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江戸川乱歩 「大暗室」

 創元推理文庫の江戸川乱歩シリーズの第13巻「大暗室」です。雑誌「キング」に、1936年から1938年までの二年間に渡って連載された作品だそうです。
 久しぶりに江戸川乱歩さんの作品を読みました。創元推理文庫の江戸川乱歩シリーズは全部で20巻まであり、終わりに少しずつ近付いています。このシリーズの作品順は、特に決まりはないようなのですが、作品の発表された年代順にある程度揃えてあるようです。今回の「大暗室」は、明智小五郎が登場しない長編作品です。 
 それでは以下、江戸川乱歩さんの「大暗室」のあらすじを記載します。ネタバレ注意です。

 客船宮古丸が沈没し、何とか脱出した一隻のボートに3人の男性が乗っています。男爵の有明友定、その友人の大曾根五郎、男性の召使いの久留須左門の3人です。ボートには水も食料もなく、3人は死を待つばかりの状態でした。有明男爵は、妻の京子に宛てた遺言状を大曾根に託します。遺言状には、自分が死んだら大曾根と結婚して幸せに暮らすようにと記されていました。大曾根は有明男爵の遺言を承知しますが、大曾根も生き残れる可能性は限りなく低い状況でした。
 有明男爵は大曾根を大親友だと思っていましたが、大曾根は男爵の金目当てに近付いてきた悪人でした。その後、ボートは陸に近付いていることが分かり、3人は安堵します。しかし大曾根は、持っていた拳銃で久留須を撃ち、久留須はボートから落ちて海へ沈みます。更に大曾根は有明男爵を撃ち殺します。
 5年後。大曾根は有明男爵の妻だった京子と結婚し、有明男爵の財産を引き継いでいました。京子には、有明男爵との間に産まれた子供である友之助と、大曾根との間に産まれた子供である竜次とがいました。ある日、竜次が子犬の目をえぐって血だらけになるという事件が起こります。京子は、子犬の手当てと竜次に付いた血を洗い流すため、友之助をハンモックに残して席を外します。このときに偶然外から帰ってきた大曾根は、ハンモックに1人きりの友之助を抱え、庭の池に放り込んで放置します。その後、何食わぬ顔で大曾根は家に戻り、家では友之助の行方が分からず大騒ぎになっていました。大曾根は、庭の池に落ちたのではと言って使用人達に池の水を抜いて調べさせます。しかし、友之助は発見されませんでした。戸惑う大曾根の前に1人の男が現れます。男は死んだはずの久留須でした。久留須は、海に落ちた後、海賊の船に救われ、その後は海賊に奴隷のように使われていましたが、何とか逃げ出す事に成功し、有明の家に戻って来ました。久留須は、大曾根が友之助を池に投げ込んだのを目撃し、友之助を助け出したと言います。屋敷内の部屋に場所を移し、久留須、京子及び大曾根の3人は話し合いをします。久留須は大曾根が有明男爵を殺したことを京子に話し、これを聞いた京子は竜次を連れて出て行くよう大曾根に要求します。大曾根は、素直に出て行くフリをして久留須及び京子を部屋に閉じ込め、屋敷に火を放って竜次と共に去って行きます。屋敷は火事で燃え落ち、京子は死亡し、久留須は大火傷を負いますが何とか助かります。久留須は、知人に預けていた友之助を迎えに行き、友之助に両親の仇を討てと言います。
 20年後。東京湾で飛行機の競技会が開催され、有村清及び大野木隆一という2人の青年が同時飛行を行う事になります。お互いに知らない事でしたが、有村清の正体は有明友之助であり、大野木隆一の正体は大曾根竜次でした。飛行機の操縦の腕前は僅かに有村が勝っており、大野木の飛行機が有村の飛行機に接触して2機は墜落します。2人はパラシュートで脱出して海に降り、岸まで泳ぎます。岸に上がった2人は、救助隊の到着までの間に語り合います。大野木は悪事の限りを尽くして地上の栄華を極める事を目標にしていると話し、有村はこの世の悪魔を倒す事を目標にしていると話します。正反対の2人は握手をして別れます。
 半月後、浅草の公園を歩いていた老人に1人の男が話し掛けます。老人は百万長者の辻堂作右衛門で、男は殺人を請け負う殺人事務所の事を辻堂老人に話します。殺したい人間がいる辻堂老人は男の話しに興味を持ち、男は辻堂老人を殺人事務所へ連れて行きます。途中、辻堂老人は別の男が運転する車に乗せられ、目隠しをされた状態で殺人事務所まで連れてこられます。
