、オチのその後がほのめかされる内容です。事件簿1を読んだ方は是非とも事件簿2の仕掛けを体験してみて下さい。


乾くるみ 「嫉妬事件」 ボーナストラック「三つの質疑」

 乾くるみさんの「嫉妬事件」にボーナストラックとして収録されている「三つの質疑」です。「三つの質疑」は、「問題編」と「解答編」とにわけられており、二つの編の間には1ページの「読者への挑戦状」が挟まれた構成です。読者が犯人当てを楽しむタイプの推理小説です。ページ数は全部で50ページくらいなので、気楽に楽しめそうな作品です。
 ただし、乾くるみさんの推理小説は、犯人が明かされても納得感がないこともあるので、その点での不安感が少しありますが・・・。
 この文を書いている時点では、「問題編」だけ読んで、「解答編」は読んでいない状態です。以下で「問題編」のあらすじをまとめつつ、犯人を考えてみようと思います。

登場人物
 儀同笛朗:城林大学医学部教授かつ探偵
 羽鳥啓二:同助教授かつ探偵助手
 栗本春郎:同工学部教授
 古井:栗本教授のマネージャー
 鳥居萬治:学生、黄色のジャージ姿、ブルー・スリーの物真似が得意
 春名敏:学生、アメフト部所属、タンクトップ一枚
 鈴畑民治:学生、空手の有段者、ペン回しが得意

<問題編>
 栗本教授の元に、腹違いの弟を名乗る人物から、遺産相続を放棄しなければ2月22日に殺害するという脅迫状が届きます。栗本教授は、2月22日に、学生のボディーガードと共に、山奥の別荘へ避難ことにします。儀同教授及び羽鳥は、応援のために、22日に別荘へ向かう途中、大雪による雪崩と土砂崩れに合って車が埋まり、立ち往生してしまいます。この土砂崩れで電柱が倒れ、別荘で停電が発生します。
 しばらくすると、儀同教授等の元へ別荘からスノーモービルに乗った古井がやってきます。古井は、停電の際に栗本教授が殺害され、死体は血まみれで、別荘の「白い部屋」に寝かせてあると言います。羽鳥は古井のスノーモービルに同乗し、儀同教授を迎えるための車を別荘へ取りに行きます。
 約30分後、羽鳥が車で儀同教授を迎えに来ます。別荘に着いた儀同教授と羽鳥は、玄関から別荘へ入ります。この別荘は二階建てで、殺害現場の「白い部屋」は二階にあります。別荘には一階の玄関と、二階へ直行する外階段とがあります。
 別荘に入った儀同教授と羽鳥は、三人の学生、鳥居、春名及び鈴畑に出会います。古井の姿は見あたりません。学生達との自己紹介の後、儀同教授及び羽鳥は、殺害現場へ向かいます。
 別荘の二階は、内階段を上って左手に五つの部屋、黒、白、青、赤、黄色の部屋が並んでいます。右手には一つの広い部屋があり、出入りするための二つのドアがあります。二つのドアは、黒及び黄色の部屋のドアと向き合う位置にあります。五色の部屋は客用の寝室で、白い部屋を鈴畑が、青い部屋を春名が、黄色い部屋を鳥居が使っていました。
 栗本教授は白い部屋のベッドの上で、毛布を掛けられ、刃物でメッタ刺しにされて死亡していました。頭部に打撲傷があり、まず殴られて倒れたところを刃物で殺害されたようです。
 寝室の向かい側の広い部屋は、栗本教授がロボット制作を行うための部屋で、制作途中の介護ロボットが置いてあります。このロボットは、車輪の付いた椅子に二本のアームを付けたような構造で、電源はコンセントから取るようです。アームはまだプログラムされた動作を再現するだけですが、二本で百キロ以上を持ち上げるパワーはあります。アームは電磁石の力を利用して動くようです。ただし、今は停電中のため動かすことはできません。そして、この部屋の工具箱に入っていたナイフが凶器として使われたようです。
 三人の学生のなかで、殺された栗本教授を最初に発見したのは鈴畑でした。停電後に荷物を取りに白い部屋へ戻ったときに発見したといいます。
 姿を消した吉井をみんなで探すと、別荘の外のテラスから崖下に転落して死亡しているのが発見されます。自殺か他殺かは不明です。
 停電が発生したとき、鈴畑は居眠りをしており、その後に目を覚まして栗本教授が殺害されているのを発見し、他の二人に知らせました。鳥居は図書室で本を読んでおり、停電に気づきましたが、雨戸を開けて自然光で読者を続けました。春名はテレビを見ながらトレーニングをしており、停電には気づきましたが、筋トレを30分ほど続けていました。栗本教授は二階の広い部屋で作業しており、吉井も二階にいたようです。どうやら時系列では、吉井と羽鳥がスノーモービルで戻って栗本教授の死体を確認して車で儀同教授を迎えに行った後、学生三人が死体を発見したと騒ぎ出したという順序のようです。
 そして儀同教授は、学生達に最後の質問をします。鳥居には停電のときに読んでいた本のタイトルを訪ね、泡坂妻夫の「乱れからくり」であるとの回答を得ます。春名には停電のときにやっていた筋トレのメニューを聞き、腕立て両腕百回、左右片腕それぞれ三十回、腹筋百回、V字腹筋百回、スクワット二百回、腿上げ一分を十回との回答を得ます。鈴畑にはペン回しを左手でやったらどうなるかを訪ね、右手ほどうまく回せないが、回すことはできることを確認します。

