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東野圭吾「虚像の道化師」 第六章「偽装う」

 「偽装う」は「よそおう」と読みます。

 ガリレオ先生と草薙刑事は、大学時代の友人の結婚式に招待されます。結婚式の会場は、山の上に建てられたホテルです。このホテルへ向かう途中で、ガリレオ先生と草薙刑事が乗る車がパンクします。雨の中でタイヤを交換する草薙刑事に、通りかかった赤い車の女性:桂木多英が傘を貸してくれます。
 タイヤ交換を終えてガリレオ先生と草薙刑事はホテルへ到着し、結婚式は無事に行われます。しかし、雨によって土砂崩れが発生し、ホテルから街へ戻る道路が不通となってしまいます。
 同じ頃、ホテルの近くにある多英の別荘で、多英の両親の死体が発見されれます。発見者は多英でした。父親の武久はロッキングチェアに座った状態で散弾銃により射殺され、母親の亜紀子は首を絞められて殺されていました。道路の不通により地元の警察が来れないため、結婚式に音連れていた警察署長と共に草薙刑事が事件の捜査を開始する、という物語です。
 これは、推理小説の「嵐の山荘」パターンというやつですね。こういうパターンは東野圭吾さんはあまり好きではないのかと思っていましたが…。ガリレオシリーズも段々と初期のとんでもない感じが薄れて普通の推理小説っぽくなってきたような気がします。

 以下、ネタバレ注意です。

 捜査を開始した草薙刑事は、事件の発生した別荘へと向かい、発見者の多英と会います。草薙刑事は、作詞家だった武久が盗作問題についての話し合いのために別荘で弟子の鵜飼修二と会う予定だったことを聞き出しますが、鵜飼の姿はありません。武久の殺害に用いられた散弾銃は別荘の庭に放置されています。また亜紀子の首には武久の血が付着しています。草薙刑事は、鵜飼が散弾銃で武久を殺害し、返り血を浴びた手で亜紀子の首を絞めたと考えます。草薙刑事は、事件現場の写真を撮影して持ち帰ります。

 草薙刑事が撮影した写真を見たガリレオ先生は、不審な点に気付き、何かの数式を書きながら考え始めます。
 ドラマ版であればホテルの壁などに数式を書くところですが、小説版のガリレオ先生は行儀よく普通の紙に数式を書いていました。
 ロッキングチェアに座った人物を正面から散弾銃で撃った場合、打たれた衝撃でロッキングチェアは後ろへ傾き、そして倒れることなく反動で前へ揺り戻されるはずである。その時にロッキングチェアに座った状態の死体は前方へ投げ出されるはずであるる。このため、死体がロッキングチェアに座っているのは不自然である、ということです。
 このことからガリレオ先生は、武久が亜紀子を殺した後で散弾銃を用いて自殺した無理心中が事件の真相であると推理します。ガリレオ先生はこれらのことを紙にざっと数式を書いて計算しただけで検証してしまいます。写真だけではロッキングチェアの形状及び死亡した武久の体重の情報もわからないと思うのですが、どのような計算でこの結果を導き出したのでしょう…。
 そしてガリレオ先生は、散弾銃が庭に放置されていたこと、亜紀子の首に血が付着していたことは、多英による偽装工作であると見抜きます。何故こんな偽装を行ったのか、という問題がありますが、これは死亡順序を入れ替えることにって武久の遺産の相続権利を多英が得るためであることもガリレオ先生は見抜きます。
 今回のガリレオ先生はスーパー安楽椅子探偵でした。草薙刑事から聞いた話、現場の写真及び多英との会話等の少ない情報から真相に辿り着いています。「嵐の山荘」パターンですから、探偵役が全て解決しなければならず、ガリレオ先生も大変です。専門分野から考えると、ガリレオ先生がロッキングチェアに関して武久が自殺であることを解明し、遺産相続などの部分は警察が解明する、くらいがいつもの役割分担な気がします。でも、あんな偽装工作では、道路が復旧して警察が本格的に捜査を始めればばれてしまいそうな気がしますが。


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