 辻堂老人が通された部屋には、全身を西洋甲冑で覆った所長が待ち構えていました。辻堂老人は、同居している星野清五郎という男に命を狙われており、この男を殺して欲しいと依頼します。しかし殺人事務所の所長は、辻堂老人が嘘を付いていることを指摘します。所長は辻堂老人の本当の目的を語ります。星野は江戸時代の商人が隠した金銀財宝の在処を示す暗号文書を所有しており、辻堂と2人で暗号解読を試みていましたが、やっと暗号を解くことができそうな状況でした。辻堂老人は財宝を一人占めするために、星野を殺したいと考えていました。辻堂老人は所長の指摘を認めます。辻堂老人が認めた事で、所長は甲冑を脱いで正体を明かします。現れたのは若い男、大野木隆一でした。大野木は、辻堂老人に変装して星野を殺害すると言い、目の前で辻堂老人に変装して見せます。大野木の変装は完璧でした。そして大野木は、辻堂老人を捕らえ、財宝を全て自分の物にすると宣言します。
 辻堂老人の家には、星野及びその娘の真弓が同居していました。その日の遅くに辻堂老人が帰宅し、真弓が出迎えます。このとき、庭に不審な人影を見た真弓はとっさに辻堂老人に抱きつきますが、真弓は辻堂老人が老人とは思えないしっかりとした体格である事に気付きます。その夜、書斎を覗いた真弓は、辻堂老人が書斎を荒らしているのを目撃します。翌日、真弓は恋心を抱いている青年、有村に昨夜の出来事を相談します。有村は、辻堂老人は誰かが変装した偽者に違いないと推理し、このような悪事を働く人間に心当たりがあると話し、真弓の父と相談する事を申し出ます。
 翌日、辻堂老人と星野は2人で登山に出掛けます。断崖の上で一休みしたとき、辻堂老人は自分が偽者だと話して正体を現します。大野木は、辻堂老人に星野を殺す事を依頼されたけれど、星野を殺して財宝と真弓とを自分の物にしようと思っていると話します。これを聞いた星野は、何故か笑い出します。星野は、有村が変装した偽者でした。断崖の上で有村と大野木との格闘戦が始まり、有村に投げ飛ばされた大野木は断崖から落ちてしまいます。しかし大野木はかろうじて木に掴まって落下を免れ、有村は大野木を助け上げます。助けられた大野木は、辻堂老人及び星野親子から手を引く事を約束します。有村は大野木を連れて下山し、東京へ戻るために汽車に乗り込みます。汽車がトンネルに入って車内が暗闇に包まれた時、大野木は姿を消し、メッセージが残されていました。それには、本物の星野と真弓とは部下に誘拐させた事や、財宝の在処を示す暗号文書は自分が保持しており、財宝は一人占めする事が記されていました。
 誘拐された真弓は、どこか洞窟のような場所「大暗室」に連れて来られます。そこには辻堂老人及び父親の星野も捕らわれていました。真弓の前に現れた男、大野木は、有村は死んだと真弓に嘘を話します。大野木は自分の花嫁になることを真弓に求めますが、真弓は拒否します。大野木は、大暗室に作られた縦穴の底に真弓を身動き出来ないよう縛り付けて放置します。穴にはネズミがウジャウジャおり、穴の上からは振り子のように揺れながら巨大な刃物が少しずつ降りてきます。巨大な刃物に切り裂かれる寸前に、真弓は、ネズミに縄をかじらせて何とか脱出します。しかし次は、穴の壁が少しずつ迫ってきます。徐々に穴の中央に追い詰められた真弓は、底に井戸のような穴が更にある事に気付きます。その穴はたくさんのネズミ達が出入りしている穴でしたが、真弓はその穴へ飛び込みます。
 有村の元に大野木からの手紙が届きます。手紙には、真弓達を自分の隠れ家である大暗室に監禁していることや、財宝を掘り当てた事などが記され、これを軍資金として東京を悪魔の色に塗り潰すと予告していました。有村を味方する黒衣に覆面の老人、久留須は、この手紙の主が大曾根の息子に違いないと考え、若い頃の大曾根五郎の写真を有村に見せます。若い頃の大曾根は大野木とソックリで、大野木の正体は大曾根の息子の竜次で間違いなさそうです。2人は、大曾根竜次の打倒を決意します。