<読者への挑戦状>
 以上の物語から、栗本教授を殺害した犯人を当てることを求めています。吉井の死についての真相究明は求められていません。

 ここまで読んで・・・うーん、犯人わかりません。
 とりあえず、吉井は犯人ではないとし、学生三人の誰かが犯人と過程して考えてみます。邪道な推測ですが、作品タイトルが「三つの質疑」であり、最後に儀同教授が三人それぞれに質疑をしていることから、この三人から犯人を探せと言うことのように思えるので。
 ただ、最も殺害のチャンスがあったのは、吉井です。栗本教授と吉井は二階におり、学生三人は一階にいたのですから。学生が殺害しようとすれば、吉井の目を盗む必要があります。吉井が共犯者で、口封じに殺されたというパターンはあり得るかもしれません。
 学生三人は、一階でそれぞれ過ごしていたようですが、お互いに他人の様子を気にしている様子はなく、何をしていたかは本人の話からしか知ることはできません。このため、学生が犯人だとすれば、誰かが嘘をついているということになります。最後の三つの質疑から誰かが嘘をついていることが分かるのかなと思って読み直してみましたが…うーん、やっぱり質疑の意味は全く分かりません。
 三つの質疑は置いておいて、殺害現場が何故に白い部屋だったのかを考えてみましょう。犯人が栗本教授を白い部屋に呼び出した、又は、栗本教授が何らかの用事で白い部屋の住人を訪ねてきたというパターン。このパターンは、白い部屋を使用していた鈴畑が犯人でないと成り立たないように思われますが、わざわざ自分の部屋に呼び出して殺すなんてことをするとは思えません。
 栗本教授の頭には打撲痕があったので、殴り倒された後で白い部屋に運ばれて刺殺されたというパターンが濃厚ではないかと思います。恐らくは、ロボットを製作するための広い部屋から白い部屋へと運ばれたのではないでしょうか。ここで、ロボットの存在が気になります。栗本教授の頭を殴った凶器は登場していませんが、このロボットだったのではないでしょうか。犯人がロボットのアームを操作して栗本教授を殴らせるということも考えられなくはないですが、停電によりアームを支える電磁力が消失して栗本教授の頭に落下してきたというような事故が発生したのではないでしょうか。これなら栗本教授の近くに吉井がいたとしても、栗本教授が殴られて気絶するという状況が発生し得ると思い ます。
 そして倒れた栗本教授を、吉井と偶然に通りかかった犯人とが、ベッドなどが存在しない作業部屋から治療のために白い部屋に運び込み、吉井が部屋から出た隙に犯人が栗本教授を殺害した。これなら2階にいる吉井の目を盗んで栗本教授を殺害するのも可能ではないでしょうか。
 ただしこのパターンでは、なぜ白い部屋に栗本教授を運んだのかは説明できません。作業部屋のロボットの位置から近いドアを出て向かいの部屋は黒い部屋です。白い部屋はその隣です。普通なら最も近い部屋に運ぶように思われます。ただし、もし犯人が鈴畑であれば、吉井と一緒に栗本教授を運ぶ際に自室へ運ぶことを提案することも考えられなくはありません。または、黒い部屋は未使用のため暖房が効いていなかったなどの単純な理由で二番目に近い白い部屋が選ばれたという可能性も否定はできません。
 色々と考えてみましたが、結局は学生三人から一人を限定する強い根拠がなく、犯人を特定するには至りません。白い部屋を使用していたという理由で鈴畑が少し怪しそうに感じるくらいです。

 と、ここまで考えて、別のパターンが思いつきました。犯人が学生三人ではないパターンもあり得るのではないかと。このパターンなら、羽鳥が犯人になり得るように思います。この場合は、例えば以下のような展開が考えられます。停電の事故で倒れた栗本教授を吉井は一人で白い部屋へ運び込みます。なぜ白い部屋を選んだかという問題が残りますが、上述のように暖房が効いていなかったという理由としておきましょう。吉井は、救援を求めてスノーモービルで外出し、がけ崩れで立ち往生している儀同教授及び羽鳥に出会います。そして吉井と羽鳥がスノーモービルで別荘へ戻り、倒れた栗本教授を羽鳥が殺害すると共に、吉井を崖下へ転落させます。その後に羽鳥は、車を使って儀同教授を迎え
に行きます。
 推理小説の解答編としてはなかなか面白い結末のように思えるのですが、どうでしょうか?
 ただし、このパターンにはいくつかの問題点があります。吉井は何故に学生たちに栗本教授がけがをしたことを告げることなく外部に助けを求めようとしたのか。別荘に来たばかりの羽鳥が作業部屋に置いてあるナイフを凶器として使うことができるのか。最初に吉井が儀同教授達と出会ったときに栗本教授が殺害されたようなセリフがあること。
 回答編としては面白いと思うのですが、若干の無理があるでしょうか…。

 いろいろと考えてみましたが、ここら辺が限度のようです。やはり三つの質疑の意味が分からないのが敗因でしょう。潔く負けを認めて、解答編を読むことにします。

<解答編>
 読みました。
 解答は書かず、感想だけ。
 何だかなー、それはないんじないの?ってのが読後の正直な感想です。
 もしこれから読む方のためにアドバイスを。儀同教授が学生三人にした最後の質問は全く関係ありません。無視しましょう。

 以上、乾くるみさんの「嫉妬事件」に収録された二作品を読み終えました。どちらの作品もイマイチでした。あまりオススメは出来ません。



 なお、作中に登場した 泡坂妻夫さんの「乱れからくり」は実在の推理小説のようです。いろいろと賞を獲得した作品のようで、面白そうです。

乾くるみ 「嫉妬事件」

 乾くるみさんの「嫉妬事件」は、2011年11月に文庫本が発売されています。この「嫉妬事件」には、表題作の「嫉妬事件」と、ボーナストラックとして「三つの質疑」という作品が収録されています。今回は、一つ目の作品「嫉妬事件」についてです。

 作品名の「嫉妬事件」から想像される内容は、ドロドロした人間関係による殺人事件か、又は、乾くるみさんがお得意の恋愛ミステリーかというところでした。しかし、読んでみるとこの予想は大はずれで、予想もつかなかった物語が繰り広げられます。
 こんな風に言うとものすごく面白い作品かと思われてしまいそうですが、全く逆で、ものすごくくだらない作品でした。
 あらすじは、大学のミステリー研究会の部室の本棚に「ウンコ」が放置されるという事件が発生し、部員達が犯人を推理し合うという内容です。部員達が協力して犯人を探すというのではなく、部員達の中から内部犯を探すというもの。部員達の推理と駆け引きの様子が延々と続きます。
 そして、犯人が明かされるのですが、解答を知らされても、何じゃそらな感じで、犯人を当てた推理も、犯人の動機もあまり納得できるものではありませんでした。
 作品名の「嫉妬事件」は、嫉妬=シット(shit)=ウンコという意味だそうです・・・。
 乾くるみさんの作品の中では、久しぶりにイマイチな作品でした。あまりお勧めはできません。
 ボーナストラックの「三つの質疑」は、読者挑戦型の推理小説のようです。犯人当てに挑戦したいので、別の機会にじっくりと読もうと思います。