 東京で財宝の盗難事件、女性の誘拐事件、殺人事件が多発し、現場には必ず渦巻模様が残されていました。そして、歌劇女優の花菱ラン子が舞台上でいつの間にか背中に渦巻模様が描かれるという事件が発生し、次の誘拐のターゲットがラン子であると目されます。ラン子のファンクラブの女性幹部達は、ラン子を守るための計画を練ります。女性幹部の1人が連れてきた美青年を女装させてラン子の影武者を勤めさせる事が決まります。ラン子の劇場への行き帰りを影武者が行い、ラン子は男装して別経路で劇場に向かいます。無事に劇場へ着いたラン子は公演を行い、第一幕を終えますが、幕間に場内アナウンスで不気味な声が流れます。ラン子と同じ舞台に上がる女優の水上鮎子は、舞台裏で仮面に黒ずくめの男に、今夜が危ないから注意するようにとの忠告を受けます。そして第二幕が始まってしばらくすると、場内の電灯が消えて真っ暗闇になり、再び電灯が灯ると、舞台ウエストではラン子が棒立ちになって口から血を流します。そしてまたしても電灯が消え、再び電灯が灯った時には舞台上でラン子は倒れていました。3人の男達が急いで舞台に上がり、ラン子を楽屋へと運びます。劇場を張り込んでいた刑事達も急いで楽屋へ向かいます。刑事達がラン子の楽屋へ入ると、そこには影武者の青年がおり、ラン子を運び込んだ男達は出て行った後でした。刑事達がラン子を調べると、それはラン子にソックリの蝋人形でした。これを楽屋に運び込んだ男達の行方も分かりません。関係者達が楽屋に集まって話し合っていると、仮面に黒ずくめの男が現れます。男は久留須と名乗り、ラン子誘拐の真相を伝えます。ラン子は1回目に電灯が消えたときに舞台の下に連れ去られ、ラン子に化けた偽者と入れ替わり、2回目に電灯が消えたときに蝋人形と入れ替わったとの事です。そして久留須は、この犯行を行った悪人達の首領が楽屋に潜んでいると言い、首領はラン子の影武者を務めた青年、その正体は大曾根竜次であると指摘します。竜次は刑事達に取り押さえられ、連行されて行きます。そのとき、またしても電灯が消え、竜次は逃走します。刑事達が追跡しますが、竜次は劇場の屋根の上へ登り、屋根づたい逃げ去ってしまいます。
 少し前、舞台の下へ拉致されたラン子は、気を失って、竜次の部下の3人の男達によって地下道に用意された木箱の中に詰め込まれます。男達は、木箱を運び出そうとしますが、地下道に警官がやってきます。男達は木箱を置いて身を隠します。警官達はしばらく地下道を歩き回って去って行きます。男達は木箱の元へ戻り、木箱を地上へと運び出します。男達が地上へ出ると、トラックの運転を担当する北村という男が待っていました。男達は木箱をトラックに積み、トラックに乗り込みます。しかし北村は突然に腹痛を訴え、木箱を運んだ男の1人が運転を代わります。
 トラックは川に面した倉庫に到着し、男達は木箱を倉庫へ運び込みます。男達は北村が用意したウイスキーを飲んで一休みします。しばらくすると、大曾根竜次が倉庫へやってきます。しかし北村以外の男達は酒を飲んで眠り込んでいました。竜次は北村と共に木箱の蓋を開けて中を確認します。ラン子がいるはずの木箱の中には、北村が気を失って倒れていました。竜次と共に木箱の蓋を開けた北村は、有村の変装でした。そしてこの倉庫は既に、有村の通報を受けた警官隊が囲んでいました。倉庫内で有村と竜次との格闘戦が始まり、竜次の死に物狂いの一撃を受けて有村は一瞬気を失います。この隙に竜次は、倉庫内の火薬に火を付けて姿を消します。倉庫を調べた有村は床下から川へと抜ける隠し通路を発見します。竜次は川を泳いで逃げ、有村はそれを追います。有村は竜次に追い付きますが、竜次の部下が快速艇で現れ、竜次を乗せて逃げ去ります。
 6つの新聞社に、明智小五郎から渦巻きの賊に関する情報を提供するとの連絡があり、各社の合計6人の記者が指定された西洋館に集まります。しかし、6人の記者の前に現れたのは明智ではなく、渦巻きの賊、即ち大曾根竜次でした。竜次は自分のアジトである「大暗室」に記者達を招待すると言います。記者達に出された紅茶には睡眠薬が入っており、記者達は眠り込んでしまいます。記者達が目を覚ますと、そこは洞窟の中のような暗い場所でした。天使の姿をした女性が現れて、無言で記者達を案内します。大暗室に作られた池には人形がおり、空には天使が飛び、下半身が羊の妖女が歩き、女体の蛇がとぐろを巻くなど、様々な生き物がいました。そして女体で作られた寝台の上に竜次がおり、竜次は誘拐した女性達でこの世界を作り上げたと話します。