乾くるみ 「セカンド・ラブ」

 乾くるみさんの「セカンド・ラブ」は、2012年5月に文庫本が発売されています。「イニシエーション・ラブ」に続くラブシリーズの第2弾という宣伝文句が付けられていました。いつも思いますが、こういう宣伝文句って作者にとってはハードルを上げているだけで、全くいいことないですよね。

 「セカンド・ラブ」の物語は、とある男女の結婚式の様子から始まります。主人公の正明は、新婦の春香の顔に、美奈子の顔を重ねています。そして物語は、正明と春香が出会った一年前に戻ります。
 里谷正明は、会社の紀藤先輩にスキーへ行こうと誘われ、承諾します。正明及び紀藤の他に、紀藤の彼女の高田尚美と、その友達の内田春香とが一緒です。スキーで親しくなった正明と春香は、その後に付き合い始めます。
 二人で銀座を歩いていると、春香が見知らぬ男に因縁をつけられます。この男は、春香を「シェリール」という店で働く美奈子という女性と間違ったようです。
 その後、正明は、会社の飲み会の後で、偶然にシェリールを見つけ、好奇心からこの店に入ります。シェリールで働く美奈子は、ほくろの有無という違いはあるものの、春香と瓜二つでした。美奈子は、春香とは生まれて直ぐに生き別れた双子が姉妹であり、春香は美奈子の存在を知らないことを話します。
 後日、正明は、尚美と別れた紀藤をシェリールに連れていきます。このとき美奈子は店におらず、紀藤が美奈子に会うことはありませんでしたが、正明はいやな予感がしました。
 正明は、春香の実家へ挨拶に行き、無事に春香の両親に気に入られます。しかし、春香に自分は霊が見えるという話を聞かされ、正明は一瞬だけ気持ちがぐらつきます。
 正明は、美奈子に会いたくなり、シェリールへ行ってしまいます。そこで正明は、紀藤が一人でシェリールにやって来て美奈子に会っていることを知ります。正明は、春香の誕生日のプレゼントを買いに行く約束を美奈子とします。
 正明は、美奈子と二人で春香の誕生日のプレゼントを買いに行き、指輪を購入します。その後、二人は美奈子の家に行きますが、正明はこのへやに紀藤が来た気配を感じます。
 これにより、正明は、美奈子と会うのをやめ、春香との仲を深めて行きますが、美奈子のことが気になり続けています。しばらくたったある日、正明は、シェリールに電話をすると、美奈子が辞めたことを知らされます。美奈子の部屋も引き払われて行方はわかりません。正明は、以前に見た美奈子の免許証に記載されていた住所を頼りに、美奈子の実家を訪ねます。そこで正明は、美奈子の両親から美奈子が死亡したことを知らされます。

 これ以降はネタバレになるのであらすじの記載は控えます。この後、春香と美奈子に関する謎が明かされ、更に最後のどんでん返しが待っています。
 春香と美奈子に関する謎については、それほどの驚きはないと思います。ミステリーで双子とかそっくりさんとかが登場すれば、当然に、同一人物とか入れ替わりとかを予想しますし、この物語も予想の範囲内でしょう。ただし、この予想を読者に当てさせておいて安心させ、更に別のどんでん返しを用意して読者を驚かせるというのが乾くるみさんの狙いでしょう。
 ただ、春香と美奈子がこのような行動をとったのか、があまり理解できません。作中でも正明が同じことを語っていますが。この点で、もう少し説明が欲しがったところですね。何となくトリック先行で物語を作ったかのような印象が残ってしまいます。
 最後のどんでん返しに関する罠は序章と終章とに仕掛けられています。主人公の正明に関するものなのですが・・・。この辺でやめときましょう。興味がある方は、序章と終章をじっくり読んでみて下さい。

 「セカンド・ラブ」の全体的な感想としては、まあまあでした。「イニシエーション・ラブ」の方が面白かったです。でも、第二弾というハードルの高さを考えると、よくやったというべきではないかと。読んでみる価値はあると思います。
 あとがきによれば、ラブシリーズの第三弾として、トライアングル・ラブという作品が計画されているらしいです。楽しみですね。