また竜次は、金の力で雇った多くの者達が働いていると言います。次に竜次は記者達を地獄の門へ連れて行きます。地獄の門の先には様々な拷問器具が用意されており、従わない人間を拷問していました。そこには牢獄もあり、牢獄には辻堂老人及び星野も入れられています。次に竜次は大量の火薬が置かれている場所へ記者達を案内します。そこには「××百貨店」と記載されており、竜次はここがその百貨店の下だと言います。このような場所が他にも八ヶ所あり、スイッチ1つで全ての火薬を爆発させて東京に大きな被害を与える事が出来ると話します。ここが東京の地下だと言うことを信じない記者達に対して、竜次は潜望鏡で地上の様子を覗かせます。記者達は、場所を特定する事は出来ませんが、確かに多くの人々や車が行き交う景色を潜望鏡を通して見る事ができ、作り物や映像ではなく本物の景色だと確信できるものでした。その後、竜次はラン子を10日以内に誘拐してみせると宣言し、記者達を眠らせて地上へ返します。記者達は大暗室の様子を記事にして次の日の新聞に載せます。
 警視庁に仮面に黒ずくめの男、久留須がやってきます。久留須は刑事部長の大矢に仮面を取って素顔を見せ、火事ど焼けただれて髑髏のような素顔を隠すために仮面をかぶっていると説明します。久留須は、大暗室を訪れた記者達に話を聞き、潜望鏡が設置されている場所を突き止めたと話します。潜望鏡は東京のとある屋敷に設置されており、大暗室へ通じる出入り口もこの屋敷にあると考えられました。久留須は屋敷の近くに上げたアドバルーンから屋敷を監視する事を計画しており、警察に協力を要請します。大矢は久留須に協力を約束します。
 アドバルーンでの監視が交代で行われ、久留須及び中村警部が監視を行っていたとき、屋敷の前に大きな木箱を積んだ車が止まり、2人の男が木箱を屋敷の庭にある池のそばに置いて去って行きます。しばらくすると、池が波打ち始め、池の中から大きな鉄の筒がせり上がってきます。そして鉄の筒の蓋が開き、中から現れた男達は木箱を運び込みます。しばらくして鉄の筒は池の中へ沈み、池は元通りに戻ります。「大暗室」の出入口の秘密を知った久留須及び中村警部は、全部で5ヶ所あるはずの出入口の全てを発見すべく、警官隊を総動員して東京の似たような場所を探します。
 大曾根竜次は、予告通りにラン子の誘拐を成功させ、大暗室へ戻ってきます。竜次は、ラン子に人魚の衣装を着せ、人魚達に仲間入りさせるべく池へと連れてきます。池へやってきた竜次は、人魚達の中に見慣れない顔を発見します。それは、いつの間にか人魚達に混じっていた有村でした。有村は、既に人魚達を味方に付けていました。真弓も人魚にされており、有村は真弓との再会を果たしていました。竜次は部下の男達を呼びますが、現れたのは部下達に化けた警官隊でした。大暗室の全ての出入口を発見した有村達は、ラン子誘拐のために竜次が留守にしている間に大暗室を占領し、大暗室の中にいる竜次の部下達と入れ替わっていました。また有村達は、各所に用意された爆薬も水浸しにしていました。敗北を悟った竜次は大暗室の中にある崖を登り、竜次を盲信する6人の女性達が後を追って崖を登ります。崖の上に登った竜次は、短剣を持ち出して6人の女性達を殺し、短剣で自分自身を切り裂いて自殺します。

 以上が、江戸川乱歩さんの「大暗室」の物語です。
 これまでの乱歩作品の総集編のような物語でした。大暗室がパノラマ島と化したときにはウンザリでした。江戸川乱歩作品の人物達はどうしてこんな物を作りたがるのか・・・。乱歩さん自身がパノラマ島を作ってみたかったのでしょうか。美女をはべらせたいのなら、東京の地下に大暗室を作った資金で、悪事など働かなくとも、いくらでも可能なのでは?こんな物を生涯の目標とする悪人の気持ちがサッパリでした。
 一応、主人公は有村だったのでしょうが、骸骨男の久留須の方が目立ってました。有村も久留須に操られていただけで、実は久留須の復讐物語だったのかもしれません。
 明智小五郎が登場しない物語だからかもしれませんが、「大暗室」が映画やドラマになった気配はありません。まぁ、仕方ないですね。

 
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